「サマーウォーズ」~解体された大家族はネットの世界で再構築できるか?~

 アニメ映画版「時をかける少女」を見たときに、感動させてもらえなかった恨みだろうか? 細田守監督作品にはこれ以上近づかないほうがいいような気がして、長いことほったらかした作品である「サマーウォーズ」を、今回取り上げようと思う。
 はっきりと吐露しておくが、私はこの作品、意外にも楽しめたのでした。いやもうラスト付近の盛り上がり必至の一世一代の「こいこい」の場面や、「お願いしま~す!」のくだりでは遠慮なく涙を流すことができた。なにより前半では主人公である健二と夏希よりも、はっきりと栄おばあちゃんの人となりと活躍に目を見張り、彼女の死に自分の祖母の死をだぶらせて泣いたりしたのである。我ながらお調子者にできているし、人がいいというかなんというか(笑)。
 しかしながらその反面、作品が終わると同時にやはりというかなんというか、批判じみたことを想起してしまうのである。どうにも細田監督とは相性が悪いらしい。
 なおこの夏には地上波放送で本作が放送されるらしい。もし地上波での視聴をお考えのようであるなら、これから先の記事をお読みにならないほうがいいということを先にお断りしておく。純粋に物語だけを追えば、本作がエンターテイメントとして一級品であるし、なによりラストまで突っ走る爽快感のある展開に、ただただ身をゆだねて見ている分にはとても素晴らしい映画である。またDVDなどのソフトの購入を考えているようであれば、ぜひとも購入されることをお勧めする。私も遅まきながら購入を考えておりますので。

<ストーリー>
 本作は2009年8月に公開された劇場用アニメ作品。4か月のロングランを記録した本作は、細田監督が奥様の実家である長野県上田市における大家族と日本の原風景を見て、制作を思い立ったという作品である。
 東京の高校生・健二は夏休みの始まりにあたり、一つのアルバイトを引き受ける。それは先輩である夏希と一緒に田舎に行くことだった。あともう一息で国際数学オリンピックの代表になれなかった残念な気持ちを胸に、健二は夏希に同行する。彼らがたどり着いた先は長野県の奥に鎮座する、あまりに巨大な旧家であった。
 そのころの世界はネット内に構築された架空の世界「OZ(オズ)」があり、そこに個々人が携帯やゲーム端末から自分の代わりとなるアバターを送り込み、実生活とは異なる生活空間を構築していた。そう「OZ」はもう一つの世界。そこに暮らすアバターは、実生活にいる人間と同じ権利が認められているため、ライフラインを制御するアバターは、同時に実社会でのライフラインを管理する人間なのである。
 健二が夏希の田舎である旧家に呼ばれたのは、病気がちな祖母を元気づけようと、健二を自分の恋人にしたてあげ、祖母に健二を紹介しようとしたのである。やがてその嘘も家族にばれた頃、テレビを通じて一つのニュースが伝えられる。それは健二とおぼしき人物が、「OZ」内で個々人のアバターのアカウントを奪うプログラムを作動させ、それにより一部のライフラインが麻痺しているという。町中の混乱は祖母・栄の注力により大混乱は避けられた。時を同じくして陣内家で鬼っ子扱いされている詫助が戻ってくる。それを喜ぶのは夏希だけだ。だがやがてOZの中で勝手に暴れだしてアカウントを奪い続けるプログラムの制作者が詫助であることが判明する。その一方でOZ内の格闘チャンピオンである「KING KAZMA」を倒して調子づいたプログラム「ラブマシーン」はさらに増殖をし始める。さらにラブマシーンは取り込んだアバターの能力を用いて活動を始める。
 そんな中で陣内家の中核であった祖母・栄は、ラブマシーンの活動の影響で急死してしまう。陣内家は静まり返るが、そんな中で男性陣は栄のかたきを討つとして、ラブマシーンの退治を画策する。陣内家の歴史的な勝ち戦にちなんだ作戦で、「KING KAZMA」でラブマシーンをおびき出す健二たち。ラブマシーンは取り込んだアバターの能力を使い、宇宙探査機をコントロールして核ミサイル基地に落とそうとし始める。その上、包囲したはずのラブマシーンは取り込んだアバターにより増殖して巨大化した揚句、KING KAZMAを圧倒する。だが健二と陣内家はあきらめない。そして最後の大勝負に挑む夏希は、ゲーム好きのラブマシーンの性格を読んで、掛け金をアバターに設定した「こいこい」で勝負をかける。陣内家の一同のアバターを背に、戦う夏希の勝負の行方は?

<大家族の神話と解体>
 本作は実に面白いストーリー展開で見るものを飽きさせない、実に王道のエンターテイメントとして仕上がっている。特に序盤から登場する花札「こいこい」が、最終的にラブマシーンとの決戦の勝負に選ばれるあたりは特に面白い。花札、ひいては「こいこい」に興じたことのある人なら、このゲームが手札の運だけで成立する勝負ではなく、その場その場でプレイヤーが判断する状況が大きく勝負を左右することを知っているだろう。一般的に知られている「ばかっ花」というゲームが手札・山札をすべて使用するために、手札と巡回の運に左右されるのに対して、「こいこい」はより以上に博打性が強いゲームなのである。こういうことを夏希が得意としている事情は、幼いころから祖母・栄に仕込まれているという背景があり、そこに「大家族」の意味づけが感じられる。
 こうした花札ゲームは本質的に古い時代にさかのぼるギャンブルである。花札は私が子供のころから親しんでいるゲームであり、私は両親から手ほどきを受けた。両親は山陰地方の出身であり、彼らも実家にいるときに学んだらしい。話を聞くと盆や正月など親類縁者が多く集まる時には花札に興じたという。だから本作での「こいこい」の意味合いは、背景として私にはよくわかるのだ。
 だが一方で、そうした大家族や旧家は解体される。昭和40年代以降の日本では、都市の中枢が東京や大阪などのいくつかの都市部に集中しはじめる。産業の中心が都市部に集中し、労働力も同時に都市部に集中し始めることにより、地方から大挙して若い労働力が都市部に送り込まれ、彼らは労働の場所と住環境を都市部に移すことになる。そのため人間の縁故は解体され、核家族化する。核家族化が進むと、祖父母は家族の中心となりえない。それでも大家族が集まることはあったろう。私が子供だった昭和50年代には、盆や正月を含めたそうしたイベントはいくらでもあった。つまるところ「花札(こいこい)」は大家族の象徴であるのだが、現代社会においては核家族化が進行し、大家族的なイベントは少なくなるし、花札の出番などもはやないである。

<設定としての大家族>
 問題はこの「大家族」の取り扱い方なのである。
 もしこの物語が本当の意味で「大家族」礼賛の気持ちをもって作られたのであれば、どうしてもおかしいと思えるところが出てくる。
 まず問題なのは祖母・栄を中心とする女系家族であることである。この「栄」という人物が、祖父以上に本人が女傑であり、前半に傑出した活躍をするのであるが、その反面であまりに強すぎる。特に警察や消防などのホットラインを持っていたり、その上層組織の長との直接的なつながりを有しているのである。
 また「栄」の影響だろうか、その息子たちですら優秀な警察官であったり消防隊員であったりするし、それゆえに最終決戦時に登場するスパコンなどの必要であまりにも優秀な機材を持っており、それが反撃の狼煙となる。そうした優秀な人材は持っている情報も多彩であるから、それこそ米国防省の機密事項に通じる情報まで開示してしまうのである。
 以上の指摘した点について、おかしいとは思わないだろうか? あなたが田舎に帰って出会う人物に、このような人物ばかりだろうか? そう考えると、ここに登場する人物があまりにも優秀すぎて納得いかないのである。「普通の大家族」ではなく、「特殊で優秀な大家族」を描いているのである。そこに果たして「大家族の復権」は望めるだろうか。この特殊な大家族の姿は、あくまでも必要となる機材を手に入れるための設定でしかないのであり、それゆえに「大家族」は意味を失うのである。

<「おもいでぽろぽろ」との対比>
 これとほぼ同じ構造を持つ物語がある。1991年に公開されたジブリアニメ「おもひでぽろぽろ」である。物語は東京で会社勤めをするOLが、山形の農村へ出かけて行き、そこでの経験のなかで子供のころの思い出を語りながら、現在の自分を見つめなおすという作品である。
 「おもひでぽろぽろ」で指摘されていたのは、「農村」というコミュニティを主人公のOLが、一見礼賛しながらも、最後の最後で農村に嫁ぐという選択を前にして、大きく逡巡することである。物語の前半で主人公のOLの過去話を織り交ぜながら、山形での紅花栽培と紅花を使った染物を体験し、農村で生活する楽しさとしんどさを見せており、その充実した山形の農村の背景美術の美しさが圧倒的に素晴らしい映画であるのだが、後半での「農村に嫁ぐ」=「農村に縛られる」という重さに耐えかねるように悩む主人公の姿が、前半の感動を全く否定している作りになっている。
 本作が抱えた矛盾を指摘して、「ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義」(佐藤健志著)では「制作者が農村の幻想を信じていない」としている。つまり「おもひでぽろぽろ」の制作者たちは、自分たちが設定上選んだ「農村」というものを、自らの作品で否定することで、「農村」という幻想すら持てなくなっている現代の自分たちの思いを吐露しているのである。私も本作を見ていて非常に不愉快であったのは、当時懐古主義的な作品があったなかで、本作もこうした作品群に位置するのであろうが、まったく本編をなじんでいない感触を受けたことである。この作品が「農村礼賛」であるなら主人公の「想いで」部分はまたく必要なく、懐古主義的作品であるならば、農村部分がまったく意味をなさない。パーツとしてのそれぞれの部分がまったくかみ合っていないのである。

<信じてもいないことを物語にする欠点>
 この「おもひでぽろぽろ」という作品における「農村」は、「サマーウォーズ」における「大家族」の設定とまったく同じにおいがするのである。つまり本作における「大家族」はあくまで設定であり、作り手である細田監督自身が「大家族」も「核家族の否定」すら信じていないのではないかと思えるのである。
 それがはっきりと示されるのは、「こいこい」によるラストバトルにおいて、夏希がどんどん追い詰められていく過程で、レートが合わずに勝負を降りるかという瀬戸際で、OZにいる多くのアバターが、志願して夏希のレートに加わろうとする感動的なシーンに露呈する。このシーンを、細田監督の出世作でもある「劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム」の焼き直しであるという指摘は、ネット上でもたくさん読ませていただいた。だが私の感触(デジモンを見ていないので)としては、むしろ「ウルトラマンティガ」の最終回や「平成ガメラ」に酷似しているように見えた。
だがこのシーンで細田監督が見せたいのは、「大家族」を背景に戦っていた夏希のために、ラブマシーンを共通の敵として認識したOZの多くのアバターが、手を貸したように見えるのだが、この夏希を支持したアバターたちは、細田監督の演出意図としては、夏希の見知らぬ家族として定義しなければ、「大家族」をモチーフにした本作は落とし所を失うのである。だがその一方で見知らぬアバターたちは、日常で普通にインターネットを利用している人間には、ただのネットの住人にしか見えず、これをもって「大家族」礼賛を主張するには、我々のような観客には説得力がない。つまるところ細田監督には「大家族」の復古や必要性をことさら主張するつもりがないにもかかわらず、舞台設定としての「大家族」をしつこいぐらいに用いたのであることは明白となる。そうすれば「サマーウォーズ」の説明や宣伝を考えた場合には、「大家族」や「旧家」というタームを使うこと自体、作品の方向性を捻じ曲げるものである。
こうして制作者側が信じてもいないことを、さも信じさせるように作られた作品は、結局極解しか生まない。「おもひでぽろぽろ」がテーマとなる「農村礼賛」の部分がどうしてもかすんでしまったように、選ばれたり限られた有能な人間の物語の側面がある本作は、一般的な「大家族」を否定し、「大家族礼賛」さえも否定しかねない齟齬をもった作品だとわかった。
とはいっても、前述のように「サマーウォーズ」というエンターテイメント作品として十分価値のある作品であることには違いはない。何度も申し上げるが私はこれを見て素直に泣いたし、ラストバトルのシーンでは心から盛り上がったのである。物語の持つ爽快な展開に体がなじめば、これほど気持ちのいい作品もないだろう。瑣末な部分に目をつぶることはできるだろうし、物語に身をゆだねている間は、このような瑣末な点には気づきもしないだろう。それとても細田監督の手腕である。私はどうやら相性が悪いようだが、大多数の観客には喝采をもって迎えられた作品である。このたびの地上波放送を、ぜひ楽しんでいただきたい。

追記(2011.08.08)
 過日ケーブルテレビで再び本作を見た。
 いや、面白いし泣けるしいい作品なんだけど、気になる点が2つ。
 劇中登場する「OZ」って、誰が管理してるんだろう? mixiだって管理会社があるのに、これだけの大事件に、管理者は何してるんだろうか?
 同様のことが「国」にも言える。いくら先行している陣内家の人間が情報を取得しているとはいえ、人工衛星の落下の情報や避難誘導など、国家がなさねばならない行動はいくらでもある。その意味では実にリアルではなくエンターテイメント寄りの作品であると理解はできるのであるが。

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