「BLOOD」と「LAST BLOOD」

 「ブラッド」がフルデジタルアニメーションとして脚光を浴び、数々の賞を受賞したのが2000年の出来事である。現在のアニメシーンを俯瞰すれば、この作品が起点ではないにしろ、アニメ制作現場におけるデジタルでの制作技術は進化する一方だし、制作期間や制作費の問題がクリアされれば、個人でアニメーションが制作される。「ほしのこえ」「秒速5センチメートル」の新海誠がその代表だろう。それはそのままパソコンというツール、ソフトの柔軟性に加えて、アニメーションを作るということ自体が、分業化された職人芸の集合体であることを忘れさせる出来事であった。「ほしのこえ」をベータのビデオテープで見た、というすさまじくロジックのずれた話を聞かされても、アニメーションをとりまく状況が今日の状態までめまぐるしく変わるなど、なんとなく想像がつかなかった時代、それが「ブラッド」が公開された2000年の年回りだったような気がする。

 それ以降、「ブラッド」は本作を起点に展開を始める。もともと本作はプロダクションIGのメンバーの中で結成された「押井塾」の門下生による企画が発端だ。まさに職人である北久保弘之氏を監督に据えてはいるものの、脚本は「攻殻機動隊SAC」シリーズの神山健治氏であるためか、多分に企画に引っ張られているきらいがある作品だ。作品制作後も小説として出版され、藤咲淳一氏や塾長・押井守自身も書き下ろししている。その後「ブラッドプラス」としてテレビ放映されるに至り、このプロジェクトも終演を迎えたのだとばかり思っていたのであるが、2008年(日本での公開は2009年春)には、香港・フランスによる合作作品として、「ラストブラッド」というタイトルで、実写映画として公開された。映画のOPを見る限り、はっきりと「ブラッド」というタイトルで始まっており、実態としてはアニメ版「ブラッド」を実写映画化した作品であるということをきちんと断っていることになる。そうなれば、下衆の勘ぐりだと言われても、比較してみたくなるのが人情ってもんじゃあございませんか。

 さてアニメ版「ブラッド」であるが、1966年の横田基地を舞台に、セーラー服の少女・小夜(さや)が日本刀を手に、人間社会に紛れ込む吸血鬼「翼手」との戦いを描いた作品である。作品自体は48分と短いのだが、その時間枠の中で、翼を持つ異形の化け物「翼手」が何食わぬ顔で社会に溶け込みながら、その裏で人間の血をすする吸血鬼が跋扈する世界観、同時に「翼手」を退治するためのカウンターとしての小夜の存在がクローズアップされ、小夜と翼手のバトルシーンを、背景の説明に必要な映像でつないでいくという構成だ。通常ならばこうした構成は非難されるべき手法であるのだが、濃密なまでに描かれた作画のポテンシャル、3DCGで描かれた航空機の緻密さ、それをバックに戦う小夜のハイレベルな戦闘シーンが、それに全く気づかせないスピーディーかつテンションの高い作品であった。そして物語終幕直前のワンシーンのみで、小夜が翼手と同族なのではないかと思わせるところで、ハッとさせられる構成の巧みさは、やはり舌を巻く思いだ。

 この物語をベースに、外伝的な物語を展開したのが小説版であるのだが、テレビアニメ「BLOOD+」では、さらに設定を完全に刷新し、小夜の血が翼手の弱点であるという設定をトリガーにして物語を展開、やはり同族との骨肉の争いに巻き込まれていくという物語らしい(ちゃんと見切ってないので。すいません)。となると、これは原典である「ブラッド」の物語の背景となる、「小夜の戦う事情」について突っ込んだ作品だと言える。それは当然だろう。あまりに映像に驚かされたとはいえ、本編中でまったく背景が見えない「小夜」というキャラクターについて、根掘り葉掘り聞いてみたくなるのは、しようのないところだろう。むしろ「小夜」自身の出自の秘密や、戦う理由を描くことで、1年50話という長丁場をつらぬく柱としての物語を紡ぎ出そうとすることは、至極納得できるのである。

 そして「ラストブラッド」という作品は、48分の原作に対して、より直接的に小夜の事情を付け加えようとした作品というのが、正しいものの見方だろう。映画本編の頭1/3のところで、原作の物語(日本の米軍基地における小夜と翼手の戦い)については、いくつものテコ入れをしながら、おおむね同じラインのストーリーでまとめられている。また「翼手」は完全にクリーチャーとCGにより構成されており、イメージは原作のイメージとほぼ同じものだ。まあハリウッド映画の影響をもろに受けているようなので、基地周辺の町並みが、露骨に「ブレードランナー」に登場する街のように無駄に雨が降っていたり、足下にスモーク炊いているのも、まあお遊びとして理解もできる。また序盤の体育館でのバトルシーンはどうやっても「キル・ビル」っぽいし、基地周辺での戦場は、あまりにバラックやどや街のイメージが強く、かなり時代劇の印象まで引きずっている感じすらする。この瞬間、「もういいや、エキゾチック・ジャパンで!」って笑ってしまう人がほとんだろう。これをまじめに見たのでは、映画を作ってきた先人たちに失礼に当たるだろう。ヴィジュアル面については大目に見よう。ここまでなら「ラストブラッド」が「ブラッド」の完全リメイク作品だと理解できる出来ではある。ただしこれ以降の物語は、映画の完全オリジナルの部分である。

 まず小夜が戦う目的は、翼手(本編ではオニ)の親玉である「オニゲン」(演 小雪)を探しだし、殺すことだ。そのために小夜は翼手を狩りまくっているのである。オニゲンは、小夜の亡き父の敵であり、小夜の持つ剣は父の形見だ。父の従者であったカトウ(演 倉田保昭)に育てられた小夜は、人里離れた山奥の村で育てられ、そこで剣術もカトウから習う。そして父の敵を討つようにしつけられているということだ。だが自分の血が人間のそれではないと気づいた矢先、オニゲンの手下の忍者集団に、小夜とカトウが襲われ、カトウは殺されてしまう。育ての親を亡くした小夜は、さらにオニゲンへの復讐心をたぎらせるのである。思い出話として劇中の中盤で紹介される話により、小夜が戦う理由ははっきりするのだが、この話だけでは同族殺しに手を染めてしまう小夜の理由が、今ひとつすっきりしない。またえらそうにふんぞり返っているオニゲンもまた、その行動理由がはっきりとしないあたりが、見事に片手落ちである。序盤から登場する米軍基地内にいたお嬢様の同級生アリスが、小夜の過去話を聞いて、彼女を「小夜は人間である」と元気づけるシーンがあるのだが、それではあまりにも人間側に都合のよい解釈に思えるし、あまり説得力がない。
 
 ラストバトルではだれも引き寄せないような幻惑的な農村の世界で、小夜とオニゲンは殺し合うことになる。オニゲンがやけに小夜を挑発するのだが、やはりバックボーンが不明なので、よく事情が飲み込めないまま、つい引き込まれそうになる。やがて超常の戦いが展開され、ハリウッドでおなじみのワイヤーアクションが展開される。こうなってはじめてわかったのだが、なぜ小夜の剣筋に重さが感じられないのかとずっと考えていたのだが、彼女は剣を持っても、足を横に開くような構えをとっていない。自然体の立ち方でジャンプしたりしているのだが、足が地に着いていない状態で剣を振り回すものだから、剣に体重が乗せられないのだ。本当に相手を真っ向から切り倒すには、足を開いて腰を落とし、力を込めるしかない。ワイヤーアクションの剣劇に重さが感じられないのは、そういう理由だったのだ。これはなにもこの映画だけではない。特に中国風の剣劇には、剣を切り結ぶ過程が大事であり、相手を切り伏せる日本風の一撃必殺の剣劇とは相容れないのである。そんなことはさておき、ここまで一緒に来てくれたアリスに危害が及んだところで、小夜はぶち切れてオニゲンに襲いかかり、最後にはオニゲンをマウントポジションで押さえるところまで追い詰める。そこで明かされる衝撃の真実は、オニゲンこそが小夜の母であるとのことだった。

 あれ? 小夜のお父さん、オニゲンとやっちゃってたってこと?

 つまりこの物語は、同族殺しでありつつ、同時に母親を超えようとする小夜の相克の物語であったという結論になってしまう。じゃあ小夜の父ちゃんが殺された恨みってなによ? 小夜はオニゲンの死体の上に仁王立ちになり、泣き顔ともつかない顔で叫んでいるカットとなる。それを目撃していたアリスの証言のシーンで終幕となるのであるが、後味を感じさせる以上に、疑問符しかわいてこない結末であった。

 これをみて思う事は、世の中突っ込まなくていい事ってあるんですねってことだ。つまること「ラストブラッド」という作品は、原典である「ブラッド」をさらに面白くしようとして、蛇足を加えたあげくに、収拾がつかなくなって放り投げちゃったような作品になっている。いや、突っ込みたい気持ちはよーくわかる。だがやっていいと言われたのなら、もう少しなんとかならなかったものか。オニゲンと小夜の父親の物語が、もう少しあれば、そのあたりの事情に言及できたろうに。こうなるとむしろカトウと忍者もどきとのバトルシーンが見応えがあったぶん、必要な説明が省かれていたのではと、勘ぐりたくなるほどだ。

 映画の筋立てとしては決して悪いとは思わない。どこまでもハリウッドスタイルを踏襲しているのはいただけないのだが、それでも序盤の地下鉄でのシーンが、まんま原典をコピーしているのかと思わせるほどの再現率にはおそれいったし、どこかで見たような日本の町並みの見事なまでの勘違いぶりには、ギャグだと思って付き合いも出来る。だが小夜についての事情や理由については、さらりと見せることで見ているこちらの想像がかき立てられたように、そのままの思いで映画をつくってしまうというのは、あきらかにやり過ぎなのだ。この映画の制作時に、監督やスタッフに「おちつけ」と声をかけてやるだけの器量をもった大人がいなかったことが、こういう映画を作ってしまう最大の事情だってことだ。日本映画界もおちついたほうがいいだろう。少なくても「ヤッターマン」が成功した理由の1つは、誰の目線で耐えきれるのか、何が見てみたいのかを、監督はじめスタッフが理解できていたというところだろう。大人のすることには、冷静さが必要であると教えてくれる。とはいえ、これを書いている時点で大人げないのだろうけど。

追記
 やっと「化物語」「つばさキャット」の続きが見られた。なんとも羽川翼の○ロいことよ。みなさまもぜひ。なかなかつながりにくいけどね。


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