「乃木坂春香の秘密」~”そんなわけねー”というズレ~

 これといって特徴のない、まさに「ラブコメ」という形容詞以外が似合わないような作品を相手にするのは、とてもつらい。しかも日常以外の絵がないのはいよいよつらく、本当に何を書いてよいのかわからない。でもこういうわかりやすい「ラブコメ」って今後地球の歴史に果てが来るまで、永遠と繰り返されるんだろうと思う。なぜか? それはシンプルでいて面白いということが、視聴者にわかりきっているからだ。いわば「安全パイ」だ。
 深夜遅くに帰宅するアニメ好きの男性の誰もが、「攻殻機動隊」を楽しみにしているわけではない。オタク産業がイコール「萌え」産業であるならば、その大半はどこに焦点があっているのかわからないようなデザインの、目の大きい美少女と劇中で言われているような形骸化した少女が、半裸で乳揺らして顔を赤らめ、ついでに妄想先の主人公に恋をすれば、累計的な萌えアニメが出来上がるし、それを楽しみに深夜枠のアニメを斜め向きに見ているんでしょうよ。東京都が目指す基幹産業の根幹の真実がこの辺だとしても、産業として成立しているんだからいいではないか。今回私が見た「乃木坂春香の秘密」というアニメも、実にわかりやすく、この類型にあてはまる。ではこのアニメを見て、何を言おうか?

 「乃木坂春香の秘密」はラノベを原作とした作品であり、アニメ自体は2008年7月から1クールで放送された。その後、第2シーズンとして「~ぴゅあれっつあ♪」という作品が2009年10月から1クール放送されているが、今回は第2シーズンを含まずに話を進めたい。
 本作の根幹は以下の項目でできている。

・主人公はごく普通の高校生・綾瀬裕人
・同級生の乃木坂春香は、良家のご息女で、文武両道、良妻賢母、人柄よしのすこぶる美人であるが、いわゆるアニメ好きのおたく趣味持ち。
・春香は中学時代に、オタク趣味をからかわれて転校したつらい経験がある上、両親にも内緒のままこの趣味を続けていた。当然高校でのカミングアウトはなし。
・偶然春香の趣味が裕人にばれてしまい、その秘密を共有したことにより、二人は徐々に親密な関係となる。

 さらにお金持ちである乃木坂家には、父親のもつ私設軍隊があったり、その父の威厳を歯牙にもかけない母親が君臨していたりする。また春香の妹の美夏も裕人を「お兄さん」と呼んで春香との仲をからかいながら、二人を見守る。そして春香たちのメイドも同じスタンスである。

 いやもう、文章で説明すると、びっくりするぐらい恥ずかしい上に、なんとも中二な設定であることか。だがしかし、良家の子女の実家が、無意味に金持ちでアホなところ、春香と裕人の互いの思いの無条件さなどを見ると、ラブコメの傑作「うる星やつら」の縮小再生産である気がしないでもない。さらに春香のうぶさといったら、お願いだから見ている深夜アニメをもう少し深読みして欲しいほどのうぶうぶなのである。こういう娘に「化物語」を見せると、「阿良々木くんはいけないと思います」とかいわれちゃうんだろうか? 間違っても「クイーンズブレイド」とか「スクールデイズ」とか見せちゃいけないんだろうなあ。でも「そらのおとしもの」ぐらいは見てもらって、翌朝に「どうしてパンツが飛ぶんですか?」とか聞いてもらったりしてもいいかも・・・・オ、オッホン、閑話休題。

 これほどまでに王道でわかりやすく、基本に忠実にできている意外性もないような作品に、どうして我々が食いついてしまうのか。今回はこの件について検証してみたい。あくまで仮説であるのだが、その正体は現実とのものすごくミニマムなズレなんじゃないかと考えている。
 この物語の根本的な問題として、いまさらオタク趣味を持っていることが、まわりから阻害されると思い込んでいる「春香」というキャラクターの設定にある。そのキャラクターを補完するため、父親との確執や中学時代のトラウマというエピソードを付け加えているのだが、たとえ良家の子女であっても、オタク趣味ぐらい許容されてもいい世の中ではないか。事実数年前に一般人の家庭に嫁がれた天○家のご息女だって、そういう趣味をお持ちであったというではないか。たとえエピソードを追加されてはいても、現象面だけ取り上げれば、良家の子女がオタク趣味を持っていること自体は、何の問題もないはずである。さらに言えば、裕人が声を大にして、「オタク趣味は人間のパーソナリティであり、春香の人間性には何の影響も及ぼさない」とかの大上段な人間肯定の意見だって、すでに時代錯誤な話である。偏見の目はあっても、それに理解を求めながら社会生活を営むことは、決して問題ではない世の中になっている。周りの人間だって、オタクと距離を取って付き合うスキルがあってもいい時代だ。まあなんにせよ、現実とズレを感じる設定である。

 これだけではない、大金持ちが私設軍隊を持っているという、「うる星やつら」以降伝統の勘違いだって、そんな強権発動できる父親が、母親に頭が上がらないとか、町中で数回ぶつかっただけで勝手にフラグを発生させ、裕人に近づく春香以外の少女の存在や、そんな裕人に「お兄さん」といって不信感も持たずになつく妹とか、設定の端々までこうした現実とのわずかなズレが生じている。もしかしたら私たちはこうしたズレを楽しんでいるのではないか?

 「笑い」というものは、実に多様な知識や段階、構成要素から成り立っている。人間が笑う理由は、その時々のシチュエーションや個々人の知識量に左右される。そこにある現実との若干のズレが、笑いを誘うというのは、実感として理解いただけると思うのだが、どうだろう?
 たとえば「タカ&トシ」の漫才やコントを見ていると、笑いを生み出すパターンがほぼ決まっている。有名なつっこみである「欧米かっ!」という台詞は、ボケに対してツッコミを入れていると見せかけて、同時にボケている。通常のツッコミの常識とは少しだけズレたボケを含むツッコミだから、これを面白いと感じるし、さらにこの上でぼけるから、笑いの相乗効果が発生する。このパターンを繰り返すことにより、最初の笑いが次の笑いに飲み込まれるように、連鎖的な笑いが形成される。しかもボケが最初のボケよりもズレが大きくなっている。最後のボケから最初のボケが忘れ去られるようなズレの連鎖が、笑いを生んでいることになる。
 笑えるかどうかは別として、こうした現実のズレは、傍目で見ている分には、実害が無く安心して観られるし、案外と好ましいものに思えるから不思議である。「乃木坂春香」の物語でも、最初の設定のズレが、それ以外のズレの連鎖を引き起こすためのきっかけとなっている。それゆえに、誰が見ても好ましい範囲に止まっているズレが安心感を誘うから、「乃木坂春香の秘密」という物語は、2シーズンまで受け入れられたのではないだろうか?

 ちなみに、この現実とのズレのズレ幅が大きくなれば、それは当然受け入れがたくなる。人を選ぶような作品になるのである。笑いでもそうだし、いわゆる「スラプスティック・コメディ」というのは、まさにこのズレの幅がかなり広がったものとなる。私にとってはかの赤塚不二夫の名作「天才バカボン」などがそうである。あまりにシュールすぎて、現実からのズレが位相差空間にまで感じられ、はっきりと笑えるのかどうかが怪しくなってくる。そのどっっちつかずの感情を持てあましている状況を俯瞰して笑うことすらできないでいることがある。こういうとき、やはり天才は余人を寄せ付けないものなのだなあと、しみじみ故人を思うのである。

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「ぴゅあれっつあ♪」は取り上げませんからね(笑)。
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