「人造人間キカイダーTHE ANIMATION」~ミツコの不幸とジローの孤独~

 以前より「ロボット刑事」に触れた時には、対にして触れておきたいと思っていた作品があった。それが今回ご紹介する「人造人間キカイダーTHE ANIMATION」である。
 特撮作品としての「人造人間キカイダー」という作品は私の大好きな作品であり、ロボットでありながら人間と変わらない感情をもつ青年ジローの青年期特有の心の葛藤を主軸としたテーマがつらぬかれた作品である。また後半に登場したハカイダーという忘れ得ぬ名悪役を輩出したことでも知られている。原作の石ノ森章太郎のマンガ版は、傑作とは言いづらい部分は多々あれど、ジローと人間が織りなすいくつかの挿話や、善悪の判断を有しながらも最終回で仲間を破壊してしまう悲劇的なラストなど、見るべき美点も数多い作品である。本作は2000年という年度に制作された。それも人気の高い特撮版ではなく、マンガ原作版をベースとして、原作者の死後に制作された作品となっている。キャラクターデザインに紺野直幸氏を迎え、原作執筆時の石ノ森絵ではなく、亡くなる直前の氏の絵柄を踏襲したデザインで制作されている。これがその後いわゆる「平成009」や「009ノ1」を生む土壌となる。

 物語はロボット工学の権威・光明寺博士が作り出した最新型ロボット・キカイダー=ジローが、プロフェッサー・ギル率いるダーク破壊部隊と戦いながら、光明寺の娘・ミツコと弟のマサルと絆を深くし、次第に人間的感情を持つにいたり、やがてダークを壊滅に追い込むという物語である。
 ジローを誕生させるために研究所が大爆発した夜、父は死んだものと考えていたミツコは、父親の研究データから、ジローの存在を知る。そして父が残した「ミツコ、ジローを頼む」というメッセージを受け取って、ミツコはただ困惑するばかりである。それは家庭を顧みずに、ただひたすらに研究に打ち込む父への反骨でもあった。だがミツコがなぞのサイ型ロボットに襲われた時に、一人の青年がとっさに助けに入る。自分が何者かもわからずに、がむしゃらにロボットと戦い続ける青年を、ミツコは「ジロー」と呼ぶ。そしてすべてを理解したように、キカイダーにチェンジするジロー。それは人間としての皮膚が次第にはがれ、その下から赤と青のカラーリングのロボットの体が出現する、異形の存在が誕生した瞬間であった。必殺の腕で難を逃れたジローとミツコ。父親の研究室のデータから、ミツコへ当てたメッセージから、ジローには不完全な良心回路が設置されていること、危害を及ぼすようならジローをミツコの手で破壊しろという内容を受け取る。だがその破壊のメッセージと、カマキリ型ロボットとの戦いの後でギルの超音波に操られて、ジローはミツコの首を絞めてしまったため、ミツコの前から姿を隠すのであった(1、2話)。そうして始まった物語、それはジローの苦しみの始まりであり、ミツコの苦しみの旅路でもあるのだ。

 ミツコはジローの行方を、私立探偵を雇って探させる。やがて行方の知れたジローは、人間とロボットの違いを思い知らされてただうなだれる。ましてや親しくなった子供にすら「化け物」扱いされてしまい、羞恥心からふたたびミツコの前から姿を消すのである(3、4話)。とある街でジローが出会った女性は、名も知らぬ想い人の身をひたすら案じて待っていた。そうした彼女の優しさが、ジローに守るべき人、愛しい人の存在を認識させる(5話)。だがダークの魔の手はついにミツコ本人におよび、ミツコを誘拐してジローを罠にかける。さらわれたミツコが連れてこられた場所は、かつてミツコが両親と暮らした屋敷であった。屋敷内に放置されていた資料をあさるミツコは、そこで発見した父の日記から、おそるべき事実を知る。前妻の子・一郎を実験事故で亡くした光明寺は、ギルの融資を受けてロボット研究を再開したこと、その時にもらった後妻はギルの関係者であったこと。そして光明寺は一郎の死や後添えまでギルの思惑であったことを知りながら、それらの事実から目を背けるために研究に没頭していたことをミツコは知るのである。光明寺家の悲劇。それはギルという男によってもたらされたものであったのだ。ミツコを誘拐したコウモリ型ロボット・ゴールデンバットは、屋敷の外に設置した仕掛けでキカイダーを亡き者にしようとする。そのさなか、ミツコはジローの身を案じて涙する。それは心を持ったロボットと人間の実るはずのない愛。ゴールデンバットはそれすら否定する。そして彼自身も光明寺に作られ、不完全な良心回路のテストケースにされた事実を明かす。互いの不幸を明かしながら相容れないミツコとゴールデンバット。ミツコを助けに来たジローは醜い戦闘形態になることをかたくなに拒む。チェンジしないままゴールデンバットと戦うジローだが、戦いはゴールデンバットが自分の放ったカッターで死ぬ結果となる。それはミツコを助ける行為の果てであった。だがゴールデンバットのトドメを指したのは、謎の男サブローであった(6、7話)。

 ミツコは幼い頃に別れた母親の影を追い、ジローと共に北へ旅立つ。それを追ったマサルは旅の途中でクマをつれた双子の兄弟と出会うが、それすらもダークのロボットであった(8話)。だが母親の故郷である港町で、ミツコたちは母・千草と再会する。そこで明かされた事実は、彼女自身がギルが光明寺を見張るために放ったスパイであり、彼女の役目は幸せな家庭を築くことであったという。しかも彼女はギルに心酔していたとうのだ。だがギルの命令通りにミツコに銃を向ける千草だが、母親としての想いにかられて自殺してしまう。その時の火災に巻き込まれ、ジローは行方不明になってしまう(9話)。

 再度発見されたジローは、キカイダーの形態で街を暴れまわっていた。それはギルの笛同様の能力を持つサブローの口笛に操られての行動であった。そして我に返ったジローは己の良心の呵責に耐えかねるように、姿を現したサブロー=ハカイダーに戦いを挑む。だがハカイダーの頭部に据えられている脳髄は、光明寺博士のものであったのだ。そのために直接的な攻撃をためらうキカイダーは、左腕を破壊されながらも逃げ帰るのがやっとであった。だがその戦いの中で、ミツコはジローのギターに隠されていたメモリを発見する(10話)。それは良心回路の設計図だ。光明寺研究所跡でミツコの修理を受けるジローは、良心回路の修理を提案するミツコを制して、このままでいいと告げる。そしてわずかな時間を共にしたジローは、ミツコにすら別れを告げず、ダークとの対決におもむく。そしてハカイダーとの決着をつけるべく、激しくぶつかり合う。だが本気で戦わないキカイダーに業を煮やしたハカイダーは、自分の頭を銃で撃ち抜こうとするが、引き金を引けない。と、突然ハカイダーの意識は、光明寺に乗っ取られたのである(11話)。そして光明寺は自分の意識がハカイダーを支配している間に、キカイダーともにすべてに決着をつけるべく、ダークの秘密基地に侵入する。ギルはハカイダーが自分の言うことを聞かなくなっていることに恐れ、ハカイダーの量産機や再生破壊部隊を差し向けて、キカイダーとハカイダーの抹殺に動く。ハカイダーは量産機に破壊された。だがキカイダーは全力でこれを破壊し、されあにギルを追い詰めようとする。ミツコに光明寺博士の脳髄を託すキカイダーに、「いつまでも待っている」と告げるミツコ。それを笑顔で返したキカイダーは、ついにギルを追い詰める。最終兵器まで持ち出してキカイダーを破壊しようと目論むギルであったが、ハカイダーの残骸に謀反を起こされて死に至る。ここにダークは完全に壊滅した。大爆発の中、ジローの身を案じるミツコであるが、結局ジローは新たな旅に出て行くのであった(12話)。

 本作のテーマは、原作にあるようにロボットであるジローがどうやって人間であるミツコとの垣根をとっぱらえるかということにある。だが11話にささやかながら見られたジローとミツコの不必要なベッドシーンなどが、若干話題になった程度で、本作のテーマが顧みられることはほとんどなかったわけだ。本当ならば、人間にあこがれつづける青年ジローが、成長する心を持ったロボットの存在を認めていくミツコとの相克として描かれた物語が、終着するためのシーンであったはずなのだが、なにか実に惜しいのだ。それというのも「ミツコ」という女性に、それまでの物語でまったく想い入れる事ができないまま物語が進行したことが理由の一つだろう。ミツコという女性ひとりをとって考えてみれば、十分に同情するに値する生い立ちではある。だがその不幸に度が過ぎている気がするのである。何よりミツコやマサルが生まれた理由は、ただひたすら光明寺をギルに従わせてこき使うためだったからだ。劇中母・千草の独白により、千草がギルから受けた指令は、光明寺とあたかも幸せな家庭を築くことだったそうだ。それ以前に光明寺は前妻を失い、またギルの奸計で息子の一郎まで奪われてる。一郎を失って研究意欲を低下させたのだ。それは光明寺を自己否定させるに十分な出来事だったはずである。ギルは家族がいれば光明寺もがんばるだろうという甘い考えだったのではなく、千草にミツコとマサルを生ませて、一郎の身代わりとし、光明寺の研究意欲を保持しようとさせたのである。そこに愛がなかったとは思わない。だがこの物語の上では、ミツコとマサルは、このような理不尽な理由で生まれてきたことは疑いえない。

 不幸はこれだけではない、ジローは不完全な良心回路を組み込まれて、自我を形成できずに苦しむ。ギルの笛にあらがえず、ミツコを襲うこともしばしばであった。しかもジローはその行為に傷つくだけだ。ゴールデンバットも同様な苦しみがあったに違いないが、ギルに服従することでそれ以上の悩みを回避した形になっている。サブローにいたっては最新型でありキカイダーを凌駕する能力を持ちながら、ギルの狭量さゆえに光明寺に意識を乗っ取られてしまう(声が飯塚正三氏に変わるあたり、特撮版のハカイダーの意趣返しのようで楽しかったが)。ハカイダーが光明寺の脳の支配下にあったという話は、特撮版でもよく聞く仮説であるので新鮮みはないのだが、それもハカイダーにとっては自分を全否定させられる悲劇だ。
 本作はこうした不幸自慢に囲まれて物語が構成されている。明るいイメージなんて持ちようもないのである。まあそれこそ原作マンガの雰囲気をそのまま抽出したようにも見えるのであるが、そんな暗い話が受け入れられるとも思えない。あらためて本作を見ると、大変残念な出来であった。

 だがあらためて原作のキカイダーを持ち出してアニメ化したことは、ロボットが機械が心を持つことの是非をあらためて問うという意味においては機能したと思いたい。ここで考えるべきは「良心回路」そのものである。
 本作では良心回路を「ピノキオ」に出てくるこおろぎの名前にたとえて「ジェミニィ」と呼称している。これがもし「双子座」のジェミニィとするならば、良心とは人間とって双子であるということである。人間とともにあって良心を司る存在。ということはその兄弟を持たない人間は、「悪」そのものであることになる。まるで性悪説のようなイメージだ。こうなると心を持たぬ機械は悪であるという説明になってしまう。

 「ロボットとは何か」(講談社現代新書)を著した石黒浩氏によれば、人間同士が互いに感情をぶつけ合う様に、心の存在を感じるというのが人間のあり方ならば、ロボットも心を持つことができると考えているという。「心」とは良心回路という形ではなく、人間の中で互いの意見や認識をぶつけ合い理解し合うという行動の中で、他人からの認証として「心」の存在を確認できるというのである。本作ではジローはミツコへの想いやこれまで経験したできごとから、成長した自分を自ら認証したことで、良心回路の正常化作業が、それらを消し去ってしまう可能性を考えて、ミツコの提案を拒否した形になっている。また光明寺博士自身も、最後の戦いにおいてハカイダーの意識を乗っ取った中で、「私が考えていたよりもはるかに人間に近いものに成長してしまった」と言っている。良心回路はDNAの塩基の螺旋配列を参考に、有機的な部品を組み込んで設計し、成長しながら自立的に善悪などを判断する回路であると博士は劇中で説明している。だがその判断基準や範囲の設定が難しいといっていた。
 だがしかし良心回路は一度も成功を見ていない。だがそれ以上にジローを苦しめた経験や、ミツコたちと一緒に過ごした記憶が、ジローに心が存在し、ミツコと愛をかわすほどに成長したことを雄弁に物語っているのだ。そして他人に認証されたり、理解されることにないロボットは孤独に生きるしかない。

 ロボット刑事Kがあからさまに鋼鉄の肌を見せながら人間社会に暮らす中で、自分の存在を恥じていたかと思うと、ジローに人間体があったとしても、その悩みや孤独もKに似て深刻なものであることは明白である。本編でも続編である「01」においても、同族殺しという深い罪を背負いながら、ジローもまた孤独に生きるしかないのではないか。ラストシーンで旅立つジローとともに、見ているこちらの気が晴れないのは、しごく当然の成り行きである。そうした同族からはじかれる行為は、結局ジローやKをして人間へと近づける結果になる。彼らの孤独は募るばかりだ。

 またもや同人誌であるが「人造人間キカイダーTHE ANIMATION評論業書」という同人誌があり、これを本文執筆に当たりだいぶ参考にさせていただいた。同人誌には各話に関するかなり辛口の評論が述べられており、本作の作劇上の問題点なども指摘されている。内容を読めば至極まっとうなご意見に、平伏することしきりであった本である。だがロボットが心を持つために、経験の積み重ねで発生した思考や行動パターンが、外部認証として心を形成するという説を支持する内容であったことに、大変満足が得られた作品であった。それはあくまで自説を保証してくれる、都合のいいアイテムと言われかねないが、そうした趣旨で本作が作られたことを思えば、あまりあしざまに本作を否定する言葉を持てないのである。

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