OVA「妖獣都市」~逆転する赤と青のコントラスト~

 日本における伝記作家の草分けは、まちがいなく「山田風太郎」氏だろう。「魔界転生」など映画化された作品群を見ても、だれもが納得が行く認識だと思う。その後に続く伝記作家というと、あなたは誰の名前を想像されるだろうか? 「帝都物語」の荒俣宏氏だろうか。それとも「陰陽師」や「闇狩り師」の夢枕獏氏だろうか。私なら菊地秀行氏を押す。なんにせよ氏の書かれている作品数の多さ、新宿という名の魔界都市でうごめく魅力的なキャラクター、そのエロさ、グロさなどは他の追随を許さないほどだ。その彼の作品の中で、初期にアニメ化されている作品といえば、「妖獣都市」と「魔界都市ー新宿ー」の2作品である。今回は「妖獣都市」をご紹介したい。

 本作は1987年に劇場公開され、後日ビデオパッケージとして発売されている。どうやら当時よくあったパターンで、OVAとして制作されながら、販促の目的で劇場公開されたもののようだ。
 この「妖獣都市」、正確には「闇ガードシリーズ」という連作もので、単行本で6作品、外伝が1作品出版されている、菊地氏にとっては「吸血鬼ハンターD」や「メフィスト」「マンサーチャーシリーズ」同様にドル箱シリーズである。あちこちの菊地氏のインタビューで答えている内容によれば、本作は原作者が唯一原作のイメージ通りであると明言している。本作の監督は川尻善昭氏であるが、菊地氏が川尻監督に寄せている信頼は厚く、後々「吸血鬼ハンターD」の劇場版につらなる関係を構築する事になる。

 物語は現代の日本を舞台に、人間界と魔界との間に結ばれていた協定を再度締結するために、日本で調印式が行われるようになったことからスタートする。そのための人間側の代表として選ばれた、200歳を越す老人・ジュゼッペ・マイヤートの護衛をすることになる。そのために双方の世界から「闇ガード」2人が選出された。人間側からは滝蓮三諸、そして魔界側からは麻紀絵という女性が選ばれる。二人は明日の調印式までの一晩を、魔界の反抗勢力からジュゼッペ・マイヤートを守って過ごすうち、異なる世界の住人と知りながらも互いに惹かれ合っていく。だがその調印式には、滝や麻紀絵たちの知らない真実が隠されていた、という物語である。

 物語はスタートからシンプルな構造を示しているにも関わらず、調印に必要なのは、実は滝と麻紀絵との密接な関係だったというどんでん返しがあったりと、意外に気の抜けない見事な物語である。そこは当代随一の伝記作家の手腕であるから、そこに疑いの入る余地はない。しかも川尻監督の手により再構成された映像と物語運びにより、原作のイメージを損ねることなく、アニメという媒体に定着されたのである。それは夢枕獏氏の「陰陽師」が野村萬斎氏という希代の役者を得たことで大成功した映画「陰陽師」を想像してもらえれば理解しやすいかと思う(菊地さんには失礼かもだけど)。
 私は本作を初めて見たのは深夜にテレビで放送されていたものをビデオ録画して見たのであるが、それは高校生の頃だったか。だから魔界のものに陵辱される麻紀絵のシーンや滝やジュゼッペのSEXシーンなど、かなりどぎついシーンがあったため、両親のいない時間を見計らって、一人でこっそり見た記憶がある。しかもエロさは尋常ではない。だがそれ以上に画面の美しさが異常だったので、血気盛んな高校生男子が特定の目的のために見るには、質が高すぎるのであった。

 さてアニメとして本作を見てみよう。本作を表現するにあたり、必要以上にアダルトな印象がある。それは序盤からいきなり女性の裸身がでるからでも、その女性が滝とラブシーンを演じるからではない。そこに描かれている色調(トーン)が「青」を基調としていることが、より重要だろう。当然遠慮仮借なくラブシーンを演じる声優陣の演技もさることながら、原作におけるエログロシーンをあますことなく見せながら、それらのシーンはアダルトビデオ風のエロさを見せるでなく、スプラッターのような血みどろのグロさを見せるでなく、すべてを「青」に色調を統一させて見せきることで、このアダルトな雰囲気を出していることだ。それを「スタイリッシュ」と読んでもいいだろう。また麻紀絵の武器でもある爪の色、妖艶な唇の色、衝撃的なシーンでのインパクトとしての色、滝の重すぎる銃を発砲したときの背景の色、アクセントとして輝く街の灯りなど、印象的な部分に「赤」が配置されている。全体のトーンを「青」で統一されているから、これら「赤」が非常に映えることは、見ていてすぐにおわかりいただけると思う。

 こうした「青」と「赤」のコントラストは、一部のシーンを除けば、ほぼ全編にわたって貫かれている統一感である。だがこの2色のコントラストには、もう一つ秘密がある。
 「寒色」と「暖色」という言葉をご存知だろうか。ひらたく言えば、うすら寒い青系の色が「寒色」で、暖かな印象を持つ「赤」や「橙色」は「暖色」ということである。一般的には寒色と暖色の配置は、シーンの選択に影響される。あたたかな雰囲気のシーンでは暖色が選ばれるし、寒々としたシーンや深刻なシーンには、寒色が選ばれる。だが本作ではほぼ全編にわたって「青」を基調とした統一した色調に、インパクトを重視した色として「赤」が選択されている。寒色に暖色が混ざることで効果を上げていると見ていい。全体にクールなイメージやダンディな印象があるのは、この「青」を基調にしているためであるのだが、それ以上に「赤」が引き締めているからともいえる。また本作での「青」は寒色にもかかわらず熱量を持っている。印象的なシーンで言えば、序盤の空港での滝や麻紀絵の戦闘シーン、また終盤近くの滝と麻紀絵のベッドシーンなどだ。いずれも情熱的でいて、熱量のこもるシーンであるが、どれも「青」を基調として描かれている。本作での「青」には熱量があるのだ。一方の「赤」はむしろとぎすまされたような冷たさが宿る。麻紀絵の爪の色、滝が銃を撃つ一撃の背景の赤などがそうである。暖色である「赤」が冷たいのである。
 つまり本作では暖色や寒色という規定の概念をひっくり返した配色を示しながら、その配色がぎりぎり嘘のないイメージに収めることで、熱量を逆転させているのである。だからこそ青をメインの配色としながら、寒々しくなくむしろ情熱的ですらあるのに、クールでスタイリッシュなのである。

 こうした配色センスは、やはり川尻監督自身が絵描きであることが主たる原因だろう。そしてなおかつ押さえた色数の中で効果的に見える方策を模索した結果だとも言える。以前劇場版「吸血鬼ハンターD」の記事を書いたときにも、川尻監督が「絵」の力を信じているからだと結んでいるが、本作でもその考え方は揺るぎないように思われる。「D」では色調を統一するようなことはしていないのだが、それぞれの舞台で印象的な色合いを適宜選出しているようにも見える。絵描きとしてのこだわりが、監督としての資質に大きく影響しているのだろう。川尻監督の最新作「ハイランダー」は未見である。これについてもおいおい拝見し、今後も川尻監督独特のアニメ世界を堪能したいと思っている。世界に注目されている川尻監督に、これからも要注目である。

<追記>
 と、ここまで書いておきながら、「プラスマッドハウス2 川尻善昭」(キネマ旬報社)という資料があることに気がついた。この本、川尻監督の最新作までに関するインタビューや、周辺スタッフのインタビューなどもあり、実に貴重な資料であったのだ。これは参考にせねばならぬ(恥ずかし)!
 この本のインタビューを見ると、「青」に関しては監督ご自身がお好きな色であること、「青」と「赤」はフィルムの色調整の際に安定した色が出て、コントロールしやすい色であることを明言していらっしゃる。つまり「妖獣都市」等の作品については、あの時点での技術的見地から、「青」と「赤」のコントラストを好んでいらっしゃったことがわかる。また本作は、監督ご自身が大人向けとして制作し、それが観客にやっと伝わった作品であり、ご自分の転機になった作品であるともおっしゃっている。川尻監督の色彩センス、そしてこだわり抜いたアクションなどが楽しめる本作は、現在の目で見ても色あせることがないのは、そういう事情だからなのである。

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