「ロボット刑事」~その2・もう一つの孤独~

 承前

 前回の記事を書いてから、「不気味の谷」と東映特撮作品に登場したロボットたちのことをずっと考えていた。どう考えても、「ロボット刑事」だけがやけに特異に思えてしようがないのである。類似する作品で考えてみる。例えば「機動刑事ジバン」はロボット形態とは別に人間形態を持っている。このことで「谷」をほぼ完全に回避しているともいえるのである。しかもジバンの素体は人間であるから、ロボットの形態を持つとはいえ、実質的には「人間」として扱われる容姿を獲得している。また「特捜ロボジャンパーソン」に登場するジャンパーソンは、銀色の体色に開かない口など、ロボット刑事との類似性を見せながら、劇中で人間と接触するシーンが少ない(ロボット刑事はむしろ芝親子や新條刑事が始終そばにいる)。また人間のそばにいても摂食シーンに立ち会うことは希で、最終回ですべての事件が片付いた後のバーベキューのシーンがあるくらいである。つまり人間とできるだけ接触しないことで、人間との差異を際立たせないようにしてあるのだ。「ロボコップ2」ではデータの書き換えにより、人間に親しまれるようにプログラムされたロボコップが、滑稽なほどに人間に応対するシーンがある。そして「刑事」というくくりから離れてしまうが、「人造人間キカイダー」のキカイダーも、素体であるロボット形態は「谷」ど真ん中といえるほどの左右非対称の容姿を持ちながら、青年ジローという人間体を有するため、ロボットの物語でありながら、悩める青年を演出したのである。
 こうなると、「不気味の谷」を感じるためには、対象となるロボットと感じる人間との距離感(物理的にも精神的にも)というファクターが、第3軸として有効に働いているような気がしてならないのである。むしろ「ロボット刑事」の悲哀の一端は、人間との距離が近すぎることにより、引き起こされている可能性がありはしないだろうか? ここで本作の物語をさらっておこう。

 物語はバドーが黒田という男に殺人契約を結ぶところからスタートする。黒田は10億円強奪事件で服役していたのであるが、だれも出所した黒田の迎えにこない。仲間である丘崎と伊達が裏切り、10億円を独占しようとしていると黒田は考える。そこにバドーはつけ込んだのだ。それを察知してマンションに引きこもる丘崎。警察も5年前の10億円強奪事件の真相を確認するべく、丘崎をはる。そこにいるのはベテラン刑事の芝(演 高品格)と若手のホープ新條刑事(演 千葉治郎)である。ところが通風口から侵入するバドーの殺人ロボット・ワッカマンにより、丘崎は殺害されてしまう。現場検証に当たる芝と新條の前に突如現れたのは、鋼鉄の皮膚をもつロボット刑事Kである。Kは犯行の侵入と逃走ルートに通風口が使われたことを、自分のセンサーで感知し、密室殺人事件のからくりを説いてみせる。だが芝刑事は犯人がロボットである可能性を信じ切れないでいる。逃走ルートからワッカマンの行方を追ったKであるが、しばしの格闘の後、結局取り逃がしてしまう。
 翌日警視庁総監に抗議する芝刑事。昨夜Kが持参した手紙は、芝がKと一緒に特別科学捜査室のメンバーとなり、Kの面倒を見るkとが書かれてあったのである。芝にとっては捜査室室長という肩書きはあっても、それは単にKというやっかいものを押しつけられたにすぎない。芝のもとを離れる気のない新條は、自ら捜査室に加わり、ここにたった3人だけの特別科学捜査室が誕生するのであった。情報屋・地獄耳平(演 三上左京)の情報により、伊達が洋上のヨットに隠れていることを知る捜査室一行は、さっそく伊達を追う。だがバドーは伊達にまで魔の手をのばす。すんでのところで伊達を助けたKはワッカマンと対決してこれを撃退するも、別働隊のバドーロボット・テナガマンにより、伊達は結局絞殺されてしまう。しかし死の間際に伊達は、10億円の隠し場所の暗号をしゃべったのである。
 この暗号をKはあざやかに解いてみせる。その暗号に記された場所では、すでに黒田とバドーの10億円争奪がはじまっていた。殺人契約によれば、10億の半分が成功報酬となっているのだが、黒田は金がおしくなったのだ。新條たちは黒田を追いつめ、10億円とともに確保するが、Kはテナガマンとの戦いに苦戦して逃がしてしまう。だが再び10億の金をバドーに奪還されてしまう捜査室の面々。金の受け渡しにバドーはヘリコプターを準備するが、ヘリに金がのっかった直後にKが現れ、ヘリを爆破してしまう。またテナガマンを破壊し、事件は一件解決したかに見えるが、捕らえた黒田は留置所の中で何者かに暗殺されてしまうのであった(1~2話)。

 こうしてKは芝親子や新條刑事と共に、バドーが引き起こす不可思議犯罪やさまざまな事件に関わるなかで、次第に芝刑事に認められていくのである。が、そうした芝刑事との心の交流よりも、問題なのはKの始末の付け方であろう。5年前の事件の動かぬ証拠である10億の金を、ヘリコプターごと爆破するのは、いくらなんでも乱暴すぎるだろう。ましてや殺人容疑者であるバドーロボットを、破壊銃で爆破するのも、芝刑事としてはいかんともしがたい。そりゃ、「くず鉄野郎」とか「役立たず」とか言われてもしようがないのである。だが前回の話を考慮すれば、本来のKの命令者であるマザーあるいは霧島サオリは、バドーの犯罪を抑止するといいながら、その実バドーのすべてを破壊する命令をしていたとしてもおかしくない。
 
 その後、バドーが起こす数々の事件を、Kたちは自力で解決する。新型時計の爆破事件に隠された怨恨を暴く3話、会社内の怨恨による殺人を解決する4話、宝石強盗が持ち出した宝石を巡る争奪戦を描いた5、6話など。意外にも2話連続方式で進んでいく物語は、事件の謎の究明などの時間を考えると、当時のお子さんたちにはなかなかに見応えのあった作劇でったろう。そのたびにバドーロボットを破壊しまくるKである。
 初めは資金集めに奔走していたバドーであるが、度重なるKの妨害行為に業を煮やしたのか、11話にしてKを抹殺のターゲットにしはじめる。それはKのサポートをするマザーにまで手が及ぶのである。そして13話以降の物語では、直接的に略奪や窃盗をおこない、犯罪に手を染め始めるバドーである。
 そうした激化するバドーとの戦いの中で、22話で大きなターニングポイントを迎える。これまでのKの戦いを見て、彼を信頼するに足る人物と見定めた芝は、ついにKを認めるのである。そうしたKとの心の交流に決着がついた最中、バドーとの戦いの中で芝は大きく負傷する。Kは緊急避難的に芝をマザーの体内に送り入れる。そこで一命を取り留めた芝は、マザーの主である霧島サオリから、驚くべきKの真実を聞かされるのである。霧島サオリはロボット工学の権威・霧島博士の忘れ形見であること、バドーは霧島博士の研究成果を使って犯罪をおこしたサオリの実弟・ジョージであること、ジョージは人間不信から犯罪に手を染めたこと、その犯罪を止めるためにKを作り、警視庁に送り込んだことなどが、明かされたのである。芝も新條も、この話を聞かされて、バドーとの戦いをあらためて決意する。同時にKは自らさらなる強化改造をかってでる。それは過激化するバドーとの戦闘に備えての決意であった。

 そして迎える25話で、バドーは、バドービールスにより人間たちを自分に従わせようと画策する。だがその企みも協力する医師やKたちの活躍で事なきを得る(25話)。バドーは最終作戦を発動する。それは水素原子を核爆発させることで人類絶滅をはかるものであった。だがそのキーとなる原子力限定機が必要でありながら、芝はじめ警察との争奪戦に突入する。これを撃退するKたちは、霧ヶ崎灯台にバドーを追い詰める。だがその灯台はロケットになっており、芝と新條たちをのせたまま、バドーは火星に向かう。マザーと共に火星にバドーを追い詰めたKは、そこで最強のロボット・ハグルマンとの死闘を演じるが、ハグルマンはKの高い能力を評価し、敗北してしまう。そして作り主であるバドーの首領・霧島ジョージとともに、爆発四散して消え果てる。ここにKたちはバドーとの完全決着を見るのであった。それはマザーである霧島サオリの悲しみと共に決着を迎えたのである。バドーの手から人類を守ったKと芝、新條の面々。彼らは日常に戻り平和な時を過ごすのであった(26話)。

 Kがなぜこの世に誕生したのか、その理由が語られたのは22話である。そこで語られた真実は、Kをさらに深い奈落に突き落とす真実だったのである。話を整理するが、霧島博士の残した遺産が、霧島兄弟が受け継いだロボット工学の知識だとする。霧島サオリは弟ジョージの犯罪を抑止するために開発したのがロボット刑事Kである。先にも示したがKは犯罪抑止といいつつも、バドーのロボットを破壊しなかったことなど一度もない。これは明らかにサオリ自身がKに、ジョージの作ったロボットを破壊することを至上の命題として指令した可能性をほのめかす事実である。芝が容疑者を残して、バドーの秘密を暴こうとしても、Kはかたくなにバドーロボットを破壊し続けたのである。これは芝の命令よりもサオリの命令を優位においている端的な事実である。
 そしてこのバドーロボットは、霧島ジョージにより製作されていた事実は、バドーロボットが霧島博士の遺産として作られていることを示唆している。ということはKとバドーロボットはある意味で同族であり、兄弟ロボットであるといえる。その兄弟を、制作者サオリの命令により片っ端から破壊しなければいけなかったKは、こうした理由でもやはりこの世界に孤独なのである。そしてジョージが死んでしまった今、Kは同族を生まれてくることを待つことすらかなわないのである。

 こうした同族のロボット同士というシチュエーションは、マンガ版「人造人間キカイダー」に登場する設定である。物語当初、キカイダーはダーク破壊部隊のロボットたちを破壊するが、その1体であるオレンジアントは、仲間を殺すキチガイだとジローをなじるのである。バドーロボとはそんな恨みごとなど言わなかっただけマシとも思えるが、その実、同族殺しであることは否定しようのない事実であるのだ。
 ここで引き合いに出すのはどうかと思うのだが、マンガ版の「ロボット刑事」においては、さらなる悲劇がKを襲う。それは最終回でマザーは弟がつくった巨大ロボと一緒に、爆発四散する。それは霧島姉弟の決着の付け方であったかもしれないが、Kにとっては唯一の安らぎであるマザーすら奪われたのである。ロボット刑事の悲しみは深い。

 それ故かも知れないが、マンガ版「ロボット刑事」は、原作者・石ノ森章太郎氏にして、「TV版で描けない部分をあえて漫画版で描いた」、「出来には満足している」と語っていたという(wikiより)。またテレビ版スタッフから「K」のデザインについてこれでいいかと確認された石ノ森氏が、「これでないと哀愁が出ない」と答えたという逸話があるそうだ(wikiより)。Kに込められた2つの悲しい孤独は、原作者・石ノ森章太郎がこれと決めて設定した孤独なのである。

追記
 なお今回の執筆にあたっては、冬のコミケで購入した「ロボット刑事MATERIAL」(夜盗組)という本を参考にさせていただいた。このマテリアルシリーズは、資料本としての充実さは目を見張るものがある上、構成が素晴らしく、眺めているだけで時を忘れるほどトリップさせてくれる名著である。今後の新作も期待するところ大である。
 ロボット刑事に関しては、事実上それ以外に参考にする資料は少ない。あとは私が敬愛する池田憲章氏が執筆した、アニメック誌での名企画「日本特撮映画史 SFヒーロー列伝」ではVol.22において本作が取り上げられているが、残念ながら手元にはないので未確認のままなのがつらい。おそらくあとは講談社が出版していたテレビマガジン特別編集の大全集ものが有力だ。あとは絶版の「メーキングオブ東映ヒーロー」(講談社X文庫)ぐらいのものだろう。実のところ誌面に顔を出す割合が多いように見えて、本作に関する直接的な資料は結構少ない。双葉社あたりが「大全」シリーズとして出版してくれたらと願うばかりだ。

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