「重戦機エルガイム」~その3・決断しない物語~

承前

 前回までメカニックとキャラクターに関する問題点を指摘し、どうやらこれらのデザインのすばらしさとは裏腹に、その設定がうまく生かされておらず、総監督・富野由悠季氏の思惑通りには行っていなかったと推察される。それは彼が残したインタビューにも示されており、スタッフが監督に対してそっぽを向いて仕事をしていた雰囲気が残っている旨の発言が残されている。富野監督はこのエルガイムという作品で、新しいスタジオワークを試していたらしく、その中では出来るだけスタッフの能力を引き出していくことを考えていたらしく、永野護氏の起用そのものもそれまで富野監督と一緒に仕事をしてきたスタッフに対して、「一緒に勉強しよう」という姿勢で臨んだという。だがその体制はスタッフの能力を結集できず、結果的にはスタッフ各人が個人の思惑で動いてしまった事により、なにかこうちぐはぐな印象の作品に仕上がってしまったということらしい。そうした雰囲気は本作の物語に、もっとも顕著に現れていると考える。

 本作の物語、それは主人公・ダバ・マイロードという青年が、ペンタゴナ・ワールドにおけるオルドナ・ポセイダルによる治世に反旗を翻し、反乱軍の象徴として正規軍と戦う物語である。であるのだが、まずダバが反乱軍の指揮官となるまでがまず時間がかかる。その背景には、ペンタゴナ・ワールドで過去に行われたヤーマン一族根絶やし作戦が行われた事実によるポセイダルの恐怖政治、そしてダバ自身が失われたはずのヤーマン一族の生き残りであったことに由来する。つまりダバは自分の私怨と反乱軍による抵抗運動とを一体視していなかったということだ。むしろ積極的に一緒にしないよう努めていたようにも見える。

 序盤、ダバはキャオとともに惑星コアムの田舎から飛び出して、正規軍に参加しようとしている。この時点でどうやらダバはキャオに自分の本心を隠していたらしい。その過程で盗賊ミヤマ・リーリンとのやりとり、終生のライバルであるギャブレーと出会い、そしてアマンダラ・カマンダラと出会う。それは田舎暮らしをしていたダバが、ペンタゴナという世界の一端を覗く形で少しずつ世界に触れていった過程である。つまり序盤の物語は、ダバが反乱軍の頭目となるための助走期間である。6話で13人衆のレッシィと出会い、正規軍の戦艦を強奪して、惑星ミズンを目指す。そしてミズンに潜伏していた反乱軍と合流し、反乱軍のリーダー・ステラ・コバンのもとで抵抗運動に加わるのである。この時点でダバはまだリーダーになったわけではないので、ステラ・コバンのやり方をみて、学ぶしかないのである。そこでは幾度もステラとの衝突が描かれる。一見してそれは若者と年長者の衝突に見えるのである。だがステラにしてみればミズンにおける貴族としての矜持が、成り上がりの若者を制しているようにも見えるし、一方で自分よりもきちんと戦闘を見据えている若者が、反乱軍内の人望を集めているのを見て、対抗意識を持つのも無理はない。だからアムを引き込んでダバの力を抑制しようとするし、金をばらまいて人望を集めようとする。だがダバはそうしたやり方では、反乱は成功しないことを学ぶ。それ以降反乱軍内の人望を集めながら、ダバはゆっくりと自分のなすべきことを模索するのである。それをモラトリアムというのは簡単である。社会にでることを拒み、学生の身分に甘んじるという立場は、まさにダバの写し身に近いかもしれないし、現代の自宅警備の方々も同様だと思われる。まあダバはそこから旅立ったけどね。

 だがその一方で、ダバは一向に人の上に立つことを嫌うのである。なんともじれったいし、話が動かないから退屈なのだ。だからといって自分のやりたいことはすべてしてのける。このあたりがダバの若さを露呈する部分であり、ダバは組織の中にありながら、どうしても自分の感情を抑えられない人物として描かれる。そうであれば若さゆえの未熟さゆえに、ダバが反乱軍の首魁たる素質にかける部分だといえる。そういう決断はするくせに、人の上に立ちたがらない。

 そんなうじうじした気持ちを晴らそうとするのは、ダバを愛して追いかけてきたファンネリア・アムとガウ・ハ・レッシィという二人の女性である。この二人、ダバに対して実に対照的な接し方をする。アムは常に付きまとい、スキンシップを図る中で、ダバの役に立とうとするがゆえに、健気にがんばる。そして夢は家庭を持ちダバの子供を生むことである。一方のレッシィは13人衆である意地も見栄もあるから、ダバと同列にありながらダバに協力することでダバの役に立つことを選択する女性である。そこには自分にしかできないことをやるためには、女性的な幸せを犠牲にする覚悟を持っている。
 だがそんな二人が認めた男であるダバ本人は、どちらを取るかを決めるでもなく、反乱軍のトップに立って男をあげるでもなく、ペンタゴナ・ワールドをふらふらしながら、いきあたりばったりに出会った人々に影響されながらうじうじしているだけなのである。そういう男を尻目に、アムとレッシィは、一見「男を取り合う」ためのケンカをしているように見せながら、実はダバが立ち上がるのをじっと待っているのであり、ケンカは行き場のない気持ちの発散にも見えてくるのである。まあこういう男の尻を叩くタイプの女性というのは、それこそ「戦闘メカ ザブングル」のエルチやラグとも少し異なるタイプであり、もしかしたら富野監督の持つ女性像の片鱗が見えているのかもしれない。

 そしてアバンタイトルでダバが暗い目をし始めるころ、ようやくダバは自分の立場となすべきことを自覚し、ついに反乱軍を指揮して挙兵する。自分の生まれ故郷であるミズンの大地にキスをし、ヤーマンとしての誓いを立てたダバは、「カモン・マイロード」を名乗ることで、潰えた血の復讐と抵抗運動を同義と認めることで、反乱軍の頭目になりおおせる。33話「マイ・アース」での出来事である。面白いのは同話でギャブレーは13人衆になを連ねる。これまでやや足踏みしてきた二人の英雄が、ペンタゴナ・ワールドの歴史の表舞台に立って名を残した最初の足跡がこの話なのである。
 ここでダバが意を決した最大の理由が二つある。一つはゼネラル・クロソの物語、もう一つは自分の許婚であったクワサン・オリビーがポセイダル配下の近衛師団に配属されていることだ。23話「ゼネラル・クロソ」では、ゼネラル・クロソという連戦連勝をうたわれた戦士が、実は偽者であったのだが、民衆をだましきれず、自分の命を投げ出して、「ゼネンラル・クロソ」の名前とともに自分を支持してくれた民衆のために死んでいったというエピソードである。クロソは当初名前を利用して、反乱軍を内側から壊滅させるための偽者であったが、ダバの説得により「クロソ」の名を汚さぬようにと戦った。ここでダバは人の上に立つ人間とは、名前ではなく何をすべきかでその価値が決まることを、改めて知ったのだろう。そしてクワサンの件はもう一人のヤーマン一族を助けるために、ダバの行動を促す作用を及ぼすことになる。

 さてここで思い出してほしいのであるが、本作「重戦機エルガイム」、全54話である。だがダバが反乱軍のリーダーとして立ったのが33話である。そして反乱が収束するのは最終回の54話であるのだから、反乱が収束するまでに21話もかかるのである。しかも反乱軍が総体的に行った作戦は、惑星ガストガルの首都スヴェートを攻略するために実施した「スターダスト作戦」のみ。しかもこの作戦、名前のとおりガストガルの周辺に漂うアステロイドの小惑星を移動させてスヴェートに落下させ、その混乱のなかでスヴェートを攻略し、ポセイダルを打倒する作戦である。だがこの作戦、名前を聞いただけで作戦概要のほぼ全容を把握できるではないか。もののみごとに穴だらけである。

 ではこれだけの長い時間と話数をかけて、ダバは何をしていたのか。しかも33話という時間をかけてやっとのことでアムやレッシィの思いを受け入れて立ったというのに、そこからまだ時間をかけて何をしていたのか?
 結論から申しあげると、またしてもダバは、ポセイダルを倒す方法を模索する振りをして決断を先延ばしにし、世界の状況を知ろうとしていたのである。ダバが若いなりに世界をきちんと把握して、自分の中の判断基準を持とうとしていることには瞠目に値する。だがものごとには勢いや流れというものがある。おそらくダバが反乱軍のリーダーになったタイミングは、反乱軍にとって異常なほどにテンションが上がったときであろう。逆に時期尚早であると判断を見誤るポセイダル軍の足を乱すことが出来る可能性もある。とすればこのタイミングで勝負をかけてもいいのであるが、ダバはそうしない。そうしたダバの決断を妨げるのは、敵がポセイダルだけではないことだ。

 ポセイダルからサートスターという人工天体の自治権を有しているフル・フラット、そしてポセイダルの元で13人衆を組織し、事実上正規軍を束ねるギワザ・ロワウ、ポセイダルの近衛師団であるクワサン・オリビー、そして常に正規軍と反乱軍に武器を供与するアマンダラ・カマンダラ。そうしたダバの敵に与するものたちの間をふらふらしているギャブレーもまた、ダバの敵である。ダバはこうした人々の間をさまよいながら、敵と味方を判別する。それもオリビーを助けるという名目で、反乱軍の士気にまで影響するほど自ら行動する。劇中セムージュは、ダバに向かって「自分ひとりの体だと思うな」と釘をさすのであるが、そうした忠告を理解していながら、彼はその行動を制限するものを徹底して拒むのである。その上で、アムとレッシィはそうしたダバを受け入れ、あまつさえその行動に協力してしまうのである。これではダバは単に甘やかされて育てられた暴れん坊である。しかも無駄にカリスマ性を持たされている分だけ、始末が悪い。結局だれを味方につけるわけでもなく、どさくさでオリビーの色香に迷ったギャブレーを一人頼み、真なるポセイダルにぼっこぼこにされる訳である。その勝利は単なるバイオリレーション・システムの不備であり、その不備を誘発させたのは、真なるポセイダルであるアマンダラ・カマンダラが、自分を愛した女たちを甘く見ていたせいである。

 ここまで見てくると、「ダバ・マイロード」という人物は、何者であるかが見えてくる。前回も書いたとおりダバはギャブレーであり、アマンダラである。ましてやアマンダラは、ダバ同様に、自分を慕ってくれる女性が二人いることもあり、ダバはまさしく新時代のアマンダラとなる可能性があった。ダバがなぜ最終回にオリビーを支えながらコアムに帰る結末は、一見新しい治世の権力者の座に固執しない、真なる反乱のヒーローとしての資質を見せるのであるが、別の側面を覗けば、それはアムとレッシィから離れることで、自分がアマンダラとなることを拒否したのである。
 しかもギワザもステラ・コバンもゼネラル・クロソですら、ダバの写し身であるとしたら、物語としてもこのペンタゴナ・ワールドはダバを中心に回っているといっていい。すべての世界観はダバ一人をだらだらと成長させるためのゆりかごであったと結論づてけてもいいだろう。そして新たな世界の治世を他人にゆだね、自分はその舞台を去っていく。かっこいいじゃないか、ダバ。

 最終回、すべての決着を終えて、全員がダバとオリビーが去るのを見届けたとき、レッシィはこの戦争の結末がすべてのヤーマンへの復讐を完成させるものであったことを指摘する。このあたりの皮肉が富野監督流だといえる。この言いようはあくまでこの戦争の結果の側面を指摘したに過ぎない。しかもそれをレッシィに言わしていることが、ひどい。愛した男が成し遂げた成功の側面を、悲劇として語らしているのである。それは痛烈なアンチテーゼであるから、否定しようがない。だがそんな話、誰が聞きたいのか? 結局長々と見てきた一人の男の反乱と血の復讐は、どうやってもあがなえないまま終息したようにみえる。それは54話を見てきた感慨や気持ちよさとは程遠い結末だったのである。

 富野監督の制作直後のインタビューを見る限り、ダバがあの時点で人生のすべてを終わってしまったのではないことを明言している。あれほどの女性と付き合い、世界を変転させるだけの経験をつんだ人間が、たった一人の女性の世話を焼くだけで終わってしまうはずがない。いずれむくむくと気持ちが起き上がって、またガストガルにでて来るだろうと言っている。それは否定しない。それはダバがいかに長い時間をかけて自分を成長させたかを知っているから、その強靭に成長した精神は、こんなところで終わりはしないだろうということは、気がつくことが出来る。だがそれを描かないことに、何の意味があるのだろう? そう考えると、そうはいいながら一度引っ込んだ人間がもう一度世界の中心に戻ることなんかありえないと気がつく。そうやっぱりダバはあのままクワサンと死にゆくしかないのである。監督が否定しても、見直して気がついたダバの性格から考慮すると、そんなかっこ悪いことは、彼は決してしないだろう。

 3回に分けて書き綴った「重戦機エルガイム」という作品。やっと完全に見終わることができた感慨こそあるが、その結果としてもてた感想は、決していいものではなかった。残ったのはいい経験であったということぐらいか。だがその「いい経験」というものは、ダバが54話をかけて体得したように、自分自身で磨くしかないのである。そうした経験がないものは、富野監督流に言えば、決して本物にはならないだろう。富野監督はそのためには時間をかけろということが言いたいのかも知れない。たとえ見た目では軽くても、せいぜい二人の女性とぐらいは付き合って見せながら、長い時間をかけて磨いた経験は、必ず自分の支柱になると考えているのかもしれない。「芸は身を助ける」という言葉があるが、肌身をかけて磨いた芸でなければ、助けてはくれないそうである。そのためのモラトリアムも必要だということだろう。まあ今回の私の場合は、だたアニメを見て批評を書くだけの話ではあるのだが、いやはやそれにしてもいい経験であった。

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こんなしんどくて長い話ばっかりじゃ、だれも買ってくれないかもね。
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