ドキュメント太陽の牙ダグラム~政治闘争とロボットは両立するか?~

 一般にロボットアニメに政治を持ち込んできたのは、「機動戦士ガンダム」が最初だと言われる。「マジンガーZ」という物語は、一個人ドクターヘルが世界征服の野望を企み、それをマジンガーZが打ち破る話だから、完全に個人対個人の戦いに見える。だが異星人や異世界人が攻めてくることを考えると、それは国や星を代表した戦いであるから、「UFOロボグレンダイザー」や「大空魔竜ガイキング」などの物語は、国家対個人の戦いである。それは侵略する側からしてみればもはや戦争行為であるし、その侵略に秘められた理由は、意外にも政治が絡んでいることになる。そういう敵の場合は得てして軍事政権であるし、侵略の最高責任者が軍の責任者と同一である場合や、好戦派の星の主権者であったりする。こう考えると、ロボットアニメで描かれている戦闘行為は、結構政治に絡んでいる。だがそうした政治的背景は、「敵側の都合」というその一点から、見過ごされることが多い。だからこそロボット同士の戦闘がまさに戦争行為として捉えられた「ガンダム」という物語は今もって特異な存在である。そして時期を前後して登場した「太陽の牙ダグラム」という作品は、「ポストガンダム」を目指して作られた以上、より一層「戦争と政治」というところに突っ込んでいかなければいけなかった作品である。そしてその編集版として製作された劇場用映画「ドキュメント太陽の牙ダグラム」は、その役割を果たすべく登場したはずの作品であった。

 「太陽の牙ダグラム」は1981年10月から1983年3月まで、テレビ東京系で放送されたロボットアニメである。劇中「コンバットアーマー」と呼称される、惑星デロイアでの活動のみを考慮されたロボットを登場させ、「太陽の牙」と呼ばれるレジスタンスの若者たちを中心としながら、地球の植民星デロイアの独立戦争を背景とした重厚な物語である。その重厚さを支えたのは、ロボット物としてロボット同士の戦闘行為を見せながら、その背景にある政治や政治の裏側の暗部の物語である。

 最初の発端は、一部の軍人のたった一発の銃声であった。デロイア駐屯軍の司令官が高級軍人により射殺され、それを契機にデロイアでクーデターが発生する。しかしそのクーデターは、首魁・ドナン・カシムとその秘書・ラック、上官を射殺したフォンシュタインによる偽装クーデターであり、ファンシュタインは事実を明かさぬまま、デロイア州の代表におさまる。これを裏切り行為と見なした反抗勢力は、自治の名目で粛正されていく。地球の植民星であったデロイアは、まやかしの独立に見せかけた地球の属領に成り下がる。これをよしとしないデロイアの人々や、デロイア駐屯の軍人たちは、サマリン博士を精神的支柱として仰ぎ、連邦政府軍との独立戦争をはじめることになる。このとき、デロイアで作られた最新鋭のコンバットアーマー・ダグラムは、父親であるドナン・カシムに反対する意志を持つ、一子クリン・カシムにより強奪され、クリンは地球人でありながら、デロイア解放軍の最先方である「太陽の牙」に入り、デロイア独立のために戦いの日々に身を投じるのである。

 独立軍はさまざまな作戦を展開し、地の利やデロイア人民の協力をあわせ、次第に連邦軍を追い詰めていく。連邦政府のやり方をよしとしない軍人たちの反乱も手伝い、デロイア人民解放軍は、ついにドガ市を武力占拠し、サマリン博士を首班とする人民解放政府の樹立を宣言する。余勢をかった解放軍は、連邦軍の輸送や武力の要所たる北極ポートの制圧に乗り出そうとする。だが折も折、連邦軍を指導している立場にあったドナン・カシムが病床に伏してしまう。これによりドナン・カシムの懐刀であったラコックとフォンシュタインとの間に亀裂が生じる。デロイア州自治軍である自分の軍のみで解放軍の制圧を試みるフォンシュタインは、ラコックの虚言を理由に移動中のヘリコプターごと暗殺される。ここからラコックの独壇場となる。戦闘を指揮する傍ら、解放軍の和平派であるカルメルと密かに連絡をとりあい、解放軍を内部分裂させるよう企む。その思いは成就され、サマリン博士は拘束された上で、カルメルはラコックと和平交渉に入ることになる。そのため解放軍は強制的に武装解除を余儀なくされる。だがサマリンは見抜いていたのだ。形ばかりの和平交渉などなんの役にも立たず、武力により地球連邦と肩をならべるところまでいって、はじめて交渉に価値がでることを。だが武装解除に応じない太陽の牙を救うため、サマリンは負傷しながらもカルメルに要請し、連邦軍との最後の武力衝突は避けられた。その中でサマリンは死んでしまう。彼が最後に残した言葉が「太陽の牙」たち若者の胸を打つ。そしてすべての暗躍の首謀者であり、私利私欲でデロイアを食い尽くそうとしていたラコックは、飼い犬であったデスタンの凶弾に倒れてしまう。そしてここに、デロイアの独立は成立したのである。

 この長い闘争と政治の歴史を、劇場版として80分にまとめたものが、「ドキュメント太陽の牙ダグラム」という作品である。一部の作り直しを含め、映像にざらついたり白黒にする加工を施し、これによりこの映像が、さもドキュメンタリー映像であるように表現、同時に戦闘の多くを大胆にカットし、デロイア独立戦争の歴史がわかるように編集された作品である。上記のあらすじにもかかなかったが、クリンと幼なじみであるデイジーとの悲恋についても、さらっと数シーンで終わってしまっている。それはこの映画が独立戦争のドキュメンタリー映像であることの証でもある。この映画の多くの価値は、わかりにくく複雑なデロイア独立戦争を、わかりやすく視聴者に理解させるための再構成であり、同時にこれから本編である「太陽の牙ダグラム」を観る人に向けてのガイド的な役割を果たしている。だから75話もある長い物語の導入として最適であるのみならず、デロイア独立戦争のアウトラインを知るには手っ取り早い作品である。

 だがこの短縮版が、ロボットアニメとして機能しているかどうかは、意見が分かれるところであろう。事実、ダグラムの活躍シーンは少なく、人気であった他のコンバットアーマーの活躍すら少なく、もっと言えば戦闘シーンが極端に少ないのである。これはもうダグラムという物語や登場キャラクターをある程度知っていなければ、到底理解できる物ではない。その意味においては、テレビ版ダグラムを途中で放り投げた人が、再度視聴するための準備運動として観るのが妥当である。むしろ本作だけで「太陽の牙ダグラム」という物語の魅力をあますことなく伝えているとはいいづらく、つぎはぎ映画としても、ガンダムのような感動は味わいにくい構造になっている。それでもダグラムという物語における政治闘争の部分については、十分に理解できる構成であるから、簡単にダグラムの物語を知るには手っ取り早いだろう。

 それにしても、本作がいくら政治闘争のドキュメンタリー映像としての体裁を目指しているからといって、この戦闘シーンの少なさは尋常ではない。しかもクリンたち太陽の牙たちの台詞も極めて少ない。印象的な最終回でのクリンの叫びは残されているが、主人公とは思えないほどの台詞量である。その一方で、政治に関わる人物、サマリンやラコック、ドナン・カシムやフォンシュタインなどの台詞量は圧倒的である。しかもそれぞれが敵対する相手との台詞のやりとりは、極上のサスペンス調で仕上がっており、ドラマ的に非常に見応えのある台詞を言わせている。特に序盤のサマリンとドナン・カシムとの会話や、終盤ごろのラコックとフォンシュタインのやりとりなど、かなり緊迫感に満ちており、現在これほどの密度の濃い演技や演出は、なかなか観られないのではなかろうかという程のシーンが観られる。
 そこにあるのはまさに政治という悪業に繋がれた人々のあがく姿ではある。そして政治のための武器としての軍事力の姿がはっきりと見える。国家の独立闘争という背景だからこそ、戦争がロボットを含んでいてもリアルに見えるのだろうと思う。だがこの映画を観るかぎり、戦闘シーンの多くがカットされた事実を顧みるに、そこに戦争や闘争の事実があれば、その勝ち負けで政治が動いてしまうというおかしな事情にたどり着く。そうクリンたちが75話もかけて戦った事実は、彼らの記憶なだけであって、政治的にはなんら意味を持たないのかもしれない。戦っている戦士にとって、ロボットが戦っている描写は必要でも、政治を行っているものにとって、ロボットも戦闘行為も必要なく、あるのは戦闘の結果だけである事実を突きつけている。

 だがそうした闘争の背景に、多くの人の血が流れ、名も知らぬ兵士の活躍があることは、まさにこの映画の形態こそが教えてくれている。そこにはデイジーとクリンの恋バナもいらないのである。政治すらちゃんちゃらおかしいとでも言わんばかりに、直接血を流した人々の物語が、こうした政治の背景にあることを見せてくれている。本作を観ていると、ふとそんなシビアなことを考えてしまう。9.11以降の現在でも、それを対岸の火事だと思っている日本人には、頭のどこかで理解していなくちゃいけないことだと、言われている気がした。

 本作が公開されたのは1983年7月9日である。その日、私は友人と一緒に初日の初回の上映を観るために、新宿松竹に並んだのである。その時にもらった原画のコピーはすでに紛失しているのだが、なんともつまらない絵であったことだけは記憶している。
 また初日の公開であったから、同時上映の「ザブングルグラフィティ」の監督である富野由悠希監督と本作の高橋良輔監督の顔を拝むことができた。そして「聖戦士ダンバイン」の主題歌をMIO(現MIQ)が生で歌うところに立ち会ったのである。アニメ関係の数少ないイベントの思い出である。このとき富野監督は、司会のお姉さんに、「どうしてザブングルを作ったのか」と聞かれ、「会社の命令です」と答えてお姉ちゃんを黙らそうとしていた。ああ、こういうおっさんなんだなとうことを、肌身で感じた瞬間でもある。

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