空の境界 第三章 痛覚残留~生きることの痛み~

承前(本文をお読みになる前に、前2章について書かれた文章をお読みいただけると幸いです。画面右の「全記事表示リンク」よりお探しいただけます。)

 今回の第三章は、1998年7月が舞台となっており、酷評した第二章の後、第一章よりも前の時間の話である。この物語で主人公・両儀式は第二章の終わりで一端眠りについた後で目覚めており、「直死の魔眼」の力を手にい入れている。また式自身の人格は「式」一人に統一されているが、口調は「識」のものである(wikiによれば、これは人格の補完らしい)。そして荒耶宗蓮が準備した仕組まれた人物、「浅神家」の浅上藤乃との対決が、この物語のメインイベントとなっている。

 ある日、体がねじ切られたような変死体がいくつも発見された。その直後、蒼崎橙子のもとに「浅上藤乃」の捜索依頼が舞い込む。この依頼を式がうける。ただし発見時に抵抗するようなら殺せと付け加えられて。同時期に黒桐幹也にも後輩男子・啓太を探して欲しいとの依頼が入る。奇しくも藤乃は殺人事件の加害者であり、啓太は被害者グループの一員だったのだ。6人目をねじり殺した時、藤乃は式と遭遇する。ともに「快楽殺人者」であり、互いを似たもの同士だという式に反発する藤乃は、能力で式を攻撃しようとするが、反撃に出た式はその手を止めてしまう。
 幹也はやっと見つけ出した啓太の口から、藤乃に対して集団で長らく暴力行為を行ってきたこと、その行為に対して藤乃がまったく無反応だったこと、一度金属バットで背中を殴られた際に、藤乃は痛がっていたことを聞く。啓太は事の真相に藤乃の出自や人となりが関係すると考え、今は廃れてしまった「浅神家」におもむく。また彼女の啓太の携帯電話への独白により、布陣は通常時に痛覚がないこと、その痛みを取り戻すために、啓太を殺さなければならないと言う。幹也の調べによれば、藤乃の秘められた能力を押さえ込むため、クスリを投与した結果、後天的無痛症となってしまったことがわかる。
 そうしているうち、藤乃は無自覚にもさらに殺人を犯してしまう。これ以上は犠牲者を増やすだけと判断した式は、藤乃を殺すために、巨大な吊り橋のたもとに向かう。そして能力を最大に発揮した藤乃は、式と激しくぶつかり合う。

 物語の冒頭から藤乃のレイプシーンを見せられて、いい気持ちがしない。もちろん彼らがそれを理由に殺されるのであるから、それでいいのかと思ってしまう自分が怖い。自分たちの悪逆の報いだとして結局殺されてしまうというのは、単純な話「必殺シリーズ」に通底する。だがここで行われてるのは実態としては藤乃の「快楽殺人」なので、イコールとして見ていい物ではない。だとしても冒頭の馬鹿者グループは死んで当然と思える。ここで問題なのは、その行為により「痛み」を得ることでしか「生」を実感できないと思い込んでいる藤乃である。そしてその「生」への衝動が「殺人」行為に及ぶのである。

 やがて暴走を始める藤乃は、式をして「理由なき快楽殺人者」との烙印を押されてしまう。それも式自身が「自分と似たもの同士」だと言っている。実はこの部分には2つの意味が隠されている。一つは「快楽殺人者」として件、そしてもう一つは「二重人格者」としてだったのではないだろうか。2度対決している藤乃と式であるが、痛みを感じ、能力を使うほうの藤乃と、痛みを感じない藤乃という二重人格だったのではないだろうか。共に他人の「死」の事実でしか「生」を実感できない。演出かもしれないが式が「血」に反応するのに対して、藤乃は「痛み」に反応していたとも考えられる。劇中橙子の言によれば「痛みを感じないということは死んでいるのも同然」というような台詞がある。その意味においては、藤乃は生まれながらにして生きてはいなかったということになる。それは生きている証がない。たとえ荒耶宗蓮がそろえた式のための駒だとしてもだ。これでは彼女が生まれてくる意義がないではないか。そう考えを進めると、むしろ腹痛(虫垂炎から進んだ腹膜炎)でお腹を抱えて痛がっている姿は、単なる腹痛ではなく、むしろ「妊娠~出産」の類似型なのではないかと思える。そして痛みを生み出すもとを式により取り出された儀式により、彼女は再誕したというラストに見えてくる、それは藤乃そのものを助けたことになる。ナイフを持って能力者と殺し合うことで、互いの生を確認し、相手を助ける。「空の境界」という物語の本質の一端を垣間見たような気がする。「儀式」を行う「両儀式」という構図。それはいずれ式自身も救われ、再誕する可能性をほのめかすラストであったともとれる。

 エピソードとしては式が左腕を義手にしている事情がわかるし、幹也や橙子がかなりその日暮らしをしているかもわかるエピソードとなっており、前2章をみていると、十分お得感もある。一つの事件が起こり、事件の全貌が解明され収束するという、ごくごく一般的な物語構造も、飽きることなく見続けられる作品であった。

 それでも藤乃が感じる痛みと「ねじる」という破壊の見せ方には疑問がある。
 前者については、腹を刺されたと認識した藤乃が感じた痛みは、どうして部位を意識させなかったのであろうかという疑問だ。個人的に解答をするならば、自分自身の痛みを感じる事が出来なかった藤乃は、「痛み」を分類することすら知らなかったという仮説だ。人間の皮膚にある感覚器は、通常「痛覚」のみである。その「痛覚」を極端にやわらかく刺激すれば「くすぐったい」とか「かゆい」とかの感覚になる。古い本を読むと、人間の皮膚には痛みやかゆみなどを感じる感覚器が、たくさん散らばって存在しているような書かれ方をしているものがあるが、実際には「痛覚」の刺激の程度らしい。藤乃はこうしたことを理解できなかったであろう。ましてや母親は彼女の無痛症を知らなかったという解説があるが、劇中ではむしろケガをした藤乃に「ケガが治ったら痛みは無くなるからね」と念を押している。これはまるで「物が当たったら痛いじゃないですか」と知識で知っているだけの「R・田中一郎君」と同じ反応なのである。これは母親が藤乃の無痛症に自覚的であり、痛みとケガの関連性を藤乃に教えていたのではなかろうか。藤乃の回想では、ままごとのおもちゃの中に本物の刃物が混ざっていたエピソードがあるが、あれも藤乃の殺人衝動の萌芽が、すでに子供の頃からあった可能性を示唆しているように思える。このあたり原作にはどう書かれているかが、今から楽しみである。

 また「ねじる」という破壊の見せ方についてであるが、人間を相手にしている時はまったく問題ない。問題なのは式との2度目の対決でのことだ。次第に能力が暴走しはじめ、手当たり次第に破壊をしつづける藤乃であるが、コンクリートの壁の破壊を見ていると、あれではたんなる爆破にしかみえない。「ねじる」は回転軸をもち、その軸の両端が、軸に対して垂直方向に回転する。しかも軸の両端で逆方向の回転が必要となる。軸の設定は藤乃と式しか見えないので、なんとも言い難いのであるが、だからといって爆発するようには崩壊しないと思うのだ。むしろ内部破壊的に軸にそって押しつぶさるように崩壊するイメージがあるのだが、どうだろうか?

 まあ以上の2点は、本作を評価するのに、毛ほどの価値もない戯れ言である。ましてや私自身も2回目の視聴時にはじめて気がついた点である。たいした話ではない。私が注目しているのは、式自身がこれからどのような死生観を持つに至るかだ。人や物の死が見える「直死の魔眼」の能力は、常に式に対して命の重さを提示しない。それは人も物も同等に見ているいるからだが、そこには視覚的情報のみがあり、そこにある意味までは読み取れる能力ではないからだ。この物語の結末が、式という女性が死にゆく話だとしても、式が魔眼の能力とともに生きていく話にしても、魔眼で見ている視覚的情報に意味を見いだすのは魔眼ではなく、式自身の経験のみである。だとすれば、人を殺すことでしか快感を得られない「快楽殺人者」は、いったいいつ人を殺す状況に陥るのかとうことだ。もしも式が人を殺さなければそれは「妄想上の快楽殺人者」でしかない。式が「快楽殺人者」を吹聴するためには、だれかの死が必要になる。そんな式が本当に人を殺したときに、果たして何を得るのであろうか? また新しい楽しみが増えてきた。

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坂本真綾鈴村健一

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