必殺! 中村主水を偲ぶ~藤田まことさんの逝去によせて~

 今朝、なんだか調子が悪いと起き出すと、外は大雪。なかなかに久しぶりの光景である。車で家内を近在の駅に送り、自宅に戻っていろいろやっていたら、昼頃に藤田まことさんがお亡くなりになったというニュースが飛び込んできた。バンクーバーの熱気にあてられ、今朝の大雪で何も感じることなく普通に暮らしていたのに、急に心が沈む思いである。「てなもんや三度傘」「必殺」「剣客商売」「はぐれ刑事純情派」など、さまざまなテレビ作品に登場し、われわれを楽しませてくれた名優が、いまこの世にいないのである。いずれテレビでは生前のVTRが流れるだろう。きっとその多くは必殺に違いない。だが舞台俳優としても「東海林太郎物語」などで活躍されてもいたし、そもそもデビューは歌手であったらしい。また喜劇映画やクレイジーキャッツ主演の映画には常連として出演しているかたである。その活躍の場は大変に広い。その反面、ご家族のことになるとあまりいい印象がなく、家族で経営していた飲食店の相次ぐ失敗で、ずいぶんと多額の借金をなさったそうで、ずいぶんとしんどいことも多かったそうである。そんなときでもブラウン管の向こうで素晴らしい演技を披露してくれた藤田さんに、今はだた安らかにお休みくださいとしか言いようがない。
 今回は、おそらくもっとも長く藤田さんの役者人生につきまとったであろう「中村主水」にスポットをあてて、本ブログらしく藤田さんにお別れを申し述べたい。

 中村主水。この男の人生の前半はどうやら将来を嘱望された人材であったらしい。流派はさまざまではっきりしないが、いずれにしても免許皆伝の腕の持ち主であり、その腕と才覚でもって同心に取り上げられた。だが初めて配属になった佐渡金山での生活と違い、江戸北町奉行所転属になってからは、金づくで行われる多くの不正に嫌気がさし、まじめに働くのを諦めたという。佐渡島で知り合った「念仏の鉄(演 山崎努)」、「棺桶屋の錠(演 沖雅也)」を仲間とし、人殺しという裏稼業の奈落に落ちていったのも、裏返しの正義感だったのである。だがその反対側で、奉行所では「昼行灯」とののしられ、帰宅すれば義理の母と妻に「種なしカボチャ」と蔑まれる。それでも彼なりに職務を愛し、家族を愛してきた男だったろう。その姿はひたすら家庭に居場所を定められないサラリーマンの姿、そのままである。

 中村主水が初めてテレビの登場したのはシリーズ2作目「必殺仕置人」である。公然と賄賂を要求する子役人に収まろうとする中村主水が、仲間たちと共に許せぬ悪を闇に裁いていくこのシリーズは、喝采をもって世間に受け入れられた。その一番の理由は中村主水のキャラクターだろう。この初登場時にすでに出来上がっていた設定は、さまざまな亜種を生み出す結果になるものの、結果的に中村主水に行き着いてしまうほどである。その鬱屈さ、ひねくれぐあい、そしてくすぶる正義感。闇の仕事師たちが持っている要素をすべて兼ね備えたようにすら見えるそのキャラクターは、どれほど奇異な人物とでも容易に絡む事ができる強靱なもので、そして幅も奥行きも広い。だからどんな人が見ても共感したり重なる部分の余白が大きい人物と見ることもできる。それは大多数のサラリーマンの夢からできているキャラクターだからかもしれない。

 そうしたフレキシブルな中村主水のキャラクターは、貪欲に時代と世相を取り込むし、そのキャラクターを変転させる。中村主水は時代であり、世相である。だから80年代末期に時代に裏切られ、飽きられたのもそれ故であるし、理由もなく復活してみせるのも、それ故であるといえる。そしてその変転は、まさに中村主水の「青春」とも呼べる個人史でもある。

 中村主水にとって最初の変転は、まさに鉄と錠との再会であったろう。やがて思いを同じくした3人は、下働きの半次とおきん引き入れて「仕置人」チームを結成する。そのやり方は、前作で見せた闇の世界の厳しい掟や、様式美ともいえる「蔓」や「起こり」、そして「仕掛人」の関係などをとっぱらった、ざっくばらんなシステムとして再誕するのである。そして彼らの思いつくまま気の向くままに、市井の最下層の人間たちの恨みのこもった小金を相手に、人殺しをしていくのである。仕置人1話では、錠、鉄、主水が、殺しの方法を巡って息巻いている様子が見て取れる。そこにあるのはささやかな正義でアドレナリンが燃えたぎっている男たちの熱量である。それを納めるのは主水の台詞である。「30になっていいかっこしようなんざ、落ち目になった証拠よ」。だがそれとて盛り上がった自分の思いを押さえつけようとする台詞でもある。現在の枯れた主水しか知らない人にとっては奇異に映るかも知れないほどの、意気揚々とした姿の主水なのである。その仕置きも実にやりたい放題。単に殺すだけでなく、上位職にある侍の骨を外して動けないところを、自殺した女性といっしょに表にくくりつけ、不義密通の罪で社会的に抹殺するという悪辣さである。だがそんないい気になっている彼らにも別れが来る。最後の仕置きで奉行所に手配が回り、江戸を出て行かざるを得なくなる。このとき主水は一度は鉄たちと一緒に江戸を出る決意をする。仕事も家族も捨てて、仲間をとろうとしたのである。だが鉄のいかさまを使う優しさで、手配の回っていない主水だけは江戸に残ることになるのである。

 これ以降、市井でいつも通りの日常を生きてきた主水が、ふとしたことから裏稼業に戻るというのが、シリーズの定番となっていく。昔の仲間にそそのかされた「暗闇仕留人」、女性元締めに押し切られて再開した「必殺仕置屋稼業」、そして自分の直属の上司の不正に怒りを燃やして再開する「新必殺仕置人」などである。その歴史の中で、幾人もの仲間と出会い、幾度もの別れを経てきた男、それが中村主水という男なのである。そしてそれはまた奉行所の中で自分の居場所が無くなっていく歴史でもある。そしてまた仲間の死に立ち会うという経験を繰り返す。中村主水は生きることに貪欲にならざるを得なくなるのである。

 暗闇仕留人に登場した「糸井貢(演 石坂浩二)」は、時代の変転を待ちわびつつ、人殺しの業に悩み苦しみながら、それを主水に問いかけて死んでいった。仕置屋稼業の女元締め「おこう(演 中村玉緒)」は主水への愛を隠しつつ、生きて裏稼業を死ぬまで続ける事を主水に諭して死んでいく。そして仕業人最終回では、仲間である赤井剣之介(演 中村敦夫)を殺された復讐のために、殺しの相手に名を告げて斬り伏せる。それも生き残り、江戸を逃げようとしている仲間の前で。どんなことをしても生きて仕事を続ける事が、死んでいった仲間へのけじめだとでもいうように、主水は死なないことを常に選択する。それは他の仲間から見れば、自分大事、表の仕事と家族が大事というように見えるかも知れないのだが、仲間の失敗を最大限フォローするのもまた主水の仕事である。だから自分はできるだけ前に出ず、ぎりぎりまで正体を隠しつつ、最後まで生き残るために考えを巡らすのである。

 そんなさまざまな出会いと別れを繰り返した主水は、大きく成長していたのである。それがはっきりと見て取れるのは、シリーズ10作目「新 必殺仕置人」で鉄と再会したときの台詞だろう。かつて江戸で大暴れをし、一度はすべてを捨て去ってでも共に江戸を去ろうとした仲間である鉄との再会に際して、「会わなかったことにしておく」と言い残して足早に去っていく主水なのである。このときすでに主水は鉄との別れを予感していたのではないか、そしてその死を目の当たりにしたくないと思ったのではないだろうか。それは再び裏稼業に自分が手を染めることであり、フォローしても仕切れない命がけの仕事である自覚が、彼の中で芽生えたからだろう。以前の仕置人時代では、主水が鉄のところに入り浸っている様子も見て取れるが、新仕置人ではできるだけ会わないようにすることを心がけているようにも思える。だがそこは時間を隔てた仲間であるから、鉄もなれなれしい態度で、かつての仲間のようには主水と接しない。むしろ鉄はもう一人の仲間の已代松(演 中村嘉津雄)にはいろいろとちょっかい出しているようではある。新仕置人の中で主水はまさに秘密兵器であり、元締め組織「寅の会」の中においても、顔の知れない3人目という位置づけで仕事をしてきたのである。それを最大限に利用したのが、新仕置人の最終回「解散無用」である。「寅の会」のたががはずれ初め、仲間内の離反者により寅の会がつぶされる。そして鉄たちのグループにも、誘いをかける離反者グループ。だが3人目がわからない。そこをつけ込まれて仲間になるよう強制してきた離反者たちは、已代松を拷問にかけ廃人にし、鉄の必殺の右手すら火で焼いてしまう。グループ解散という最悪の事態に、意を決して反逆に出る中村主水。仕置人最後の仕事は完了したとき、それは鉄の死、そして已代松の退場という悲劇であったのだ。だが主水は裏稼業を辞めることなく、続く「江戸プロフェッショナル 必殺商売人」にて再び仲間の死を目撃するのである。それは同時にやっとできた妻との子供の死産の時でもあった。

 そして表の仕事で八王子に左遷されていた主水は、再度江戸に舞い戻り、裏稼業を再開する。それはみなさまよくご存知の「必殺仕事人」の物語なのである。ここでも主水は数々の仲間との出会いと別れを経験するが、その重みはそれまでの仲間の死とまったく変わることなく、主水の中の想い出となっていく。そして一度は本人が死んだと思わせておきながら、長々と生きており、後輩となる渡辺小五郎とともに仕事に手を締めながら、まだ生きながらえているのである。そう、中村主水はまだ死んでいないのだ。

 だが確実による年波の影響を受けていることは確かである。思い返してみれば、中村主水が過ごした時間は、設定上はかりしれない。華やかだった江戸の時代に生きながら、幕末まで生きているのである。だがそうした史実とはかけ離れた、シリーズの流れの中で、中村主水は確実にそこに生き、戦っていたのである。架空のキャラクターではあるが、それを人の一生と仮定することも可能だろう。そこには失った仲間、別れていった仲間との濃密な時間が反映されて、中村主水は形成されている。そのことを知っているから、どんなに時間の位相がずれたような設定でも、シリーズを愛しながら見てこれたのである。「トラは死んで皮を残す」といわれるが、大抵の人間が死んで残るものなんてそうはないはず。だが藤田まことさんは、死んで中村主水を残したし、しかも良くも悪くもまだ生きている設定なのである。だからといって別の人間が中村主水である必然などはない。ただそこにいたと思わせるだけでいい。そでにテレビ界的には必然を持たない必殺シリーズであるかも知れないが、まさに命をとして駆け抜けた中村主水という人物は、私にとってもテレビ界にとっても、貴重な存在であり続けるような気がする。

 重ねて申し上げる。藤田まことさん、ありがとうございました。安らかにお休み下さい。

 

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今更ですが、再評価されてもいい作品かもしれません。
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必殺シリーズの型そのもの

中村主水は必殺シリーズとイコールの存在でしたよね。
池波正太郎先生はお気に召さなかったらしいですけど。

でも、去年必殺仕事人の連ドラ、はぐれ刑事そして先日の剣客商売のスペシャルドラマといい
まるで自分の死期をを悟った藤田さんが主演ドラマのけりをつけたような形になってしまいました。
3月から新しいドラマの仕事も入っていたらしいので仕事に対する意欲はあったのでしょうけど。

しかし時代劇を演じることのできる役者さんがどんどん減っています。
藤田さんの薫陶を受けた村上弘明さんあたりに頑張ってほしいところです。

ほんと、そのとおりですね

mineさま
 おっしゃるとおりですね。「JIN」の降板も、自分の体調と新しい仕事を引き受けないための苦肉の策だったような気もします。本質的に朗らかな方でしたので、そのお人柄がでる「剣客商売」は、晩年の当たり役だと思っています。それにしても惜しい方を亡くしました。森繁さんの時には、いくぶん仕方ないと思ったりしたけど、まだお若い藤田さんの場合は、やはり悔やまれるというのが本音です。いや、命に区別はないのだけれど、どうしてもそう思ってしまいます。たんなるひいき目ですけどね。

「常にいる」存在でした

波のまにまにさん、こんにちは!

かなり前の記事へのコメントで失礼します。
言いたいことがあってずっとブックマークしていたのですが、どうも文章がまとまらないまま日数が経ってしまいました。

父親の好みのテレビを見て育った為、時代劇はたくさん見ました。
大抵は居間で座って見ていましたが、『必殺』シリーズは少し下がった時間だったのでお風呂上りに髪を乾かしながら見ていたイメージなんですよ。

1番好きだったのはモチロン中村主水でしたが、棺桶の錠、飾り職人の秀、組紐屋さん、政、梅安など好きな登場人物も多いです。

本当をいうと「藤田まこと」という俳優さんは子供の頃好きじゃありませんでした。
クレイジーキャッツや大橋巨泉やドリフが大好きでしたので。

それに一時人気が低迷していた頃だと思うのですが、ある企業の慰安会で歌謡ショーの司会をしていた藤田まことさんの姿が目に焼き付いていて・・・

中村主水や「はぐれ刑事」で活躍されるのを見ながら、「良かったね」なんて余計なコトを思っていました。

「はぐれ刑事」の16時からの再放送を幼稚園帰りに見て育った我が子は、訃報に接して本当に残念そうでした。

「大人になったら東京に行って握手してもらおうと思ってたのに!!」

早すぎる訃報に、御大と比較したのは波のまにまにさんだけではない・・・とお伝えしてお仕舞いにします。

相変わらずの乱文でご迷惑をおかけします。

No title

ローガン渡久地さま

 コメントありがとうございます。

 じんわり効いてくるボディブローのようなコメント、いまさらながら故人を偲び、じわっとわいてくる涙を抑えることができそうにありません。

 「中村主水」という役は、藤田まことさんが精魂込めて作られた役でありましたから、シリーズが中断した時には、中村主水にも藤田まことにも会えないという思いがよぎりました。そのぶん、「はぐれ刑事」がうさんくさく見えたりして。

 でも「はぐれ刑事」のおかげで、いつでもそばにいる存在だった。「剣客商売」での円熟味を増した演技も若い嫁さんといちゃついている茶目っ気のある演技も、楽しませて貰いましたもんね。

 ああ、今夜は必殺のDVDで一杯かなあ・・・・。ぐす・・。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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