「ガーゼィの翼」~バイストン・ウェルに行きたいかっ!~

 最近になって富野由悠季監督の著作「リーンの翼」が、書き直しの上に復刻された。永らく古本屋ですら見ることがかなわなかった著作に、2010年という区切りの年によみがえってくれたのである。富野監督ってえお人は、だいたいにして善良な人格が透けて見えるくせにお人が悪く、著作に関してはかなり厳しく管理されている。そのため角川スニーカー文庫でやっと復刻された「伝説巨神イデオン」や「ガイア・ギア」なども、いまではなかなかお目にかかれない状況にある。そんな中での「リーンの翼」の復刻は、富野監督作品のファンとしては、やはり花見のサクラにまぎれてお祭り騒ぎをしたいほどの興奮を覚えるのである。
 残念ながら1冊あたりの単価がなかなかに高価であり、しかも私の住む近隣の本屋では手に入らず、いまだ未読ではある。そんなお祭り騒ぎの中で、「リーン」同様、バイストン・ウェルを舞台にした物語である作品からアプローチしてみよう。それが今回のお題「ガーゼイの翼」という作品である。

 「ガーゼィの翼」が制作されたのは1996年。原作は同名の小説であるが、「ログアウト冒険文庫」というレーベルからの出版である。私自身古本屋でしか見たことがなく、こちらも現在は絶版状態にある。この小説、今では著名な画家である「末弥純」氏による美麗な表紙や挿絵が挿入されており、そうしたヴィジュアル面はそのままキャラクターデザイン原案として、アニメ版にも参加している。

 物語は日系2世の浪人生(二浪らしい)千秋・クリストファが、故郷で催される同窓会に出席するためにバイクに乗るところから始まる。そして故郷につくころに、クリスは突然バイストン・ウェルに召還されてしまうのである。召還の際にまとわりついてきたフェラリオのファラン・ファとともに、メトメウス族と彼らを奴隷として扱ってきたアシガバ族との戦いのただなかに突き落とされたクリスは、ただ無我夢中で生きるために、戦う事になる。その時クリスのかかとに、七色に光る翼が広がり、クリスは自由に空を飛びながらアシガバ族の獣たちと戦うのである。そしてそれはメトメウス族の巫女・ハッサーンの願いにより召還された「聖戦士」の姿でもあったのだ。
 クリスは自分の力を見極めながら、ハッサーンやメトメウス族の人々の願いを叶えるために、自分の持てる知識を使って、戦い抜こうと決心する。果たしてクリスはアシガバ族を撃退し、メトメウス族を助け、自らも地上に帰る事ができるだろうか。

 バイストン・ウェルサーガとして、本作や「リーンの翼」、アニメ版の「リーン」や他の小説など、いずれも直接的な続編の位置づけではなく、むしろそれぞれが独立しているパラレル・ワールド的な作品群である。しかしながら本作では他の作品にはない特徴を有している。
 その一つは「オーラバトラーが登場しない世界」であることである。これが意味するところはつまり、オーラバトラーが製造される以前のバイストン・ウェルの物語であるということである。本作で登場する世界は、部族闘争が起こっている世界でありながら、そのための武器は剣や弓、使役する巨獣や動物たちである。火薬が使用されているが、それは革袋に詰めて遠投し、相手にぶつけることで接触による爆発を引き起こして使用するものである。それをクリスが機転をきかせて、やじりの先に塗りつけたり、ひもに練り込んだり、火薬の入った革袋と一緒に射るなど、さまざまな活用方法をあみだすのである。

 そしてそれまで異世界ロボット物であったバイストン・ウェルの物語が、本作により純然たるファンタジーアニメ作品として再生したと言える。本作のDVDには富野監督のインタビューが同時収録されている。そのインタビューには、疲弊した現代社会の人間にとっては、「癒し」の効果を持つファンタジーが絶対的に必要であると語っているシーンがある。彼をして1983年に「聖戦士ダンバイン」を生み出したころから、はっきりと自覚的にバイストン・ウェルの物語を、現代のファンタジーや童話に位置づけて創作してきたというのである。文章という形では本作に先行する「リーンの翼」を執筆することにより、鮮烈なまでの性描写や壮絶な残酷描写などを描きながら、人間が本来持っている「性(さが)」を大胆に描いてみせることで、ヒロイックファンタジーを作り上げたつもりなのだろうか。そうした残酷描写は、本作3話目のラストシーン付近で、クリスが敵将の首を取るシーンに繋がっている。だとすれば本作は、「リーンの翼」の時代よりもより原始に近い時代のバイストン・ウェルを描くことで、新たなファンタジーを作ろうとしたかに見える。その上で、「聖戦士ダンバイン」がロボット物でありながらファンタジーとしてなしえなかったことを、アニメ版「リーンの翼」で目指したというのが、制作順から推察される富野監督の目指したことではないだろうか。

 もう一つ特徴的なことをあげれば、それまでのバイストン・ウェルサーガでは、召還された地上人はすべて体ごとバイストン・ウェルに召還されているが、本作ではなぜかクリスの精神のみがバイストン・ウェルに召還され、体は生きながらにして地上にあり、その意識は共有されているという描写である。
 ここで重要なのは、それまでのサーガにおける召還者はすべてフェラリオであるが、本作での召還者は巫女・ハッサーンである。本作における時代ではフェラリオの存在はバイストン・ウェルの人々に忌み嫌われる存在である。そんな能力を持っていることすら知らないのだろう。また巫女といえどハッサーンは人間である以上、異能力者ではない。彼女の行う儀式はむしろ召還ではなく「祈り」に近いと思われる。そのためフェラリオの持つ力に比べると召還の力が弱かったのかもしれない。結果的に地上とバイストン・ウェルの双方に魂を残し、それゆえに現代での知識を有効活用できたともいえる。そしてなにより、クリスという存在がクリスを取り巻く人々、とりわけハッサーンや戦士リーリンス、ファラン・ファ、地上でクリスを看病し続けた留美子やクリスの祖母など、人とのつながりの中で、クリスは守られ保護されながら戦う事ができたのである。その能力の発露すら、ぎりぎりの選択の中で必要とされる時にのみ発動する「ガーゼイの翼」の力は、世界を超えたクリスを慕う人間同士の暖かいつながりの中で発生したように見える。これはバイストン・ウェルサーガという伝説の聖戦士による救済の物語のなかでも特殊であり、力としての「翼」の発現理由として、力を欲する側の事情ではなく「力を持つ者と他の人々との暖かなつながり」を理由にした珍しい例だと思える。それゆえに主人公・クリスのキャラクター性が、逆にオミットされる結果になったことは否めない。実際序盤にクリスが選ばれてバイストン・ウェルに召還された理由が、故郷に帰る時に見た神社の「ヤマトタケル」をキーにしているシーンがあるのだが、直接的な理由の説明はなく、クリスの理解の中でバイストンウェルにおける伝説の戦士のイメージを形成する事情でしかなったのである。

 本作を見ていて気になった点がある。クリスがバイストン・ウェルに召還されたとき、バイクに乗っていた。ショウ・ザマも大型のバイクに乗っていたときであるし、迫水も戦闘機に乗っていた時である。思い返せばダンバインに登場したアレンも、戦闘機に乗っていたタイミングで召還されていたようだ。マシンと聖戦士というのは、何か関係があるのだろうか? 一見「事故死」に見せかけられる条件にも思えそうだが、そんな単純な理由じゃない気がしてきた。たとえばこうした機械を操縦しているというのは、人間が寝かしつけている闘争本能が目覚めている状態で、戦士として利用しやすいとか。そんなことなら、大阪の町中の自然渋滞にいるおっちゃんたちは、総じてバイストン・ウェルに召還されてしまう。しかも召還された先の世界は常に戦乱の世界である。おっちゃんらは一撃必殺であの世行きである。違うか。このあたり、バイストン・ウェルという世界と「オーラマシン」との関係性が重要になってくる気がするのである。もしかしたらバイストン・ウェルという世界は、常に新しい技術を欲している世界であり、地上人を召還しながら、同時に技術の集積物としての機械を欲している世界なのかもしれない。そう考えると、ジャコバ・アオンというフェラリオの王が、バイストン・ウェルの機械をすべて地上に放り投げた事実は、もしかしたらバイストン・ウェルの長い歴史の中で、何度か繰り返された出来事である可能性だってある。すると私たちが勝手に考えているバイストン・ウェルサーガの順番なんて、無いのかもしれない。

 げにおそろしきは禿頭のおっさんの頭の中身である。富野監督の脳みそから羽ばたいたバイストン・ウェル世界の物語は、やはりこうまでして私たちの心をとらえて離さないのである。「ガーゼイの翼」という物語は、事実上たった3話しかないアニメ作品ではあるのだが、バイストン・ウェルサーガとしての位置づけが極めて特殊なだけに、かえって他のサーガの物語を補完する情報に満ちていて、物語としてもアニメ作品としてもおもしろみを増しているのである。アニメーション的に特筆するべき事項はなく、むしろ丁寧に作られている作品であり、テレビ作品的な荒さのないOVAという媒体に十分符合する作品である。だがそうしたアニメーション的な枠組みでは十分に語ることができない、バイストン・ウェエル物語のとしての側面が、好きな人にはどうしても無視できない作品となっている。そんなねちっこさも、ある意味で富野作品ゆえかもしれない。

 あなたも車やバイクにのって、あなたの住む町のいわくありげな場所を尋ねてみるといい。もしかしたら車やバイクごと、あの異世界にいけるかも知れない。まあ十中八九戦いのど真ん中にでるでしょうね。命の保証なんてできません。それでも行きたければ、止めはしませんよ。私だってのぞいてみたんですから、バイストン・ウェル。

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最近のいくつかの日常話

 とりとめのない話をいくつかを。とはいえ、やはり富野由悠季監督と関係ある話ばかり。しかし、最近ブログを書く意欲は何故かないなぁ…。 ...

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