仮面ライダー剣(ブレイド)~その2・正義と自己犠牲~

 承前

 人間体を持つ上級アンデッド同様に、あまりにも人間的であり、必要以上に人間であろうとするアンデッドとして「相川始」は登場する。仮面ライダーの側面を持ちながら、アンデッドであり、栗原親子を守るという感情の一点のみが突出している奇異な人物として描かれる。その実態はバトルファイトの最後の切り札である「ジョーカー」である。ジョーカーは前回のバトルファイトの最後の勝利者である人類の始祖「ヒューマンアンデッド」と戦い、勝利している。その時にバトルファイトはリセットされたはずであるが、ヒューマンアンデッドのみはカードに封印されて、ジョーカーの手元にあった。そして人間の姿を借りながら、次のバトルファイトを戦ううちに、カメラマン栗原を雪山で巻き込んでしまう。その栗原が死の間際に見せた愛する者を守りたいと願う姿が、彼をして人間のなんたるかを知ろうとさせた契機になっているようだ。ジョーカーが他のアンデッドの能力を借りることができることは、前回に説明済みである。だからこのときジョーカーはヒューマンアンデッドに精神を浸食されていた可能性は否定できない。奇しくも睦月や剣崎がアンデッドに浸食されている姿がそれを裏付ける。

 栗原の思いを受け取ったように、始は栗原親子を守り続ける。だが本来は自分自身がいなければ、栗原親子が襲われることはない。それを理由に始は栗原親子から離れようとする。またカードの力で封じ込めていたジョーカーの暴走の危険から、栗原親子を遠ざけるために離れたりもする。こうした思いやりの心を教えたのは、自分を信じた剣崎や、さすらいの中で出会った人間たち、そして何より始を心配する天音のおかげだろう。
 天音に関して申し上げると、あまり良い感想を抱いていない。事実この娘が立場もわきまえずに振る舞うシーンは見ていて苦痛であったし、親しいとはいえ親戚の年長者を呼び捨てにする質の悪さについては閉口するしかなかった(後日談的な劇場版では、万引き娘になりはてている)。だがこうした実の悪い人間ですら、「愛すべき人」には献身的に接する姿が、まさに始のアンデッドとして閉じた心を開いたに違いない。そして剣崎が一心に始を信じる姿が、始の硬化した態度を軟化させていく。

 こうした相川始に絡むエピソードは、物語の終盤の中核であるジョーカーとしての存在以前に、相川始がなぜ仮面ライダーたり得たのかを検証する物語であり、人が優しさを獲得するためには、他人の優しさを必要としていることに言及しているかに見える。逆に悪意しか持たない人間やアンデッドが、物語上次々に消えていくのは、単なるヒーロー番組としての必然ではなく、むしろ「やさしさ」や「思いやり」などが必要であることを問うているようにも見えるのだ。

 物語終盤では、トライアルシリーズという人工アンデッドを使い、剣崎たちに襲いかかるのは広瀬(演 春田純一)、剣崎たちの専属オペレーター広瀬栞の、亡くなったはずの父である。そして彼の口車に乗って剣崎を助けるつもりで剣崎と敵対してしまう橘。だが広瀬は亡くなった妻を救いたい思いで、アンデッドの不死の能力を研究しているだけだった。しかも広瀬自身も広瀬の記憶を移植されたトライアルであった事実が判明する。それを教唆したのは、BOARD理事長の天王寺(演 森次晃嗣)だった。ブレイドとの戦いに倒された広瀬は、雨の中で娘に見守られながら死んでいくのであった。

 様々な紆余曲折を経て、4人の仮面ライダーはすべてをしくんだ巨悪に立ち向かう。それが43話以降の物語となる。すでに仮面ライダーとしての資格を得ている4人であるが、あいかわらず睦月は自分に対する漠然とした不安や剣崎たちへの引け目を抱えている。また仲間の一人の正体がジョーカーであるため、橘はそれを良しとできない。そんな不協和音が鳴り響く最悪のタイミングを見計らって、天王寺は人工アンデッド・ティターンを使って、仲間割れを画策するが、始たちの一芝居で形勢は逆転する。だがその裏で暗躍する最後の上級アンデッドと天王寺の秘めたる野望が錯綜する。

 天王寺の目的は自分でしくんだバトルファイトで、自ら人工アンデッドと融合し最後の勝利者となり、手に入れた力で世界を支配しようと目論んだのである。最後の巨悪として、多くのアンデッドや人間たちの運命をもてあそんだ天王寺を許せない。その怒りを胸に、4人は天王寺に戦いを挑み、その野望を打ち砕く。そして最後のアンデッドも、剣崎の信念を信じた橘の捨て身の戦闘で封印されると、残るアンデッドはジョーカー・始だけとなった。そして天王寺が秘匿してた場所から移動した石版は、ダークローチと呼ばれるアンデッドを大量に生みだし、人類を殲滅しようとする。ジョーカーである始はなんとかそれを押さえ込もうとするが、すでに自分の意志を離れてしまい、どうすることもできない。

 街に広がったダークローチの群れに、戦いを挑む仮面ライダーブレイドとレンゲル。剣崎はキングフォームを使い、体力の限界までダークローチを倒すことを試みる。それはすでに決断した思いからの行動であった。
 剣崎がキングフォームになったのは34話。その直後、栞のパソコン宛に送られてきた烏丸所長からのメールによれば、13枚のカードと融合することは想定外であったと説明されている。同時にライダーシステムがアンデッドの力を借用するシステムである限り、その力の行使の多用は、変身者自身をアンデッドに変化させる可能性が示唆されるにいたり、キングフォームは本来禁断の選択肢であったはずなのだ。
 ジョーカーを放置していてはダークローチは人間を襲うばかり、だがジョーカーを封印すれば友情で結ばれた相川は消えてしまい、天音が悲しむ。だが仮面ライダーとして自分がなすべきことは、人類を守ることである。そうした葛藤が剣崎の心の中でいくどもあったろう。
 そして剣崎はついに最後の決断をする。彼自身がアンデッド(もう1体のジョーカー)となり、バトルファイトが永久に続く状況を作り出すことにしたのである。それは自分が人間ではなくなり、愛すべき人間たちと隣り合って生きてはいけないという決断だったのだ。
 ジョーカーとなった始とキングフォームで殴り合う剣崎は、やがて自分の血がアンデッドのものと同じになったことに気づく。そして同時にダークローチは消滅し、バトルファイトは終わっていないことになる。そして残ったアンデッドである始と剣崎の前に、戦う事を支持する石版を、剣崎は渾身の力をこめて破壊する。そして始に人間の中で生きろと言い残し、傷ついた体のまま、剣崎は消えていったのである。

 平成ライダーシリーズの多くは、含みを持たせるようなエンディングが多い。その含み故に、昭和ライダーのような充足感や達成感とは無縁になってしまっている。だがそれゆえにファンがいることも事実である。私は放送時にこの最終回を見て本当に驚いた。徹底した自己犠牲により世界を救うヒーローが、画面の中にいたのである。それはすでに改造されて戦う事を宿命づけられた戦士が、自己犠牲として厳しいバトルに身を投じる姿ではなく、いつでも普通の人間に戻れる生活を捨てて、人類を救った若者の姿だったからだ。しかも剣崎は、仮面ライダーを職業とし、その心の資格を手にしてもまだ、普通の人間の生活に戻る事ができたのである。彼は職業意識でも正義のためでもなく、むしろ戦友・相川始の幸せのために、この決断を下したようにも見えるのだ。

 これは宇野常寛「ゼロ年代の想像力」に登場する、あえて特定の価値を選択する「決断主義」的な物語だったともいえる。剣崎には他にも選択肢はあったのだ。始をジョーカーとして封印し、悲劇的な最後で、のうのうと剣崎自身が生き残り、しかもバトルファイトを繰り返す方法や、レンゲルのリモートのカードで、バトルファイトを自ら演出することもできる。またファイトの場所を限定するという方法論もあるだろう。だが剣崎はそれをしない。相川始を助け、人類を助け、その上でバトルファイトを強いられるアンデッドまで安らかに眠らせようとしたのである。なんとなくだが、正義に自己犠牲はつきものだと思っていた。だがこの物語は、はっきり正義と自己犠牲はイコールではないことを示している。過去の仮面ライダーが、改造という自己犠牲をはらって手に入れたものは、ライダー自身の努力奮闘による平和なのだ。仮面ライダーとして改造され、そこに復讐心を経た平和への思いが、世界平和をもたらしたのである事と比べれば、すべてを手に入れようとした剣崎の自己犠牲は、かなり無理があるとは言え、なんだか崇高なものに思えてしまう。それは昭和のライダーとは異なる自己犠牲の姿を見せることで、過去のライダーとの決別ともとれる決断だと思えた。

 実はこうした過去の昭和のライダーとの決別の意志は、本作だけには止まらない。作品イメージや物語、ライダーデザインだけならいくらでも簡易にそれを肯定できるが、「仮面ライダーディケイド」の物語を見ていると、まさにそう思える。
 ここには平成ライダーたちが世界観を変えて登場するシステムになってる。もともとの世界観を再構築し、それを同一世界に封じ込めたように物語が形成されている。先輩ライダーが現役ライダーのもとに駆けつけ、共闘したり、その思いを共通させたりする世界観を構築した昭和ライダーと比較すればわかりやすいだろう。後続のライダーほど後輩となり、先輩の平和への思いを受け継いできた昭和ライダーと、全くの後続にもかかわらず、再構築された世界のライダーよりもえらそうにしているディケイド(門矢士)の姿は、まさに過去との決別であることに他ならないのだ。

 今回この記事の執筆にあたり、あらためてじっくり見直すと、序盤の交通整理の問題や、アンデッドがらみの設定の甘さなど、指摘したい点はいくらでもある。また巨大掲示板などで取り上げられていた俳優の欠点をあげつらうこともできる。だがそれ以上にこの物語に秘められた「決断」の重さが、見ている私にとっては心地よかったのだ。そして自然に剣崎がその決断を下せるにいたるドラマとして、最終回までの流れを知りながら見ていると、剣崎の決断自体がやんわりと説得力を持ってくる。きちんと1年という時間をかけたドラマとして、十分に見応えがあったと思うし、その集大成としての剣崎の決断が、ドラマとしてきちんと閉じていることを思えば、とりだたされている欠点が霞んでしまうと私には感じた。昭和ライダーとも、他の平成ライダーとも差別化しようと試みた、スタッフの苦労も理解できる。見直す価値は十分にあると思えた1作であった。

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