仮面ライダー剣(ブレイド)~その1・職業としてのヒーローと資格~

 「仮面ライダー剣(ブレイド)」は2004年1月から放送された作品だ。「仮面ライダークウガ」から数えて5作品目であり、前作「仮面ライダー555」における人と進化した人との間の不協和音と協調をテーマにした剛性の物語が人気を博した後である。よくよく考えてみると、平成ライダーには不幸にして「仮面ライダー」になってしまった者は、意外に少ない。おそらく「仮面ライダーアギト」に登場した「アギト」や「ギルス」、またアギトになりかけた人たちぐらいではなかろうか。それまでの仮面ライダーはいずれも「改造人間」であったから、自分の意志にしても、不幸にして改造されてしまった場合でも、人間に戻れる可能性が皆無であった。だから「改造人間の悲哀」こそが「仮面ライダーのアイデンティティ」であると考えていたのである。だからといって平成ライダーを非難するわけではない。時代はついに「職業」として仮面ライダーを選ぶという物語を生み出してしまうのである。奇しくもこの年の戦隊作品「特捜戦隊デカレンジャー」も職業としてヒーローを選んだという作品であり、このあたりの類似性も追求してみるのも面白そうだ。

 さて本作の物語は、人類基盤史研究所、通称「BOARD」と呼ばれる私設機関が開発した「ライダーシステム」を利用して仮面ライダーに変身する二人の若者、剣崎一真(演 椿隆之)と橘朔也(演 天野浩成)が、地球に存在する53体のアンデッドと呼ばれる怪人たちと戦い、封印していく物語である。ここでまずこの物語の根幹となるアンデッドに関する基本設定を列記しておく。

・アンデッドは53体存在し、もう1体「ジョーカー」が存在する。アンデッドはトランプになぞらえることができる。むしろトランプの始祖に相当することになる。

・アンデッドはそれぞれ固有名詞として「~アンデッド」という呼称があるが、それとは別に「カテゴリー~」(「~」には数字の「6」や「J,A,K,Q」が入る)と呼ばれる。

・アンデッドとは、地球の生物の始祖にあたる。アンデッドは種の繁栄と保存のため、他のアンデッドと戦う宿命にある。この戦いを劇中では「バトルファイト」と呼ぶ。

・バトルファイトの勝利者は、地球を我が物とし、強大な力を得るという。

・そのバトルの裁定はねじれた謎の黒い石版によって行われ、過去のバトルファイトで負けたアンデッドは、石版によりカードに封印された。

・バトルファイトの勝者は最後にジョーカーと戦う。これに勝てば強大な力を手に入れられるが、ジョーカーの勝利の場合には、バトルがリセットされた上、地球上の生物はすべて滅びるとされている。

・ライダーシステムはジョーカーが持つ、他のアンデッドの能力を利用するための力を、解析して再構築されたもの。またカードに封印する力は、カード自体の能力だと思われる。

 本作における仮面ライダーは、あくまで解放されてしまったアンデッドを回収し、同時に未封印の上級アンデッドを封印することが目的のヒーローなのである。
 ところが第1話にしてBOARDの研究施設が壊滅する。そして封印されていたアンデッドが解放されてしまう。それを手引きしたのは橘だという。いきなりの橘の裏切り行為に激昂する剣崎。しかも橘の体が何かに侵され始めているという。そしてライダーシステムとは別の仮面ライダーである「カリス」(演 森本亮治)も登場する。彼はアンデッドを倒しながらもブレイドにまで襲いかかる。だがその裏では栗原親子と一緒に人間・相川始として暮らしているのだ。

 初回から数回を経てなお、謎だらけで物語が進行する。これが結構難しく、見ていて少ししんどいのである。当時のメインターゲットであるお子様たちが理解しできていたのであろうか、少し疑問だ。本筋であるアンデッドの封印と、BOARD壊滅の謎とヒロイン広瀬栞の父の関係、橘の体調はライダーシステムの欠陥なのか、相川始の正体など、あまりにも物語が錯綜しすぎている。だが徐々にそれがほぐれはじめると、そこには恐るべきドラマが待ち受けていたのだ。

 橘の体調不良は、自身の心の弱さがライダーシステムに過剰反応した結果であったのだが、それを克服する過程で人間体を有する上級アンデッドの奸計にはまり自分を見失った結果、橘の唯一の安らぎであった女性が死亡する。相川始の正体はアンデッドが人間に化けているものであり、橘や剣崎の直接の上司であった烏丸所長も上級アンデッドに操られていた。そうした前半部分の黒幕であったピーコックアンデッド・伊坂は橘が変身する仮面ライダー・ギャレンにより倒されることで、一端は収束を迎える。
 当時の作品の批判として、最後に爆発四散せず、カードに封印されてしまう怪人のシーンにより、カタルシスが激減したことをやり玉に挙げる人がいたようだが、いくつかの回では、ライダーの必殺技を受けて、一度は大爆発するシーンが挿入されることもあった。
 また剣崎たち主要キャストの力量には確かに問題があった。だがライダー作品自体がつねに新人俳優の登竜門であったことを考えると、その俳優としての成長を温かい目で見守るというのも、こうした番組の楽しみでもある(まあ限度はありますけど)。

 この初期編で注目したいのは、「ライダーシステム」に選ばれた者が「仮面ライダー」になれるという設定である。しかも橘も剣崎も、「職業」として仮面ライダーに変身しているのである。ということは雇い主であるBOARDから給与が支払われているという事であるが、それ以上に驚異的なのは、職業である以上、彼らはそれを選択し、捨てることすらできたことである。
 先にも書いたが、「仮面ライダー」とは半ば強制的に押しつけられた正義のヒーローである。「改造」というイニシエーションにより自ら再誕し、過酷な人生を選択せざるをえなかった人たちの物語だったのである。それが職業として選択できる、しかも橘のように、その力の行使を辞めてしまう事もできるわけだ。当初剣崎ですら、「それが俺の仕事だから」といいつつ戦っていたのである。たぶん橘も同じ気持ちであったろう。だがブレイドとして一人で戦い続ける剣崎の姿と最愛の女性の死を目の当たりにし、彼はやっと戦士として目覚める事ができたのである。職業ではなく「だれかを守りたい」という願いこそが戦う理由であり、それこそが仮面ライダーとしての「資格」であったのだ。

 剣崎の場合には、親を火事で失っていることがキーになる。職業として仮面ライダーになることを選択した剣崎は、当初はいまどきの若者のように見えるし、そのいい加減さは自宅のアパートを家賃滞納で追い出されるシーンでも確認できる。だが彼は人一倍アンデッドを憎み、誰よりも人を守りたいという思いが強い。そしてその気持ちに気づくことなく、どちらかといえば考えなしに、職業として「仮面ライダー」あるいは「ヒーロー」であることを受け入れたのである。だがそれもタランチュラアンデッドである嶋の言葉に導かれ、橘と同じように「だれかを守る」という自分の出発点を見いだすにいたり、嶋より譲り受けたラウズアブゾーバーで新形態「ジャックフォーム」となり、上級アンデッドを封印できるようになる。それはまさにヒーローとしての資格を手にした瞬間でもあったのだ。

 つまり「仮面ライダー剣」という物語は、最初「職業」として仮面ライダーになった若者が、やがて真のヒーローになるための「心の資格」を手に入れるためのドラマだったと言えるだろう。それはかつて肉親を殺された仮面ライダーが、世界平和のために敵組織への「復讐心」を捨て去った行為の相似形のようにも思えるのだ。「クウガ」の雄介や「アギト」の翔一が、その性格の良さゆえに正義の側に存在していたのとは異なるアプローチである。まさに橘や剣崎は元から「仮面ライダー」だったのではなく、徐々に「仮面ライダー」になったのである。それは一見すると、ヒーロー番組ではよくありがちな、自分のスタンスを見直す物語のようにも見えるが、番組開始当初より意図して製作されていることを考えれば、たとえライダーシステムとの適応性の設定があったとしても、ヒーローになるための心の資格さえあれば、「だれでも仮面ライダーになれる」というようなシンプルなメッセージが見え隠れする。人間の悪意に根ざして「人間はだれでも仮面ライダーなんだよ」とのたまった、「龍騎(TVーSP)」の物語とは一線を画するポイントである。

 一端収束したかに見える物語は、新たな章の幕開けでしかない。4人目のライダー・レンゲルの登場である。その素体である上条睦月(演 北条隆博)はまだ高校生であった彼は、自分の弱さを克服するためにライダーになろうとする。だが彼はレンゲルの変身キーカードであるスパイダーアンデッドにより精神を浸食されてしまい、変身後の自分の精神を維持できない状態になっていた。だが橘は睦月を鍛えることで自分の弱さを克服させ、本当の仮面ライダーに成長させようとする。それは仲間に迷惑をかけた橘の罪滅ぼしだったかもしれないし、心の弱さを克服した橘だからできるアプローチだったかもしれない。つまり睦月というキャラクターも彼に関するエピソードも、剣崎や橘と同じで、仮面ライダーとしての資格を手に入れるために繰り返されたストーリーである。
 だが剣崎以上に今時の若者は一筋縄ではいかない。本当は潜在能力の高さゆえに一番強いはずの自分を差し置いてパワーアップしたブレイドを見て、嫉妬心に駆られる睦月は、さらにスパイダーアンデッドに心を浸食される。チベットから来日した嶋の犠牲を経てなお、夜の街でレンゲルとして暴れてみたり、ナイトクラブに寝泊まりし、一人最強をうそぶく睦月は、なかなかブレイドたちの戦線に復帰しようとしない。それどころかカリスのカードを奪い、それを自分の力と過信してしまうのである。

 このあたり、アイデンティティが確立されていないモラトリアムな若者(実際睦月の通う高校は私服が認められているから、大学生とも見分けがつかない)の柔弱さや、他人のフンドシで強くなった気でいるあたり、精神的な弱さを露呈し続ける。そんな睦月がひたすら哀れにも見えてくるし、同時にブレイドたちの戦線に復帰しようとしないいらだちも感じてしまう。また嶋やタイガーアンデッドのお姉さんとのやりとりから、アンデッドでも人間とかわらず睦月と接してくれる大人との関係は、やはり少年を大人に導くためには、道しるべとなるべき、「よき大人」の存在が不可欠であることを思い知らされる。
 これらのエピソードでは、文明を進化させ成熟させた人間が、その過程でどこかに置き忘れた大事ななにか(たぶん実直さや素直さ、純粋な心の強さなどか)を、アンデッドが持っているような気がしてならない。そうした人間と相対化されたアンデッドのキャラクターは、人間の愚かさや汚さの反対側に存在するものとして描かれている。だがそれ以外の欲望まるだしの上級アンデッドや、奸計を巡らす伊坂やキングのような存在がいるため、むしろ劇中での剣崎と始の関係や、嶋、タイガーアンデッドと睦月の関係をより特異に浮き彫りにすることになる。この点が「アンデッド」という怪物にキャラクターを与えてしまうことになり、さらに物語の多層化を生む結果になるのだ。人間側のドラマに比重をおきつつも、反対側にアンデッド側にもドラマが存在することを示している。

 そして睦月は長い時間(話数)を経て、やっと自分を取り戻し、仮面ライダーとしても人間としても成長するのである。ここまでが42話までのストーリーである。次回はもう一人の主人公である仮面ライダーレンゲルこと相川始と剣崎の関係にスポットをあてて、物語の結末と剣崎の驚くべき最後の選択について、じっくり語ってみたい。


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