「装甲騎兵ボトムズ 赫奕たる異端」~キリコはどこへゆくのか~

 サンライズが「機動戦士ガンダム」を手にい入れ、その後の「リアルロボット」もの路線を継承していることは、「ポストモビルスーツ」を探す作業だったとも言える。ガンダムを作り出した富野由悠希監督自身も、ウォーカーマシン、オーラバトラー、ヘビーメタルなどの設定を作り出したが、モビルスーツに続くものではなく、盟友・高橋良輔監督もコンバットアーマーやSPTなども対抗できずに、現在のガンプラ押し潮流は決定づけられることになる。だが高橋監督が生み出したロボットジャンルでモビルスーツに対抗しうるものがあるとすれば、「装甲騎兵ボトムズ」のAT(アーマードトルーパー)だったのではないだろうか。サンライズロボットアニメが生み出した2台リアルロボットのコンセプトは、モビルスーツとATでほぼ決まりだろう。事実それ以降に登場したジャンルは、こうした潮流に乗ることができていない(他会社では「バルキリー」というジャンルが存在するが)。それほど「装甲騎兵ボトムズ」という作品、そしてそこに登場するATというマシンには魅力があったのだろう。

 「装甲騎兵ボトムズ」は1983年に放送が開始された作品である。前作の「太陽の牙ダグラム」の長い戦いに終止符が打たれ、その翌週に登場したこの作品は、ひどく雰囲気が暗く、そして全長4m程の小さなロボットで、互いの能力を競い合う「バトリング」という競技に参加する機体であった。だがこれに乗る兵士達を「ボトムズ」と呼び、あたかも最下層の人間のように言われる人々を映し出す。そして主人公・キリコ・キュービーの、多くのことを語りたがらないキャラクターが人気を博す。放送開始時より熱狂的なファンは多かったが、視聴率や人気はそれほどでもなく、「ガンダム」というムーブメントを見た後では、それはあまりにささやかな人気だったと言わざるをえない。
 翌年に1年にわたる放送が終了したが、この作品が真に人々に受け入れられたことを知るのは、まさに本編終了後だろう。画面に登場するATの多くがプラモデル化される。また本編の再編集ビデオが売れたりするといった具合だ。それを傍目で見ていて無関心を装っても、心のどこかで気になっている作品、それがリアルタイムでボトムズを見ていない人間にとっての「ボトムズ」という作品のイメージではなかろうか。

 その後もボトムズの物語は、しぶとく新作を製作し続ける。本編が直接つながらない4つの舞台で展開する物語であったため、物語の余白の部分を埋める作業が進行する。特にキリコが過去に殺人部隊レッドショルダーの生き残りである設定は、レッドショルダー時代のキリコという存在を浮かびかがらせ、そうしたツッコミをよりどころにOVAが製作された。「野望のルーツ」というOVAは本編の前日譚に相当し、おおむね本編のすきまを埋めてしまったあとは、当然のように後日譚が製作された。それが今回のお題である、「赫奕たる異端」という物語である。

 テレビ版本編のラストで、キリコは愛するフィアナと一緒に冷凍カプセルに入り、宇宙に流されるラストで終幕する。それは戦いが絶えないアストラギウス銀河において、異能者であるキリコやPS(パーフェクトソルジャー)であるフィアナは、ただ戦争の道具として利用されるだけだからだ。その32年後、何者かの手によりキリコは蘇生してしまう。それは宗教結社マーティアルの次期教主を決める議会と関連しているようだ。だがマーティアルこそ、かつてPS計画を進めていた「秘密結社」の元の組織である。その教義の中心に「武」をおくマーティアルは、アストラギウス銀河の裏側で暗躍し、長きにわたる戦争状態を演出している張本人だったのである。32年前、異能生存体であるとされたキリコはその能力を危険視され、マーティアル内部の決定により「触れえざる者」とされていた。だが何者かの手引きにより、キリコは蘇生されたのである。マーティアルの次期法王候補であるモンテウェルズ卿は、娘のテイタニアをキリコ討伐に向かわせる。テイタニアは女性でありながら、全身をほぼ機械化し、補助脳と呼ばれる人格を制御する装置をとりつけた、PSに変わる超兵士であった。蘇生した直後でまだ満足に体も動かないキリコであったが、テイタニアは自らの能力の限りを尽くしてキリコを抹殺しようとする。だがキリコの気がかりは一緒にいたはずのフィアナの存在だけである。そしてキリコはフィアナを求めて、一人マーティアルに対して戦争を仕掛けるのである。

 この物語、キリコがフィアナと一緒にコールドスリープに入った本当の理由が明かされる。それはPSという人工生命として生まれた人間の悲劇の真実も含まれた謎であったのである。しかもそのフィアナは本作の最終回で息絶えてしまうのである。キリコは結局フィアナを助けられないまま、自らと敵対したマーティアルとの対立もほったらかして旅に出てしまい、それを補助脳という呪縛を解き放たれたテイタニアが追いかけるというラストを迎えるのである。このOVAシリーズが発売された1994~1995年当時、喝采をもってファンに迎えられたという話を、私はついぞ聞いたことがない。それはおそらく「フィアナの死」という部分とフィアナに変わる「テイタニア」という人物への思い入れの無さ加減にあると思われる。
 事実本作で見られるATの戦闘シーンは、セル画によるAT戦闘の極北にある、素晴らしいロボットバトルシーンを演出している。森林と市街地を想定した戦闘、マーティアルにより製作された見知らぬAT群、あいかわらずのハリネズミ装備で、まるで相手を寄せ付けないキリコの無敵ぶりが、十分に堪能できる戦闘シーンであるから、単なるATファンであれば、十分に満足するはずだ。だが物語としてのカタルシスには、本来のテレビ本編同様にあいかわらず欠けることは否めない。しかもキリコの敵である宗教結社マーティアルという組織は、アストラギウス銀河のほぼ全域に浸透している組織であり、これを敵に回すキリコは、アストラギウス銀河を敵に回すようなものである。だが物語の中心はあくまでもキリコとフィアナ、そしてそこに横やりを出すテイタニアという3人の姿に始終する。しかも一方のマーティアルでは次期法王選挙にうつつを抜かしている状態である。設定としての規模の大きさが、戦闘シーンの小ささを完全に食いつぶしている雰囲気ではあるのだ。

 だが戦闘シーン以外でも見所は多い。特に父・モンテウェルズ卿と娘・テイタニアに絡む物語は、本編でも重要度が高い。初めは人の良さそうな人物として登場し、アクシデントから娘を失った哀しい父親であったモンテウェルズ卿であったが、教皇選出会議の最中から徐々にその切り札を切っていく手腕、そしてその裏にあった彼の暗躍の事実が明るみになるにいたり、娘の死ですら己の野望のために利用する卑劣感になっていく。そのドラスティックな変化の様子は、本作の開巻当初からは想像もつかないどんでん返しであり、製作話数の少ないOVAという媒体を有効に活用した陰謀劇であった。

 ただしキリコという人物を語る上では、現在のところ本作は重要度が低いのは間違いない。それは単にもっとも時代が進んだ時点の物語であるからではない。この物語にとってキリコはただ利用され、マーティアルの陰謀劇に振り回されているだけだからである。そう、それはそれまでのキリコが紡いできたストーリーであるボトムズ本編と、なんら変わらない立ち位置であることがわかっただけなのだ。キリコ自身が物語の中心になることはほとんどない。基本的にはキリコが流れ着いた先で、何らかの事件に遭遇し、そこからキリコが事件に絡み出すというもので、キリコ自身がはっきりと自分の意志で事態をどうにかする話ではない。キリコは常に巻き込まれているだけなのだ。しかも自分がこういう状況に陥った原因であるフィアナとは、不思議な縁で結ばれるのだが、おそらくキリコが自分の意志で手に入れようとした唯一の存在がフィアナだったと思われるのだが、はたしてそうだろうか。キリコの秘密を知っているわけでもなく、キリコを導く存在でもないフィアナは、キリコと対で存在するべき存在でもないのではなかろうか。フィアナにとっては彼女の学習記憶の原初に刻まれた記憶としてのキリコに、惹かれるべき理由があるのかも知れないが、そうした理由がキリコ側にはないのである。だとすればキリコがフィアナに抱いている感情である<愛情>の大部分は、「PSとして自分に一番近い存在としての女性」としての認識が妥当だろう。

 ところが「赫奕たる異端」という物語は、フィアナというキリコにとっての代表的な女性像とダブる女性が登場する。それがテイタニアなのである。物語終盤、息絶えそうなフィアナの頼みである「彼を愛して」との言葉を、テイタニアはまさに実行せんと、キリコの後を追うのである。こうなるとキリコにとってのフィアナの存在はなんだったのかということになるのだが、ここはやはりキリコの「育ての母」という役割が妥当だろう。しかもその母はその命をまっとうしたが、キリコはやがて来る未来の技術をあてにして、さらに冷凍処理をほどこして宇宙に流すのである。このこだわりようは、まさにフィアナがキリコにとって唯一無二としてのかけがえのない女性であることを示すのであるが、その一方で母親からの決別とも受け取れるのでる。だって冷凍処理をしたカプセルをどこかに隠蔽すればよく、宇宙へ流す理由はない。母としてのフィアナの死を認識し、次に進もうとする青年の横顔が、キリコにダブるのである。また可愛い息子であるキリコに、フィアナ母さんは、テイタニアという新しい彼女まで用意する周到さである。ここまでやると、母さんやり過ぎな気もするのだが、有能な相棒としての女性がキリコにいてもいいだろう、なんせキリコの敵はアストラギウス銀河全体なのであるから。

 結局「赫奕たる異端」という物語は、ボトムズ・サーガの中で、新しいステップに進むための物語であったのであるが、ファンからの熱い非難を受けて、現在でも鬼っ子扱いされている作品である。だが落ち着いて作品を俯瞰すれば、単品のOVAとしての出来の良さをさることながら、ボトムズ世界を複雑さを象徴するような、理解するのもめんどくさいような多層構造が広がっており、これ自体に十分歯ごたえがある作品でもある。ボトムズファンは嫌がるかも知れないが、もう一度見直してもいい作品の質をもっている。また未見のかたにも是非見ていただきたいと思う。そこに広がるボトムズサーガの片鱗は、決してテレビ本編に劣らない。

 なんにせよキリコの物語はまったく終わっていない。最新作「ペールゼンファイルズ」では前日譚におけるキリコの能力を遺憾なく発揮させる物語が紡がれた。また今年からリリース予定の「幻影編」では、ボトムズサーガが完結することをうたっており、年老いたバニラやココナ、ゴウトの姿が拝めるようである。だがこれすらキリコの旅路の終わりではないような気がする。キリコとは250億分の1という確率で生まれた「異能生存体」という存在でありながら、欠けた自分人間性を取り戻そうとしているキャラクターだからである。自分のルーツと言うよりも、むしろ自分探し。だとすればキリコの度に終わりがないのもうなずける気がする。


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郷田ほづみ富田耕生

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