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「戦後エロマンガ史」(米沢嘉博著)~マンガ界のエッジの中で~

 戦後のマンガの歴史を紐解こうと思えば、どうしたって米沢嘉博に頼るほかはない。その著述の多くを「マンガ」にあて、「戦後少女マンガ史」「戦後SFマンガ史」「戦後ギャグマンガ史」の3部作については、氏の収集家としての側面と、マンガ全般に対する情熱があり、それを「披露」した部分に系統立てて分類整理した「歴史書」としてまとめた側面とが完全に同居する書籍となり、好評をもって受け入れられた。
 と同時に、コミックマーケトを立ち上げ、同人誌というファンの側の活動に注目し、その代表として活動を支えた人でもある。現在のコミケの隆盛や動員数を見れば、その人が「オタクマーケット」を離れてすら「偉人」であることに疑いはない。53歳という若さでなくなりはしたが、晩年の氏が日本国憲法に示されている「表現の自由」の尊厳を守る一念で、公的機関による表現の規制について多く発言している。現在も検討が続けられている東京都の「青少年健全育成条例」に関する話題と、完全に一致する。その反面、自身が主催したコミケでは、むしろ率先して厳しく自主規制を唱えていたという。
 後年転々と掲載誌を変えながら連載を続けていたのは、今回ご紹介する「戦後エロマンガ史」であるが、実態としては2006年に氏がなくなった事により絶筆となっている。だが1冊の本として最近になって発売されたその中身を見るに、戦後のマンガ界におけるエロマンガが、最下層と分類されながらも多くの人材を輩出し、時代を背景に刻々と変化する生命力がみなぎるパワーをもっていることを感じさせてくれたのである。

戦後エロマンガ史戦後エロマンガ史
(2010/04/23)
米沢嘉博米澤嘉博

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 米沢氏が後年になって常に念頭にあったのは、マンガ表現における「エロ・グロ・ナンセンス」であったという。少女マンガでエロティシズムを、SFマンガでグロテスクを、そしてギャグマンガでナンセンスを追求した結果、その収集の興味はそれらを内包するものに行き当たる。それが「エロマンガ」であったらしいのである。
 この本によれば、マンガやアニメの発祥元となった「鳥獣戯画」の成立した時代から、すでに大衆のためのモチーフとして「エログロナンセンス」は登場していたという。連綿と受け継がれてきた日本の表現の技術は、やがて西欧列強(なんだか世界史っぽい表現だなあ)の技術を受け入れることで、発達進化する。戦争のドサクサで物がない時代においても、人間の欲望はどうしてもそれを望んでしまう。2度の世界大戦後にGHQ統制化の目を逃れるように、安く薄っぺらな大衆誌として「赤本」や「カストリ誌」などが発刊されていく。これが現在まで続く近代エロマンガの原点となるようだ。
 そこから日本の経済復興期において、大人マンガ誌が続々と発刊され続け、その中でエロを取り扱うマンガも含まれている。こうしたマンガ誌が金を持っている「大人」をターゲットとしているあたり、電車の中でマンガを読む社会人をとがめる発言が今でもあるが、人のことは言えないだろうと思うのは、私だけだろうか。さらに実話誌などでの小規模なマンガの展開などを含め、「三流劇画」と呼ばれ、60年代に発刊ラッシュを迎えるエロマンガであるが、70年代に入ると少しずつ収斂していく傾向を見せる。それは女性の権威や社会進出の拡大に歩調を合わせる形で、時代に飲み込まれていった歴史でもある。このころのエロマンガは劇画調であった。書き込みも多く、服のしわも細かく、そのくせ背景はなく、あくまで女性のしどけない姿をクローズアップするかのように描かれる。
 時代が下がれば、そこに現れる女性は不特定の誰かではなく、「女学生」や「看護婦」などの付加価値が付いてくる。その最たるものが80年代に登場する「ロリコンブーム」であり、「幼女」という付加価値である。その過程で出現した「ロリコン誌」が劇画一辺倒であったエロマンガの世界に、ポップな絵柄を持ち込む事に成功する。そして青年誌が成立し始め「ヤング」と冠せられたマンガ誌が発刊されると、青年期特有の興味の対象として「SEX」が一般化していく過程で、エロマンガは吸収されたり、分離したりを繰り返し、現在に近い住み分けとなるようだ。上記の文章では割愛したが、その中ではエロを題材にしたギャグマンがというのが存在し、4コママンガなどの形態で、現在の「B型H系」の原点のような作品も存在するし、80年代にはエロマンガより分岐する「やおい」や「JUNE」、さらには女性の性をあからさまに描くレディースコミックが発刊される運びとなる。
 本書自体は1991年あたりまでをカバーし、89年の「宮崎勤」の事件を扱い、その後の「有害図書」などの取り扱いについて記した後で絶筆となっている。

 前々回の更新で、林の中に捨てられたエロ本の話などをした。私が中学生のころ(1980年代初頭)には、書店でもエロマンガは当然売られているし、クラスにはだいたい一人ぐらいエロ本を学校に持ち込むやつもいた。あからさまにわかりやすい性の目覚めである。その当時の漫画家の名前を今でも覚えている。今回本書を読むにあたり、それらのマンガ家の名前をよく見ていた背景には、彼らが隆盛をほこった時期と合致しており、彼らがマンガ家としての豊かな感性の元、かなりの数多くの仕事をなしてきた事実がわかる。

 昨今のマンガ事情をながめるに、エロマンガを書いていた漫画家が、別の青年誌においてエロさを少し抑えた表現で、以前のペンネームのまま、連載をしているのを見ると、エロマンガ界とは青年誌や少年誌などの下部組織であり、上に上がるための準備や修行の場のようなイメージを持っていたのだが、本書を読んで明らかに考え方が変わった。むしろエロマンガ界は、エロ抜きのマンガ界を支える最先端として存在すると考えられる。その確たる証拠の一つは、私が子供のころ親しんだ「がきデカ」の山上たつひこの登場の背景には、エロマンガ誌でのエロを交えたギャグマンガがあってこそであるし、70年代に活躍したマンガ家・田口智朗は、現在の「田口トモロヲ」である。私はこの事実を初めて本書で知ったし、この事実に驚いた。思い返せばその活動初期に劇画的なエロ漫画を描き続けた「中島史雄」は、その後「週刊ヤングジャンプ」誌において、ポップでかわいらしいエロ漫画を書いており、「レモンエンジェル」などと共に人気を博していたのである。中島氏は常に漫画界の最先端に位置しながら、表現的にもエッジな仕事をしていたことになる。

 「実験人形ダミー・オスカー」などのタイトル、「ダーティ松本」や「ケン・月影」、「三条友美」などの名前が懐かしく思う。そして「いしいひさいち」「吾妻ひでお」「内山亜紀」「いしかわじゅん」「柴門ふみ」「森山塔」「ジョージ秋山」などの名前も見られる。いずれもこうしたエロマンガ誌に掲載された後、青年誌でも人気を獲得し、華々しい活躍をした人々である。

 本書はおのおののマンガ自体を取り扱うのではなく、それらが収められた雑誌の発刊や休刊、そして収録されていた漫画の傾向などから、時代の推移として流れていったエロマンガを、年代別に分けて解説されたものである。年代順に並んでいるので、その流れにそってエロマンガ界の栄枯盛衰がわかる。先述のとおり「歴史書」の側面で読むことが出来るのだ。同時に右ページにはその当時のエロマンガの扉絵やマンガ誌の表紙などがモノクロのスチールとして紹介されており、それを眺めるだけでも楽しい書籍となっている。
 だが読み進めていくと次第にわかるのは、あいかわらず無視しては語れない「時代背景」がおもむろに浮き彫りになってくることだ。そこにはマンガ界の底辺にいることを自覚する故の叫びが聞こえてくるような「想い」である。

 読み捨てられるマンガ。特にその傾向が強いエロマンガの世界において、如何に他人と差別化できるのか、そして如何に興奮させるか、あるいは如何に自分の中にある社会問題に切り込めるかなど、漫画化がそれぞれに抱いた社会に対する思いが底辺にあるような気がするのである。当然仕事として問題解決してしまっている漫画家さんも多数いることだろう。そうした専業漫画家もいる。当然漫画を作っているのは漫画家だけではない。担当編集者がおり、雑誌の方向性を決める編集長がいる。その編集方針が時代のあおりを受けて、ドラスティックに変化し、生き残ろうとするもがきと苦しみ。それは終身雇用や生活の安定が空虚化した現在の社会全体のうねりと歩調を合わせている。マンガというメディアが持つ特化した時代性であり、悲しい「性(さが)」なのかもしれない。

 私が本書を読もうと思ったきっかけは、「青年漫画や少女マンガは、いつごろ「性」を取り扱うようになったのだろう」という疑問が先にあった。そのためにちくま文庫から発行されている「前後少女マンガ史」も読んだ。そしてその萌芽が70年代末期に出現した「青春ラブコメ」のあたりに特定されることがわかった。そして少女マンガはレディースコミックを切り離してなお、「性」を先鋭化させる。現在の少女マンガの単行本の中にはきわどいタイトルのものがあり、どこまでいっても女の子は男の子よりも先に成長し、耳年増になっていくのは、もうしかたがないのだろう。徐々に離陸するよりも一気に駆け上がろうするから、過激なものを欲してしまう男性諸氏の性癖には、遺伝子に書き込まれた時限爆弾的な存在を感じてしまう。だが実態は、そんな青少年の性徴を無視して連綿と受け継がれたエロマンガが、いつだって傍らにいたのである。

 メディアとしてのエロマンガは、時代や問題を語ることはしなくなり、AVビデオの台頭によりメディアの首座を明け渡しはしたが、その実、コンビニには雑誌が置かれ、雑誌を売るためにDVDが付く始末。それでもエロマンガ誌は今も売れ続けているという。私も買っては捨てを繰り返しているが、お気に入りのエロマンガ家もいるのも事実だ。今後もエロマンガ界には栄枯盛衰があるだろうが、一つだけ残念なのは、これからの漫画は米沢氏の史書に残らないことだ。この偉業を誰かが引き継がねばならない責務は、さぞかし重かろう。


戦後少女マンガ史 (ちくま文庫)戦後少女マンガ史 (ちくま文庫)
(2007/08)
米沢 嘉博

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戦後SFマンガ史 (ちくま文庫)戦後SFマンガ史 (ちくま文庫)
(2008/08/06)
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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

コメント

非公開コメント

No title

そういえば、永井豪が「ハレンチ学園」をヒットさせた辺りが、少年漫画へエロが進出していった時期と重なるような
気がしますね。
実際に永井豪が最近のインタビューで「ハレンチ学園」のヒットによって他の漫画家たちへも編集サイドから
エロ描写を求める圧力がかかるようになり、挙げ句の果てに児童漫画の大家、藤子・F・不二夫氏にも
その要求が言って結果として出来た作品が「エスパ-魔美」だって話をしていましたし。
永井豪はそのことを藤子・F・不二夫氏に謝りたかったけど、その話を編集さんから聞いた時点ですでに
藤子・F・不二夫氏は亡くなってしまった後だったそうです。

編集サイドの圧力が少女漫画の方へも影響したなら同じ時代に性描写の表現が少年漫画と同時期に少女漫画へ
広がっていったのも納得できる気がします。

No title

mineさま
 コメントありがとうございます。イマイチ本文との関連がよくわからないのですが(笑)。
 
 いずれにしても、一つの作品が生まれでる背景には、さまざまな事情が交錯しているってことですよね。
そういう捉え方をするなら、「偶然の産物」などはありえず、すべては必然であったという説明になるわけで。

 事実今回のネタのようなエロマンガの栄枯盛衰だって、そういう側面はあるはず。
本文では触れなかったけど、「遊人」などのポップな絵柄のエロマンガが生まれた背景には、
「ひばりくん」などの江口寿史の影響などもあると思います。

 マンガ界はさまざまなジャンルが複雑にからみあって出来ている世界であり、1ジャンルの歴史観だけで語ることができないと思いきや、底辺にあったはずのエロマンガというジャンルが、意外にもマンガ界を俯瞰できる位置にいたことが面白いと感じたわけです。

言葉足らずですいません

言葉足らずですいません、いや言いたかったのはエロって事を切り口にしただけで
実際は漫画のさまざまな歴史を見ることができるんだなあって事です。
文章をまとめる才がないので、訳のわからないコメントに結果としてなっちゃいましたが。
どうもすいません。

No title

いや、この記事にコメントできないんです。
でも何か言わなくちゃいけない気がするんです。
色々考えても結局結論なんて出ず。
ただひたすらに、すばらしい文章だと思いますので、もうそれだけで。

No title

がたがたさま
 コメントありがとうございます。
 ここ2日間ほど記事を放置しましたが、先日の「R-中学生」とともに、アクセス数が伸び悩んでおりまして、あんまりみなさんの好みじゃないようで(笑)。

 ホントは読んだだけで記事にするつもりはなかったんですが、読んだら圧倒されちゃって。なんにせよ「米沢嘉博」って人はすごいなあと思った次第。エロマンガって面白いですよね。

No title

mineさま(以下のコメントは知人特別ですよ)
 いや、言葉足らずではないですよ。文章自体も決して悪いわけではないと思います。
 問題なのは、私の記事内容に対して、ご自分が持てる知識で対抗しちゃった点です。
 しかもコメントの内容が、私の記事内容と逆のベクトルで書かれている。これでは私の記事内容から展開しているコメントかなあと不思議に思うのです。コメント自身の論旨がはっきりしている、ちゃんとした文章なだけに、コメントのベクトルが記事内容となじんでいないことに気づいてない、そこが一番の問題だと思います。

 酒飲みの与太話ならいいとして、少なくても私の記事内容を「承る」部分が、小さすぎるんですよ。せっかくのコメントですから、話を「展開」させるには、自分本位もある程度控えないと、コミュニケート不全になりかねませんよ。普段のしゃべりなら決してやらないだろうに。落ち着けな。

 でもコメント自体はうれしい限りです。いつもありがとうございます。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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