OVA「聖戦士ダンバイン」~なんか、足りなくね?~

 富野由悠季監督の手によるバイストン・ウェル・サーガの一つである「リーンの翼」が、全4巻で角川書店より再発刊されることになっている。同時にOVA「リーンの翼」のほうも再パッケージ化され、BOXとして再発売中であり、否が応でも富野&バイストン・ウェルに俄然注目が集まるのである。いやもう、実にめでたいと、呑気に言い切ってしまおう。実際「リーンの翼」の小説版は、今は亡き角川ノベルズとスニーカー文庫での発刊を最後に、書店から姿を消しており、長らく後続のファンには手に入らなかった代物だ。バイストン・ウェル関連の物語といえば、スニーカー文庫で再発された「オーラバトラー戦記」、OVAとしても製作された「ガーゼィの翼」、そして「ファウ・ファウ物語(リストリー)」に本伝であるテレビ版「聖戦士ダンバイン」と、さまざまなメディアで展開している。これら一連のバイストン・ウェル関連の物語が、すべて富野監督の手によるものであるかといえば、そうでもない。そこで今回はテレビ版終了後に発売されたOVA「聖戦士ダンバイン」を題材に、富野監督の手を離れたバイストン・ウェルの物語をご紹介してみたい。「リーンの翼」の発売記念のくせに、あいかわらずの右斜め的なはずしかたで恐縮であるが、お付き合い願えれば幸いです。

 さて、まず最初に基本データから。本伝テレビ版「聖戦士ダンバイン」の終了から4年後、1988年にテレビ版の総集編ビデオが3巻に分けて発売される。OVA版「聖戦士ダンバイン(正式には「New Story of Aura Battler DUNBINE」)」というタイトルで、総集編と抱き合わせで30分×3本で発売されている。雰囲気はテレビ版よりもややおどろおどろしいが、それは当時バンダイが発行していた模型誌「B-CLUB」誌上で展開されていたデザイナー出渕裕氏による「AURA FANTASM」の影響が色濃く反映されているためであり、実質的にはこの「AURA FANTASM」の映像化といってもいいだろう。出渕氏はテレビ版後半のメカデザインを担当(ビルバイン除く)したデザイナーであるが、前半でオーラバトラーの世界を立ち上げた宮武一貴氏のデザインを踏襲し、さらに内蔵武器などを加えたデザインと、本作で見せたオーラバトラーの本来のイメージを作り上げる。しかも本来生物の皮革などを用いて作られたオーラバトラーを、より生物的なデザインで昇華させた「AURA FANTASM」や本作の2体のオーラバトラーのデザインは、テレビ版以上に「バイストン・ウェル」世界のファンタジー感を想起させ、あらたなバイストン・ウェルサーガを作る契機になったことは、想像に難くない。

 物語は地上で迎えたラストから700年後のバイストン・ウェルが舞台となる。
 黒騎士ラバーンは自分の右腕となるガロウ・ランたちをあつめて、日々少数部落バラン・バランを襲っていた。それはバラン・バランに隠された伝説の秘宝を手に入れんがためである。一族とともに戦いの日々に明け暮れる部族の王女レムルは、戦いに巻き込まれた狩人の少年シオンとともに、ラバーンに捕縛されてしまう。ラバーンの居城で秘宝のありかを詰問されるレムル。だが「聖戦士」としての資格を秘めたシオンの手により、レムルは助け出される。バラン・バランに戻った二人は、そこで村に隠された秘宝の正体を知る。それはラバーンが使っていたような、巨大なオーラバトラーであった。ラバーンたちの襲撃に対抗するため、とっさに秘宝に乗るシオン。シオンとラバーンが乗るオーラバトラー同士の戦闘が始まり、どうにかラバーンたちを追い返すシオンたちであるが、そんなシオンとレムルを助けたのは、聖戦士の誕生を待ち望んでいたロズン家の騎士団たちであった。
 騎士団と相容れないシオン。だがそんなさなかにもラバーンは戦闘をしかけ、レムルをさらっていく。シオンたちはラバーンの居城に潜入しレムルを助けようとする。ラバーンの居城で一人ほくそ笑む奇っ怪な老人。それはバイストン・ウェルにあらゆる機械をもたらしたショット・ウエポンであった。彼はあの地上でのラストバトルの中で、なんとかバイストン・ウェルにたどり着いたが、その体はいつしか朽ち果てつつも、魂だけは死ぬことができない状態にあるという。ラバーンの居城で、一人核ミサイルの稼働準備をしつつ、居城の奥に隠されているオーラロードの逆流するタイミングを見計らいながら、生き続けているのである。その胸の内に秘めた野望とは・・・?
 そんなショットの野望とは無関係に、ラバーンとの対決を深めるシオン。熾烈なオーラバトラー同士の対決は、やがてオーラロードを逆流させ始める。ショットは自らの野望を達成させるために、核ミサイルの発射ボタンを押す。逆流したオーラロードに乗った核ミサイルは、地上に到達して爆発、時空のゆがみを人為的に発生させ、そこに自分の活路を見いだそうとしたショットであったが、オーラロード内で爆発した熱に巻き込まれて、ラバーンと共にショットも消滅する。その爆発の中でもシオンのオーラバトラー・サーバインは不思議な力でシオンやレムルたちを守り、バイストン・ウェルは安寧を取り戻す。そしていつかシオンとレムルは伝説として語り継がれていった。

 どどのつまり、この物語はとある部族の秘宝を巡って、夜盗と争ったっていう話である。そこにその世界には不釣り合いなオーラバトラーが2体登場し、しのぎを削るという話なのである。本作の特徴の一つは、そうした割合と単純な話に落とし込まれた物語を背景に、バイストン・ウェルという世界の姿を活写したということだろう。森に住む珍獣たちを狩ったり食料にしたり、物々交換のための材料とする。鎧をつけた騎士がいて、日常を暮らす一般人がいて、獣を使役して他人と争い、できるだけ強い武器を手に入れたら、その力を行使せずにはいられない。中世のヨーロッパ風でありながら、むしろ剣と魔法のファンタジーの世界に似通ったバイストン・ウェル。そこでの生活や戦いは、そこに住む彼らにとって、特別なことではなく、ごくあたりまえの日常である。牧歌的である日常に、機械の影が押し寄せるまでは・・・・。

 当時まだ「ハリーポッター」や「ロードオブザリング」などのファンタジー映画がなかった時代、そんな中でも純然たるヒロイックファンタジー作品として、十分見応えがある作品である。魔法が科学に置き換わっている以外は、かなり自由度のあるファンタジー世界である「バイストン・ウェル」という世界を、存分に味わえる物語だし、なにより屁理屈も小難しい話もないのであるから、上記のような出色の出来のファンタジー映画を見た後でも、問題なく楽しめる作品である。
 やはり2体のオーラバトラーであるサーバインとズワウスのデザインには心惹かれる。生物的な箇所を残しながら、明らかに人工的な手の加わった形状のギャップ。それが渾然一体となって一つのフォルムに到達しているデザインだろう。残念ながら、その素晴らしいデザインは背景動画のような絵と動きにより、私たちが爽快感を得やすい、いわゆるロボット然とした動きはできず、映画「風の谷のナウシカ」に出てくるオウムに近い動きである。重厚感は感じられるが爽快感を犠牲にしたその動きは、迫力ある絵に反してロボットものの楽しみを減らしてしまっている。

 面白いのは地上でのラストから700年という時間の経過である。あの出来事は、地上での出来事をすべて最後のシーラ・ラパーナによる浄化で、バイストン・ウェルに帰還させたのである。その結果、あの戦いに参加した一部のマシンがバイストン・ウェルに戻る事で、あらたな災厄に種になっていることだ。
 ラバーンの居城は帰還に巻き込まれたアメリカの原子力空母だ。その船首が岩山に着き出しており、城塞のシンボルとなっている。またショットが使役している機械類も、その空母に付けられていた計器類を使用していると見ていいだろう。彼自身が親しんだ機械類を、そのまま使用している感覚だとすれば、どれほどショットという男は、バイストン・ウェルに深く関わっていたのだろうか。ズワウスはまさにきっとあのバーン・バニングスが乗ったズワースだろう。だがサーバインは異なる。ズワウスが内蔵火器を持っているが、サーバインは剣のみである。このことを考慮すれば、地上での一件以前に開発され、秘匿されたまま地上に放り出されなかったマシンだと言える。マシンを地上に投げ出したのはフェラリオの王・ジャコバ・アオンであるが、ジャコバもずさんなことをしたものである。

 この物語の主人公は、一見するとシオンとレムルのように見えるが、それだけだと単なるヒロイック・ファンタジーの域を一歩も超えずに終わってしまう。むしろオーラロードの逆流と、自分の生や死にしがみついたショットこそが、本作の真の主人公ではなかろうか。
 そもそも「バイストン・ウェル」という世界は、人間の魂の行き着く先、地上と海のはざまにある世界とされている。人間の世界と地続きの、ホビットやエルフがいる「指輪物語」的なファンタジーの世界ではなく、テレビ版ダンバインの総監督富野由悠季が考案した、死んだ人間の魂が安息の場所である。そしてこの世界は、おそろしいことに、人間として生きていた業を背負ったまま行き着く世界でもある。だから人間が生前にもっていた業から逃れて、楽しく魂を休ませる場所ではなく、再び地上への回帰を望みながら、その業を背負ったまま修練するための世界なのである。人間がなぜバイストン・ウェルに出入りできるかといえば、業を背負ったものは、バイストン・ウェルも地上も関係ないからであろう。出入りするために必要な「オーラロード」というものが必要ではあるが、地上にある人間と、魂となってもバイストン・ウェルに居続ける人間たちは、まったく同種である。そこにマシンが突然やってくる。それは人間よりも大きな力を持っている。その力はバイストン・ウェルの人間に野望を抱かせ、バイストン・ウェルを戦乱の世界にたたき落とす。それを悲しんだジャコバが、マシンとともに戦争に荷担する人間たちを地上に放り出したのが、テレビ版での物語である。人間の超えられない欲望や業が、バイストン・ウェルをそのままにしておけなかったのである。

 翻って本作を見ると、その欲望はラバーンにも引き継がれているが、その欲望はかなり小さく、せいぜい自分の目に見える範囲の人間を従属させたいという願いでしかない。だがショットの野望はどうだろう。反面で死ぬことができない自分を呪い、死ぬことを望みながら、それでもまだ地上にもバイストン・ウェルにも未練を残して、自分の権勢を欲しているのである。そこでかり出すのも核ミサイルとういうのが、情けない。いっそ時空振動弾でも作ってくれればいいのだが、それをオーラロードの逆流で地上に被害をおよぼしてってあたりが、彼の身の回りの科学の限界だったとも言えるし、結局「核」なのかってあたりは、所詮は大戦後生まれの発想だともいえる。しかも成功しても失敗しても、どっちにころんでも自分の野望のどちらかは達成できると踏んでるあたりが、またせこい。こうしたことが、人の情念や業を背負った人間たちの人間模様が味わいであった、本来の「富野版」バイストンウェルとは一線を画す結果となる。つまり足りないんですよ、人間の情念や怨念が。

 いやむしろ、テレビ版「聖戦士ダンバイン」のしんどいところを抜こうと思えば、そこを抜くしかない。けれどその発想は、まだ当時のファンタジーが浸透しきれていない日本においても、たんなるヒロイック・ファンタジーに置き換えられてしまうので、バイストン・ウェルという世界が有するアジア的な「転生輪廻」や業や欲得に彩られた観念的な世界観とは異なってしまうというジレンマをはらむのである。
 ダンバインの制作時、富野監督の仮想的は宮崎駿監督の「風の谷のナウシカ」だったそうである。本作3話目の最後に、シオンとレムルが象られたレリーフがエンディング曲のバックに据えられているが、これはより直接的な意趣返しと見ていいだろう。だが本作がレリーフの根拠となる物語を作ったのに対し、「ナウシカ」は伝説の継承者が、伝説をなぞる行動をとるという、より時間の経過やヒロイン性を感じさせるラストであることを思えば、やはりOVAダンバインは今一歩足りていない印象となる。
 純然たるヒロイック・ファンタジーの物語を見るには、好例ともいえる本作ではあるが、バイストン・ウェルの物語としては、なにか今ひとつ足りていない。こうした足りていない印象や、レリーフなどに見られるより直接的な意趣返しは、富野監督が直接手を下していないために引き起こされた事象であると感じる。バイストン・ウェルの物語として何が足りないかといえば、「富野が足りない」と申し上げるしかない。

 だがなにも「バイストン・ウェル」の物語はこれだけではない。ショウ・ザマは叫ぶし、迫水真二郎は戦うし、ジョグだっている。しかもそれらは間違いなく富野監督の手による作品であるから、本作に足りないと感じたものはすべて盛り込まれている。アニメ化作品だって「リーン」や「ガーゼィ」もあることだし、今後もライフワークとして富野監督が新しいバイストン・ウェル・ワールドを広げてくれる可能性だってあるだろう。本作だけをあげつらうのは、やはり大人げないということか。

聖戦士ダンバイン DVDメモリアルボックス(2)聖戦士ダンバイン DVDメモリアルボックス(2)
(2000/08/25)
中原茂土井美加

商品詳細を見る

テレビ版と一緒にパッケージされています。
リーンの翼 COMPLETE [DVD]リーンの翼 COMPLETE [DVD]
(2010/01/27)
福山 潤嶋村 侑

商品詳細を見る

バイストン・ウェル物語 ガーゼィの翼 コンプリート・コレクション [DVD]バイストン・ウェル物語 ガーゼィの翼 コンプリート・コレクション [DVD]
(2000/11/24)
岩永哲哉岡本麻弥

商品詳細を見る

近々、レビューします!
スポンサーサイト

テーマ : アニメ
ジャンル : アニメ・コミック

コメント

非公開コメント

記事拝読しました

とても面白いです、ほかのレビューも期待しております。OVA版についての話は思わず頷きました。実際、この作品は唯一富野由悠季監督が手がけたバイストン・ウェルシリーズということを考えますと、やはりそれなりの意味があると思います。バイストン・ウェル自体はおっしゃるとおり、今でも通用する面白い舞台として作用できると思いますので、そろそろ富野監督以外の新しい血が入ってもいいじゃないかとも思います。

あとちょと野暮ですがちょっとだけツッコミ。かつてニュータイプにて連載された小説は「チャム・ファウ物語」ではなく「ファウファウ物語(リストリー)」です^^

コメントありがとうございます

kaito2198さま
 コメントありがとうございます。いつも「TOMINOSUKI/富野愛好病」を拝見させていただいております。kaitoさんはじめ、富野好きの方々のブログをはげみにしております。
 今回の記事はバイストン・ウェルには富野が必要というスタンスで書きましたので、こんな言い方になってしまいましたが、「新しい血」という考え方については大賛成です。ただそれが富野色を薄めてしまう可能性を考えると、パワーバランスが重要ではないかと思います。
 「ファウファウ物語」については、ご指摘の通りです。うわ、恥ずかし! いましがた、こそっと修正しましたです。ありがとうございました。今後ともお付き合いくだされば幸いです。

守護者 ~SIRBINE~
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺☆大分のお土産といえば『ざびえる』

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->