R.O.D.~スパイアクションの面白さと問題点~

 「007シリーズ」や「スパイ大作戦」など、海外のスパイアクションものは現在でも人気を博している。現在でも人気な「24」シリーズなどは、まさにこの系譜と刑事ドラマの系譜に属する。こうした大がかりなドラマを、テレビ放映できるアメリカのシステムには、エンターテインメントの王道を極めた国のやることだなと、素直に感じ入ってしまう。かえりみて我が国ではどうだろう? 刑事ドラマはいくつか存在するし、名探偵やどこぞの警察署の署長が現場をかえりみずに事件に首を突っ込んでいたりするのは日常的。しかも2時間ドラマの主流はいつでも殺人事件をときあかす、一癖も二癖もある人物に限られている。ところがスパイものとなると、まったくもってなりをひそめてしまう。日本映画を振り返っても、「陸軍中野学校」か「マルサの女」ぐらいだろうか?(古すぎるな)テレビでも「キーハンター」とかぐらいかも。要するに国を相手取ったスパイ合戦など、日本には無関係だし、スパイされることはあってもスパイすることはないという、平和ぼけした日本の姿を象徴するように、スパイアクションは日本という国に根付かなかったのである(JHQの戦後政策の可能性もあるけど)。だから日本のアクションは総じて「無国籍アクション」というジャンルに落ち着いたようで、石原裕次郎や宍戸錠、小林旭などはここからキャリアをスタートし、この手の作品で悪役を演じていた東野英次郎さんは、テレビ「水戸黄門」で好々爺を演じ、日本中の誰もが知る「時代劇スパイもの」を作り上げる。なるほど、諸外国を相手の陰謀劇はできなかったので、時代劇で「スパイアクション」やったというわけだ。この系譜は「大江戸捜査網」や「遠山の金さん」などにつらなり、反体制とむすびついて、「必殺シリーズ」を形成することになるわけだ。まあいずれにしても日本という風土には、「007」などのようなスパイアクションモノは根付かなかったことは、ご理解いただけるだろう(すまん、前置きが長すぎた)。

 今回取り上げる「R.O.D.」のOVA版は、事件の発端を日本としながら、世界を巻き込む大事件に発生するスパイアクションストーリーである。日本に根付かなくても、こうした作品を作ることはできるんだ、ということを教えてくれる。
 本作の主人公・読子・リードマンは神田神保町をねぐらにするビブリオマニア(読書好き)である。彼女は高校の非常勤講師を続けるかたわら、隙あらば日がな一日でも本を読みふけり、自宅は足の踏み場もないほどの本に囲まれて暮らす女性である。男物のメガネをかけ、長髪はぼさぼさ、身だしなみを整えることも得意ではない様子。だが彼女の真の姿は、「大英帝国図書館」の特殊工作部に所属するれっきとしたエージェントである。エージェントとしての能力は、あらゆる「紙」を自在に操る能力であり、それゆえ彼女のコードネームは「ザ・ペーパー」と呼ばれている。
 読子は神田で出会った本の争奪に巻き込まれる。その本は「稀覯本」であり、かのベートーベンが残した本であったことはその後判明する。だがその本を強奪しようとした人物は「偉人」と呼ばれるかっての著名人たちのクローンであった。読子は大英帝国図書館での上司・ジョーカーの指示に従い、同僚のドレイクと謎の女・ナンシー・幕張とともに、稀覯本に隠された謎を追い、インドに渡る。そこでも偉人たちと大英帝国エージェントの死闘が繰り広げられる。からくも偉人たちを撃退した読子たち。だがほっとしたのもつかの間、ナンシーの裏切りにより稀覯本は偉人たちのリーダー・一休の手に渡る。そして太平洋上に出現した巨大な偉人基地は徐々に移動し、ロケット発射の時をうかがっている。適地に潜入する読子とドレイクであったが、読子は一休に捕まり、ドレイクはなかなか前に進めない。徐々に近づきつつあるロケット発射と偉人たちの「人類淘汰作戦」。読子たちは作戦を阻止することができるのか?

 まず目を見張るのがOPのテーマである。作曲した岩崎琢氏は、最近では「天元突破グレンラガン」や「びんちょうタン」劇場版「るろうに剣心」の楽曲でも知られる作曲家である。本作ではスパイアクションモノの系譜に連なる新しくも怪しいスパイアクションのテーマを完成させている。いやもう恥ずかしいほど怪しげな曲であり、しかもOPの映像である白抜けした女性の裸身に絵筆で描かれたようなスタッフロールなまめかしさは、まさに「007」シリーズのOP映像に対するオマージュである。劇中ではショートヴァージョンしか流れないのであるが、それがもったいないと思うほどのかっこいい曲なので、ぜひ中古屋でもamazonでも購入していただき、そのロングヴァージョンを堪能して欲しい(実はアニメ「009ノ1」の楽曲も手がけており、こちらも名曲!)。

 さて物語の序盤で本の海に囲まれて、電話の音でベッドから起きる読子は、着の身着のままで起き上がり電話をとり、臨時講師の仕事を取り付けるのであるが、髪はぼさぼさ。なんともだらしない。そして金銭の身入りが決まれば、街に出て古書をあさりに出て行くのである。その様子がまったくもってかわいらしくもある。読子の声を演じている三浦理恵子のぼんやりとした声もあいまって、なんだか異常にかわいらしい。しかも衣服に隠れてはいるが、そうとうなグラマーなお人である。うれしそうに神田の古書街を練り歩く彼女であるが、ナンシーと接触しながら、あれよあれよという間に事件に巻き込まれていくのである。この導入部分にまったく動機付けもへったくれもない。単に1冊の本を巡る攻防なのである。いきなり日常から非日常に突き落とされる感覚である。

 ここで読子のもう一つの姿である「ザ・ペーパー」の能力が発現する。その力はあらゆる紙という紙を用いて、変幻自在に操ることができるという能力。序盤戦に登場するファーブルとの戦闘では、ファーブルが操る蜂の大群から身を守るために、たくさんの紙をドーム状につなげる。また本を持っているファーブルを逃すまいと、紙テープをファーブルの乗る巨大バッタの足にくくりつけて足止めをする。最後にはそのテープをはさみで切るかのようなアクションで切ると、その反動でバッタとファーブルが向かいのビルに突っ込んでいくというシーンがある。また複数枚の紙を繋げて巨大な紙飛行機で空を自由に飛び回る偉人と空中戦をしたり、最後の平賀源内との勝負では、札束の刀を用いるのである。しかも源内のエレキテル攻撃を受けきるために、紙で防御するのであるが、指先程度の大きさでもその防御能力は十分な働きを見せている。
 どうやら読子のこの能力は、彼女自身の精神が大きく左右しているようにみえる。つまり彼女のテンションが高いときは自分でも思った以上の能力が発揮できるのだが、テンションが下がっているときにはそうでもないようなのだ。これと似た武器を私たちは知っている。「コブラ」のサイコガンである。だがコブラがこの最強武器を抜くときには、彼自身のテンションがほぼMAXの時であるから、読子のような弱点にはならないだろう。そういう意味でも彼女のテンションを支配する周辺状況には、ドレイク以下常に気を配る必要があるだろう。つまりナンシーの存在と裏切りのドラマが、この物語に色を添えるのは、読子の感情のテンションと物語のテンションを同じにする効果があると言うことだ。設定とドラマが思いもかけずシンクロするドラマが、面白くないわけがないと思うのだが、いかがだろうか。

 「007シリーズ」と比較してみると、本作の良いところも悪いところも見えてくる。一番問題になるのは、本作の事件に関しては、主人公・読子に、事件に絡むための動機付けがかなり薄弱である点であろう。当初は稀覯本を奪回し、その本を読みたいがために作戦に参加する読子であるが、最終的な大事件である偉人たちの人類淘汰計画そのものに、読子は興味がないのである。最終段階では仲間の心配をし、特に裏切っていたはずのナンシーの正体と、彼女の行く末だけが興味の対象となる。その点では最後まで読子が戦い抜いた事情を理解はできても、彼女が偉人たちと戦い計画を阻止するために必要となる動機付けが曖昧なままになる。「007」だとジェームス・ボンドはよせばいいのに敵対する人間と直接面識を持ち、本人同士の丁々発止のやりとりが、ボンドの怒りと直結して見える。だからボンドの怒りは任務遂行のための動機にすり替えられるため、彼の行動がすべて英国と世界の平和のための戦いに見える仕組みになっている。本作では読子が敵のエージェントと戦うシーンはあっても、敵の大将と邂逅するシーンは非常に少ない。だから読子はナンシーとの友情を軸にする他、彼女が行動する動機がなかったのである。

 また読子の「紙」はジェームス・ボンドにとっての秘密兵器類に相当するのであるが、ボンドの持つ兵器類はあくまで工業製品的で強度に限界があるため、最終的なボンドの武器は自分の肉体となる。だから「007シリーズ」では、銃器を用いつつも最後はばかばかしいほどの殴り合いで対決が収束することが多い。一方の本作ではそうした武器も逆転の発想も、すべて「紙」であるから限定的である。にもかかわらずその「紙」にこめた読子のテンションこそが、対決の鍵を握っているといっても言い。テンションを根性に置き換えれば、そのドラマの成立がかなり日本的であることに納得してもらえると思うのである。

 「紙」の変幻自在っぷり、そしてナンシーの裏切りによる二転三転するストーリー、偉人たちの謎など、様々な要素を抱えながら、ある種読子の根性で乗り切ってしまうという根性論という日本独特のドラマを見せた本作であるが、その設定や物語がきちんと本編内で消化されていること、そしてザ・ペーパーの能力の見せ方の面白さ、アイデアの良さ、なにより日本にはきちんと根付かなかったスパイアクションとしてのドラマを作り上げたことがすばらしい。昨今では「かんなぎ」「ささめきこと」などで手腕を振るった倉田英之氏の脚本であり、原作も彼の手による作品だ。さらに監督・舛成孝二監督の手腕もさえている。スタッフ的には十分恵まれていた作品である。DVDにして3巻分であるので、レンタルなどでご覧いただくにも手頃だと思う。スパイアクションが好きな方にはお薦めできる作品である。
 なお本作にはこの物語の5年後を舞台にしたテレビ版が存在する。主人公は読子ではないが、後半で読子が登場するらしい。原作はラノベなのであるが、こちらの続きも気になるところ。テレビ版は私も未見であるから、視聴のあかつきには、いずれは本ブログでも触れてみたいと思っている。

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コミックス版です。まったく異なる展開を見せる物語。
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