劇場版“文学少女”~文学少女のもう一つの正体とは?~

 今年の5月に劇場公開された「劇場版“文学少女”」が、このたびBDおよびDVDで発売された。劇場で鑑賞できなかったので、私はこのタイミングを待ちわびていた。ついでに「メモワールI」も購入。見事に財布はすっからかんである。
 以前、小説版のおまけについていたOVAについては取り上げた。文体や雰囲気の斟酌のし方、表現としての主人公・天野遠子の言葉に注目し、その仕上がりは劇場版の手ごたえを十分に感じられる出来であった。
 結論から申し上げるが、本作は私の期待は十分に報われた作品となっていた。ただ私は事前の情報を十分に取得してなかったため、本作は完全に劇場版オリジナルの作品となるのかと思いきや、意外にも原作に材をとった、複数のエピソードのいいとこ取りをしたような作品となっていた。そのため原作の「文学少女」シリーズをご存じない方には、ちょっとどころかだいぶキツい作品だったのではなかろうか。逆説的にはそれこそ、原作小説に触れるいい機会だったともいえる。なにせ心葉と遠子の出会いから始め、心葉と遠子の別れまでを103分でまとめているのである。まあいっちゃえば、無理難題なのである。
 その意味においては、意外と一見しただけでは分かりにくい構成ではないのかと、不安にもなるのであるが、最終的にまとめられたこの作品を、とある作品に重ねることで、あっという間に理解できることも発見できた。キーワードは「銀河鉄道」である。

<作品解説と物語>
 本作の正式な劇場公開は2010年5月1日。公開された劇場が少なく、東京でも池袋シネリーブルなどであったが、いすれにしてもゴールデンウイーク公開にして、劇場数が圧倒的に少ない中での公開となった。
 原作は野村美月の手による小説であり、ファミ通文庫から発刊されている。本作の物語はほぼ全編から材をとっているものの、ベースの物語はシリーズ第5巻「“文学少女”と慟哭の巡礼者(パルミエーレ)」と最終巻「“文学少女”と神に臨む作家(ロマンシェ)」からとられている。こうなれば心葉と遠子の物語のラストまでフォローしていることになるのだから、二人の結末まで書かれているのだが、この結末の見せ方が本作を「珠玉」となった最大の原因であり、文学少女=天野遠子の正体にたどり着くキーにもなっている。

 高校1年になった井上心葉(演 入野自由)は、入学したての校庭の片隅で、モクレンの木に寄りかかって本を読んでいる一人の少女と出会う。その少女は天野遠子。心葉の1学年上の先輩であり、しかも本を食べるちょっと変わった少女であった。その少女は「文学部に入りなさい」といわれ、そのまま文学部に入部。それから心葉は自筆の小説を書いては遠子に食べさせる放課後を送ることになる。
 ある日、遠子が設置したポストに1枚の絵が投函されていた。それをヒントに遠子と心葉は、投函した人物を探り出そうとする。だがその絵は宮沢賢治が書いたものにそっくりであった。その絵を発端として手繰り寄せられた記憶は、心葉が忘れたくても忘れられない、たった一人の少女に関する思い出。その少女の名は「美羽」。かつて心葉の目の前で投身自殺をはかった少女。心葉の心の傷でもあった。だがその少女は生きていた。信じられない面持ちで美羽と再会する心葉。再会した美羽は心葉をしばる代わりに、心葉の友人で同級生の芥川や琴吹につらくあたろうとする。そしてまた見舞いに来た母親に対しても、割れたガラスで自殺しようとするほどの癇癪を起してみせる。いったい美羽に何があったのか、自殺した真意はなんだったのか。美羽の真実を知った心葉は、どうなってしまうのか。受験生にも関わらず事件の解明に乗り出す天野遠子は、いよいよ心葉との別れの時を迎える。

<複雑な物語をシンプルに>
 最初に断っておきますが、私はこの作品、とっても好きなんです。劇場用作品としてはやはり及第点を差し上げるわけにはいかないけれど、原作の小説シリーズのファンであれば、十分納得できる作品であるからだ。だがなにゆえにこれほど「一見さんお断り」な状況に陥ったかといえば、理由は簡単、キャラクターの背景部分をばっさりカットしてしまっているからだ。作りが基本的に「ご存知物」的な作りになっている。
 例をあげてみよう。まず目につくのは芥川君と琴吹さん、竹田さんなどのあつかいである。竹田さんは原作1巻の主要キャラクターであり、過去に起こった事故にまつわる事件を解決する糸口となった人物であるのだが、シリーズが進むにつれて振れ幅が大きくなり、遠子の義理の弟・櫻井流人と恋仲になる少女であるのだが、本作ではなんだか裏表のあるいつもニコニコした少女としか登場しない。また芥川君についても、なぜ心葉にむかって「親友だと思っている」などと口にしないといけないのか、さっぱり説明がない。実際には原作第3巻の重要人物であるのだが、そんなそぶりはおくびにも見せない。また物語の最後でおいしいところを遠子に預けた姫倉麻貴にしても、遠子とのものすごく小さなやり取りがあるだけで、オーケストラ部の部室にしつらえた個人部屋で遠子をヌードモデルにして絵を描く約束などのエピソードを丸々削り落している。唯一背景がなくても成立していられるのは琴吹さんぐらいであるのだが、それとてなぜ心葉に惹かれているのかが分かりづらいだろうか。

 だがこれらの情報をあまりに取り込みすぎると、尺が足りないのは言うまでもない。またこれらの人間同士の関係性を示唆するだけの情報が本作中に提示され、ちゃんとほのめかされていれば、原作と地続きであるという感覚が喚起されるだろうという、制作者側の読みもある。なにより物語がより複雑化することを回避した作りになっている。わかりやすくそれが出ているのが、芥川君が心葉に、美羽と知り合っていた事実を説明するシーンである。説明的になるセリフは必要最小限度に抑え、観客が物語を追うために必要な情報だけをちりばめておく。これはあくまで情報の整理であり、複雑な物語を解りやすく進行するために必要な措置である。しかし原作がある以上どうしても比較してしまうのも人情である。また劇場用映画としては「尺」との戦いがある。このせめぎあいの中で何を取捨選択するかは、制作側のさじ加減一つである。そのため、本作を見て足りないと見る人もいるだろう。
オーディオコメンタリーを聴いていると、多田俊介監督の言によれば、本作は「文学少女」プロジェクトとしては、小説を原作としてCDドラマや番外編アニメ「メモワール」、そして最終的に本作に流れるように制作しているとのこと。遠子と心葉の「出会い」の部分を除けば、あとは全体を構成するピースという状態になっており、全部を聴いて見てみれば、きちんと説明がつくようになっているらしい。これを商売上手という(笑)。

<「銀河鉄道」をモチーフとして・・・>
 さて、本作は原作通り宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフに物語が進む。このモチーフである「銀河鉄道の夜」に登場するカンパネルラとジョバンニの二人の少年が、心葉と美羽の二人に置き換えられるようにエピソードが紡がれているのだが、このモチーフは本作で幾重にも意味を持っていることは、本作を見た方ならきっとすぐにお気づきだろう。例えば、心葉が井上ミウとして書いた物語に登場する主人公の二人については、劇中で遠子が触れたとおりである。ここではカンパネルラとジョバンニというだけでなく、現実の心葉と美羽が入れ替わっているというトリックが潜んでいた。また芥川君と心葉の関係がまた、カンパネルラとジョバンニの関係を想起させるのだが、本作ではややギャグめかして書かれているのが残念だ。そして心葉と琴吹さんの関係もまた同じである。いずれも先に歩こうとするものと、それにあこがれる関係なのだ。そしてそれは主人公コンビである遠子&心葉にも言えることである。

 物語終盤、姫倉麻貴の手配によってプラネタリウムを訪れた遠子ら5人。そしてプラネタリウムの中で静かに語り出す遠子のシーンは、CGで作られた星空や宇宙の風景が圧倒的に素晴らしいシーンで、観客を感動の渦に叩き込むシーンである。そしてモチーフとなる「銀河鉄道の夜」にまつわる美羽の心の奥底の謎を解き明かし、彼女の頑なだった心をときほぐす。そして前進する歩みをとめた彼女に、改めて前を向いて歩くことを示唆して、遠子の語りが終了する。まるで遠子と美羽もジョバンニとカンパネルラの関係のように・・・っと、ここまでなら原作通りであるのだが、本作がプロジェクトの最終作の側面を持つ以上、最期のひと押しが必要となる。ここで制作側が用意したオチは、大学進学を契機にした遠子と心葉の別れのシーンである。

 実に感動的なシーンであった。ホームで語り合いながら、ふとシーンが変わると列車に対面して座っている二人。出会い、そして二人で過ごした時間を語る遠子のやさしい口調に、ふと背中をなでられているような感覚。あたたかく見守っている互いの姿しか映らないその世界は、究極のプラトニック・ラブといっても差し支えないような情景である(ちょっとテレビ版の「電車男」にも似ている)。そして最後の別れの時。その時が訪れなければとだれしもが願いながら、静かにその時が来る。そしてやや強引に遠子を引き寄せた心葉が最後にしたことは・・・・。

 この瞬間、はっと我に返った。そうか、遠子と心葉の関係って、「銀河鉄道999」のメーテルと鉄郎ではないか! そう考えるといやに腑に落ちることが多いのである。心葉を遠くから見守り、あたたかく彼を迎える遠子。心葉の心の支えである遠子。そして心葉の十代のころに出会い、心葉を小説化へと導いた遠子。原作だと遠子自身の物語があるので、そうは思えなかったのだけど、本作を見て確信した。遠子はメーテルなのである。それにしちゃ、遠子は貧相だとか言ってはいけない。

 この8月の第2週にNHK‐BSにて放送された、「とことん銀河鉄道999」をじっくり鑑賞していた。「銀河鉄道999」という物語は、「銀河鉄道の夜」にインスパイアされて松本零士先生がおつくりになった物語であるということは、いまさらのように知られた話である。旅を続けるメーテルと鉄郎の姿は、カンパネルラとジョバンニの姿であるし、それを見守る車掌の姿は作者・宮沢賢治の視線かもしれない。どおりで車掌役の肝付兼太さんが次回予告のナレーションを担当しているはずである。そう遠子は心葉という鉄郎を未来に導くメーテルであり、文学少女シリーズというのは、ある一面においてそうした二人の旅路において積み重ねたエピソードなんだとわかった。
再びコメンタリーの多田監督の言を借りれば、遠子と心葉が別れる時には、遠子から先に歩きだすという約束事があったという。この事実は、心葉がその場に心を残しておきながら、それでも振り切って前に進もうとする姿を見せつけて、心葉を叱咤激励する遠子という人物の姿に合致する。遠子は心葉にとって常に先を行く存在であり、心葉を導く女性であり続けたということを端的に示すエピソードである。遠子=メーテル説に説得力が増すではないか。うんうん(悦に入る)。

 劇場公開時の劇場数がとっても残念な作品で、もう少し多くの劇場で見てほしかった作品である。だがそれもDVDをレンタルや購入することでフォローできる環境も整いつつある。文学作品を題材に取ったこのような作品は、いくらでも解釈のやりようもあるし、なにより本作の圧倒的な背景美術(学校での夕景の奥行きの深さ、文学部室の切なさとはかなさなど)や繊細すぎるほどのサントラにも注目してほしい。またOVA「メモワール」シリーズも継続中であるので、まだまだ楽しみな文学少女プロジェクトである。ドラマCDも継続中であるし、本DVD発売と同時に文学少女外伝も完結した模様。原作ともども、かわいがってほしい作品群となっているので、この機会にぜひ!

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コメント

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No title

「遠子先輩=メーテル」ですか!
いやはや、その発想はありませんでした。なるほど、そうするとまた新しい見方が…。

一見さんにはかなり厳しい作品となってしまっていましたが、原作の空気感や雰囲気はバッチリ表現されていましたね。
心配なのは、原作未読の人がキャラ関連で誤解をしてしまわないか、という点ですかねぇ…。

No title

飛翔掘削様
 コメントありがとうございます。

 そうなんですよ。一見さんの誤解が気になります。とはいえ、これを窓口に原作をたどってもらえると、ファンとしてはうれしいんですけどね。いったいどれほどの方がさかのぼってくれるのか。ファンの一人としては気になりますね。

 少年を守り導く。=メーテルって発想は、あながち外れじゃない気がしてます。まああまりにもあまりな気はしますけどね。ネタとしてはキャッチーで、これぐらいはアリな範疇だと思ってます。

No title

原作という「余計なもの」を知っている人らしい感想だなとはよくわかりました。その意味ではアニメのレビュアとは評し辛い文章でしたが・・・・。アニメ版は心葉と美羽の物語なので二人に焦点を絞るのは当然です。遠子はキャラではなく舞台装置ですから。他の人物は可能な限り省略されるべきであり、そうしたのですよ。ななせって必要か?ってくらい。難点を挙げれば演者の熱演について全く触れてない点などですかね。美羽は素晴らしかった。役者自ら新境地というだけはありました。登場人物で唯一生々しさを感じられた熱演でした

No title

あやぽんさま
 コメントありがとうございます。
 おっしゃるように、レビューとは言い難い文章でした。申し訳ありません。

 それこそ物の見方は千差万別ですので、私には心葉‐美羽よりも心葉‐遠子のほうに、重点をおいて見てました。そうでないと、エピローグの部分が蛇足になってしまうと考えまたからです。改めて人それぞれの見方があるものだと、感じ入りました。ご指摘ありがとうございます。

 美羽役の平野綾さんはじめ、声優さんの演技については、明らかに失念しておりました。美羽のあまりにもエキセントリックな演技に、少し気遅れしたせいかもしれません。平野さんの「新境地」という記事についても、未確認でした。あきらかに勉強不足を感じます。

 いたらない文章をご一読いただき、ありがとうございました。もしよろしければ、今後ともお付き合いいただければ幸いです。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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