「風まかせ月影蘭」~酒と女の二人旅(チャンバラつき)~

 現在放送中の「さらい屋五葉」が実に渋い作りであり、時代劇好きとしては非常に満足している。劇中で使われている言葉(特に盗賊がらみの)の端々に、池波正太郎スタイルの時代小説に使われている言葉が登場したり、あるいは陰影の使い方や障子に映る影などが「必殺シリーズ」に似ていたり、はたまた人間関係のシビアさなどもやや「必殺」寄りなイメージが投影されている気がする。しかも「ひとさらい」稼業ときては、やっぱり闇稼業の匂いがいい感じに香ってきて、私にとっては前時間の「四畳半神話体系」とともに今期の楽しみな時間の一つとなっている。
 じゃあ、これまでこうした時代劇アニメがなかったかといえば、そんなわけない。今では信じてもらえないかもしれないけど「まんが水戸黄門」ってあったのよ。他にも「赤胴鈴之助」や「まんが猿飛佐助」、「カムイ外伝」「佐武と市捕物控」「どろろ」、新しいところでは「幕末機関説いろはにほへと」や「サムライチャンプルー」、「天保異聞 妖奇士」なんかがある。意外とあるんですよ、時代劇。しかも特撮でいけば「侍戦隊シンケンジャー」なんかが来てるあたり、時代劇の時代がそろそろもう一回来てもいいかなあとか、ひそかに考えている昨今である(それだけに藤田まことさんの死去はなんとも痛手である)。
 
 今回ご紹介するアニメは「風まかせ月影蘭」である。ちなみに本作について簡単な紹介をとあるアニメ専門のSNSにて書いたのであるが、一件もコメントが帰ってこない唯一の作品であった。そんなに知名度低いんですかねえ、本作は。

 「風まかせ月影蘭」は2000年1月からWOWWOWで放送された作品である。全13話で放送されたが、基本的に1話完結の物語である。主人公は女の素浪人である月影蘭と、あやしげな中国拳法「猫鉄拳」の使い手・ミャオの二人が繰り広げる股旅ものである。
 月影蘭は自分で「酒好きの美人」とのたまうほどの美人剣士。好物は酒とおから。金があろうがなかろうが、宿場町では酒をたらふく飲んでしまう。毎度金を払わされるのは旅に同行するミャオなのである。そのミャオも素性はまったく知れない。どこでどう修行したのかは彼女が身に付けた猫鉄拳の技と蘭の剣術で、それぞれの宿場で巻き込まれた事件を解決していくのである。いやもう本当にそれだけの物語なのだ。

 たとえば1話では蘭とミャオの出会いが描かれるのであるが、同時に進行する宿場を取り仕切るやくざ者とのけんかに巻き込まれる話。潰されそうになっている組のボンクラ三兄弟に肩入れするミャオに対して、宿場をあくどく取り仕切る組の用心棒になった蘭姐さん。だが姐さんの思惑は三兄弟を足抜けさせて、そのうえで宿場を取り戻すための算段であり、結局は蘭姐さんが悪人を懲らしめるというわけだ。
 どこまでいってもこのパターンであり、逆にいえば二人が出会う宿場宿場で巻き込まれる事件を二人が解決するだけ。きっかけはミャオだったり蘭だったりするのである。蘭の酒好きが、密造酒にかかわるやくざの悪商売を摘発したりする(2話)。かと思えばミャオが旅籠で拾った赤子の母親探しをしだせば、終いにゃミャオが赤子の母親になるという。結局は後継ぎ騒動で揺れている名家の一件が引き金であったことがわかり、赤子は母親のもとに帰るのである(3話)。他にも寝違えた首を直してもらったミャオが、悪徳宗教に走る8話、賽銭泥棒をしたミャオがいつのまにか土地のやくざ者に追われ始めるが、実は賽銭の中に宝の地図が隠されており、お宝争奪戦になっていく4話、偽の蘭姐さんとミャオが現れて本物と対決する6話などと、お話は1話完結で進んでいく。

 特別他愛もないような話が続くのである。この構成、どこかで見たことないだろうか? 知っている人ならばすぐわかるのであるが、これこそテレビ時代劇の形態なのである。しかもだれもが一度は見たことがあるだろう「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」などと一緒での雰囲気をかもしている。いわゆる「娯楽時代劇」とでも言えばいいだろうか。
かつてこうした時代劇というのは、ご年配の方や家族で見るものであった。ファミリープログラムとでもいうのだろう。現在ではお笑いや知識を主体としたバラエティ番組がこれに取って代わり、俗に言うかつてアニメや特撮番組を放送していたゴールデンタイムと呼ばれる時間も、これらの番組に浸食されていく。それは日本の家庭が核家族化して、同時に「お茶の間で家族でテレビ」という習慣が形骸化していく過程でもあったわけだ。つまり本作のような「娯楽」という側面の単純な番組が、現在の日本人に忘れられているのである。もちろん本作の監督である大地丙太郎監督が、そんなものをいまさら復刻しようとたくらんだわけではない。だが本作に通底する基本的な考え方は、テレビが持っているわかりやすい「娯楽」の復興なのかもしれない。

 本作はもっと端的に、かつての人気時代劇「素浪人 月影兵庫」および「素浪人 花山大吉」を完全にトレースしている。時代劇俳優・近衛十四郎が演じた素浪人が、おっちょこちょいの半吉のおかげで赴く宿場町で毎度騒動に巻き込まれるという、1話完結の時代劇シリーズであり、これが放送された1965~68年当時大人気を博した作品である。1969年生まれの私が見れるはずもないのであるが、ありがたいものでケーブルテレビで最近これを見ることができた。これがまた面白いのである。股旅ものであり、基本的なチャンバラもあり、人情ものであり上質のコメディである。だいぶ荒れたカラーの「花山大吉」であったが、今見ても十分楽しめる作品であり、時代劇が時代を超えることを証明してくれたのである。「時代劇専門チャンネル」の未来は明るい。そう、時代劇という素材は、見る側の素地があれば、いくらでも時代を超えられるのである。そう考えると、この作品「風まかせ月影蘭」という作品に込められたメッセージは、「娯楽」と「時を超える時代劇」という2つになるのではないか。どちらも私の大好物であり、同時に大地丙太郎監督の大好物なのだろう。

 そう思って本作を見れば、作品の端々に「趣味」が見えてくる。
 まず主題歌の三沢あけみの歌う「風まかせ」が、堂々としたド演歌、しかも美空ひばりの名曲「柔」をすら想起させる正調の演歌であるのも、「娯楽」そして「時代劇」を想像させるための重要なアイテムである。また名コンポーザー佐橋俊彦が書き下ろす曲の数々が、ちゃんと娯楽時代劇になじむ楽曲になっているのもしかり。そしてキャラを演じる声優陣に芸達者な方々を配置しているのも同じである。
 主役の蘭は安原麗子。かつて少女隊ではあどけない丸顔とややきつめのまなじりが特徴だった美少女であったが、本作では無口で愛想のない酒好き美人の素浪人を演じる。またミャオを演じる岡村明美は、「紅の豚」でデビューした人。大地監督の次作「レジェンズ」では堂々の主役シュウ役を演じている。また今ではアニメに舞台に活躍中の名塚佳織のデビュー当時の声も聞けるし、レギュラーで出演している男性声優陣も舞台やドラマで活躍しているいぶし銀の人材である。

 そして何より、マッドハウスの手による剣劇は、短い時間ながら非常に見ごたえがある。面白いのは月影蘭の剣。剣を抜いた右手のみでおこなう剣劇である。一撃、二撃と切り結び、ほんの一瞬のすきをついてあっという間に切り捨てる技なのだ。これはあくまでも個人的な推量であるが、片手で剣を操る侍の例として、その昔、大村昆さんが演じた「とんま天狗」というコメディ時代劇がある。このとんま天狗さん、短い刀を左手でぬき、手前で刀をくるりと放り投げ、左手で受け取った後、右手に持ち変えるというシュールなギャグになっているのだ。大地監督、実はこれがやりたかったんではないだろうか。だがいちいちそんなギャグを挟み込むと、間が悪くなるし作画枚数も増える一方なので、やめたのではなかろうかと考えてみるのである(まあ、たぶんないな)。
 いずれにしても、大地監督自身が楽しんだ「お茶の間」「娯楽」「時代劇」という、ファミリー向けのお楽しみを、本作で復刻するために、いちいちこんな設定や配役や主題歌などを放り込んで作った作品なのである。しかもギャグには定評のある大地監督である。面白くないわけがない。

 こんな作品であるから、最終回までこんな感じ。肩のこりなど忘れてしまえるほどの気楽な作品である。ただしキャラクターの方々にはそうもいかない。9話ではミャオの幼馴染が登場し、金もうけのために友情まで捨て去った旧友を退治せねばならない、つらい事件が登場する。また最終回に向けて月影蘭の過去に触れる話が登場する。蘭自身は、「侍」という枷から逃れるために素浪人に身をやつしていることが、なんとなくわかってくる。しかも最終回では蘭の昔の男が登場し、その新たな恋路を実らせるために、剣と酒を教えてもらった男の腕をへしおるという物語で終了する。その意味では、ちゃんと蘭やミャオの過去が描かれているとは言い難いが、なによりもこのあとにも二人の物語が続くイメージで終了しているのがほほえましい。悲しみをはらむ物語であっても、二人はけんかしながら旅を続けているに違いない。今も、これからも。

 ふつうここまでくれば第2シーズンなんかがあってもよさそうであるが、やっぱり売れなかったのかねえ。レンタルでもほとんど見ない本作は、いったいどうやって皆さんに見ていただけばいいのだろう。紹介しておきながら、こんなこと言っては申し訳ないが、そんなに古い作品でもなし、中古屋なんかにはわりと置いてあることが多い作品である。本記事に手興味をひかれた方、ぜひともご覧いただければ幸いです。


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ジャンル : アニメ・コミック

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No title

どうもです。
私も時代劇は結構好きでして、『さらい屋五葉』も毎週楽しみに観ておりますよ。
・・・何の偶然か『まんが水戸黄門』が放映されていた年に『最強ロボ ダイオージャ』が放映されていたり・・・。なんかそういう年だったんでしょうかね?
『風まかせ月影蘭』、初めて聞きましたが、娯楽時代劇アニメでありますか。是非観てみたいと思います!
・・・レンタル、ありますかなぁ・・・(笑)?
と、思ったらバンダイチャンネルで配信しておりました。

No title

ぴよさん
 コメントありがとうございます。
 時代劇お好きですか。ならば、きっとお気に召すかと。そういえばこのDVD、バンダイビジュアルでしたわ。

 普通のアニメ好きなら、まんが水戸黄門よりダイオージャ見るでしょう。ってか、親がうるさかったんで、私はどっちもまともにみれてません。

 いつもぴよさんのブログ、拝見して楽しませてもらっております。私、余計なコメつけますが、あんまり気にしないでくださいね。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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