空の境界第5章 矛盾螺旋~結界と境界~

 承前

 「空の境界」という作品を追い続けて2ヶ月ほどたつのだが、ちょっと乗り切れていない自分を感じている。それどころか興味半分に手を出してはみたものの、そのやっかいさにあきれるほどだ。それはなぜか? 見れば見るほど「空の境界」という作品が、伝えようとしている何かを押し隠すかのように韜晦した作品に思えるからだ。そう言えば格好がつくかもしれない。本作をお好きな方には申し訳ないが、私には本作の作者が何を描こうとしているのかがまったく得られないし、その内容に整合性をつけて解釈しようと試みても、どこかに不整合が生じてしまうのだ。

 かねてより「魔術師」や「直死の魔眼」「二重人格者」などの、本作を彩るための重要なタームが登場するのであるが、このタームを活用しかねている印象を受けている。もっとも端的に示す事例として、「二重人格者」を取り上げてみる。「式」と「識」。この二つの人格が、互いを存在を補完するために「式」という体内に精神として存在していた事実は、前提であるから認めることにする。だが一時は意識不明となり再度目覚めた時に、「識」の存在が消えていながら、その存在を補完するために、「式」は「識」のような口調をまねているという設定になっている。「直死の魔眼」を使用する都合、そして物語進行上、「式」には敵を倒したりする必要性のため「式」の存在を残しているが、それが「式」か「識」のどちらかである、あるいは融合していると断定する根拠がないのである。この場合、「二重人格者」である式自身の発言は、まったく根拠にならないことはご理解いただけるだろう。それを信じる黒桐がいくら未熟者であっても、「式」を絶対信頼する理由が彼女への「愛」だとしても、それはいかにも盲目的すぎるのである。そしてまた黒桐の式への接し方は、そんな盲目的な愛を表現するに足るものではなく、どこか冷たいのである。式自身の人格と黒桐の対応。この2点だけでも十分すぎるほどの設定上の矛盾を抱えている。今後の物語は、はたしてこの疑問に答えてくれるのだろうか?

 さて第5章「矛盾螺旋」は、1998年10月を時代背景としている。ある日両親を刺殺したという少年・巴という名の少年は式と出会う。意気投合したわけでもなさそうな二人ではあるが、巴は式の部屋を出入りし、式はそれを気にしない。それどころか巴との会話を楽しんですらいたのである。式は橙子より依頼を受けており、巴が生活していたという小川マンションに捜査におもむいていた。だがそこはあまりにも奇怪なマンションであった。そして式は巴に、小川マンションの実態を説明する。そこは何者かが作った1つの世界であり、そこに住む人間はすべて自分たちが死ぬまでの1日を繰り返す、奇妙なマンションだったのだ。そして荒耶宗蓮こそが、この小川マンションの仕掛けを作り上げた人物であり、マンションは宗蓮が欲した式を取り込むための罠だったのだ。まんまとマンションに取り込まれてしまう式。だがそこから逃げ出した巴は、自動車教習所からもどった黒桐とともに、ふたたびマンションに向かい、式を奪回しようとする。はたして式をとりもどせるのか?

 サイドストーリーとして橙子と宗蓮、そしてコルネリウス・アルパとの確執が登場し、橙子の魔女っぷりがおがめるのも、本作の見所の一つである。ネタバレを承知で書くが、中盤戦での橙子が人形であり、その人形の死こそ本体登場のためのスイッチとなっている展開には恐れ入った。また荒耶宗蓮自身も機械と融合しているように見える様子も、あれが本体ではない可能性を見せており、魔法使いとはまことに懐の深い生き物であることが再認識できる。終盤の式奪回のために、黒桐と巴がマンションに乗り込むのだが、黒桐の役にたたなさっぷりにはあきれるばかりだ。だが彼こそが私たちの住む世界へのインターフェイスであると思っているので、黒桐君は大事にしていただきたい。

 この物語、舞台となる「小川マンション」と巴という少年の関係が、今回の最大の矛盾点である。
 荒耶宗蓮はこの小川マンションを選んで箱庭とした。それは一つの結界と言っている。荒耶本人は戦いの場では常に複数の結界をはり、敵に対峙する戦闘スタイルである。ここでより重要なことは、その結界は物体に支配されている3次元において発揮されていることだ。彼の円陣をよくみてほしい。壁に円陣が折れるように描かれている。ということは彼の結界は、3次元の世界にあるすべての物体に支配されていることになる。これは「小川マンション」という形の箱を用意し、そこに結界を張り巡らしていることに他ならない。
 結界とは私たちが普段目にしやすいものであれば、神社にあるしめ縄や鳥居などがわかりやすい。それも本来は通路の入り口にあり、そこから侵入するものを隔てる役割をもつ。例えば「鳥居」はまさに寺社仏閣への入り口であるから、そこ出入りする人物の正邪を区別して出入りを制限する役割をもっている。
 だが本作で用いられているキーとなる結界は、「ドア」である。まさしく鳥居同様に入り口と同義のように見えてしまうのであるが、そこに入るために「鍵」が必要である。ということは逆説的に「鍵」さえあれば出入りできるドアは、結界の意味をなさないのである。振り返って「式」がなぜドアに鍵をかけていなかったのかを考えれば、その意味がわかるだろう。ここまで意識して描いておきながら、なぜこんな矛盾をさらけだすのだろうか。

 また巴の存在もそうである。荒耶は式をおびきだすために、巴という存在に式を好きになる気持ちを与えておいて、小川マンションという結界の外に放り出すのである。だが本来の巴の役目は、小川マンション内で与えられた死を繰り返すだけの存在であり、外界とは接触を持たせてはいけない人形であるはずだ。それをしてなぜ小川マンションに引き寄せるために、巴を外に出したのか。結果論で申し上げれば、小川マンションに式を引き入れたが故に、その内側から容易に結界を破ってみせた式は、荒耶を倒してしまうのである。もし荒耶が式の手にかかって死ぬことが望みの人物であれば理由はわかるのであるが、小川マンションという実験場を手に入れて、その実験が失敗に終わったとてなぜ自己崩壊を選ぶのか。その理由を過去の償いや思い出に求めるにしても、巴を外に出した時点で荒耶宗蓮の負けは確定していたとしか思えないのである。

 しかも今回の章の物語運びは、意識的に時系列の順序を入れ替えていたり、細かい遊びの部分が多い。視聴時間の経過に従い、それがどうつながるのかという、まるでパズルのような構成になっていることには理解するのであるが、まったく同じ場面を2度3度繰り返すにいたり、バンクフィルムを使用している気にさせてしまう。それをして単なる時間稼ぎ程度に受け取られても、それは仕方のないことだ。この手法が決して見ている観客への理解を求める作りにはなっていないことだけは確かである。これが次第に物語の進行につれて、ほどけてくる螺旋状の物語であるとするならば、はっきりとものの見え方がことなるということを示す必要があるのだが、そこに意はくだかれていない。

 今回の重要なシークエンスとして荒耶宗蓮が式と会話するシーンがある。これはこれまでの式が遭遇した事件の数々が、彼一人の手により引き起こされて、それが式一人を手に入れるために行われてきた事実がわかるシーンである。そしてまた式自身には、それらの事件に関する自分への責めはない。彼女はそれほどまでに強く、そして自分が生きている証としての他人の死を欲して生きているということの証なのである。式という人物は、余人が思い入れをする隙のあるタイプのキャラクターではないから、主人公としての立ち位置が少しでも揺らげば、この物語は意図もたやすく崩壊するのであるが、周辺事情がこれほど矛盾をきたしておきながら、なお破綻せずにいられるのは、この強靱な式というキャラクターに寄っているからだろう。こうしたキャラクターに依存している物語構成そのものは、最近のラノベの構成そのものといっていい。だがそれすらここまでの物語では感じられなかったのは、式と黒桐や黒桐と橙子などの人間関係が描かれていたからだ。だが今回は黒桐がいないなかで物語が展開しようとした。この点で初めて式は黒桐と対等のキャラクターを勝ち得ていたのだと思えた。やっと式の中の「死と生」がキャラクターとして生きてきたような気がした。だからなのだ。式が巴と近しく感じ、親しげに話をする様は、式にとって巴は好ましい「死」を感じさせる存在だったからであり、見た目は黒桐よりも巴に親しげに接していたことを考えると、「人を殺した」という巴ではなく、「すでに死んでいる」巴の存在を好ましいと思っていた可能性がある。それほど式は「死」を身近に感じようとしているのである。

 かつてのアニメーションや空想科学世界の住人で、これほどまでに「死」に親しんだキャラクターがいただろうか? それは現実の地平とはかけ離れたキャラクターであることに違いはないが、同時に超えてみたいと思えるあこがれにも似た気持ちがよぎる。「式」という魅力的なキャラクターは、人や物の死が見える世界にいながら、この世界に何をみいだしたいのだろうか? 
 だが式を産み落とした原作者は、どうもその答えを用意するつもりがなさそうに思えてならない。先に指摘した矛盾ゆえである。

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