機動警察パトレイバーThe Movie~帆場映一の犯罪動機~

 劇場用映画「機動警察パトレイバーThe Movie」は1989年7月に公開されたアニメーション映画である。今でこそ本作の監督である押井守監督は、「攻殻機動隊」および「イノセンス」「スカイクロラ」などで世界に名だたるアニメーション監督となったが、その礎となった「パトレイバー」シリーズも忘れがたい。本作に先行して制作されたOVAシリーズに、ほぼタイミングを合わせて週刊少年サンデー誌に掲載されたゆうきまさみ氏による漫画版がある。オリジナルビデオとしても極めて安価で販売された作品で、OVAの歴史の中でも、販売元のバンダイビジュアルの販売戦略とあわせて忘れがたいシリーズである。またメディアミックス展開の先駆けとしても記憶しておきたい作品である。本作の映画の後、日本テレビ系列にてテレビ版が放映され、このテレビ版のソフト販売にあわせてさらにおまけのOVAがつくという展開も目新しかった。そしてそれらのソフト展開が終了した時点で劇場用映画「パトレイバー2」の公開となり、これにより長きにわたるパトレイバーのシリーズ展開は、一応のピリオドを見る(漫画の連載はさらに続いていたと記憶している)。そうした商品展開の中で、本作の占める位置を考えれば、初期OVA(「アーリーデイズ」と呼称)により開拓したファンをさらに拡大させた作品だと言える。そうするために、押井監督は実に当時の最先端技術の危険性に、着目した作品を作り上げたのである。

 いまさら説明するまでもない物語であるからはっきりと端折るが、本作の物語は、篠原重工で開発された新開発のレイバーOS「ハイパーオペレーティングシステム(通称「HOS」)」に仕掛けられたコンピューターウイルスにより、東京近郊のレイバーが謎の暴走を起こし始めるところから始まる。それにより危機感を覚えた第2小隊の遊馬が調査をすると、HOSに仕掛けられたウイルスとは、都市部の超高層ビル群などを通り抜ける風で発生する超低周波をトリガーにして、レイバーを暴走させるシステムであることが判明する。特車2課の面々は、東京に接近する台風の中、東京湾上に設置されているレイバーのメンテナンスエリアである通称「方舟」の取り壊し作業を開始する。その方舟こそが、低周波の発生する最大のトリガーだったからだ。だがHOSに接触したコンピューターはすべて暴走を開始する。特車2課の面々が作業を開始する中、暴走レイバーが彼らを襲い始める。果たして東京中のレイバーの大暴走は未然に防げるのか?

 この映画が非常に面白い作品であることは認めるのにやぶさかではない。本来の主人公である「野明」ではなく、事件の真相に迫るため奮闘努力するその相方・篠原遊馬をメインに据え、さらにそれを煽る裏方の後藤隊長にも大きくスポットを当てた作りは、先行して製作されたOVAシリーズの、まるで「うる星やつら」を彷彿とさせるがちゃがちゃした雰囲気とは異なる、サスペンス調のトーンでまとめられている。なおかつ当時まだそれほど普及していなかったコンピューターによる犯罪、それも近未来にコンピューターが普及することを想定し、それがネットワークではなくスタンドアローンの状態であっても、それを使用したコンピューターが一斉に暴走するという犯罪を仮定するという先見性を見せる。そうした近未来的SFとしても、そして序盤の自衛隊の戦闘シーンや終盤の方舟での戦闘シーンなど、ロボットものとしての出来も必要以上の出来であったから、2日目の視聴以降で本当に楽しめる作品である。だがむしろ1度程度の視聴では、難解な作品であるのも、一面の事実であろう。ぜひ2回目以降の視聴で、咀嚼して楽しんで欲しい作品である。

 さて本作で私が突っ込みたいのは、この犯罪が「HOS」というシステムの中に隠されたウイルスの存在故に、状況証拠でのみ成立している犯罪である点だ。そう、この犯罪に関しては、動機がまったく不明なのである。
 この犯罪の犯人となる帆場映一というキャラクターは、物語の冒頭で方舟から投身自殺しているのである。自殺する間際に手から飛びだたせたカラスの足には、すでにナンバー証がつけられているから、終盤への伏線となっているシーンでもあるが、ここに陰影深い表情を見せ、笑うような顔で帆場は自ら命を絶っているのである。つまり犯罪を立証し、立件したところで犯人を逮捕することができない犯罪であることは、明白なのだ。だが夕焼けにそまる不気味な町並みを見下ろしながら、帆場は自分の仕事に満足し、失敗など微塵も疑いもせずに死んでいったのである。だがその動機はまったく不明だ。
 劇中、後藤さんのお友達の刑事である松井刑事が、帆場が短期間のうちに25回も転居したという東京中の転居先を訪問して回る姿が、事件解明の進行の間に挿入される。だがそこから得られる情報は何もない。ため息をつきながら、松井刑事たちはただひたすら忘れ去られた東京の姿を追う羽目になる。そこにあるのは新しい姿に移りゆく東京という街に忘れ去られた風景であり、ある意味でノスタルジーでしかない。うつろいやすい時間(とき)の風景が破壊され、瓦礫の山となり、やがて新しく再開発されるのである。だがそのノスタルジーが、帆場の犯罪動機を形成する理由でもない。序盤太田巡査が暴走する古い家屋の町並みや、帆場の犯罪を立証するために遊馬たちがこもるシゲさんの自宅の町並みもかなり古い。その背景にはほぼ必ず対比するように高層ビルが建ち並ぶ風景が目に入る。遊馬にとってはその風景こそがレイバー暴走のトリガーであることを発見する手がかりであっても、帆場にとってははたして犯罪動機になり得たのであろうか?

 本作の最大の欠点をあげつらうとすれば、謎解きのサスペンス調でスタートしながら、本作はロボットもののセオリー通りにロボットの格闘シーンや、方舟破壊のスペクタクルという2大要素で締めくくるという物語構造のために、帆場の犯罪動機という最大の謎を解かぬまま物語が終幕してしまう点である。しかもさもその動機を誘導するように見せかけた東京の古い街並みや、うつろいゆく風景は、帆場の犯罪を構成する要素として、なんら説明になっていないということだ。だってそうだろう。移り変わりゆく世界を破壊によって再誕するのであれば、自らおこなわなくてもいずれそうなるし、移ろいやすい時を止めるのであれば、なぜ破壊を誘引する暴走をさせる必要があるのか? 天才の行動は常人には理解できないという落としどころなら、私は物語構造以前にこの作品を好きになれないだろう。だからこそ、いまさらながら帆場の犯罪動機について知りたいと思うのである。

 帆場はMITで学んだ経験があるほどの有能な人間であるが、仲間内から「エホバ」と呼ばれたり、そのあだ名が「ヤーベ」あるいは「ヤハウェ」の偽の読み方であるということに驚喜したというエピソードが劇中で明かされている。そして聖書の記述を用いたメッセージを残す特徴をもつ。これこそが彼のメッセージだと言わんばかりだ。そしてHOSのオリジナルに侵入しようと遊馬がアクセスしたときに、引っかかってエラーメッセージができるとき、「BABEL」との表記がモニターを覆い尽くすのである。これらから想像できることを並べてみる。

・「BABEL」が触れてはならないものだとしたら、アラートの意味が理解できる。
・「BABEL」は人間の思い上がりの象徴である。だから破壊する。
・このとき破壊されたのは、同じ言語を話した人間同士のコミュニケーションだった。
・それはまさにレイバーの操縦するためのコミュニケーションとしての言語を破壊する暴走そのもの

 そしてこれらから想像できることは、帆場は「神」になりたかったのだろう。しかも彼の転居先には必ず鳥かごがあり、最後に自分のタグを託したのも鳥である。BSアニメ夜話で本作が取り上げられたとき、出渕裕氏の発言から、「帆場が死んでいるかどうかは、劇中表現していない」とされている一方で、「帆場はあの時点ですでに死んでいた」とする予定があったという話を聞いた。しかもこれ見よがしに投身自殺した帆場の姿は、鳥になれず、飛べない我が身を呪いながら、神になるために投身したのではないかと思わせる。
 帆場は神になりたかったのか。そのために選んだ手段は、神のようにふるまえるためのアイテムを手に入れること。それがコンピューター言語だとして、コンピューターウイルスは言語同士の相互誤解を助けるためのアイテムとして選んだのではないか。彼はもしかしたら、コンピューターの世界、攻殻機動隊で言うところのネットの世界に行きたかったのかも知れない。そうなれば攻殻機動隊とパトレイバーの世界が、急に地続きに思えてくる。それはまさか押井守監督の願いなのか?

 けれど物語はそれを否定するのである。遊馬たち第二小隊の面々の活躍で、関東近縁のレイバーの大暴走は未然に防がれた。バトルのラストでは、暴走する零式の背後で、野明の発砲により暴走が抑制される結果となる。それはどのような言語でも、機械でも、人間の管理下において、制御することが肝要であるということが示唆されて終わるのである。コンピューター世界の言語による破壊は、現実の物理的破壊を超えられないのである。それにくらべると、「ネットは広大だわ」という素子の言葉で締めくくられた「攻殻機動隊」では、コンピューター世界を肯定しているのである。それはまさに世界情勢としてのネット環境の繁栄があってこその話なのであり、パトレイバーを製作している時点では、まだSF的未来の話だったことが伺えるエピソードだろう。

 だが依然として帆場の転居先の映像と帆場の犯罪動機とはリンクしない。帆場の犯罪動機からこの部分が補完できれば最高だったのだが、そうはいかなかった。少なくても、私の疑問に答えてくれるHPやサイトはなかったのだ。もしこの部分を補完できるお考えをお持ちの方がいれば、どうか教えていただきたいと願うばかりである。

追記
 ネトラジ(あるいはポッドキャスト配信)で、そこそこアニメを語るラジオ「そこ☆あに」という番組があります。実は今週末の更新では、本作とその続編「機動警察パトレイバー1&2」についてのお話です。私も本作に関して投稿をしております。もし興味がおありの方は、以下のアドレスで聞くことができますので、ぜひお楽しみ下さい。

http://www.voiceblog.jp/himawarigumi/

追記(2011.05.18)
切通理作氏の著作「怪獣使いと少年」にこんな一節がある。

「彼はここで口をつぐんでしまうが、おそらく、それに続く言葉はきっと「僕と同じなんだ」だろう。だから彼は犯人の動機を実はわかっている。だがそれは彼自身にも説明することができない。」(「怪獣使いと少年」宝島社1993より)

 「怪奇大作戦」の16話「かまいたち」において、SRIの牧(演 岸田森)が真空切断装置によって引き起こした犯人をを推察する際、確証のないことを話すシーンがある。この物語において、結局殺人動機は描かれないまま物語は幕を引く。上原脚本には、こうした突き放した脚本が特徴的であると切通氏は述べている。上原正三にとっては、その動機はいまさら語るべくもない、あたりまえのことなのだろう。だから語らない。
 映画「パトレイバー1」における帆場の動機も、押井監督にはあたりまえのことなのかもしれない。とどめておきたいのに移ろいゆく街並み、人間には理解しつらいコンピューター言語を操って、帆場はとどめられない時の流れを破壊したかった。それは本作を監督した当時の押井監督にとって、いまさら言葉にするまでもない想いだったのではないだろうか?

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No title

ご無沙汰しております。

なにやらトップページが凄いことになっていて驚きました。
本当に大変だったろうと思います。お疲れ様でした。

そこで、トップページから作品一覧をぼーっと眺めてたらこの記事に気づきまして。
実際この作品を見たのも遥か昔なのですが、ある感情だけが強烈に残っていて
それだけを頼りに、無謀なコメントを試みる所存でございます。

私、恥ずかしながら帆場にすごく同意した記憶があるんですよ。
そして、この源を辿ると、子供っぽさだと思ったわけです。
自分が知っている懐かしいモノに永遠にそのままであってほしい。
というのは子供にとって強烈な感情ではないでしょうか。
私は子供時代もろにそれがありまして、変化が嫌いでした。
「経年変化」というものが悲しくて仕方がなかったんです。

しかし、現実そうであることはなく、歌は世につれ世は歌につれ。
流れ流れて「今」があるわけでして。
どんなモノでも、イキモノでも一瞬を冷凍保存することなんて無理なんです。

しかし、一個だけ冷凍保存ができる分野があります。それはデジタルデータの世界。
ここだけは、経年変化がありません。
自分が創り上げた宝物は、10年経っても20年経ってもそのままです。

で、帆場は勘違いしたのかなと。
デジタルデータを利用する能力によって、その世界では「神」ともおぼしき能力を持った自分
なのに現実はどうか、自分の能力では「現実」を破壊することはできても
大好きだった過去を復活させることはおろか、守ることさえ出来ません。

神になったはずの自分が、自分のオモチャが経年変化するのを止められない。
ならば、「壊してしまえ」となるわけです。せめて、自分の手で。


  誰かにとられる くらいなら あなたを殺していいですか(天城越え)


そして彼は死にます。壊れゆく様も、失敗する可能性も、実はどちらも見たくないから。

で、その後に関して、記憶があやふやなんですけど
帆場が止められることを予期していた、
あるいは望んでいたような描写があったような、なかったような。

あやふやな記憶での長文コメント、失礼いたしました。

また見返すことがあれば、もう一度考えてみますー。ではではー。

No title

がたがたさん
 いろいろとお忙しそうで。私も身内にいろいろありまして、更新が滞っております。ま、お互いゆっくりやりましょ。

 さて、久しぶりにいただいたコメントに、目頭が熱くなりまして。

 たとえば「歌」にしても、アニメや特撮のような「フィルム」にしても、私が愛着を抱くものは、おおむね「時」を固定したいものだったかもしれません。「本」も同様です。

 本作に登場した「帆場」という男を、私やがたがたさんの延長線上として理解することは、切ないほどに正鵠を射ているような気がします。私がこうしたブログを書いているのも、どんなひどい作品でも、その記憶をどこかにとどめておきたいという本能のような気がしてなりません。

 ここからが肝なのですが、「保持できなければ壊してしまえ」という発想が、私には働かない。またタイムレコードとして情報を保持するデジタル世界に埋没しながら、犯罪を発想する「帆場」という男の思考には、われわれが到達しえない「想い」や「願い」があったと思うんです。それがどうにもできない「絶望」に変わったときに、その思考が「達観」しちゃったように思えます。それが帆場にとって「神になりたかった」ことではなかろうか?と考えました。

 本文を書いた時には、かなり客観的に「帆場」を想像したつもりだったのですが、今にして思えば自分の延長だったとは。泣けるわけだw。がたがたさんの指摘には、毎度うなずかされます。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

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