「バットマン マスク・オブ・ファンタズム」~誰の中にもある“恐怖”~

 現在地上波でも放送されている「トランスフォーマー アニメイテッド」。物語自体はこれまでのトランスフォーマー・シリーズとは異なっており、完全に過去のテレビシリーズとは切り離され、仕切り直した物語となっている。ただあまりにもキャラクターがカートゥーン化したデザインはやはりいただけない。その昔、アメリカ産のアニメには、ヒーローを主人公とした作品が多く、コミックから飛び出したようなアメコミチックなデザインのキャラクターが幅を利かせていた。その一方で「パワーパフガールズ」や「デクスターズ・ラボ」などの等身が下がったコミカルな作品が幅を利かせている。一方で、「バットマン」や「スパイダーマン」などが活躍するヒーローアニメも厳然と存在する。「ジャスティスリーグ」や「ベン10」などがそうだ。これらの作品はほぼ同時に劇場用映画として実写化された作品と連動していることが多い。
 日本ではこれらアメコミのアニメ作品は、あまり批評の対象にならない。私が知る限りこうした作品を愛してやまない人がいる一方で、深夜枠アニメと同等に批評にさらされる機会は極端に少ないように思うのだが、どうだろう。
 さて今回扱う「バットマン」であるが、アメリカでも作品化される回数の多い作品である一方で、実写映画としても成功している作品として知られている。その人気は、それまで「スーパーマン」のような陽性のキャラクターが好まれたアメコミヒーローの中で、「ゴッサムシティ」という架空の街を舞台にしている点に、人間の暗部に鋭くメスを入れる陰影のあるキャラクターにあると言っていい。それゆえに「バットマン」は他のアメコミヒーローとは一線を画す存在として認知されていく。
 本作ではバットマンの誕生秘話を描きつつ、ブルース・ウェインの過去の悲恋にスポットを当てる。それはブルースであるバットマンが、己の写し身と戦うドラマであったのだ。

<物語と概要>
 本作「バットマン マスク・オブ・ファンタズム」はアメリカで1993年末に公開されたアニメーション映画である。1992年に公開された「バットマン・リターンズ」の後を受けて公開されている。内容的にも1989年に公開された「バットマン」におけるジョーカーの設定などを取り込んでいる。
 物語は「ファントム」と名乗る仮面の人物が、ゴッサムに暮らす人間を殺していく事件が発生する。ゴッサム市警は犯人を仮面の人物としてバットマンに容疑をかける。ブルースはバットマンに掛けられた嫌疑を晴らすため、行動を開始する。時を同じくしてブルースはかつて結婚まで考えた女性アンドレアと再会する。それは忘れかけていたブルース自身の過去の記憶。やがて殺された人間たちがアンドレアの父親の仇敵であることを見抜くブルース。だが事態は父の仇の仲間であったジョーカーを巻き込むことで展開し始める。謎めいた行動でバットマンを陥れようとするジョーカーの罠を切り抜けられるのか? そしてファントムの正体は? 事件の解明はブルースに衝撃を与えるものだった。

 作品自体はブルースがゴッサムシティを舞台に如何にバットマンとなっていったのかを、過去のエピソードとして見せている。そもそも原作通りにブルースは両親を目の前で殺されたことに端を発している。このこと自体は原作通りの話である。一方の敵役であるファントムは、アンドレアの父親の仇である人間たちを殺そうとした。アンドレアは復讐者なのだ。この出自だけを考慮すればファントムとバットマンは完全に相似形なのである。この二人の袂を分ったのは「復讐者」から如何に脱皮するかということだった。それは「仮面ライダー」が復讐者として誕生しながら、平和を守護者たらんとすることを自らに課したことにより、正義のヒーローに変貌する。その一方で平和や正義の形を疑いもしないライダーに対して、バットマンは常に自分の立場を揺るがされる。それはバットマンと敵対する怪人たちの存在ゆえだ。本作のバットマンもこの例に連なる。しかも本作の敵であるアンドレアはブルースのかつての恋人である。ブルースは常に自分の写し身と戦いながら、自分の立ち位置を再確認させられることになる。「バットマン」とはそうした敵役の姿をした「自分」との戦いという側面がある。
 
<“恐怖”の意味とは?>
 もう1点本作で気になるところは、ブルースがバットマンになるエピソードである。ブルースが自分の力を初めて犯罪者に対して行使した際、ブルースは黒い服にマスクをかぶり、むしろ自身が泥棒のような格好で犯罪を抑止しようとした。だが犯罪者はブルースの姿や格闘を見ても驚きもせず反撃してくるし、次の犯罪を助長する結果となる。これに対してブルースは、次の犯罪を抑止するためには、絶対的な「恐怖」を植え付けることが必要だと考える。その思考の末にブルースは、誰もが怖れを抱きやすい「蝙蝠」の姿を借りることを考えつき、バットマンのバットスーツにたどり着くのである。

 この「恐怖」を問題としたい。「恐怖」とはなんだろうか? 今期の深夜枠のアニメにはやたらとホラーな題材の作品が多いように見受けられる。これら「ホラー」な作品はもとをただせば「怪談」やら実話の恐怖体験話などにたどり着く。ここでは題材に「怪談」をとりあげてみよう。この怪談が大人から子供まで幅広い世代に受け入れられていることはご存じだろう。それこそ「学校の怪談」やら「怪談レストラン」などの幼年向けの作品から、稲川淳二氏の怪談興行、そして落語にも怪談を十八番にしている噺家さんも存在する。
 こうした「怪談話」が喜ばれる背景には、「怪談」が持つ普遍的な特徴が存在する。それはまず物語が順序立てて進むこと、それまでに登場する伏線の多くが物語のラストで回収されること、そして物語は確実に閉じる方向性で終結することが挙げられる。つまり怪談の聞き手は、怪談がどこまでいっても必ず伏線を回収し、最後には恐怖のオチ(落語で言うサゲ)が来て終結することを知っている、予定調和の物語なのだ。その上で、なぜ物語が恐怖を帯びるかという問いかけに対して、因果関係のはっきりした答えを用意できるという特徴を持っている。わかりやすく、そして聞いている側にとっては薬にもなる物語、それが「怪談話」の特徴である。
 こうした恐怖の物語から聞く側の人間が何を受け取るのかを考えてみる。それはこの恐怖の物語が普遍的であるが故に、いつ自分の身におきても不思議ではないことを想像させる。いわば怪談は体裁のよい訓話となり、自分自身を律するための故事となる。つまり「恐怖」とは、いつか自分が恐ろしい体験をするのではないかという疑心暗鬼と、そうならないために己を律する訓話ということになる。この恐怖の話の恐ろしさの程度が大きい程その効果は高い。だからこそバットマンはその恐怖を悪人に身をもって味あわせるために、体を張って肉弾戦を強いるのである。

<ヒーロー“ゆえ”の恐怖>
 この話、別に「バットマン」でする話ではないんじゃないか?と思われたあなた。ス、スルドイ!(笑)だがしかしここからが本作やバットマンシリーズが持つ面白さなのだ。
バットマンであるブルースは、ゴッサムシティといういわば“箱庭”の正義をつかさどるヒーローとして登場する。ゴッサムという街自体はアメリカの都市部、特にスラムなど犯罪件数の多い街である大都市圏の一部を模したような街である。そこにバットマンは正義として君臨する一方で、犯罪の最前線にさらされる。だがそこはバットマンと負けず劣らずのマスクマンが跋扈する世界でもある。バットマンが“そこ”にいるのはブルース自身が望んだからであるのだが、その一方で犯罪者は様々な形のマスクをかぶって登場する。白塗りの顔にして口元のゆがんでしまったジョーカー、やけどを負った半分の醜い顔を持つトゥーフェイス、手足が奇形化した怪人ペンギン、顔を含めて全身黒い皮で覆われたキャットウーマンなど、バットマンを脅かすマスクマンは後を絶たない。バットマンはこうした悪人たちと戦いながら、その実、j自分が彼ら悪人たちの一番近い存在であることを知っている。そして彼らが人間の裏面であることを知っている。そして彼らが企む悪事に対し、常にイの一番に驚嘆する立場にある。バットマンがバットマン自身を正義たらしめているのは、彼ら悪人がいるからであることがわかる。バットマン=ブルースはきっと彼らに「恐怖」を感じているだろう。その「恐怖」こそが、彼をして自分を律して正義の側に立たせるのである。バットマンが悪人に与える恐怖は、結局自身に帰ってきている。けれどその恐怖こそ、バットマンをバットマンたらしめている存在理由ともなっているという、皮肉の利いたダブルミーニングになっている。これこそが「バットマン」シリーズの最大の醍醐味ではないだろうか。

 「バットマン マスク・オブ・ファンタズム」はアニメ作品でありながら、こうした「バットマンシリーズ」が有している面白さを見事に再現している。アニメ作品であるが故の噛みごたえは確かにやわらかいのであるが、少なくても根っこの部分は実写化された「バットマン」シリーズと共有している事実にいまさら驚かされる。テレビアニメ作品としてはさらにシリーズが多数作られた「バットマン」であるが、ブルースが老いて引退した後に2代目を引き継いだ青年の物語として「バットマン・ザ・フューチャー」という作品も存在する。この作品もまた非常に興味深い作品であるので、いずれご紹介したいと思う。

「バットマン」シリーズ、特に劇場用映画では、ゴッサムシティのセットやヴィジュアルなどがよく取り上げられるし、バットマンが使う魅力的な装備や武器類も注目が集まる。そして登場する悪役がだれかなど、作品化されるたびに話題に事欠かない作品である。だがそれゆえに「バットマン&ロビン」や「バットマン・フォーエヴァー」などの作品は、本質的に「バットマン」シリーズが持っているキャラクターの闇の部分を触らずに物語が作られているために、これらの作品はアメリカで意外なほど評価が低いと聞く。だが我々日本人ならば、誰もが知っている「仮面ライダー」が、闇を忘れてバイクを乗り回し、明るい造成地を舞台に奇怪な怪人たちとバトルを繰り広げ、復讐者から容易に転じてしまった姿を知っているはずである。評価の低い「バットマン」シリーズでは悪事を憎み、正義のヒーローたらんとするバットマンの陽性のヒロイズムに満足できるのは、もしかしたら日本人だけなのかもしれない。

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冗談じゃなく、結構面白いんです、これ!
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No title

バットマンは「恐怖」や「正体不明」を武器にしていますが、相手の怪人

たちも同じものを武器にしていますね。

仮面ライダーが戦う相手も、また自分と同じ改造人間で、

バットマン同様自分自身の鏡像であると思います。

お互い非常に近しいものなので、ヒーローは相手と同じものに

ならないように、魂に何かがなければ

ならないわけですが(「正義」とか簡単なものじゃないです)。

かつての仮面ライダーは敵を滅ぼしてしまうと、そのまま身近な人たちと

平和な生活を楽しめばいいものを、どこかへ姿を消してしまいます。

敵たちが自身の鏡像だと考えると納得してしまうのですが、物悲しいです。

一方「犯罪」を敵として戦うバットマンは、決して戦いが終わることは無く

(殺された両親の復讐、というのも意味がなくなってしまいましたし)

重傷を負って体が利かなくなってもリハビリして復活し、

(2代目バットマンは使命の重圧に耐えかねてリタイアしたので)

高齢になっても、超人的体力とスーツの助けを借りて戦い続けるという

無間地獄のような人生送ってます。

やっぱりヒーローは楽じゃありません、最近のライダーは簡単にやめられますが。

No title

うめさん
 「仮面ライダー」の場合、どこか「同族殺し」という逃げられない原罪を背負っているような気がします。
石ノ森ヒーローの共通点なんですけどね。
 バットマンの場合は同族とはいえないのですが、おっしゃる通りの写し身(鏡像)ですから、結果は同じです。
面白いのは「仮面ライダー」はショッカーがいなくては誕生できなかったのに、ショッカーがいなくなっても「仮面ライダー」のアイデンティティは保持されるのに、バットマンは悪人がいなければアイデンティティが保てないことです。

「仮面ライダー」になったものは「仮面ライダー」であることから逃れられないのに、バットマンはバットマンをやめることができる。まさに平成ライダーのありようは、バットマンを選択しているんです。

その一方で実はバットマンもやめられない。それは人間の持つ宿業のようなもので、それが二代目に受け継がれるのですが、魂までは受け継げなかった。それが「マスクマン」の限界だとでもいうように思えます。

ってかさ、二代目の話、最後をネタばれしたら、俺書けないじゃないの!(笑)
本文で「いつか書いてみたい」って書いてるのに(泣)
とはいえ、最後まで日本未放映で見てないので、なんとも書ききれなかったんですけどね(爆)

No title

「バットマン ザ・フューチャー 」と原作コミックの2代目バットマンは

別な話なのでご安心を。

ネタバレしますと、2代目バットマンことアズラエルはもともと幻覚見たり

危うい人なのですが、使命の重圧の為にだんだん悪人たちに対する

対応が行き過ぎになり、殺人をも厭わなくなった彼は、警察とも対立する

ようになります。そこに治療を終えたバットマンが帰還し、初代と2代目の

対決となるわけです。

人間の悪はなくならない、ブラックゴースト首領の言うとおりです。

しかしバットマンは人間なので年を取り、いつかは引退しなければ

ならない。これからコミックのほうはどうなるのでしょうね、これは

いわばバットマンはブルース・ウェインしかありえないことを証明した

様でもありますし。

No title

うめさん
 二代目の件、了解です。いろいろ調べてやっと理解しました。が、コミックスまでフォローしてるとは。あいかわらずのディープっぷりですね。頭がさがります。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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