ハウルの動く城~逆算で細田版を夢想してみる~

 ジブリ作品「ハウルの動く城」は、2004年に公開された作品であり、宮崎駿監督作品としては「魔女の宅急便」以来15年ぶりの原作付き作品だ。原作である「魔法使いハウルと火の悪魔」はダイアナ・ウィン・ジョーンズによって書かれた児童文学である。この作品も前作「千と千尋の神隠し」同様に海外で高く評価された作品である。

 魔法と科学力(軍事力)が共存している世界。その国では機械で戦争をしながらも、国に育てられた魔法使いが軍事と平行して国防を担う存在である。もうじき戦争が始まるかという近代ヨーロッパの風景の中、今は亡き父親から譲り受けた帽子屋を営む少女ソフィー。彼女はふとしたことから町中で魔法使いハウルと出会う。ハウルは美青年でありながら、出会うと心臓を盗まれると噂される魔法使いであったが、ソフィーは彼に優しくされて、一目惚れしてしまう。だがそのソフィーの思いを、彼の心臓を付け狙う荒地の魔女につけ込まれ、ソフィーは90歳の老婆に姿を変えられてしまう。
 最初は慌てふためくソフィーであったが、すぐに気持ちを落ち着かせ、帽子屋から出て行くことを決める。そして荒地に向かい、荒地の魔女に自分にかけられた呪いを解いてもらうために旅だった。その道程で彼女は一時の借宿としてハウルの動く城に転がり込む。そこでソフィーは火の魔族カルシファーやハウルの弟子マルクルを手なずけ、まんまと城の家政婦として住み着いてしまう。だが掃除が行き過ぎたせいで、ハウルはその美しい髪の色を失い、それをきっかけに、ハウルの代わりに国王のもとへ戦争参加を断りにいくことになるソフィーであった。そう荒地の魔女から付け狙われるだけでなく、ハウルは各国に偽名を使って住み着き、それでいて国からの参戦を断り続けていた。だがそれとは別に、各国から追われる身であるハウルは、自分の生活を守るために、その身を犠牲に戦い続けてもいたのである。
 国王のもとを訪れて直談判するソフィーであるが、国での役目は重い。その使命はソフィーではどうすることもできず、ハウルの師匠であり国の魔法使いであるサリマンに狙われることになる。そんな命がけの行動を共にしたハウルとソフィーの間には、いつしか不思議な気持ちがわき出ていた。
 ある日、突然引っ越しをしようと言い出すハウル。それはそれまでの城の出口を放棄するだけでなく、ソフィーの生活を守ろうとするハウルの思いやりであった。だが戦争が二人を引き裂いていく。敵や味方もない戦いを続けていくハウルは、どこまでもソフィーやマルクル、カルシファーたちを助けるために、空爆される街から彼女たちを助けようと戦いにおもむく。初めその争いの場から逃げ出さざるを得なかったソフィーは、いつしか大好きなハウルを助けたいと願い、城を動かそうとする。だが老いさばらえた荒地の魔女の強欲さが、城を動かしていたカルシファーを取り上げ、それを阻止しようとしたソフィーは水をかけてカルシファーの火が風前の灯火となってしまう。なんとか小さな火の力で城を復活させようとするが、城はどんどん崩れていく。崩れゆく城の一部と一緒に谷に落ちたソフィーは、城の扉の力で、少年時代の寂しげなハウルに出会う。そしてハウルがカルシファーにかけた呪いや、ハウル自身にかけていた呪いの正体を、ソフィーは知ることになる。呪いの効力を消すことで、ハウルの命を助けたソフィーは、空を飛ぶハウルの城でハウルと二人、しあわせそうに微笑んでいた。

 本作はプロデューサー鈴木敏夫氏がインタビューで語って曰く、「1時間半立っても物語が始まらない話」だとされている。実際宮崎監督自身がこの物語を、起承転結のスタイルでは作らないつもりだったらしい。たとえば戦争している国の側にしてみれば、本来国のために働くはずの魔法使いが、自分の身勝手さやモラトリアム故に出奔した話でしかない。実際にこの物語としてなにがどうなったわけでもないのであるが、それ以上にソフィーの目線で語られ、劇中へと切り取られた世界は、戦争をしながらも、山々は美しさをさらけだし、湖の水は青く、草花は小さな花を咲かせる美しい世界として、驚きに満ちた世界として描かれている。それはソフィー自身が、閉じた世界に埋没してしまうことを、故意に選んだ人間として描かれているためであり、そこから一歩でも外に出た世界が、どれだけ美しいかをこれでもかと描いている。そして帽子屋を継ぐ以外のことに興味すら持てなかったソフィーは、やがてハウルと恋をして結ばれるという劇的な物語が待ち受けているのである。そうした日常の中にあるはずの興奮や感動は、ソフィーの90歳に変えられてしまった表情が、若くかわいらしい表情に戻る演出で描かれる。

 そんな90歳のソフィーを見ていると思うのだ。人間だれしも自分の思うような年齢と体のバランスは、整えられていないものだと。私も子供の頃から早く大人になりたかった。いや早く老成したかったのだ。早く自分の精神年齢に、体が追いついて欲しいと願いながら、他人よりも大人げに見える容姿に悩んだり、そうした容姿になじまない学生生活を余儀なくされていた気がしていた。だからソフィーの思いがわかる気がする。その年齢(設定によれば18歳)で店を切り盛りし、父親の財産である帽子屋を継ぎ、奔放な母親にあきれ、年齢相応の若々しい妹をうらやむという彼女の気持ちが、なんだか不思議に自分にフィットしたのである。ただしそのこと自体は、本作のなかで否定されるべき物であり、そんなふうに気持ちが老いてしまうことを否定してしまう。だがソフィーは老いた体においついた自分の生きる知恵も、生活力もなげうって、ハウルに尽くすのである。そうした自分の鬱屈した思いをはらすように、自分のありったけでハウルに近づこうとするけなげさを見せるのである。その気持ちがソフィーに若さを取り戻させる。時折中年の女性に見えたり、急に若返って見せたり、年老いて見えたりするのは、まさにソフィーの気持ちの揺れや若々しさに比例しているのである。はたして荒地の魔女がかけた呪いの正体がなんだったのか、いまさら判別できないのだが、それはむしろ自分に問い直すことで失った時間を取り戻す事ができるという「願い」のようなものだったのかもしれない。

 一方のハウルにとっては、そんな老女の姿のソフィーがどう見えていたのかと言えば、はじめっから18歳の少女のままだったのだろう。だが彼自身は世界に臆病になってる若者の姿そのままであり、モラトリアムな青年期の悩みを抱えたやわらかな心を持つ大学生のような雰囲気だ。だがその彼の自覚を促すための物語として、避けられない戦争との関連づけが彼を襲うのである。宮崎監督は戦争が今の若者へ伝えられることが、「空襲」の経験という側面のみがピックアップされていることについて疑念を抱いているらしい。この話の出典元は切通理作氏の著作である。その指摘は同時に「戦争」が「社会」とは切り離された被害者としての体験の側面で語られている事への危惧だろうと思う。戦争とは被害者だけがいるのではなく、それ相応の社会情勢などの事情が存在する。そうした戦争の背景にある社会は、私たちの暮らす世界と同一平面上にあるのだが、空襲の体験談や「火垂るの墓」だけでは、情報が悲しみにまつわる一方的な負の情報となってしまい、社会に繋がれている私たちが思考する場にはなりにくい。ハウルの立場もまさにそうした戦争や社会から逃げ続け、しかもその議論を問い詰めようとしない脆弱な若者の姿なのだ。だがソフィーは「ハウルは弱いままでいい」と、その関連づけを否定する。それは一種社会に繋がれようと試みた若者が、まさしく親の庇護下から出なくても良いと言われているように見えるし、そんなハウルががつがつしなくても生きられる「草食系男子」にも見えてくる。けどハウル自身は自分にかけた呪いにより、自分を取り戻すことになる。そうした喪失感を抱えた青年であり、その喪失感を埋めるように生き、戦争から逃げてみせるハウルの姿は、まるでベトナム戦争からの帰還兵がうなだれながら暮らしている姿にもダブって見える。こうなると「ハウル」という青年が、行き場を失った青年に見えてくるし、どこに向かおうとしているのかが判別つかない気がして、ソフィーのがんばりだけが異常に浮きだって見えてしまうのである。その上、ハウルの迷いと堂々巡りはそのまま物語の行く先を見失ってしまうかのように見えるのだ。

 だが物語はやさしく「それでいい」と諭すように物語を転がし始める。ソフィーが巡り巡ってハウルの子供時代に逆行し、そこで呪いの正体を知ることで、物語が終幕するように仕掛けられていたのである。物語はあっけなくおわり、そこに残ったのはしあわせな感じを残したような笑顔のソフィーとやさしく彼女を取り囲むキャラクターたちで終わる。キャラクターが時代を映す鏡であるのなら、ソフィーはまさしく若さを失いつつある自分の写し身であるし、ハウルはかつて行き場を失いかけた自分を見ているようだ。それはソフィーが自分らしくある自分を取り戻す過程で、自分の恥部を見せつけられているような気にさせる映画であった。そしてこの物語は続く。まさしく自分の人生がまだ途上であるかのように。

 さて本作が東映動画より出向した細田守氏が監督するはずだった作品であることは、周知の通りである。細かい話はいろいろあるようだし、ジブリ側の扱いの悪さやフォローの無さ加減にあきれもするが、ジブリという会社自体が宮崎駿監督作品を作るために機能している会社だとすれば、そうした措置に納得せざるを得ない。だがここで細田版「ハウルの動く城」がどういう物であったかを、夢想してみたい。なんで本ブログではまったく人気のないジブリ作品を、あえて題材に選んで書こうとしたのかは、あくまでもこの予想がしたいがためである。だがそれはどう考えても自身の監督作品「時をかける少女」や「おジャ魔女どれみ」で扱った作品群に材を求めるしかない。

 氏が「時をかける少女」で求めた揺らぐ青年期の葛藤にスポットを当てた作りや、長寿生命体としての魔女の時間との向き合いかたを描いた「おジャ魔女どれみ」を考えると、本作に見られるソフィーの年齢の変化に基づく表情のバラエティなどは、作画や演出されない可能性が高い。また「時」の重さを強調した作りを考えれば、本作終盤に唐突に登場したハウルの子供の頃の風景や、オチとして機能したハウル自身にかけられた呪いなどのシークエンスは、本編中で何度も登場するシーンとして考えられていた可能性がある。原作にはない戦争に関する切迫感や、それにより自立しようするハウルの姿も、宮崎監督の演出によるものであるが、こうしたものも原作通りに演出されるかもしれない。監督が違えば同じ脚本でも全く異なる作品になるのだから、細田版が本作とかぶる可能性のない作品を作ることはだれしも予想がつくだろう。本編がソフィーとハウルが交錯する恋愛模様を描いている振りをして、実はソフィーもハウルも、互いの存在を通じて世界とのつきあい方に変化が生じた物語になっているのだが、細田氏の演出は、むしろダイレクトにソフィーとハウルの恋物語になることが予想される。それはやはり成就できなかった「時かけ」の真琴の恋の成就がならなかったことが、これへの意趣返しというイメージを持つし、原作通りに魔法対決でラストを飾るなら、決闘の結果で魔法が解けるという「紅の豚」同様の終幕を予想させる。

 これらの予想は、「ハウル」を演出できなかった細田監督が、その後の監督作品から逆算しただけであるから、これはあくまでも私自身の個人的な予測である。だがこうした「ハウル」の経験の一端が、さまざまな作品に加工されて生きているのであれば、細田氏の「ハウル」でのつらかった経験が、あながち無駄だったとは思えない。実にいまだ「サマーウォーズ」を未見のまま年を越そうとしている私であるが、細田氏の今後の活躍が期待できると信じている一人ではある。それを宮崎駿監督作品として出来上がった「ハウルの動く城」から逆算で予想することで、本作よりもわかりやすい「ハウル」を作り出していた可能性がある。だから細田監督を支持する気持ちが芽生えたのは、この年の瀬に得難い経験であった。(っつか、もう宮崎作品は取り上げないけどね)

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木村拓哉 道程 キムタク

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