「浮浪雲」~騒乱の幕末を眺める冷やかな視線~

 NHKが今年の大河ドラマで「龍馬伝」をオンエアしている関係で、今年はやけに「幕末」が熱い。こう言っては何だが、今年の夏は暑い。このクソ暑い夏に、暑苦しい男たちが暑苦しい幕末に暑苦しく右往左往している様は、どう見ても暑苦しい。なるほど主役の龍馬役に福山雅治氏を起用している理由は、少しでも画面からの熱量を下げようとしているからかもしれないのだが、福山さんの龍馬も熱い熱い(笑)。
 だが「幕末」とは「日本」という国の一大転換期である。「盆と正月が一度に来たような」などと言うけれど、それこそ日本という小さな島国の歴史の中では、産業革命とフランス革命とゲルマン民族大移動がいっぺんに来たような大騒ぎだったはずである。南は九州・鹿児島から北は北海道・函館まで巻き込んで、日本が国を挙げて大騒ぎしていたころ。そりゃ熱くもなるわけで。こうした熱量をもった時代は、時代劇や歴史ドラマとしてテレビに多くの素材を提供し続けている。そうした熱量を伝えるだけの時代のボルテージが、この時代にある証拠だろう。事実「幕末」を舞台にしたテレビドラマは多い。私の好きな必殺シリーズでも「必殺からくり人血風編」や「暗闇仕留人」が幕末を舞台にしている。またテレビ東京系列で正月に放映していた12時間ドラマでも、萬屋錦之助さん主演の「龍馬がゆく」が私は忘れがたい。龍馬暗殺のシーンで急にモノクロ映像になり、額から血しぶきを出している龍馬が死にゆく姿を、長回しで撮影されていたことが、格別印象深い。
 今回のお題である「浮浪雲」も幕末の品川宿を舞台にした物語である。だがこうした「幕末」の熱量のあるイメージとは一線を画す作品となっている。

<作品概要など>
 「浮浪雲」はジョージ秋山の手によるマンガを原作としている。マンガは1973年から「ビックコミックオリジナル」に掲載され、現在も連載が継続されている作品だ。テレビドラマとしても1978年の渡哲也氏主演と1990年のビートたけし氏主演の2度ドラマ化されている。アニメ版は1982年に劇場版として制作。同時上映は「戦国魔人ゴーショーグン」で、テレビ版の再編集版が公開されている。この作品、劇場公開後にテレビの深夜枠で放送された後、一度もソフト化されていな作品であったが、この7月末にようやくDVDとして発売された。私にとってはテレビで放映されていた予告編しか見ていない、長らく幻の作品であった。

 江戸末期の品川宿。女たちからは助平、怠けものと笑われながら、一声で東海道の雲助たちを動かすことができる問屋場の頭・浮浪雲(演 山城新伍)。いつも問屋場の番頭に叱られながら、宿場町で何者にも束縛されずに生きる雲の旦那は、女たちには愛想を尽かされながらも男たちにはめっぽうモテる、そんな魅力の持ち主だ。
 物語は雲と維新志士の一人を打ち取った新撰組の一文字兵庫(演 古谷徹)との出会いから始まる。一文字は維新志士である坂本龍馬(演 井上真樹夫)の暗殺を目的に江戸に入ったのであるが、龍馬はなかなか尻尾をつかませない。品川宿にも不穏な幕末の空気が押し寄せる。そんな品川宿でも、雲の一子・新之助は私塾に通い、多くの子供たちとともに勉学に励んでいたが、同時に反抗期でもあった。だがそれは同じ私学に通ういじめっ子たちに太刀打ちできない己の不甲斐なさへの裏返しでもあった。とはいえ新之助もまだ子供。父親である雲に簡単にいなされ諭される中で次第に成長し、ついにはいじめっ子を撃退する。それはあこがれの坂本龍馬との交流が新之助の後押しをしたのである。そんなわが子の成長を微笑ましく眺めていた雲とかめ(演 熊谷真美)夫婦。彼らの日常は幕末の動乱そっちのけで、ゆっくりと流れていく。そんな新之助の思いを知ってか知らずか、雲は一文字たち刺客の手から、坂本龍馬を助けることになる。一文字はやがて来る雲との対決に特訓をしていた。だが雲と一文字の対決の行方とは別に、龍馬が京都で暗殺されたとの知らせが新之助の耳に入ってしまう。その知らせに涙する新之助はわき目も振らず出奔する。だが一人旅の中で己がまだ子供であることを悟らされた新之助は、雲の腕の中へと帰っていく。新之助が戻った品川宿は、やはりおだやかに時が流れていく。

 制作はマッドハウス、監督は真崎守。画面構成(レイアウトのことでいいのだろうか?)を川尻義昭がつとめている。また劇中の中盤の見どころである龍馬暗殺のシークエンスだけは、村野守美が担当している。この龍馬暗殺シークエンスについては実に荒々しいタッチで龍馬が一刀両断されているさまを描いており、それまでのシーンから一変してダークトーンを基調とした画面の迫力は、モノクロ時代の「佐武と市捕物控」のアクションシーンに酷似している。また雲のもつ刀が特徴的であり、長刀を柄で二本つなげたような形をしている。劇中でもこの長さを一文字に逆手に取られ、あやうく負けそうになる雲であった。時代劇らしくチャンバラシーンには十分すぎるほど重きを置いているのがわかるのは、2度にわたる一文字と雲の対決シーンである。これらのシーンは後の川尻善昭氏やマッドハウスがかかわる時代劇アニメ「カムイの剣」などにも引き継がれる。

<時代を見つめる冷やかな視線>
 だが本作の妙味はこうした緊迫したシーンの合間に挟まれる、雲と新之助親子の心温まる人情芝居だと思う。序盤の新之助は父親である雲を情けない父親だと思い込んでいるのだが、父親がその背中で「大人」としての姿を見せるたび、新之助は少しずつ雲を見直していく。面白いのは雲は新之助とまったく同じレベルで新之助と大人げないケンカをするのである。雲の言い分は「ケンカに大人も子供も関係ない」というもの。雲は人間生きていることを前提にして、子供であることを隠れ蓑にしたり言い訳するヤツを認めないのである。刀一本、身一つで生きている雲は、家族を持ったところでなんら変わらない。親としての自覚が足りないと妻・かめに思われても、そこだけ曲げない。その男らしさはきっと男が惚れるのであって、女性が惚れる話ではない。「おねえちゃん、あちきと遊ばない?」という台詞は、演じる山城新伍氏の名演あっての名台詞であるのだが、その言葉が実を結ぶことはない。けれど雲に声をかけられた女性たちが、いずれもまんざらじゃない表情を見せることに留意したい。男に惚れられるといいながら、結局女性にも惚れられる雲なのである。

 さてここでもう一つ話題にしたいのは、この物語が先述の通り「幕末」という日本の歴史の中で最高潮に達するほどのボルテージを持っている時代を背景にしながら、実にあっさりと、しかもしっとり静かに物語が進むことである。「幕末」という時代設定はあくまでも新之助が坂本龍馬という男に出会い、あこがれるため、そして雲が腕利きの新撰組の一因と切り結ぶための都合のよい設定というだけに落ち着いていることだ。雲自身もそうであるが、同時に本作のスタッフも原作者であるジョージ秋山ですら、この「幕末」という時代背景を冷ややかな視線で見つめている感じがするのである。幕末という時代背景はあくまで雲の日常に事件を起こすためのアクセントでしかない。それは幕末の動乱のただなかにいる人物ではないことは事実である。だが維新の志士と呼ばれた坂本龍馬はそういうわけにはいかない。そして彼を追って品川まで来た新撰組の一文字にしてもそれは同じである。まさに動乱の真っ只中にいる人物である。これらの人物と雲が絡むということは、雲を幕末の動乱に巻き込もうとすることに等しい。だが雲は我関せずの立場を変えようとしない。そして幕末の動乱はあくまで自分の耳に届くエピソードとして、品川で粛々と生きていく雲なのである。例えて言うなら、総理大臣が変わっても我々の生活は変わらないとでも言っているようなシビアな目である。

<雲の魅力、作品の魅力>
「雲」という人物の成り立ちについては、劇中で明かされないばかりか、原作でもあまり触れてはいない。わかるのは相当の剣の腕を持ちながら過去に侍を捨てた男であろうということだけ。その出自には「浮浪雲」という名前をつけられるだけのエピソードがあったのかもしれないが、実につかみどころがないという意味においては抜群のネーミングセンスと言わざるを得ない。そんな男がたった一つだけこだわっていることがあるとすれば、それは主観を持ち込まないということではないだろうか。それがよくわかるのは、自宅にある刀を持ち出して、いじめっ子を懲らしめに行こうとする新之助を送り出すシーンだろう。一見すると男として独り立ちする新之助の後押しをしたようにも見える雲であるが、雲が事の顛末を知っている風もない。ということは新之助が刀を持ち出して、思いつめた表情で何をするのかはわからないのだけれども、「男の子にはそういう時もあるさ」と読んでの行動になっている。それは別に新之助を思いやっての行動ではなく、新之助がどういう行動を取ったとしても、落としまえはちゃんとつけるという、大人としての覚悟を示したに過ぎない。その上で、雲にとっては天下国家の一大事である倒幕運動も、新之助の子供のケンカも大した差はないのである。あくまでも冷静に冷やかに事態を、時代を見つめる目、そして事態がどうなろうとも対応できると腹をくくっている大人の対応力。それが「浮浪雲」という男の魅力であり、この物語の懐の深さではないだろうか。

 30年ほどの時間を経て、ようやくわが目にすることができた私にとっての幻の作品は、こんなにもタイミング良く、私の前に帰ってきてくれたような気がする。日々の生活に追われて、ぎっちぎちで働いている現代のお父さんたちには、ぜひともこうした冷静な視線を体感してみてほしい。そうした視線はきっとあなたの日常を見直すきっかけになるかもしれない。私のようにぎっちぎちな感情をもてあまして体を壊してぶっ倒れてリタイヤする悔しさを感じる前に、立ち止まって本作を見直してもいいのではないだろうか。

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コメント

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No title

内容と関係の無い私信です。

youtubeで Scene from condorman

を検索すると面白いものが見られます。

No title

うめさん
 そういうのはさ、非公開コメントでよろしく。

 タイトルでわかるんだけど(笑) どうしろと・・・・。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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