かみちゅ!~つくも神とゆりえちゃんの関係~

 最近、朝が楽しい。楽しい理由は「ゲゲゲの女房」を毎朝見ているからだ。私の父親の世代の人々に話を聞くと、NHKの朝の連ドラというのは、仕事を始める前のひと時であり、コミュニケーションツールだったようである。同じ名前の登場で恐縮であるが、かの「さだまさし」氏の小学生時代、「おはなはん」を見てから登校したため、連続遅刻記録をつくったとかいう話がある。また「おしん」は日本を代表する番組としてアジア圏では好評を博したそうで、いまだにケーブルテレビでもリピートされる番組である。毎回新番組が放送を開始すると初回放送時の視聴率が、ネットでも話題になるほどであり、いまや日本の朝には欠かせない番組である。

 とはいえ今回のお題は「ゲゲゲの女房」の話ではない。この作品に登場する水木しげる氏が登場させる妖怪たち、特に「つくも神」と呼ばれる妖怪についてである。ドラマでは水木氏は自身の漫画家生活を振り返りながら、日常に潜む妖怪を具現化しているように見える。端的な例はまさに「貧乏神」だろうか。税務署の人間が来てすら、「貧乏神に取りつかれている」と気さくに冗談を言う水木氏のエピソードを見ていると、それを具現化しようとする水木氏のやさしい視線が、ただひたすら切なく思えてならない。そんな妖怪たちのルーツとなる「つくも神」を見ていると、ふと思い出したアニメがあった。それが今回のお題である「かみちゅ!」である。

 柳田國男が著した「遠野物語」には数多くの民話・説話が収められているという。その中には妖怪やつくも神などの話が含まれている。「つくも神」とは長い年月がたった物に神や霊魂がやどったもので、荒ぶれば人に災いをなすとされている。今回取り上げる「かみちゅ!」に登場する神様の多くは、この「つくも神」なのである。

 さて「かみちゅ!」であるが、2005年6月からテレビ朝日系列の深夜枠で放送されたアニメである。作品自体は原作を担当したベサメムーチョ(脚本の倉田英之、監督の舛成孝二らの共同ネーム)のオリジナル作品であり、テレビ放送とほぼ同時に連載されたマンガは鳴子ハナハル氏による作画であり、単行本2巻にまとめられている。今回はテレビ版をベースに話をしたい。
 物語は広島県尾道市付近を舞台とし、中学二年生になったばかりの少女・一橋ゆりえちゃんが、ある日突然自分が神様になったところから始まる。そしてその神様の能力ゆえに、さまざまな事件に巻き込まれたりしながら、ゆっくりと過ごしているゆりえちゃんやその家族や友達たちとの日常を描いた作品である。もうなんというか、ひたすらゆりえちゃんがかわいいし、なんともゆっる~いアニメであるのだが、せせっこましく生きているわしらには、まぶしい程にゆったりとしたアニメである。それがただただ見ていて気持ちがいいのである。私自身のおすすめは、EDのバックに流れる絵馬に書かれたゆりえちゃんである。そのかわいらしい動きは音楽にあっているばかりか、「ああ、ゆりえちゃんならこんな動きをしそうな気がする」という動きであり、作画枚数云々ではないアニメらしい動きが楽しめる。またOPの映像もまた素晴らしい。背景となっているゆりえちゃんたちが生活している風景の中に、スタッフの名前が微妙な位置関係で配置されている。見ればすぐにそれとわかるのであるが、その配置の妙が見ていて楽しい。なにより習字紙に書かれた脚本の倉田氏の名前が、風と共に飛んできて金網に引っ掛かるシーンなど、その扱いに見ていてうっかり吹き出しそうになる。この舛成・倉田のコンビは、スパイアクションの傑作「R.O.D」も手掛けている二人である。

 ゆりえちゃんは1話冒頭で、友人の光恵ちゃんに自分が神様になったことを告白するシーンから物語はスタートする。私はこのシーンに思わず吹いた。だってそうだろう。人間がある日突然「神様」になって戸惑うなどという日常が、あってたまるものかと単純に考えたからだ。けれどゆりえちゃんは別に神の啓示を受けて、新興宗教の教祖になったわけではない。「わたし、神様になっちゃった」という台詞には、一聴してそういう意味が含まれている。つまりゆりえちゃんは人間に啓示を与える側にまわったというのであるから、驚きだ。それも中学二年生。中国奥地で修業されている仙人の方に申し訳ない程の低年齢である。

 ここで考えるべきはゆりえちゃんがなった「神」という存在についてだが、これを検証するために、あえてゆりえちゃん以外の神様たちに注目してみたい。
 実はゆりえちゃんが神様になったとたんに、ゆりえちゃんには町中のいたるところに暮らしている神様、そう「つくも神」の存在に驚くのである。豆腐屋の屋根にいるもの、波止場で釣りに興じているもの、街中におちているごみにさえ、神が宿っているではないか。また2話で祀(まつり)ちゃんちのお寺のご神体である八嶋様が行方不明になったときに、ゆりえちゃんが訪れた「神の国」での様子に、ふたたび私は苦笑した。いたるところにつくも神がいらっしゃる。傑作だったのはLPレコードとレーザーディスクの神様が、いかに現代の人間界で自分たちが不要になったことを嘆いているシーンが設けられている。きっとあなたのうちにある箱にしまわれたLPやLDも同じなのだ。また7話に登場したつくも神たちは、いずれも海の家に残されたものに宿っていた。そして彼らはゆりえちゃんや祀ちゃんのお父さんやお母さんたちの世代が、同じ海で泳いでいたことを今もって覚えており、ゆりえちゃんの導きもあって、人気(ひとけ)のなかった海に一夜限りの大騒ぎが始まる話である。
 注目すべきはここである。「つくも神」は先日の遠野物語でも示されているように、古い物品に宿る神なのだ。そして彼らを神となさしめているのは、古くなって使っていたはずの人間から忘れ去られてしまうほどの年月であるが、同時に使用していた人間と共有していた「記憶」なのかもしれない。「つくも神」の正体とは、愛着をもって物品を利用していた人間と、その物品の間に起きたすべての出来事の記憶なのではないだろうか。もしばちが当たったとしたら、それは物を大切に思う心が見せた、物を粗略に扱わないことへの意趣返しなのかもしれない。いわゆる「もったいないおばけ」である。現代社会につくも神がいなくなったとしたら、それはこの世界に「物」があふれたせいで、物に対する人間の愛着や執着がなくなったからかもしれない。一方で執着することはいけないことのように言われてしまう風潮も手伝っているともいえる。

 さてそうなると、問題は「神」となったゆりえちゃんである。ゆりえちゃんは御歳14歳。人間である以上使用していた人間もいないし、当然神を宿すほど古い物品ではない。しかし12話に登場した神様コンペでは、新人のつくも神と一緒に講習を受けており、ゆりえちゃんの扱いはまったく持って「つくも神」と同列なのである。

 ここで「神」の定義が問題になるのであるが、こんな大仰な話が、私にできるわけがないので、あくまでも仮定で話を進めることにする。以前ブログで「かんなぎ」を取り扱った時にも、主人公「ナギ」における「神」の定義に際して、あくまでもナギのキャラクターとしての「ツンデレ」を表現するための装置であると同時に、衆人から注目を集めるために人間たちの願いをかなえるという1対1の関係が成立する「信仰」とその対象としての偶像が必要になると仮説を立てた。
 ゆりえちゃんの場合、ナギがパワーアップしたように衆人の信仰の力は必要なく、ゆりえちゃん自身に神としての力が宿っている。しかしその一方でゆりえちゃんは街に住むだれからも愛されているという特徴を持っている。祀ちゃんが「ゆりえちゃん祭り」を開催した時にも、連絡船の人も、乾物屋の店主でさえ、ゆりえちゃんが神でありながら、昔からのようにかわいがっている。決して12話の出雲の中学の人々のように、よそよそしい態度はとらないのである。

 つまり街の人々にとってみれば、「ゆりえちゃん=神」なのではなく、「ゆりえちゃんが神になっちゃった」のだという認識なのだ。そしてこれにはゆりえちゃんが街の人々と暮らしてきた、共有できる記憶があるからなのである。これはつくも神と同じことなのである。故につくも神とゆりえちゃんは、同列に扱われるというわけだ。
この関係は、あれに近い。たとえば卓球の世界大会で頑張る福原愛ちゃんや、去年の夏にとんでもない距離を走り切ったイモトアヤコに似ている。テレビを見て彼女たちを応援していた国民すべてが彼女たちの親戚のおじちゃん、おばちゃんになっているようなものである。彼女たちがテレビで見せる様子を共有している人々に愛されながら、彼らの期待を一身に受けてがんばる彼女たちの姿は、まさにゆりえちゃんだろう。ゆりえちゃんが愛されるのは、彼女が神様だからではなく、ゆりえちゃんがゆりえちゃんだからである。その証拠は15話を見れば明らかだ。1話での迷信である「風の強い日に屋上で告白すると成功する」、そしてゆりえちゃんの気持ちそのままに舞い上がった大きな習字紙など、15話は1話と対をなしている作りになっており、その微笑ましいラストについ頬がゆるんでしまう。

 作品としてはテレビ未公開のエピソードもあるので、ぜひDVDでご覧になることをお勧めする。それほどに見ごたえもあるし、なにしろ一見して絵を見て気に入るようであれば、最後まで見ることができるはずである。神様の国のモブにしろ、9話の戦艦大和が呉に帰港する話など、見ごたえのあるエピソードもある。また神の国を見ていると、逆説的に「千と千尋の神隠し」の世界観ともつながる雰囲気がある。「かみちゅ!」を見ていると、宮崎駿監督が「つくも神」的なものの存在を、本作や水木しげる氏のように身近に感じていない気がしてくる。それは物語のオチの部分に持ってくる理由から、それを描くのを避けた可能性もある。「千と千尋」のかわいげのなさに比べて、圧倒的にかわいらしいゆりえちゃんがいいと、素直に思った私である。

かみちゅ! Blu-ray BOXかみちゅ! Blu-ray BOX
(2010/06/02)
MAKO森永 理科

商品詳細を見る

かみちゅ! 1 [DVD]かみちゅ! 1 [DVD]
(2005/08/24)
MAKO森永理科

商品詳細を見る
スポンサーサイト

テーマ : アニメ
ジャンル : アニメ・コミック

コメント

非公開コメント

No title

鬱病治療の為に水木しげる原理主義になった私が来ましたよ。

水木御大は「神というのは、本当にやさしい親切なホンワカした
気持ちのいいものですよ」と言ってますので「かみちゅ!」は的を得てますね。
「かみちゅ!」は本当に安心できる世界でした。

「未公開×映画」で、「かつて、世界を滅ぼせるのは神だけだったが、今は
人間が世界を滅ぼせる。核兵器で。」ということを言ってました。
ああ、近代においては「金」と「兵器」が神なんですか…
近代文明というのは物騒でご利益も無い神様ばっかりですね。


No title

核兵器につくも神・・・・。考えただけでも、ぞっとしないなあw。
鬼太郎さんに出てきそうだよね。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
06 | 2017/07 | 08
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31 - - - - -
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺☆原田知世デビュー35周年

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->