機械に心が生まれるとき~「イヴの時間」を題材に~

 「イヴの時間」はネット上でのみ配信されたアニメ作品である。2008年8月よりスタートし、この9月に最新act.6が配信された。よくよく調べるとDVDでも発売されているのだが、一般の店頭に並んでいるのかしら。見たことがないのだが。

 物語の舞台は作中の表記より、「未来、たぶん日本。”ロボット”が実用化されて久しく、”人間型ロボット”(アンドロイド)が実用化されて間もない時代。」である。人間はアンドロイドを使役し、ほとんどの作業をアンドロイドに依存して暮らしている。その姿形のほとんどは人間と区別がつかず、そのためアンドロイドの頭上には、リングと呼ばれるホログラムの輪を表示することが義務づけられている。世の中はすでにアンドロイドがあふれかえっており、町中を歩く人の多くの頭には、リングが浮いていることが日常的な世界だ。テレビでは毎日のようにアンドロイドが人間の日常に進出することを危険視するニュースが飛び交い、アンドロイドを人間視する人を「ドリ系」と呼び、さげすむような雰囲気となっている。
 自宅で使役しているアンドロイド・サミイの活動記録に、不審な点を見いだした主人公・リクオは、友人の真崎とともに後をつける。備考の先に見つけ出したのは、「イヴの時間」という名の不思議な喫茶店であった。ここでは「人間とロボットを区別しない」とのルールに則り、アンドロイドもリングを消して時間を過ごしている。ウエイトレスのナギはリクオたちにもこのルールを強要する。初めは不信感をもって店で過ごしていたが、次第にアンドロイド側の事情に触れていくうち、「イヴの時間」での心安らかなひとときを感じるようになる。

 この物語で核となるのは、ご存知ロボット三原則である。この物語では重要なキーワードであるので、あらためて示しておく。

第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。

第二条 ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。

第三条 ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。

 真崎が言うように、この原則には「ロボットは嘘をつかない」とは一言も触れられていない。だが自分が不利益になるようなこと、使役者に不利益になることについても、嘘はいけないのだ。だが最新のact.6では、第1条を優先するあまり、第2条に違反するロボットの姿が出てくる。よくぞこの隙をついたといいたいところだが、これで特撮物語世界を俯瞰すれば、やはりワンセブンやジャイアントロボが最終回で死んだことは、第1条を最優先とし、第2条および第3条をやぶったことになる。自分の不利益よりも使役者の利益を優先しているのだ。それゆえにこれらのドラマがドラマチックになるというわけだ。

 しかしアンドロイドが感情や心を持つに至る経緯はどうなんだろう? 特撮世界では、ここに力点がある。人工頭脳は時間を重ねることにより、経験を積む。その経験こそが知識として蓄えられ、その経験則に沿った解答としての行動が、あたかも心や感情を持ったように見えるだけなのだ。特撮作品ではむしろこここそがドラマの主題であるのだが、その意味においては、「イヴの時間」という物語は、アンドロイドが心を持ったその先にあるドラマといえる。だがこのように発生した経験則は、心や感情とどう違うのだろうか? ここに「倫理」という言葉が重くのしかかる。頭では人間とアンドロイドを区別したい。でもその行動に経験則が入り込み、あたかも心や感情を持ったように見えるアンドロイドに対して、ある種の感情を抱くのは、しかたのないことなのではないだろうか?

 こうしたアンビバレンツな悩みを抱えた人間やアンドロイドが織りなす物語というのが、「イヴの時間」の本質だろう。しかもこの手の物語は、なにも「イヴの時間」にかぎった物語ではない。「勇者ロボシリーズ」の中期に登場した「超AI」などの設定は、経験を得ることで成長するというものであり、現行のコンピューターが未だ届かない地平を見せている。それはロボットが搭乗者などと会話する必然性からの設定だと思うのだが、シリーズ前期のロボットたちが、地球外知的生命体が地球の物体に憑依した形をとっている事と比較すれば、ロボットたちに人格を持たせようとする至難の設定だった言えるのではないか。

 そして「イヴの時間」という物語は、1つの「楽園」のように描かれている。リクオがサミイとのやりとりに変化を見いだしたり、常連客の真実が見ているこちらの想像を遙かに超える物語を持っていたり、ナギの過去が少しだけ垣間見えたりするストーリーの中で、この店の常連客が、人間らしい温かな感情でつながっていく過程が、手に取るようにわかる。ルールを守ればいいというわけでもない、他人に干渉しないことがいいわけでもない、他人との距離感をはかる技術。そんな人間関係の修練の場のようにも見えてくるではないか。本編中のテレビのキャスターが言うように、現代人は他人との関わり合いを拒否している。だからアンドロイドに依存する。常連客の中にも、人間に依存されるアンドロイドが出てくるし、そうしたアンドロイドもストレスを抱えるように、別の女性にはけ口を求める。ここまでくると、人間とアンドロイドになんら変わりがない。むしろ人間の負担をアンドロイドが肩代わりすることで、アンドロイドの負担が増大している。しかも人間とアンドロイドを区別することで、アンドロイドには受けたストレスをはき出す場所さえないではないか。だがこれも人間の写し身だ。抱えたストレスをはき出せない人間など、自分を含めてたくさんいるだろう。だからこの物語に感情移入できるのだ。

 おおむね諸手をあげて絶賛しているのだが、問題が無いわけでもない。一番の問題は、なぜこの世界がこれほどまでにアンドロイドの進出を許容してしまったのかだ。さらに言えば、最新式のAIの開発は、アンドロイドと人間の垣根を越えようとしているにも係わらず、倫理によって引き留められていない世界だということだ。アンドロイド開発が競争のようにもたらされるのであっても、いずれこのような自体に直面する。それに気づかない科学者は、あまりにもマヌケの度合いが過ぎている。どんな先端技術も、遺伝子技術を例にするまでもなく、倫理に照らして是非を問われるのであるが、あまりにも技術が優先的にいきすぎた世界を描いているような気がしてならない。表現はリアルであってもリアリティがない感じなのだ。「イヴの時間」という店の存在に関しても、裏にある組織の存在を感じさせる描写があるのだが、倫理委員会の活動そのものが遅きに失している感じなのだ。

 またアンドロイドたちの感情や心の有り様は、いったいどこから発生しているのか、それも疑問点だ。物語に登場した旧型で廃棄されたロボットすら8年である。AIに経験として実装されたデータは、何を、あるいは誰を基準に作られたのか。もしかしたらこうした背景が、今後の続編につながる可能性もある。

 とはいえ、この「イヴの時間」で見られるハートフルなドラマには、やはり心惹かれる何かがある。特撮やロボットもののような派手なドンパチは無くても、ロボットを題材にこれだけの物語を見せられれば、悪い気はしない。携帯電話がしゃべり出して、捜査する時代である。アンドロイドをはらんでも、人間のふところの深さが垣間見えるような、心穏やかで暖かな物語を期待している。
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