空の境界~「死」の消費構造~

 最初にお断りしておくが、私は劇場用映画「空の境界」について、まだ第一章「俯瞰風景」しか鑑賞していない。だから本作の深いところについては、まだ未見だ。しかもシリーズの序盤の序盤である第一章のみで、何をか書きたいと思ったことは事実なのだ。そして私はこの作品を劇場で見ていなかったこと自体を非常に後悔しているし、何より続きが楽しみでしょうがない。おまけに何やら興奮している。わがままを承知で言うが、そのあたり含みおきいただきたい。

 「空の境界」という作品は、奈須きのこ原作の小説の形態で発売されている。こちらも私は未読であるので、こんなん書いている暇を使って、買いにいきたいのであるが、今はこの自分の中にわいた想いだけを、ここにぶつけることに専念する。伝奇小説というジャンルになるらしい物語は、同人誌として発売され、瞬く間に人気作となり、商業作品として展開する。すでに劇場アニメの公開と時を同じくして、文庫版まで発売されている。

 第一章では、主人公の両儀式が、とあるビルでおこった連続飛び降り自殺事件に立ち向かう話である。wikiなどを参考とするに、どうやら第一章の物語とはいえ、その後の物語や時間軸上前日談となる物語と影響し合うようなので、物語の詳細や落ちについては、他にも色々あるだろうから、そちらを参照して欲しい。私が本編を見てうけとったイメージは、なんとも陰鬱で暗いイメージであり、それでも人の暗部や心のゆがみから生み出される怪異な事件を、特殊な能力を使って解決していく物語であると認識している。頭の中では「な~んだ、やばげな鬼太郎さんか」ぐらいに思っていたのであるが、序盤から繰り返される「血」のイメージや、それこそ俯瞰される冷たい街のイメージに、背筋が凍るような思いを体験することになった。

 とくに「血」のイメージについては劇中で複数人の女子高生が、遺書もなくビルから飛び降り自殺し、その落下状況の遠景や、血まみれの死体の様子が、異常なまでの熱量で書き込まれている。また「血」の色はまさにどす黒く、道路タイルのすきまを拡散していく血の生々しさは尋常ではない。よく死体と血の関係は、すでにそこにある死体として静止画で表現されるのであるが、本編における死体は、落下した死体が地面に直撃した直後の映像であるから、飛び散る血、死体の衣服に飛び散る血、そして死体から流れ出る血を、克明に描写する。しかも流れ出し拡散する血を、動画(CGかも)で表現するという念の入れようである。

 また舞台となっている街自体は、架空の都市であるのだが、そこに広がる風景は、東京近郊のベッドタウン化された町並みだったり、都会の風景だったりと、一定しない。雑踏を描いたかと思えば、閑散としたマンションが建ち並ぶ風景が一緒くたにされている印象があるが、それはおそらく生活空間としての街の表現であり、何かに特定しない表現だと思う。しかし夜景となった閑散な街は美しく、美しいが故によそよそしく冷たい。少なくても人の温かみはない町並みだ。主人公たち異能者(wikiによれば一部は魔術師だとか)が跋扈する世界は、かくも他人という存在を排斥したような風景に中に存在する。

 アクションシーンは、式が霊のようなものに立ち向かう。それも1時間程度の物語の中で2度の戦闘が含められている。1度目はあくまで式にとっては遭遇戦であり、2度目は本気モードである。それは式の特殊能力を秘めた「目」の輝きと、式の視界の敵に表現される「赤い線」で表現される。式がこの赤い線を、コンバットナイフで断ち切っていく様は、一見形のない物に斬りかかるようであるが、確実に敵をとらえ、消していく。まるで力のいらない作業に、式が渾身の力を込めているように見える作画は、本当に迫力のある戦闘シーンに仕上がっている。今後の続編の楽しみでもある。

 第1戦で左腕を負傷した式は、蒼崎橙子のもとで、負傷した義手を直して貰うシーンがある。ここで登場する球体関節人形のシーンで、アニメを見ている人なら万人が想起する「イノセンス」を思い出した。これが原作でどのように扱われているのか、原作にない部分をアニメが補完したシーンなのか判別がつかないのだけれど、どうにもあの世界には、人形に魂を込めるとかいうことができる世界らしい。それは「攻殻機動隊」における義体やゴーストの考え方に似ている気もする。ましてや球体関節人形がもつ独特の気味悪さ、人間と人形の境界の曖昧さなどを感じるせいで、そこはかとない「死生観」のようなものを感じる。

 表現上はやはり面白いとしかいいようがないし、映像として見ていて鼓動が一拍はねるような高揚も感じる。しかし映画の雰囲気としては非常に冷めている、いやに静かな映画なのだ。このように興奮していること自体がどうにも自分でも疑わしい。ただこの先の物語も楽しみであるし、非常に限られた興業形態の中で、この作品がこれほど認知され、受け入れられた事情も知りたい。今後も「空の境界」に関しては、追ってこの場で書いてみたいと思う。

 ただしその反対側で、この1作だけでの鑑賞後でいえば、いやに苦い後味がしているのも確かなのだ。それはタイトルにもあるような、「死」の消費構造が透けて見える気がするからである。
 以前漫画のテレビ化の話を書いたときにも感じていたのであるが、テレビや視聴者は刺激的な情報を欲しがっている。その中でもっとも人を刺激するのは、すでに人の「死」しかないのではないだろうかという懸念をもっていたのだが、本作をもってどうやら確証を得た気がした。すでに多層化された情報をくらいつくした現在の消費構造の先にあるのは、人間に内在した「死」なのではないだろうか。本作のように序盤からだれとも知らぬ女子高生が自殺し、「人が死ぬ」という情報と、そこにあるヴァーチャルな死の映像にのみ興味があり、あたかもそこにあるような「死」という情報のみに刺激を求めるような構造の物語が増えているような気がする。いや数の増減が問題なのではない。竜騎士07の「ひぐらしがなく頃に」などの一連のシリーズも、「人の死」という状況があるだけで、そこになんら意味も解釈も受け付けない物語がある状況下では、そこにある痛みや死ななければならない理由すらない死だけが量産されているように見えるのだ(実態がどうなのかは別として)。そしてその量産された「死」の状況ですら刺激とならなくなったとき、人の興味はどこにむかうのだろう? 私はそれが怖くてたまらない。そこにあるのは知ってしまった後悔と、知ってみたいという欲望だけだ。

 長年考えていたことなのだが、「宇宙戦艦ヤマト」や「機動戦士ガンダム」を心から楽しんでいた世代と、「新世紀エヴァンゲリオン」を楽しんでいた世代には、大きな隔たりを感じている。そこには「エヴァ」で示された痛みや死生観に対する大きなギャップがあるからだ。「エヴァ」以降の世代が、より大きな刺激を求めた結果が、ネットを拡大させ、コミュニティを拡大させ、その上に現在のオタク文化が形成されたのではないかと考えているからだ。端的に言えば「死」や「痛み」、「死生観」について、まったく話がかみ合わないのではないかと、恐れている。それが私の妄想であるとの疑念を抱きつつ、ついそんなことを考えている。

 だから議論がしたいのだ、対話がしたいのだ。

 私はこうしたひどい妄想から抜け出したいと思っているし、本来のコミュニティにあるのは、個々の人の個性であると思いたい。だから「空の境界」という作品を通じて、自分の妄想を打ち払いたいとも考えている。ああ、すいません。ちょっと愚痴っぽくなっちゃった。


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No title

はじめまして
この劇場版空の境界、元々がファン向けだけの非常にクローズドなメディア展開をしているせいで
感想・論評もどうしても原作既読者による比較や作画論に偏りがちなため
こうした劇場版を通しての記事というのは貴重で、また大変興味深く読ませていただきました

今回の記事で触れておられる「死」の感覚や死生観については
この後に続く6章分の背骨として、また特に物語の最大のターニングポイントになる5章「矛盾螺旋」と
最終章「殺人考察(後)」で話の根幹を支えるテーマとして提示されます

ちょうどこの作品も原作は98年執筆と、エヴァ以降の空気が最も濃密だった時期の作品です
それらを通してどう感じられるのか、今後も楽しみにしております


No title

エイシトさま
 貴重なご意見、ありがとうございます。
 実に、DVDは借りてみたものの、まだ見切れておりません。1章ごとに書いてみたいという思いもありますし、すべて見終わってからとも考えており、迷っている状態です。が、なによりも作品を見ることが先ですよね。本作はたぶん、様々な意味で時代の片鱗を捉えていると思っています。全力で書きたいと思います。あまり期待せずにお待ちくださいませ。重ねて御礼申し上げます。貴重なご意見、ありがとうございました。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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