劇場版「1000年女王」~スペクタクル+オマージュ-ドラマ?~

 誰でも思い出せないことがある。劇場にまで足を運んで見たはずなのに、その内容を逐一覚えているかと問われれば、「否」と答えるしかないこともあるだろう。映画好きやアニメ好きなど、多作品を嗜好する傾向のある人間にとっては、ある程度人間の脳がもつ許容量が決められているのであれば、どうしても記憶に漏れがでてくるのは仕方のないことだ。

 劇場版「1000年女王」。私にとってはこの作品がこれにあたる。確かに見たのに、見た記憶があまりにも薄く、むしろ劇場公開時に早朝に並んで入場し、それがいやに寒かったこと、映画「銀河鉄道999」のフィルムがしおりとして茶封筒に入れられて私の手元に来て、なぜか1枚500円で売りつけられそうになったこと、映画を観終わったときに、なぜかがっかりしたことなどを思い出すのみなのである。自分にとっては面白い面白くないではなく、本作がよく理解できないと思っていたこと、そしてあまりにも主題歌をはじめとするテレビから押し出されてくる宣伝にやられて、ただの「祭り」に参加した気分になっていたのだ。つまり本作を物語としてきちんと理解できていなかったのだろう。小学生にとってもそれほど難しい物語ではなかったろうに。だが本作には「ドラマ」以上に見せつけたい「何か」があったことは確かである。今回はそれを検証してみたい。

<作品概要と物語>
 本作は1982年3月に劇場公開された作品である。テレビ版となる「新竹取物語1000年女王」の終了がこの年の3月末であったので、若干それに先駆けて、物語の結末を劇場で明かす構成である。近年でこそ「仮面ライダー龍騎」などの夏の劇場版と同じような意味合いがあったろう。こういう構成の面でも本作は先駆けている。
 本作はまた日本初の「制作委員会」形式で制作された作品でもある。監督は明比正行。劇場版「マジンガー」シリーズや「サイボーグ009超銀河伝説」などを監督した、東映の名匠でもある。そして本作で特筆すべきは主題歌や劇中曲を作曲した「喜多郎」の楽曲群であろうか。本編中くり返されるメインテーマとなる「星空のエンジェルクイーン」をモチーフとした楽曲は、予告編やテレビ予告などでもしつこい程に流されていた。本作の印象の一つは、この曲といっても過言ではない。そしてまた本作は、以前「わが青春のアルカディア」を取り上げたときにも書いたように、松本零士作品群によるSFアニメブームの終焉に相当する作品でもある。

 物語の舞台は1999年9月。雨森所長の務める天文台の観測では、広大な大円軌道を回っていた惑星ラーメタルが地球に接近。その軌道は地球と衝突するコースだという。だが現在の地球にはそれを回避する方法はない。
 天文台に努める雪野弥生は、雨森所長の甥である始の担任でもある。だが彼女は同時に、ラーメタルから1000年に一度地球に派遣され、ひそかに地球を監視していた「1000年女王」であった。だがこの事態に備え、歴代の1000年女王はひそかに準備を進めていたのである。だが今回のラーメタルの接近には、重大な秘密が隠されていた。それは遥か彼方の別の銀河にある暗黒太陽により、ラーメタルが惑星ごと滅ぶ運命にあるという。そこでラーメタル人は1000年に1度かかる地球との架け橋を使って地球に移住しようと企んでいたのである。
 やがてラーメタルが地球に接近することにより、世界各地で火山の噴火や地殻変動が発生する。徐々に滅びに瀕する地球人類。一部の地球人は宇宙船を使用してラーメタルへ移住しようとするが、地球人を「猿」と見下すラーメタル人と相いれることはなく、宇宙船ごと地球人を葬るために攻撃を仕掛けてくる。こうして地下空洞に避難した地球人たちとラーメタル人の間に戦端が開かれる。地球人類とラーメタル人類の、生存をかけた戦いの火ぶたが切って落とされたのである。
 この作戦を指揮しているドクター・ファラは弥生の恋人であった。かつての恋人にも裏切られた弥生は、すでにラーメタルを信じることができない。地球人に殉じようとした弥生の妹・セレン率いる「1000年盗賊」たちもラーメタル人の猛攻に敗れゆく。弥生は地球と、そして勇気ある少年・雨森始たち地球人を愛したがゆえに、地球に殉じようとする。激化するラーメタル人と地球人との戦闘の中で、弥生はラーメタルの女王ラーレラとドクター・ファラに会い、地球人を助けるよう説得をこころみる。そして弥生の最期の望みは、かつての1000年女王たちの命を甦らせ、地球人たちを守って戦列に加わる。はたして地球の運命は、弥生の思いは、始の思いは地球を助けることができるのか。ラーメタルと地球の接触する1999年9月9日は刻一刻と近づいていた。

<壮大なスペクタクルの数々>
 本作の見どころの多くは、惑星ラーメタルと地球の接近によって引き起こされた様々なスペクタクルが負っている。以下に本作で見られたスペクタクルシーンを列記しよう。

・始の両親の工場の大爆発
・ラーメタルの春の訪れ
・ラーメタル接近による隕石の落下
・地殻変動による地球崩壊への序曲
・ラーメタルと地球の「架け橋」
・関東平野をベースとした「箱舟」の浮上
・「架け橋」を舞台とした激しい戦闘
・歴代1000年女王たちの復活
・暗黒太陽によるラーメタルの悲しい末路

 一つ一つは実に面白い。そして丁寧に作画された崩壊する地球やたそがれ滅びゆく情景を見せる立派な都市群など、実に鬼気迫るほど美しいのである。それは現在の作画技術のレベルで見ても、まったく遜色ない。その科学的な検証などをここでするのは野暮というものである。そういうのは「空想科学読本」にお任せすることにする。だが「宇宙戦艦ヤマト」でも描かれている「大自然の神秘」や「大宇宙の深淵」というモチーフは、本作の中心として、十分に松本零士先生の意図をくみ取って作られているといっていい。
 そして本作の最大の特徴は、歴代1000年女王たちの復活などにみられる、地球史(人間の歴史ではなく)的な歴史ファンタジーという側面である。地球というちっぽけな星の歴史に干渉するでもなく、ただ人と共に見つめ続けてきた1000年女王という設定の重さが、こうしたSF的な大規模スペクタクルに花を添えるとともに、本作をして「宇宙戦艦ヤマト」や「銀河鉄道999」と一線を画す作品としているのである。

だがこうしたスペクタクルシーンは、本質的に本作を支える屋台骨であるあるにも関わらず、ドラマを支えることができなかったのであるが、それについては後述する。

<松本作品へのオマージュ>
 本作についてもう一つの大きな特徴を申し述べれば、本作の端々には、これまでの松本零士作品のアニメで見られたシチュエーションが、多く存在する。また本作のラストシーンで示したイメージや台詞には、現在の松本零士作品にも継承される重要なモチーフも散見される。以下にそうしたシーン等を列記する。

・開巻すぐの氷に閉ざされた惑星ラーメタルに、人々が冬眠しているシーンは、「999」の冥王星のイメージ。

・タイトル後に登場する夕焼けに染まった東京の近代都市群のシーンは、「ヤマト」や「999」のメガロポリスに酷似。またその焼けた赤の色彩は、「999」のエンディングに登場する情景にも似ている。

・ラーメタル接近による隕石群の落下は、「ヤマト」の遊星爆弾の落下によく似ている。

・ゼロ戦や古い戦闘機での戦闘は、漫画「戦場まんがシリーズ」を想起させる。

・浮かび上がった関東平野の「箱舟」は人類最後の希望。つまり「ヤマト」のイメージそのままである。

・ラーメタルの女王・ラーレラのイメージは、「999」のプロメシュームの、まったくの逆算(幼女的な容姿←老獪な魔女の容姿)。

・鉄郎そっくりな雨森始。メーテルそっくりな1000年女王、その妹・セレンはエメラルダスに似ている。すでにメーテルとエメラルダスが姉妹である設定を思い出させる。

・ラストシーンの命のかがり火に先導される弥生の遺体が天に帰るシーンは、「999」のラストシーンのカタパルトレールに似ている。

・永久管理人の「遠く時の環の接するところ・・・」という台詞は、現在の松本作品の根幹をなす言葉の一つ。

 そんな言いがかり・・・と思うかもしれないが、改めて見てみるとそれは一目瞭然である。ぜひその目で確かめてみてほしい。ではなぜこういうことになったのか?
 そこでこの作品の位置づけを考えてみたい。本作がいくら松本零士原作のSFアニメの終焉にあたる作品だからといって、華を添えようとしたのではない。それはむしろ本作が松本零士ワールドとも言える広大なキャラクター配置図が、この「1000年女王」という作品でほぼ完成するという、作品の特殊な位置づけにあるのではないだろうか。本作で登場する雪野弥生はラーメタルでの名前を「ラー・アンドロメダ・プロメシューム二世」といい、「銀河鉄道999」に登場した「プロメシューム」と同一人物であるらしい。実は後年制作されたOVA作品「メーテルレジェンド」にておおやけになった設定であるのだが、いずれにしても謎めいていたメーテル達の出自の部分に抵触する設定であり、エメラルダス、ハーロック、鉄郎など、松本零士ワールドを形成するキャラクターたちにさらに華を添えるのである。しかもこの作品が初出となり、先行する「さよなら銀河鉄道999」の謎の部分にメスを入れる設定であるのだから、これで松本ワールドのキャラクター相関図がある程度完成するのであるから、本作がファンにとっても松本先生にとっても重要な作品であることは、疑いえない。ましてや本作のパンフレットにもこうしたキャラクター相関図が描かれたページが用意されていたことを考慮すれば、この話はおそらくあながち間違いではないだろう。

<残念だったドラマ>
 ただ一点だけ問題があるとすれば、本作はこうしたスペクタクルシーンや松本作品的モチーフを、ただ漫然とつなげただけのような、平板な印象を受けることである。本作をイメージした松本氏が想像したのは、きっとこうしたスペクタクルシーンが、観客である多くの人々を魅了し、そこにラーメタル人の悲劇や現代の地球人の傲慢さやおろかさを見出せると、制作者側は考えていたのかもしれない。だがこれらスペクタクルシーンをつなげたにも関わらず、肝心のドラマ部分がパンチ不足であったが故に、映画全体を支えることができなかったと私は見ている。完全にスペクタクルシーンに、ドラマが負けてしまったようなのだ。

 例えば1000年女王と雪野弥生という女性の謎、ラーメタルが地球を望む理由の説明、いかに地球人類が、1999年までに地球を汚染し痛めつけてきたかなど、時間を割かなければならないシーンはいくらでもある。だがこうしたシーンに割くべき時間を、スペクタクルシーンにつぎ込み、これでもかといわんばかりの力技で見せつけてしまったばっかりに、ドラマ部分を支える必要なシーンを作画できない状態になってしまったように見えるのである。そしてまたラーメタル自身の去就に関する事情、暗黒太陽によるラーメタルの牽引の事実も、取ってつけた印象がある。

 本作はほぼ同時期に公開された「機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編」と争うように公開されたのであるが、結局は「ガンダム」に軍配が上がった形となった。それは確かに松本SFアニメ作品の終焉であり、SFアニメが新しい時代に入ったことを示す事実だったかもしれない。だが「映画」という面で切り取れば、この「1000年女王」がテレビで放送されたのは1回のみであるし、いまでこそ「ガンダムIII」がNHK-BSで放送されたりするけれども、劇場公開後は大幅にカットされて1回放送されたのみである。テレビの世界でも劇場用アニメというのは、すでに重要視されていなかったし、アニメの大作が減少し始め、興業という形を形成できなくなったのである。それはまた以前記事にした通りである。そういう意味でもこの作品は、松本SFアニメの終焉であり、大作感のある劇場用のアニメ作品の終焉でもあったのだ。

 本作は「ヤマト」や「999」とは異なり、長らく日の目を見ない作品であり、テレビ版もありながら、劇場版についてもやや「鬼っ子」的な扱いの作品でもあった。だが東映ではVIDEOもLDも発売されており、必ずソフト化される1本ではある。だがもっとも力が入っていたはずの「喜多郎」の楽曲群だけはいまだにCD音源となっていない作品である。どうせなら喜多郎の楽曲群とともに楽しみたいのではあるが、それがどうしてもかなわない作品でもある。喜多郎さんといえば、「シルクロード」なども名曲ではあるのだが、こうした不遇の作品もあるのである。同様に主題歌を歌うデラ・セダカの「星空のエンジェルクイーン」についてもほぼお蔵入りしている。こうした音源が楽しめないのは、作品を楽しむ上でマイナスにしかならない。こう言っては何だが、テレビ版「新竹取物語1000年女王」とともに、こうした音楽にも注目していただき、ぜひとも本作の喜多郎の楽曲が聴けるようになるといいなあと、切に願うものである。

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コメント

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No title

波のまにまにさん、こんばんは!!
ご無沙汰してスミマセンでしたe-466

【1000年女王】、実は見ていないんですよwwww
同時期公開だったガンダムは見に行ったんですけど orz

それに原作も読んだ事ないんです。
主人は持っていたらしいのですが、今手元にも無いし・・・

でもこの記事を読んで、にわかに興味が湧いて込ました。
松本作品は「男おいどん」も見てたクチで、大好きですので♪♪♪

ハーロックが出るなら積極的に見ますけど、出ますか!?

No title

ローガン渡久地さま

 ごぶさたしておりました。おまちしてましたよお。

 しかもお久しぶりなのに、残念なお知らせが・・・・・


 ハーロック、でません!

 エメラルダスもでません。

 あは!

 でも松本作品がお好きな方なら、一度は見てみる価値はあります。視聴中、何度か寝てしまう可能性は否定できません。でもがんばって見てみてください。でも苦情は受け付けしかねますけど・・・・・w
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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