少女が大人に変わるとき~二十面相の娘~

 近年「冒険活劇」というジャンルの作品が少なくなって久しい。獲物を追いかけて、西へ東へ。同じ獲物をねらう連中との丁々発止のやりとりをしながら、あらゆる困難に立ち向かい、やがて獲物を手にしたり、しなかたっり。激走する列車の最後尾まで追い詰められた主人公は、敵の銃口から逃げおおせることが出来るのか? つづく! みたいな、熱い展開を見せる物語は、近年皆無といっていいかも知れない。まあ、アニメが深夜に放送されるに及び、視聴者の血圧を上げるようなこと、するわけないのかも知れない。けれどそんな手に汗握る展開を、次週の放送を待ちこがれるような展開を見せるドラマがみたいと思うのは、私だけだろうか?

 さて今回本ブログにて取り上げるのは、2008年にフジテレビ系列の土曜日深夜枠で放送されていた「二十面相の娘」だ。現在「ノイタミナ」枠とならび、フジのアニメ深夜枠となっている「ノイズ」枠につながる作品だ(本作は放送中ノイズ枠作品である表示がない)。主役の美甘千津子役に、人気の平野綾をキャスティング。エンディングも彼女が担当したことでも知られる。制作はボンズとテレコムの合作とされており、スタジオの合作という、いままでにない制作スタイルを打ち出している(実態が互いの外部発注である可能性もあるので、話題にはならなかった)。

 作品は漫画原作であり、コミックフラッパー誌で連載されていた漫画をベースとし、脚色した作品となっている。物語の骨子がすでに「怪人二十面相」をモチーフにしており、第二次大戦中の技術開発と、それにまつわる暗部を題材にとり、二十面相を謎のままに、千津子(以下、チコ)を全面に押し立てての冒険活劇を繰り広げる。ただし活劇部分の味は、やや薄めである。残念ながら血湧き肉躍るとまではいかなかったのが残念だ。

 チコは両親と死にはぐれてしまい、物語当初は叔父夫婦に引き取られて暮らしている。しかし財閥の継承権を有するチコは、叔母から与えられている食事に毒を盛られていることを察知し、叔母からの食事を一切とらなくなる。次第にチコは孤独感を募らせ、この家を飛び出したいと願う。そんな日常で彼女の心を癒したのは、世間を騒がせている怪盗二十面相のことであり、財を蓄えたあこぎな金持ち相手に、金品を盗む義賊のような彼に、彼女はあこがれを抱く。そんなある日、毒入りの食事を強要する叔父夫婦の前に、二十面相はその姿を現した。美甘家の執事になりすまし、美甘家に代々伝わる宝石を盗むため、進入していたのだ。だが同時に彼はチコをも盗み出す。美甘の家から一度は解放されたチコの冒険がはじまった。というのが1話の概要である。
 その後2話で1つの事件があったあと、二十面相の仲間とのやりとりを経て、自分で見て聞いて考えるようになる彼女は、日常の雑事を自分の意志でやり始めることにより、次第に仲間にうち解けていく、それが3話の冒頭だ。
 
 そして今回取り上げる1つの冒険が開巻する。
 裏の世界で潜水艦をチャーターする二十面相。海底に沈んだ巨大輸送機に眠る宝をとりに行くためだ。潜水艦の乗組員達は二十面相達を警戒するのだが、バスケット一杯のおにぎりももってきたチコの存在故に、警戒はやや甘くなる。帰路の潜水艦の中で、潜水艦の乗組員達は、持ち帰った宝の独り占めを画策する。潜水艦の乗組員達が二十面相一派に銃を突きつける。その瞬間、潜水艦の背後で大爆発が起こった。巨大輸送機が爆発したのだ。二十面相の目的は、持ち帰った宝ではなく、巨大輸送機の爆破にあったのだ。
 潜水艦内部での短い格闘。形勢は二十面相側に傾いた。しかし巨大機を爆発させた爆弾はどこに隠されていたのか? 二十面相はその種を明かす。チコの持ってきたバスケットのおにぎりだ。同時に潜水艦内にもばらまかれていることを告げる二十面相。だが潜水艦の艦長はそれをブラフだといって信じようとしない。

二十面相「といってるがね、チコ・・・」
チコ  「・・・・確かめておけば良かったのに」

 そして何事もなかったように潜水艦から解放される二十面相一派。最後の1このおにぎりをほおばる二十面相を見て、うれしそうにほほえむチコの姿で、この物語は幕を閉じる。

 ここで話題にしたいのは、先の台詞におけるチコの表情と声の演技だ。
 だれしもが「うまいっ!」と言いたくなるだろう。わたしも本放送時に録画したものを、なんどとなくリピートした。本当にここの演出は出来上がっているし、まさにこの瞬間のために、他のシーンが集約されていくのが、一目でわかるのだ。
 冒頭のおにぎりの件も、二十面相一派の若手が、皆腹を空かせていること、それをチコにそっと教え、自分で見て聞いて考えることの意味を教えるくだりからスタートする。「のりをいっぱい巻いたのがいい」などという二十面相の台詞も、爆弾にカモフラージュすることが真の目的であったことが、後になってからわかる仕組みとなっている。

 またこのシーンにおけるチコの表情の作画が素晴らしい。二十面相に尋ねられた瞬間のチコは、事態が飲み込めていないあどけない表情をしている。このときの目の大きさに注目だ。縦横比の小さい、比較的大きめ丸い瞳に描かれていたチコの目は、画面右に首をかしげながら、次第に目を細め、横長の目になることで、やや大人びた表情に変化する。この一瞬の表情の変化は、まさにチコが何も知らなかった、また知らないでいられた少女であった自分と決別し、一人の女として成長して見せた瞬間を表現している。

 このとき、カットは潜水艦の艦長と二十面相の二人から引き気味に描かれ、次のカットではチコの表情のアップに寄っていく。このパーンを使用した画面構成が、緊張感を醸し出す。衝撃の真実がチコの口から発せられた次の瞬間、彼らがいる気密室内を、上から俯瞰したカットで締めくくられ、このシーンのボルテージは最高潮に達することになる。

 同時に横に開かれた口から発せられた台詞は、それまでこども然としていた台詞のニュアンスから、あきらかに大人びた口調に変化する。声の発声でいえば、やや低めで押さえた発声だ。言葉で表現するとこういう言い方しかできないが、その演技をしてみせた声優「平野綾」の声の力を褒め称えたい。こういったニュアンスは、そうそう一発で表現できるとは思えない。想像ではあるが、きっと何度かのリテイクがあったかもしれない。
 また次回予告後に、チコが二十面相に呼びかける「おじさん」という台詞が、いろいろなパターンで演じられている。平野綾という声優の、演じ分ける魅力を、存分に味わえるコーナーだ。本放送時には、次番組とのタイムスケジュールの関係で、聞き逃したりすることもあったが、案ずるなかれ、DVDにはすべて収録されている。ファンならずとも存分に楽しんで欲しい。

 チコの物語はさらに続き(当たり前だ、まだ3話だし)、敵対組織により二十面相とはぐれたり、日本にもどってから意外な協力者に出会えたりしながら、次第にチコは二十面相の本質に迫っていく。そして3話冒頭で二十面相がチコに語った「水の第4形態」の話につながることになる。それは二十面相が自分の過去とケリをつける話であり、この物語は冒険の度をさらに増しながら展開していくことになる。

 今回は、序盤のチコの演技だけを取り上げた。残念ながら冒険活劇としてなにかが足りなかった本作ではあるが、その冒険活劇としての物語の魅力についても、いずれ再考してみたいと考えている。
 とにかくだ、主役を平野綾がやるというだけで敬遠していたおかたも、平野綾だけで楽しんでいたおかたも、近年では珍しくなった「冒険活劇」を楽しもうではありませんか。
 
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テーマ : 映像・アニメーション
ジャンル : 学問・文化・芸術

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