「ケメコデラックス」~”うらはら”な心の象徴としてのロボット~

 古来よりよく言われていることだが、拳銃やナイフなどの武器類は男性のペニスの象徴であるという。だれが言ったか知らないが、他人を有無を言わさず屈服させる力の発露は、確かに男性器を思わせないでもない。実際のその言葉の真意ははかりかねるが、それはその言葉を発した原点をたどるしかない。ただこの言葉を聞いたとき、私はどうしてもあらがえない疑問を感じた。男性同士の争いであれば確かに理解できるのであるが、女性を相手にしたときにもそうなのか? 武器であるために、相手を敵であると認識するということは、普遍的な女性を相手に武器を振り回すことと同義な気がする。だとすれば武器とはそのまま男性の暴力性を意味する事になってしまう。

 このたとえ話の先に、人間が操縦するタイプのロボットを挙げる場合もある。特に祖父の残したスーパーロボットとしてのマジンガーZには、祖父が孫に与える偉大なる力として描かれており、庇護下におかれている子供に武器を買い与える親の相似形である。またゲッターロボが3機が合体して3タイプに変形する事実は、作品テーマとして「勇気と力と智恵」の合体をうたっているように見えるのだが、その一方で「力と金と権力」を持ち合わせた3人が、ゲッターロボに投影されているようにも見える(特に原作の隼人と竜馬にはこの言葉が似つかわしい)。
 時代が下がると、「ガンダム」などは世代交代のための足がかりとするために、アムロが父親から盗み出していくというテーマ性もちらつくし、他のロボットアニメだって「ボトムズ」ほど兵器然として利用されている例が珍しいほどだ。それとて「キリコの手足の延長」であり、「キリコの成長を支えるゆりかご」である意味づけが重くのしかかる。さらに時代が下がると、「エヴァンゲリオン」はシンジを守るための砦であり、彼の心を支えるための母体として、あからさまに表現されている。ロボットアニメは、登場するロボットが兵器である以上、かならずなにがしかの意味をもって登場する。これで本論考の方向性はご理解いただけると思う。

 はっきり申し上げれば、これから論じ進めるにあたり、この「ケメコデラックス」という作品が妥当なのかどうかは、よくわからない。だが少なくても私がこれから論じようとする、「うらはらな心の象徴」としてのロボットという、やや繊細さのある主張を展開するには、実にちょうどいい素材であるという気がしたのである。ご存知のかたもあるだろうが、この「ケメコデラックス」はスラップスティックコメディであるため、こういう論じ方とは非常に相性が悪い。こんな作品で何をいうのかとおっしゃる方々もいるだろうが、そこに最大限つけ込むことも、本ブログの趣味であるからにして、まあ、お付き合い下さい。

 「ケメコデラックス」は2008年10月からの1クール(13話)で放送されたアニメ作品であり、もともとはマンガ原作の作品であり、「月刊電撃コミックガオ」にて現在も連載中である。
 物語はある日突然主人公・三平太宅に不思議な宇宙船が突き刺さったところからスタートする。その宇宙船から飛び出してきたのは、某ネコ型ロボットもびっくりするほどのずんぐりむっくりの人型ロボット・ケメコであった。その姿形からは想像もできないほどの高機動力で、三平太を襲いに来たロボット達を粉砕し、そのまま三平太のヨメとして、小林家に居候を決め込んでしまう。平凡な日常を愛する三平太は、ケメコの出現により、調子が狂わされっぱなし。教育実習生と称して三平太の学校にも参上し、授業を取りやめては好き放題に暴れまくる、そんな彼らのドタバタな日常を描くコメディである。
 だがケメコには「中の人」のような操縦者がいる。その名は「エムエム」。彼女はケメコとは似てもにつかない美少女であり、10年前の三平太の記憶に残っている少女に面影が似ていたのである。だが彼女が三平太のもとに来た理由は、彼らがいる街を支配している「ミシマ電機」から三平太を守るためであるという。ケメコ自身もミシマのネームが入っている工業製品であるのだが、エムエムがはっきり言わないため、その関係では謎のまま話が進む。
 やがてミシマ電機の専務であるヴァニラと接触した三平太は、ケメコの謎を知りたくて、彼女らの誘いに乗ってしまい、街の中心に鎮座するミシマ電機本社に拉致される。そこで三平太が聞いた真実、それはミシマ電機の創始者を殺し、彼が発明した究極の発明である「ナノボール」を奪って逃げた張本人であるという。しかもエムエムは創始者のかわいい一人娘だという。だがその「ナノボール」は何の因果か三平太の体内に眠っており、これまでたびたび三平太達のピンチを救うために勝手に発動していたのである。結局、謎の真相は明かされないまま物語は収束し、三平太はケメコがいる日常にもどっていくところで、アニメは終了するのである。極端に言えば1、6,11,12話だけ見れば、物語内容はほぼ理解できるはずだ。

 本作を評するのに、どの言葉を選べばいいだろう。「おっぱいアニメ」、「中二アニメ」、「ハーレムアニメ」などなど、いずれもいい印象の言葉ではない。またコメディとしては確かにセンスがいいとは言い難いが、ハイテンションであることは間違いない。去年「化物語」において「戦場ヶ原ひたぎ」というヒロイン役を演じた斎藤千和嬢が、ケメコという役を演じている。「ケロロ軍曹」でも夏美役をテンション高く演じている彼女であるから、むしろガハラさんの役のほうがイメージがつきにくいだろう。だがローテンションのガハラさんでも、ハイテンションのケメコでも、いずれ短い時間内にとんでもない情報量の台詞を入れておきながら、そこにきっちり演技を重ねてくる力量には、正直感服する。私は耳がよいほうではないので、何度か彼女の台詞が聞き取れない時もあったが、それほどにハイテンションな場合でも、きちんと演技している声として乗せてくるのである。彼女の演技がなければ、そもそもハイテンションアニメとしての「ケメコデラックス」は存在できないだろう。それほどまでに彼女の演技そのものが本作の肝であることは疑いない。一方の「エムエム」の声は戸松遥である。彼女は前年より声優活動を本格化させ、2008年は「絶対可憐チルドレン」や「かんなぎ」などで活躍していた時期である。本作ではその旬とも言える演技が堪能できる。

 物語はうやむやのうちに、第2期を期待して終わらせるラストであるが、ここで問題にしたいのは物語ではない。ロボット・ケメコとエムエムの関係性である。ここで私が提唱したいのは、ロボットが人間の殻として機能しなくなり、むしろ人間の心理描写のうらはらさを表現するための手段として選択されているという説である。

 本編を見ていただければ、私が何を言いたいのかはご理解いただけると思う。設定上ケメコはまるでエムエムが着込むパワードスーツのようにも見えるのであるが、劇中きちんと「ロボット」と表現されている。しかもエムエム本人は、ケメコを着ることで普段よりも勝ち気に振る舞えるという設定になっているようで、エムエム自体が発しているにも関わらず、ケメコの発言や行動様式は、エムエムからは想像できないようになっている。しかも彼女自身はケメコがいないと自立的な行動すら不能になってしまうほどに、自信をなくしてしまうのである。まさに「虎の威を借る狐」なのである。ケメコ自身はあくまで本作のコメディ部分をほとんどを比重を担当しているから、どうやってもエムエムとの比較ができなくなるほどに感情や行動様式が破綻する。しかもプールを解放して遊びに興じるなど、一見してミシマ電機の連中に踏み込まれるおそれさえありかねない状況まで作り出すのであるから、趣旨一貫しているとはいいづらい。だがそれもケメコによって肥大化した自我の抑制が効かなくなった状態といえば、納得がいくのである。その反面エムエムの時にはどうしようもないほどの照れ屋で恥ずかしがり屋。美少女の枠を一歩も超えないキャラクター設定であり、しかもいわくつき。本作でもただ単に三平太(ナノボール)を守ろうとする様子であり、旦那としての三平太をまったく意識していない。だがケメコとエムエムが口にする、三平太をさす「あなた」という言葉が、物語の進行と共に徐々に意味を持ってくる。つまりエムエム自身が三平太を好きになる過程が描かれる。プールの話を経て、レギュラーキャラで海に行く物語で、ケメコの中で水着になっているエムエムの姿や、花火を待ちわびる姿が見られる。それゆえにエムエムにとってケメコという枷がうっとおしくなっている瞬間があったのだ。そしてケメコに隠れるようにしてかわす三平太との会話。この行動とはうらはらな「照れ隠し」こそが本作でのロボット・ケメコの役割である。
 
 こうして生々しい感情をもつエムエムがケメコに乗るために、ロボットとしての強さの殻をそぎ落とした結果、ロボットに乗っているのに、感情は皮膚感覚という、ロボットものではあり得なかったパラドックスが発生する。本来自分を隠すための殻であり、自分の強さを誇示するために必要だったロボットの異様は、搭乗者のエムエムのむき出しの感情をつつむ非常にやわらかな皮として存在するケメコというものにより、ロボットはパワーダウンを余儀なくされたのである。実はこれにはもともとの懸念が存在する。

 富野由悠希監督の「聖戦士ダンバイン」に登場したオーラバトラーは、人間の持つオーラ力で稼働するが、オーラ力が強大な「怒り」や「憎悪」などの感情に身を任せると反応し、ハイパー化を引き起こし、自滅させるのである。本来自分の身を守る鎧の発想で作られたロボットが、自分の感情故に操縦不能になり暴走する恐ろしさは、単にコントローラーを奪われて悪事に荷担する鉄人28号の比ではない。なにより自滅するというのが悲劇的である。
 また同じく富野監督作品から「機動戦士Zガンダム」のテレビ版最終回では、死んでいった魂達の力を取り入れて、Zガンダムがシロッコを倒す件だ。そこにぶつけられた生の感情は、結局カミーユの精神を連れて行ってしまうのである。ロボットが人間の感情に支配され、感情がロボットと重なったとき、その装甲は感情の力と同義になってしまうのである。「ケメコデラックス」はあくまでコメディというセンスの中で作劇された物語であったから、ダンバインやZガンダムなどの悲劇は起きなかったが、物語が深刻の度を増していくなら、いずれこのようなラストがあってもおかしくない。それほど搭乗者の感情とロボットの同一視は、危険な潮流なんだと言える。逆説的に感情の力が具現化し、まさに力となっていった物語としては、「天元突破グレンラガン」のグレンラガンの最終回の戦いが上げられるだろう。感情のコントロールが正に傾けば、こうした正の感動が得られる物語になる可能性だってある。

 けれどはっきりいって、ロボットが搭乗者の感情に合致することは、ロボット自体の弱体化を招いているともいえる。感情の強さで強弱に影響が出るなら、搭乗者が鬱状態の時に戦闘したら、ぼっこぼこで負けて帰ってくることになる。そんな話、だれも見たくないじゃなかろうか。問答無用に強いロボットが、戦いの場で立っていられる状況は、現在でも失われた舞台ではない。できることならそうした舞台に立つ、正統派のロボット、搭乗者の感情に影響されないロボットの活躍が、今一度見てみたい。たとえそれが男性器の象徴と揶揄されても。

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ケメコは「そこあに」でてんこさんが酷いEDだと発言していたので興味が出て手にとった作品でした。

しかし、EDを聞き終わってこの曲を本当の意味でここまでキャラになりきって声を当てられる人が他にいるのだろうかとびっくりしたのを覚えています。

最近のDVDの売上次第で続編を作る風潮は自らの道を狭めているように感じて悲しく思います。

No title

とぴろさま
 あのEDは、昔の「キャッツアイ」のエンディングの、遠いパクリなんですよ。まあ、てんこさんのような女性にとっては、歌詞内容もふくめ決していいできとはいいがたいのは、理解できます。
でもおっしゃるように、斎藤千和嬢のあのテンションは、大したものです。芸の道を見た気すらします。

2009年をまたいで続編がつくられなかったということは、おそらく第2期もないのだろうと思うのですが、原作マンガの連載が終わると、また評価が変わって・・・・ということがあるかも知れません。今期の深夜アニメはおおむねソフト化が前提で作られており、人気があるうちにソフトを売ろうとしている業界が透けて見えます。商売優先だから仕方ないんでしょうけど、どうにも・・・・。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
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