攻殻機動隊SAC Solid State Society~草薙素子は何者か?~

 「攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX」シリーズは、押井守が監督した「攻殻機動隊」および「イノセンス」とは異なる時間軸を設定されたシリーズであり、押井監督が映画1作目で登場させた「人形使い」という電脳ハッカーによる犯罪がなかったものとして成立しているシリーズである。それは「ネット」や「電脳」といったキーワードで見せる新しい映像の上に、押井守監督の思考が盛り込まれたことで、世界的に評価された。その裏側で、主人公・草薙素子が人形使いという媒介者を介してネットに囚われるかのようなイメージをもった作品であった。それに対して「SAC」シリーズは、よりクライムアクションとしての「攻殻機動隊」を前面に押し出した作風により、押井版「攻殻」のファンまでも取り込んだ人気作品となりえた。

 「攻殻機動隊SAC」シリーズでは、「笑い男事件」および「個別の十一人事件」を主体とし、犯罪の影に見え隠れする政府の陰謀に立ち向かう草薙素子と公安9課の面々の物語である。一見して義体や電脳などがからむ事件の背後に、自分たちの上位に存在する巨悪の陰謀をあばき、自らの進退までも犠牲に供しながら戦いを挑む姿は、勧善懲悪ものの物語のセオリー通りながら、利権が複雑に絡み合った企業や団体、政府公共機関の関係や、安泰の影にある退廃の面影に思いをはせたり、そもそもの電脳の倫理観の問題などが交錯し、一筋縄ではいかない物語が、好評を博したのである。今回取り上げるのはスペシャルとして制作されたシリーズ3作目のエピソードである。

 物語は「個別の十一人」事件解決後2年が経過した世界。草薙素子は公安9課を去り、独自にさまざまな事件に介入する。その一方で素子を失った公安9課は、トグサをリーダーに、人員を増員して課の再建をはかっていた。
 そのおり、特殊工作員が謎の自殺をはかる「傀儡廻(くぐつまわし)」事件が発生し、公安9課が捜査に乗り出す。その過程で老人介護、児童虐待、行方不明の子供たちなどの現状を垣間見るトグサたち。やがてそれらの事件が1つに結びつき、政府要人による犯罪が見え隠れするようになる。9課とはまったく別行動をとっていた素子であったが、事件の核心を暴くべく、再び9課のオリジナルメンバーと合流し、事件の実態を暴いていく。

 本作で取り扱っている「傀儡廻」は、映画「攻殻機動隊」に登場した「人形使い」に近しい超特A級のハッカーだという。この時点で押井版「攻殻」に対する意趣返しなのかと思っていると、これがちがうのである。なんとなく見た目ではやっていることは電脳ハックではあるけれど、人形使いがあくまで自分という個を主張する方法として電脳ハックをしていたのに対して、「傀儡廻」は「Solid State Society」の存続に不必要と思われた人物をデリートするために電脳ハックをしている。しかも「人形使い」があくまで「個」に固執したのに比べると、「傀儡廻」は表面上の殺人でしかなく、その裏で進行していたのは電脳を悪用した非合法の誘拐事件だったというオチだ。「人形使い」という擬似的な人格に思いをいたせば理解できる劇場版に対し、本作の背景に見え隠れする高齢化社会、児童虐待などの社会のひずみが多層的に絡み合っているところは、政府の頭がすげ変わったところでどうなるもんでもなくなった現在の日本の姿、そのままである。ましてやネットに繋がれたひからびた老人(貴腐老人)の姿は、現在のネット環境にうとい老人たちの姿ではなく、ネットに自由自在につながりながら、他人との接触を断ってしまったような現在の我々の姿なのである。そうした現状への危機感を煽るような物語は、クライムアクションとしての王道を外すことなく、最後まで緻密に見せきるエンターテインメントとして仕上がっている。いやもう本当に面白い。DVDが発売された当初に1度見た切りだったので、見返してみて初めて面白さを噛みしめられたことは、望外のよろこびであった。

 そんな中で、やはり引っかかるのは「素子」という人物についてだ。
 先述のように劇場版「攻殻」では、公安9課の「草薙素子」を主人公として、彼女の「個」が「人形使い」の「個」にふれることを主眼としているから、バトーという愛すべき相棒がいながらも、「人形使い」と「素子」という「個」が二項対立で併存している物語である。つまり映画では「素子」という人物にきちんとスポットがあたっている物語なのだ。
 だが「SAC」というシリーズでは、「草薙素子と公安9課」が主人公であり、彼らがたずさわる事件を解決するという動きを軸にした群像劇として制作されている。基本フォーマットはあくまで「刑事ドラマ」のそれである。だからこそ公安9課の他のメンバーにスポットがあたる物語も成立するし、その一人として素子が主役級に活動できる土俵が成立しているといっていい。「SAC」というシリーズが人気を博した理由の一端がここにある。

 だがそうした物語構造のシフトにより、素子周辺のキャラクター構造まで変化してしまっている。映画の素子が、素子を頂点とし、その下にバトーやトグサ、荒巻がいて、その下に公安9課の他のメンバーがいるというヒエラルキーが存在するのにたいして、「SAC」シリーズでは素子以外のキャラクターが、素子を中心とする同一平面上に点在する記号になっている。これはむしろ「ルパン三世」のキャラクター構造に近い。
 「ルパン三世」ではルパンを中心とし、ルパンを説明するための記号として、次元や五右衛門、不二子、銭形が配置されている。端的なのは「カリオストロの城」において、城に一人で忍び込んだルパンが、クラリスとのひとときを過ごすとき、芝居がかった言葉遣いで紳士らしく振る舞っていた。これは隣に次元がいたら間違いなく突っ込んでおり、成立しなかったシーンである。ということは「次元」が記号として説明する「ルパン」という「個性」を、このシーンに持ち込みたくなかったという意味だろう。

 そうした記号論としての草薙素子の存在は、それまでの2シリーズにおいては、素子の個性の多様化を生んでおり、公安9課のメンバーから見た草薙素子という人物についての話が存在できる土壌になっている。それがシリーズの面白さを支えた要因でもある。だから素子は電脳化し、世界最高の義体使いと呼ばれた自分の個性を疑うから、自分探しをする。「SAC 2nd GIG」はまさにそういう物語という見方も出来る。
 本作の真犯人については、未見の方のために秘匿しておくが、この物語において、素子は政府要人が絡んだこの大がかりな犯罪の真犯人を捜すのと同時に、自分を探していたことになる。そして素子自身でも思いがけない形で、ネットや複数の義体の中に併存する自分を発見することになるのだ。

 「攻殻」の基本的な世界観の一翼を担っているのは、「電脳」である。そして義体を用い、電脳により深遠なるネットの世界につながっている人間が、「個」として主張できるものは、当人の「ゴースト」でしかない。だが電脳化された子供たちが、自身のパーソナルデータを改ざんされ、記憶を書き換えられてしまう技術が存在する世界では、犯罪の前に倫理観は意味を持たない。義体も電脳化も、本来の使用目的は異なるものであっただろう。こうなると「銀河鉄道999」に登場した「機械化人間」と区別できる物ではなくなってくるではないか。「機械化人間」は、物語の上でおおむね悪役として登場し、機械の体で増長し、人の心を忘れてしまった人として描かれる。義体化したものが犯罪を犯すという等式は成り立たないものの、「機械化人間」の例はその可能性を指摘してみせる。ましてや「Solid State Society」という物語のラストシーンで、事件の実態を曖昧にしてみせたからには、やはり問いただしてみたくなるのだ。「草薙素子よ、あなたは何者なのか?」と。


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