あさりよしとお短編集「毒入り」<錠剤編>~それはまあ、それとして~

 しばらくお休みをいただいていた間に、なんだかえらいことになってしまい、本当に驚いております。こんにんちは「波のまにまに☆」です。なにせ記事を書いた本人が一番頭を抱える状態でして、恥ずかしいやら恐れ多いやら。
 お休みをいただいている間に、「けいおん!」と「のだめ」に共通するお話や、映画「タイタンの戦い」に関する80年の旧作との比較、「ヤマトよ永遠に」の終わる気まんまん具合についてなど、いくつか論考を進めており、いずれ皆様にお目もじつかまつる日も来ると思いますので、今しばらくお待ちいただければと存じます。え?サスライガーはどうしたって? 今見てるから待っててね。

 さて今回はマンガを取り上げますが、ネタとしては「アニメ」になるのかな? 月刊アニメージュでも辛口のアニメ評を書き続けている漫画家「あさりよしとお」氏の、最近になって発売された短編集をご紹介。はっきり申し上げれば、氏のアニメに対するスタンスは、「獅子は我が子を千尋の谷に突き落とす」という感じ。彼は間違いなくアニメという媒体を愛しているし、アニメにしても特撮にしても、こうした作品を「見る」こと自体が大好きなのである。そして彼自身の立場が、マンガやアニメの制作現場に近い立ち位置にあることから、こうした物言いができることを、まず念頭においてほしい。そうすれば、この種の「毒舌」が愛情の裏返しであることは容易に想像がつくはずだ。まあ、単なるあおりの可能性もあるけどね。


あさりよしとお短篇集 毒入り錠剤篇 (リュウコミックス)あさりよしとお短篇集 毒入り錠剤篇 (リュウコミックス)
(2010/04/22)
あさり よしとお

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 「あさりよしとお」といえば、著名なところでは「中空知防衛軍」や「宇宙家族カールビンソン」などが有名だろうか? 最近では「アステロイド・マイナーズ」というマンガで、科学的に正しい宇宙での生活を描いている。氏のSFやアニメ、マンガ、特撮の知識は半端ではなく、これら著作の中で、マンガのベースからちょっとしたネタまで、微に入り細に入り、さまざまな形をとって随所に現れる。となると、一見してただのパロディ漫画家かと問われれば、決してそうではないと断言しよう。それは先の「アステロイド・マイナーズ」におけるドラマの構築にしても、また今回紹介する「毒入り」の中に掲載されているパロディマンガのギャグのレベルの高さ、それを笑うために必要とされる知識の多彩さなど、現行で存在するパロディマンガなど、足元にも及ばないのである。彼の作るマンガのギャグを笑うためには、必要とされるSF,マンガ、特撮、アニメの知識は、本来であれば彼自身と同じ時間を経なければ笑えないはずなのである。だがそこれはそれ、それほどまでの研鑽を積まなくても、そこそこで笑えるのである。こうした観点からみれば、氏のマンガのパロディやギャグは非常に多層的であり、見る側の知識量によってその笑いの質が変化し、なおかつ笑いどころすら人それぞれに異なるほどに多様化するのである。

 せっかくなので今回ご紹介する「毒入り」の中から、例を出してみよう。
 巻の中頃から登場する3編のマンガ「Let's Go うなぎちゃん」シリーズである。この漫画自体、出自を知っている人はそうとうの古参のファンである。このうなぎちゃんシリーズは、角川の月刊「ニュータイプ」誌のおまけマンガに掲載されていたパロディマンガである(なお「毒入り」には出自について示しているページがない)。元ネタはいうまでもなく「美少女戦士セーラームーン」である。

 この物語、築地野うなぎちゃんが、クラスメイトの糠蝦(アミ)ちゃんを巻き込んで、不条理きわまりない行動で読者を笑わすスラプスティック・タイプのマンガである。まず主人公の「築地野うなぎ」という名前からして秀逸である。野暮を承知で説明するが、そもそもモデルの「月野うさぎ」は「うさぎ」といいながら「人」なのである。このマンガの「うなぎ」も「うなぎ」といいながら、なんだかわけのわからない、黒い生物であり、その容姿と一緒にダブルミーニング的にギャグになっている。友人の糠蝦ちゃんにいたっては、容姿は「へのへのもへじ」というまったく意味のないキャラクターに変換され、ただの突っ込み役に徹しているが、翻って本編での「亜美」ちゃんは、番組開始当初はうさぎちゃんの突っ込み役であったが、セーラー戦士が複数登場するに従い、その突っ込みの役どころを奪われていくのである。こんな皮肉の効いたパロディがあるだろうか。
 うなぎちゃんはとことんまで白痴であるし、その白痴がなにがしかの知識を仕入れてきては、糠蝦ちゃんをあいてに披露するが、どれもこれもどこか間違いだらけの不十分な知識や、似たり寄ったりの知識と混同されており、笑いを誘う。一ネタが終わると、それがまた次のネタの前振りになっていたりする。個人的に大好きなのは、うなぎちゃんが実は月のプリンセスで、悪い怪物と戦う使命があると告げた黒ネコの処遇を、糠蝦ちゃんの告げるシーンである。糠蝦ちゃんが「それでその猫はどうしたの?」と聞くと、うなぎちゃんは「猫はアクが強くって」とこともなげに返すのである。しかも最後のコマには書き文字で「個人的には犬が好き」とか言ってる始末。つづく3編目の最初では、うなぎちゃんの説明に対して「彼女は月のプリンセスだったのです(自己申告)」とか書いている。こうした飛び抜けた説明無用のギャグセンスは、「すすめ!パイレーツ」の頃の江口寿史、「マカロニほうれん荘」の鴨川ツバメ、「がきデカ」の山上たつひこなどが前例にあるが、そのギャグセンスもネタを選ぶ目も、徹底して研ぎ澄まされている。そう、常に先端のとがったようなセンスが垣間見られるのだ。

 突出したセンスは常にとがっているだろうと思われがちであるが、あの漫画家・手塚治虫氏などは、そのセンスをどうにかして丸めて、読者にわかって貰おうとした。それでも「MW」のような同性愛者による犯罪を描くアンモラルな一面を持っているのである。だがあさりよしとお氏はそうした感覚やセンスを隠そうともしない。そうした一貫した態度が、単行本「毒入り」の白眉となる、前半分を費やして掲載したエッセイマンガ「重箱の隅」には見られるのである。

 この「重箱の隅」、中身をあさり氏によるエッセイマンガの体裁を取ってはいるが、その内容はあくまでも「クソゲーが発生する原因となるゲーム製作状況の実態」や「面白くもないアニメが横行する内幕」について、あさり氏の中にあるオブラートを総動員して書いた内幕マンガなのである。最初の「ゲーム編」ではシナリオの製作時点における制作側やパトロン側の勘違いや、ハードとソフト両面でのゲームの考え方のズレ、制作側と購買側の認識の問題、RPGという名のたこつぼ的な発想によるゲームの多様化などについて言及している。私はゲーム自体に疎いのであるが、どうもきな臭い感覚を感じ始めると、すぐさま「アニメ編」に突入する。そこではアニメに携わる人間の、本音と建て前、なにがなくとも企画を通すことの重要性を説き、「今」というタームがだましのテクニックのように頻繁に使われる例、そして制作の現状とカネの現状の落差など、はっきりと知るには勇気のいる内容まで網羅されている。アニメファンとしては肩身の狭い思いをすることは必定であり、なにも好きこのんでイヤな思いをしなくてもよかろうとすら思うのである。だがそれもこれも、あさり氏自身が見聞きしたことの一部でしかなく、その事情に最初に失望したのは、だれあろうあさり氏本人なのであることを、忘れて欲しくないのである。

 この本に掲載されているのは、本にもあるように1993~95年の話なのである。テレビからロボット物が少なくなっていき、特撮物は戦隊とメタルヒーローばかり。OVAが台頭していた時期ではあるが、テレビの続編ばかりがタイトルに並び、オリジナルは姿を消していく一方。そしてテレビでは「セーラームーン」が脚光を浴び、第二次声優ブームになだれ込んでいく時代である。だがその一方で、アニメの製作状況は、どれほど変化しただろうか?

 製作現場はコンピュータの導入により作画と彩色の手間が省けるようになった他、3D(or2D)-CGの導入により、背景にも動画にも映像の緻密さ美しさは、技術的に格段の進歩をとげたが、作品を製作する頭にいる連中の脳みそは、たいして変わっていないのではないかと思える。せいぜい制作費を捻出する対象が、おもちゃ屋からパチンコ屋や出版社に移り、キャラクタービジネスそのものが幅広くなっただけである。このマンガで書かれている内容は、時代的な問題を、過去を振り返るための小道具立てとして生かしたのではなく、まさに現実の地平でもあるのだ。重ねて言う、この本に書かれてるのは、現実であり、現在でもある。

 そんなことを知らなくても、アニメを楽しめるではないか。一理ある。こんなしんどい現実を見せつけなくても、知らないままにアニメ作品を楽しむことも出来るだろう。だがアニメの製作現場は、1963年にスタートした「鉄腕アトム」以降、それほどドラスティックには変化していない現場なのである。ましてや最下層で仕事をしているアニメーターの給与については、はっきり申し上げて今後の業界の行く末を不安視させるに足る金額である。だからといって私たちに出来ることは、見ることとカネを払うことだけなのである。だからこそあさり氏がマンガに託して申し述べたかったことに、気づく方がいいのではないか。こんな辛辣なものの見方をしても、アニメが好きなのである。アニメを見て幸せに浸れる人がいるように、アニメを作って幸せになれるアニメーターがいてもいい。こんな些細な末端の幸福の授受があってもいいのではないかと思えるのだ。そのためにもできるだけ多くの人に、知って欲しい。いまこうしている間にも、寸暇を惜しんで筆を動かしているアニメーターがいて、それをとりこむ撮影スタッフがいて、滞りなく進捗させるための進行がいてなどということを、少しでも多くの人に知っていただけたらと思うのだ。それは楽しませて貰っている側の「義理」かなあと、私は思う。
あさりよしとお短篇集 毒入りカプセル篇 (リュウコミックス)あさりよしとお短篇集 毒入りカプセル篇 (リュウコミックス)
(2010/03/30)
あさり よしとお

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同時発売されたマンガです。これも久々に読めた秀作揃い。
アステロイド・マイナーズ 1 (リュウコミックス)アステロイド・マイナーズ 1 (リュウコミックス)
(2010/02/13)
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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

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波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
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戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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