カムイの剣~数奇な運命をたどる男の物語~

 前回「メトロポリス」を扱ったが、同じ監督作品で比較してみようと思い、同じりんたろう監督の劇場用作品として角川映画「カムイの剣」を再見した。本作は1985年3月に劇場公開された作品で、同時上映は「ボビーに首ったけ」という、青いバイクに乗る青年の話である。以前に「幻魔大戦」について書いたときに、1本では話題性に事欠くため、2本抱き合わせで公開された映画の話をしているが、本作はまさにこれに相当する。結局劇場用アニメ映画としての「大作感」は、この映画以降でほぼ完全に消滅している雰囲気がある。それはテレビを触媒として成長したアニメが、映画や劇場という雰囲気に耐えられないものだからなのかもしれない。そうした意味では、リミテッドではなくフルアニメのように制作された「メトロポリス」のほうが、まだしも映画たり得ているのかも知れない。

 この物語は日本の幕末を背景とした時代から始まる。主人公の少年・次郎は養母と義理の姉を惨殺された容疑で、本州の北の果ての村を追われてしまう。逃げた山奥の中で天海という僧侶に拾われる。次郎は忍者として成長し、立派な青年となる。天海は次郎の出生の秘密を説くために、かつて父が忍びとして暗躍したシノビリカ・コタンへ向かうことを命じる。次郎は義母が死ぬ前に与えてくれた短剣と手がかりを手に旅だった。
 次郎はコタンにおいて、実の母親と再会する。そこで次郎は、親子が離ればなれで暮らさざるを得なくなった事情の張本人であり、逃亡中に義母たちの敵だと思い自分が刺し殺した男が、自分の本当の父親だったことを知る。そして天海の本当の目的は、次郎が持つ短剣「カムイの剣」に秘められたキャプテン・キッドの残した財宝の秘密を狙っているという。次郎は抜け忍となり、父の残した財宝の秘密を解き明かすために、ふたたび旅を始める。
 次郎は天海の手の忍者たちを相手に、死闘を演じながら旅を続ける。その過程で、さまざまな人との出会いと別れを繰り返しながら、ついに次郎は剣に隠された財宝のありかが、アメリカの西海岸にあることを突き止める。そしてアメリカの船や陸地を経由して、アメリカにたどり着いた次郎は、やっとサンタカタリナにたどり着く。だがそこには先回りした天海らが次郎の行く手をはばむ。次郎と心を通わせた忍者・お雪の謀反も手伝って、天海を倒した次郎は、キャプテンキッドの財宝を手にする。ところが次郎がアメリカに着いたときに助けたネイティブ・アメリカンの娘・ジュリーから、驚愕の事実を聞かされる。天海は影武者を用いるらしいということを。次郎は天海により殺された多くの人々の仇を討つために、日本にまいもどる。
 時は尊皇攘夷の機運が高まり、戊辰戦争が始まっている。天海がキッドの財宝を狙っていたのは、幕府側に荷担し、財宝により幕府軍の軍備増強を進めるためだったのだ。次郎は財宝を使って忍者を雇い、天海への復讐のために準備を始めるその過程で死んだ忍者の長は、次郎の祖父だった。函館に官軍が迫るさなか、次郎と天海の宿命に戦いが幕をあける。

 本作は矢野徹の原作小説をアレンジした作品となっている(現在はハルキ文庫で読めます)。もとの原作はこれ以上に長い物語なのであるが、ほぼ原作に忠実な物語運びとなっている。この作品でなんといっても特筆すべきは、華麗な忍者アクションシーンだろう。これ以降に忍者を取り扱った作品がどのくらいあるのか知らないのだが、はっきり言ってマッドハウス関連で制作したアニメを超えるような忍者の動きを表現したアニメには、めったにお目にかかれない。1985年の段階で、すでにこれほどまでに卓越した表現で、忍者同士の斬り合いが表現されていたのだ。りんたろう監督はその昔、「佐武と市捕物控」というモノクロのアニメを制作していた。原作は石の森章太郎であり、江戸の市井のありのままの姿を活写するような絵作りに、エロティシズムを加えた大人向きの作品で、アニメ自体も夜遅い時間での放送だったという。この時点でも最小の動きと止め絵の迫力で、佐武やんと市やんの殺陣を見事に表現していた。本作ではりん監督がもつ独特の美学が発揮され、人同士の斬り合いを、透過光を含む妖艶とも思える映像で見せきることに成功している。忍術的な技の見せ方よりも、忍者としての人間を超えた動きや、切り結ぶ刀の瞬間までも映像化したり、切り結ぶタイミングなどに重点をおき、実写なら特撮で逃げ切ってしまうような表現を、あえて魅惑的に演出するのだ。次郎が多くの忍者を相手にしながら、腰を大きく落とした格好で、剣を一振り、二振りする姿は、かなりトリッキーな動きでありながら説得性があり、なおかつかっこいいのだ。

 そうした「忍者」としての次郎、そして青年としての次郎を表現した真田広之という役者の演技は、瞠目に値する。現在では日本映画に欠かせない俳優であるが、かつては千葉真一が主催するジャパンアクションクラブに在籍し、数々のアクションをこなしてきたアクション俳優である。当時の彼はまだ現在のような俳優としてよりも、アクション俳優としての見られ方だったろうと思うが、彼の青年期を表現する演技なくしては、次郎というキャラクターは存在し得なかったように思う。当然それをささえる周辺の声優さんの演技があってのことだが、声の演技をしていないような次郎が走っているときまで、吐息が聞こえるように感じられるほど、次郎という役にはまっていたともいえる。

 また宇崎竜童が作曲した「カムイの剣」のテーマなどの一連の楽曲は、一聴するとポリネシアの「ケチャ」のような曲でありながら、きちんと日本の大太鼓、小太鼓を基調とする和楽の印象でまとめられた希有な曲だ。これがまた素晴らしい。劇中のアクションシーンには必ずかかっている曲であるが、次郎が戦うたびに現出する、いわゆる不思議な戦闘空間の趣は、映像以上にこの楽曲が作り上げているといっても過言ではない。気になる方は、ぜひCDでも聞いていただきたい楽曲だ。

 私が劇場で初めて見たときには、かなり長い時間であるように感じていたのだが、今回本文を書くにあたり再見したところ、時間の長さはさほど感じなかったが、物語の紆余曲折具合が、あまりにも激しいことに驚いた。実のところ、キッドの財宝を見つけるくだりや、天海と対決するまでに、財宝を使って忍者を雇う話など、すっかり忘れてしまっていた。しかも次郎は行く先々で衝撃の事実を知りながら、それがすべて天海につながることで、自分の生きる道を示されている。他者から得られた情報から、自分がすべきことを判断し、行動している様は、以前取り上げた「アリオン」以上に、旅や戦う目的が明確にわかる。

 しかもこの物語、時代劇の論法で作っているように見えて、きちんと冒険ロマンにすらなっているところが、男の子心をくすぐるではないか。途中お雪やジュリーなどの女性キャラが登場すると、ややウエットな感じがするし、実際お雪が次郎の実の姉であるくだりなどは、ラブロマンスものをやろうとしている雰囲気が漂うが、どうしてもアクションシーンに霞んでしまう。それは次郎が天海のもとを離れた時点で、十分に成長しているため、そんなに簡単に泣かない男に育ったせいでもある。ここで次郎が泣いたら、うまく観客も泣けるだろうに、次郎が泣けないので、観客の感傷も半減する。だがこの映画があくまで次郎の冒険譚として作られているので、泣かせないようにできているとしか思えない。だがこれがいいのだ。ウエットな映画が見たいなら他の作品で満足できる。次郎は男のロマンの結晶なのだ。

 はじめてDVDなどで見る方には、やはり長いと感じるかも知れない。なんでも公開していた当時ですら、賛否両論だったらしい。いわく長くて冗長だ、いわく面白いと。ここでアクションシーンや背景の美麗さに気がつける人ならば、あまり時間は気にならないだろう。本当に見ているだけに時間のたつのが早く感じるし、物語の展開はゆっくりながら、十分な時間で見せられるので、性急な感じはしない。しかも説明の過不足も感じない(いや少し不足気味かも)。これほどの実力を出し切れるりんたろう監督の、確かな力量が感じられるが、同時にこれをささえたマッドハウスという制作会社の力も素晴らしい。「メトロポリス」で感じた不協和音が嘘のような、気持ちのいい作品である。2本立ての興業ではあったが、実に大作らしい1本である。まさに逸品と称していい作品だ。



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