緯度0大作戦~科学は誰のためのものか?~

 「心を忘れた科学には、幸せ求める夢がない」

 上記の歌詞は手塚治虫原作のアニメ「ミクロイドS」の歌詞の一部である。
 過日、ツイッター上でこの歌詞の内容について否定的な感情を持つ方がおられた。その方のつぶやきによれば、悪いのは科学を学ばない人なのか? それとも科学を世間に宣伝できない人なのか?ということをつぶやいておられた。どうやらこのツイートの主は、科学に幸せが求められないのは、科学自体に無関心あるいは無知な「人」に問題があるのではないかと指摘しているようなのだ。これに対して私はあくまでも作品に寄った形で、歌詞に拘泥して返信したのだが、私は彼のツイートの本質を見誤ったようで、恥ずかしい思いをしてしまった。
この歌詞の意味を考えるならば、多種多様にこの世に存在する「科学」というものの中で、人の心を忘れた「科学」、あるいは人の立場に立脚しない「科学」は、人に幸せをもたらすことができないし、人としての夢を追求することができないという意味になるだろうか。正しいかどうかは自信はないのだが、本ブログでは毎度おなじみ、「阿久悠」先生の歌詞である。深いなあ。

 実はこのツイートをきっかけに、「科学とは誰のためのものなのか」という命題に行きあたって、なんともはがゆい思いをしている。こんなしょーもないブログで考えることではないかもしれないけれど、私もかつては科学者の端くれの端くれであったことを思い出して、古ぼけた脳みそで考え事をしてみようと思う。そのためのガイド役として、「緯度0大作戦」という作品を選んでみた。

<作品概要と物語>
 「緯度0大作戦」は1969年7月に劇場公開された作品である。日米合作の大作映画として1974年にリバイバル上映までされている映画であるのだが、二次利用に関する権利関係が不明瞭であったため、長らくソフト化されていない幻の作品として、特撮ファンには知られた作品である。その実、「ふしぎの海のナディア」を制作中の庵野秀明監督は、スポンサーに本作の制作会社である東宝がいるのをいいことに、東宝の試写室にて本作を鑑賞し、「緯度0大作戦は今見るべき映画です」ってなことを言っていたという逸話まで残っている。それほど特撮ファンの間で渇望された映画であったのだ。

 さて物語のほうであるが、これがまあ至極単純な映画である。
 科学者たちの桃源郷である「緯度0」。ここにあつまる優秀な人材の多くは、世間的に死亡していたり行方不明になっていたりする人物ばかり。だが自由に研究が進められる環境下で、人種による差別もない平和な世界を築いていた。
 緯度0のマッケンジーは潜水艦α号で、海底火山爆発に巻き込まれた潜水艇の乗組員3人を救助する。3人の命を助けたマッケンジーは彼らを緯度0に招待する。3人はそこで驚くべき緯度0の実態を垣間見る。一方で緯度0と敵対するマリクは、虎視眈々と岡田博士とその娘を誘拐する機会をうかがっており、ついにそれに成功する。それを知ったマッケンジーは、救助した3人や仲間とともに岡田博士父娘の救出に向かう。マッケンジーたちは岡田博士たちを無事にすくいだせるのか。マリクの駆る潜水艦・黒鮫号とα号との熾烈な戦闘の火ぶたが切って落とされた!

 特撮ファンとして見るべきは、やはり万能潜水艦・α号と黒鮫号の戦闘シーンだろう。「ローレライ」など、日本における潜水艦映画はなぜか海中が明るく描かれており、なにか太平洋の南国的なイメージのある海が描かれているのが常である。本作もその域を一歩も出ていない(試しに「Uボート」や「レッドオクトーバーを追え!」などの洋画と比較してみるとわかりやすい)。だがそこは円谷特撮である。「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」でも披露された潜水艦特撮は、すでにこの段階で出来上がっている。大型のプロップを用いての迫力ある特撮シーン、そして潜水艦ドックにおけるクレーンなどのミニチュアとコンビネーションは、さらに迫力を増して画面から圧倒的な質感があふれんばかりだ。その後「マイティジャック」にも影響した大型模型を使った大迫力の特撮の数々を、本作で思うさま堪能できる。
 また円谷お得意の怪物にも力が入れられている。マリクという科学者は人類未踏の生態改造に成功している人物として描かれており、大型のネズミやコウモリ人間などの怪物がマリクに従っている。白眉はマリクの右腕だった女性・黒い蛾の脳をライオンに移植し、さらに猛禽類の羽を取り付けた「グリフォン」が登場する。こうした数々のキメラ(合成獣)の見せ方も、怪獣特撮でならした円谷ならではの特撮が拝めるのである。

<「緯度0」における「科学」の意味>
 さてここで話題にしたいのは、科学者の桃源郷とでもいうべき「緯度0」についてである。まず論点を明確にしておくために、「緯度0」について劇中からわかる範囲の情報を並べてみよう。

・「緯度0」という名前の通り、赤道直下の海底にある。
・「緯度0」は特殊なバリアで覆われており、バリアを通過できるのは「緯度0」製のマシンのみ
・「緯度0」には豊富な鉱物資源が存在する。また海中から必要な元素を取り出す技術がある。
・「緯度0」には科学者本人の希望により滞在できる。また緯度0の存在を秘匿できるなら、地上に戻ることも問題はない。
・「緯度0」の住人には寿命を延ばす技術が使われている。
・「緯度0」で開発された最先端の技術の一部は、なんらかの形をとって地上にもたらされる。それゆえに「緯度0」では「名誉」や「名声」など意味を持たない。
・「緯度0」の住民は多民族で構成される。だがそこに国や人種の区別はない。
・ダイヤモンドが石ころ的な価値しかないほど、「緯度0」では金銭的価値観は意味を持たない。

 さてここで「緯度0」での研究において、「科学者」にとっての良い面を探していくとするならば、以下の点が考えられる。

・人間の優劣を決めるものが何もない。
・研究に没頭できる環境に恵まれている。金銭的な不自由さから解放される。
・その気になれば寿命を延ばすことで、研究に費やす時間を手に入れることができる。
・競争がないため、共同研究がしやすい。それゆえに質的向上がはかれる。
・研究成果を狙う何者にも脅かされることはない。

 ではいいことづくめかと言えば、そうでもないだろう。海底に施設が固定されていることは、海洋科学分野では絶対の威力を発揮するが、地上での研究(地質学や生物学)などにはまったくの不向きであるし、ましてや「宇宙」に関連する研究の場合には施設の外に出る必要性に迫られる。緯度0にいる必然性が薄い科学分野もあるということだ。
 人によってはいくら「緯度0」が広大な空間を有しているとはいえ、閉鎖された空間であることには違いはないし、自分よりも優秀な別分野の科学者を見るにつけ、自分へのストレスに悩む人だって出てくるに違いない。待遇の良さが研究を進ませるかといえば、それも間違いだろう。逆に抑圧された環境だからこそ発想できる何物かがあることも、また一面の事実である。こうした人間個々人のばらつきを考慮しても、結果として多くの成果が残せるのであれば、「緯度0」という研究場所の価値はあるわけで、その資格さえあれば「緯度0」への出入りはある程度自由だし、寿命に対する切迫感もないに等しい。基本的には大変恵まれた研究環境であるといえるが、いろいろと問題点は多い。

 さらに問題なのは、「緯度0」に入るためには、ある程度の研究成果を残した人物であり、なおかつその研究の成果によこしまな心情が挟まれないことや、名誉や名声などに縛られた人間ではないことなど、なにがしかの緯度0側の「選択」が働いていることである。科学者なら誰でもというわけにはいかないし、なにより研究成果がなんらかの形で緯度0側に有用であると認められるだけの「結果」が必要なのである。ここに人間の意思が働いている以上、「緯度0」は決して平等な施設ではないことがわかる。
 またその成果の利用方法が、「平和利用」に限定されているわけではない。たとえ良心的な「緯度0」の人間が使用したとしても、本作でのマリクとの戦闘のように、いくつかの技術が「武器」として利用される可能性がある。マリク自身も緯度0の出身者であり、自らの能力ゆえに、緯度0の科学技術を掌握しようと試みていたのである。いつなんどき第二のマリクのような存在があらわれないとも限らないではないか。このように緯度0での研究は、常に「両刃の剣」となる危険性をはらんでいる。

 だが翻って現況の世界の科学技術はどうだろうか? 現在我々が生活している日常の中で、軍事技術を転用したものはいくらでもある。科学技術が常に二面性を有していることはごくありふれたことなのである。その意味においては緯度0も現在の地上世界もなんら変わらない。また資金や施設の問題はあるとしても、「科学」を志そうとする人間には必ず門戸が開かれている。その機会をどう生かすかはその人次第なのだ。そうであれば緯度0が科学者を選択している時点で、すでに科学者に対して平等ではないことがわかる。つまり「緯度0」における「科学」は誰のためのものかを考えるとき、おのずと「緯度0のための科学」であることが強調されるのである。とすれば、緯度0が裏で科学情報の一部を、何らかのかたちで地上世界にリークしていたとしても、それはあくまで技術の提供という還元行為であって、決して慈善でもなければ貢献でもないということになる。

<科学は誰のために、何のために・・・?>
 ここで最初の命題に戻ってみたい。「科学は誰のためのものか?」。緯度0がまがいなりにも故意に情報をリークする形で、科学技術を地上世界に還元しているのは事実である。ということは、その科学を用いて人の世界に役立ててほしいと緯度0の誰かが願っていることは確かである。ということは緯度0の視点に立てば、「科学」は「人のためにある」ことを証明している。少なくても物語上はそう読み取ることができそうだ。反面、緯度0では科学を悪事に転用することを、マリクを打倒することで戒めている。マリクは緯度0の科学を独り占めしようとし、緯度0はそれに抵抗していたことからも解るとおり、「科学」を個人で所有することに、緯度0が問題性を見出しているということになる。とすれば「科学」は誰の所有物ではなく、人類全体の共有資産であるという結論になる。

 では逆に「人のためにならない科学は意味を持たない」という命題はどうだろう? 例えば現行の宇宙開発などは真っ先にその意味を失ってしまいそうになる。医学や遺伝子研究は奨励されるが、地質学や生物学は冷遇されるなど。そのために大学の研究室は企業とコラボしたりして、細々と研究するなどの現状がある。ここで問題なのはその「科学」に意味や価値などを図ってしまう人間側の問題がある。先頃の事業仕分けなどもそうであるが、予算を削ることを念頭に置いて仕分けるあまり、その価値を人間が値踏みしてしまうことにより、科学自体が人間の都合で一元化されてしまうことには問題があるだろう。その一方で意外な研究成果がまったく研究者の予想もしていないことに転用されるケースだってある。最大の幸福を願うという科学の立場に立てば、「科学」や「研究する」行為自体に区別があってはならないし、研究成果の転用は、研究次第でいくらでも広がりこそすれ、限定的ではない。むしろ科学者のみなさんには「無駄な研究など一つもない」ぐらいの気持ちで研究していただきたいと思える。

 ここで文頭のある方のツイートに戻るのだが、その一方で「科学」に対しての無理解な人々がおられるのも、また事実なのである。特に「科学」やその「研究成果」を「金銭」とみなしてしまう「事業仕分け」の仕分け人たちを見るにつけ、その無理解ぶりに切なくなってしまう。だからこそこのたびの「はやぶさ」の件を見て、私は思うのだ。こうした「科学」や「研究成果」を「実態」ではなく「情緒」として人に訴えかける方法があるのだということを。「はやぶさ」の成果は「科学」にうとい人に対しても訴えかける「何か」がある。それは「科学」の本質ではないかもしれないが、「科学を喧伝する」という方法には違いはないのではなかろうか。人の情緒に訴えかける「科学」があってもいい。NHKの科学関連のスペシャル番組が、やけに情緒的になっていることは、この傾向の下にある気がしてならない。少しでも科学に多くの人が目を向けてくれることを、私も切に願っている。この世界は奇跡ともいえる科学の成果で成り立っていることを、多くの方々に知ってほしいと思うのだ。

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コメント

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No title

私は「飾り職人・秀」の元妻のファンです。恥ずかしながら・・・
その数少ない出演作である「緯度0」は、視聴を半ば諦めかけていた頃に
突然リリースされたという感があります。

それにしても、自分に恨みを持つ者の脳をグリフォンに移植したら
グリフォンが自分に攻撃してくるという予想はなかったんでしょうかね?

ストーリーがよく練られてる、平成の特撮ではこのような展開はないでしょうね。
この「お粗末な展開」こそが、昭和の特撮の醍醐味だと思います。
だから私は未だに「昭和」です。

No title

シャオティエンさま

 コメントありがとうございます。
 「中山麻里」に微妙な突っ込み。シャオティエンさんならではですねえwww ファンというのもうなずけます。おきれいでしたからねえ。なんだかエキゾティックで。私としては「サインはV」は当時の最前線の女優さんの宝庫で、たまらない魅力がありました。氾文雀さんとかw

 まあ、なんていうかいろいろお粗末な映画ではあるのですが、そんな突っ込みどころこそが「緯度0」の魅力かもしれませんね。DVDを購入してから数回見てますけど、いろいろまぬけな発見があって、するめのように味わい深い作品だと思います。同じ特撮大作映画でも「さよならジュピター」だと、こんなふんわりした突っ込みにならず、シビアで冷たいツッコミになりますので。いやまあ、そんなところもひっくるめて好きなんですけどね(なんだか変な告白みたいになってしまいましたがw)。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
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