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幻魔が壊した小さな世界~映画「幻魔大戦」~

 1983年の春の劇場用アニメ作品については、以前劇場用作品の話を書いたときに触れている。時代の雰囲気はだいたいあんなもんだ。「ヤマト完結編」、「クラッシャージョウ」、「幻魔大戦」(ついでに「うる星やつら ビューティフルドリーマー」)というラインナップは、おそらく空前絶後であり、これ以上のお祭りはないんじゃないだろうか? 逆に「ヤマト」や「ガンダム」で印象づけられる年度のほうが、作品としては出来がいい気もする。そういう見方であれば、3作そろった1983年の春の作品は、小粒だとも言える。その中でも別格扱いでCMされ、「ハルマゲドン」という言葉と共にムーブメントになろうとした「幻魔大戦」という作品は、様々な意味で忘れがたい作品である。

 角川映画が初めてアニメ作品に参入した作品である「幻魔大戦」は、角川映画がそれまでに培ってきた映画事業のノウハウをたたき込んだ作品でもある。先に述べた宣伝もその一環であるから、テレビから送り出されるビジュアルのインパクトを覚えている人もいるだろう。Wikkipediaによれば、興行収入10億円を超える作品となっている。ヤマトやクラッシャージョウに興味がなくても、テレビから流れるCMの効果で、これだけは見た人だっているだろう。それこそ角川映画ブランドとしての効果であろう。結局この成功に気をよくした角川は、その後も「少年ケニヤ」「カムイの剣」などの大作を世に放つ。しかしその後の映画業界全体の衰退に、日本映画の衰退が乗っかって興行成績が悪化すると、まずアニメ映画の大作が消えていく。そして劇場オリジナルの企画が姿を消し、小説や漫画を原作とする作品が増えていく。また1本では集客できないからと、見たくもない2本を抱き合わせで配給することになる。「火の鳥 鳳凰編・ヤマト編」はそのころの作品であり、「宇宙皇子(うつのみこ)」と「フィブスター物語」などは、完全にその影響下で制作された作品である。

 物語は宇宙の破壊と消滅をもくろむエネルギー生命体・幻魔一族が、地球に目をつけたところから始まる。飛行機事故に見舞われたプリンセス・ルナは、からくも一命をとりとめ、事故と同時にサイボーグ戦士・ベガを仲間として、地球上のサイオニクス戦士を集めて幻魔に対抗しようとする。時を同じくして自分の秘めたる超能力に目覚めた主人公・東丈は、自分の力をもてあます。だが幻魔の地球侵略は徐々に進行していた。災害に見舞われる世界各地。廃墟と化したニューヨークで、幻魔に襲われたソニーを助けるために、サイオニクス戦士たちが終結し、力を合わせてこれを撃退する。
 次に襲われたのは丈の姉であった。姉の死に悲しみを隠しきれない丈は、仲間たちの制止をふりきり、一人飛び出してしまう。幻魔は富士の活動を急速化し、噴火させようとしている。多くの動物たちと共に水を求めさすらう丈。そして丈は、生命体同士の慈愛の心こそが、サイオニクス戦士の力の源であることを知る。
 富士の火口に巣くう幻魔と、サイオニクス戦したちの戦いの火ぶたは切って落とされた!

 本作については見るべきところがたくさんある。まず注目は大友克洋氏のキャラクターデザインだ。ややバタ臭い印象を受ける絵柄であり、男も女もさして魅力があるとは思えなかったが、キービジュアルとしての大友氏の絵柄は、作品世界を確固たるものとして形成したと言える。特にサイボーグ戦士・ベガのデザインは、体内に埋め込まれた様々な武器の配置や使い方まで、非常に良く考え抜かれたデザインである。当然「AKIRA」以前の彼の仕事である。彼がこの仕事以降の「AKIRA」「フリーダム」「スチームボーイ」「メトロポリス」などを考えると、この「幻魔大戦」がキーとなり、ビジュアルとしての自信につながった可能性は否定できない。

 またこのおどろおどろしい世界を構築したのは、背景美術を担当した椋尾篁氏の仕事であるが、より詳細には、ジブリ作品の常連でもある男鹿和雄氏や、東映アニメーションの重鎮である窪田忠雄氏の仕事である。遠景の新宿高層ビル群の夜景や、吉祥寺のアーケード、中盤で丈が同級生の女子高生とキスするシーンでの彼女の部屋の明るい情景、夢の中での丈と姉の飛行シーンなど、印象的な背景によりインパクトのある画面を残している。特にインパクトが大きいのは被災したニューヨークや日本の情景だろう。地球侵攻の総元締めであるカフーが言うところの「崩壊の美学」などというものは、まさに彼らの美術の成果だとすら思える。

 そしてこの作品を盛り上げる音楽も話題性十分であった。基本の音楽の多くは、名匠・青木望氏の手により作曲された。青木氏の楽曲は、テレビ版「銀河鉄道999」や劇場1作目の「999」を思い起こしてもらえればいいだろう。オーケストラによるたおやかでメロディアスな楽曲は、通常のアニメ作品とかわらず場面を盛り上げてくれる。だがキース・エマーソンの手による「地球を護る者」などの、シンセサイザーを主体とした楽曲は、この作品の華となる。特に最後の戦闘シーンで繰り返しかかる、この曲のインパクトはあまりにも大きい。またクロージングにかかる「光の天使」という楽曲も、CMなどでたびたび耳にしただろう。歌うローズマリー・バトラーは、角川映画「汚れた英雄」でも主題歌を歌っていた。この曲も角川映画の流れを汲むものであることを主張している。だから角川映画「里見八犬伝」という日本独特の世界観にも、英語の曲をあてがうやり方が踏襲されているのだ。残念ながら、当時発売されたアルバムがあるのみで、劇中に使用されている楽曲のほとんどは、音源化されていない。とくに青木氏が作曲した曲は、かなりもれている。できることならなんとか音源化して貰いたいところであるが、こうした音楽ビジネスに疎い角川の体制では、なかなか難しいだろう。

 最後に特筆すべきは、やはりこの夏に物故された金田伊功氏の仕事につきる。最後の炎の竜と戦うシーンは、ほぼ氏の仕事だろう。丈たちの飛び姿や、表情の崩れ方から推察するに、ほぼ一人で仕上げたのでなかろうかという出来だ。炎の竜がくぱぁっと口を開けると、その中から竜が伸びてきて、さらに口をくぱぁっとあけるシーンなどの、無生物に生物的な動きをつけるエフェクトアニメのすごさは、もう見ていただいて、感じていただくしかない。またサイオニクス戦士たちの飛翔感は、後の「風の谷のナウシカ」のメーヴェの飛翔感に通じる。これらを見直せば、「浮く」と「飛ぶ」と「滑空する」は別物であることは、はっきり目に映るだろう。飛んでいるものを下から見上げるだけでは、このイマジネーションは感じられない。まさに作画マンの仕事の見本であろう。また後ろを振り返る丈のシーンを見ると、眼球の丸みを感じられるシーンがある。これも実際にそれを感じられるかは、見ている人次第なのだが、作画している人間のイマジネーションが、表現上のリアリズムをどうとらえているかがわかるシーンだ(ちょっとグロいけどね)。

 さて見るべきところの多い本作であるが、難点を言えば世界が狭いことがあげられるだろうか。見ていると引き込まれてしまい、あまり感じないのではあるが、幻魔の攻撃により世界各地が被災する。ところが実際に崩壊しているシーンが、日本とアメリカのニューヨークが主な舞台となっているため、世界の他の地域には触れていない。これだけの被害が想定されれば、アフリカの砂漠地帯は広がり、どんどん都市部を飲み込むだろうし、極地の氷は崩壊し、海に氷塊が押し寄せたり、標高の低い地域はまず間違いなく海に沈むだろう。そんななかでも日本ではテレビ放送が行われているシーンがあり、どうにも崩壊の危機感が薄れてしまう。他の実写のスペクタクル映画、特に災害に見舞われる映画などを見れば、こういうところが弱点になる映画は数多い。「幻魔大戦」がこうした作品につらなる1本である事がわかるのだが、もう少し世界に目を向けたシーンが追加できなかっただろうか?

 またネタ晴らしになって申し訳ないが、これほどの激戦が、その実幻魔の尖兵を倒しただけであり、戦いは明らかに序盤なのである。「おれたちの戦いはこれからだぜ!」なラストなのだ。しかも彼らの中心におり、精神的な支柱となる「ベガ」は、この戦いで死んでしまう。劇中「戦士の休息」と言っているが、事実上のベガの退場であることは間違いない。それは作劇としては問題なく、ラストシーンで、ベガのなりの果ての光の玉を取り囲んで見つめるサイオニクス戦士のビジュアルは、正しいクロージングだろう。けどふと我に返れば、サイオニクス戦士だけでこの先大丈夫なのかという疑問が、ふつふつわいてくる。尖兵隊ですら、あれほどてこずった相手である。しかもこちらの戦士のメインとなる少年は、自分のアイデンティティの確立さえままならない高校生だ。そのために物語の時間がずいぶんと割かれているほどだ。心配だよなあ。

 だが本作が1983年という時代における、キービジュアルの1つであったのは、間違いない。「ハルマゲドン」という言葉と共に、まさしくこの時代の世紀末感をあおった作品である。それは「ノストラダムスの大予言」や「日本沈没」という映画を送り出した日本映画界の中でも、かなり世紀末感を醸し出したビジュアルを出している。それはまた同時期に上映された他の作品にある「近未来」や「SF」などとは一線を画すイメージだ。当然それらの映画を仮想敵として制作された結果だろう。それ以降「世紀末」というキーワードは、なんとなく浮かれた気分の80年代後半の空気に、風穴を開けようとした作品でもある。それは「風の谷のナウシカ」や「北斗の拳」などの世紀末感のビジュアルを考えると、ある種の感慨を感じられるだろう。「幻魔大戦」は世紀末がまだ週末とイコールだったイメージがある時代の残滓だとも言える。だから世紀末を経過した今、もう少しのめり込まずに見られる気がする。「ケロロ軍曹」のモアちゃんのように、世紀末を笑い飛ばせることができるのだろう。そんな冷めた目で見れば、「幻魔大戦」という作品を、より俯瞰できるのではなかろうか。


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美輪明宏小山茉美

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波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
50歳になりました 
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愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
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ピカード艦長が大好物。
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