日本の劇場用アニメの評価基準

 先ごろ、映画専門誌「キネマ旬報」誌上にて、映画史上のアニメーション映画のベストテンが発表された。邦画および洋画の別で評価され、それぞれ十数作品が選定されている。
 「キネマ旬報」という雑誌は、日本の映画誌の草分けであり老舗であることはいうまでもない。私が劇場用映画に目覚めたころは、「ロードショー」や「スクリーン」などの映画誌が花盛りであった。どちらかというと後者の2誌はヴィジュアル寄りで、映画よりも俳優や女優を紹介するグラビアっぽい感じの映画誌であったが、「キネマ旬報」はより映画の作品寄りであり、監督や脚本家、配給会社の人物、作品批評に重きをおいた紙面づくりに定評があり、文章多めの雑誌だった。だから小知恵のついた中学生の映画好きがとびつくのに格好の雑誌だったのである。なつかしいなあ。ATG(アートシアターギルド)とか小津安二郎監督の名前を私が覚えたのも、「キネマ旬報」であった。
 さてランキングのほうに話を戻すが、これが実に興味深いランキングとなっている。あまりに面白いので、ここで取り上げてみたい。これでわかることは、劇場用映画としてのアニメーション映画の評価基準と、その評価基準をつくった映画の世界の話なのである。

<まずはランキンぐ~ぅ!(古っ)>
 とりあえずランキングをご紹介せねばなるまい。ニュースソースはこちら。asahi.comの2010年10月21日付のニュースである。

http://www.asahi.com/culture/update/1021/TKY201010210119.html

[日本映画]
1位 ルパン三世 カリオストロの城(監督 宮崎駿,1979)
2位 風の谷のナウシカ(監督 宮崎駿,1984)
3位 となりのトトロ(監督 宮崎駿1988)
4位 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲(監督 原恵一,2001)
5位 AKIRA(監督 大友克洋,1988)
6位 長靴をはいた猫(監督 矢吹公郎,1969)
7位 うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー(監督 押井守,1983)
太陽の王子 ホルスの大冒険(監督 高畑勲,1968)
白蛇伝(監督 大川博,1958)
10位 河童のクゥと夏休み(監督 原恵一,2007)
サマーウォーズ(監督 細田守,2009)
天空の城ラピュタ(監督 宮崎駿,1986)
火垂るの墓 (監督 高畑勲,1988)

[外国映画]
1位 ファンタジア(1955)
2位 ナイトメアー・ビフォア・クリスマス(1994)
3位 白雪姫(1950)
4位 やぶにらみの暴君(1953)
5位 霧の中のハリネズミ(1975)
6位 バッタ君町に行く(1951)
7位 トイ・ストーリー(1995)
8位 カールじいさんの空飛ぶ家(2009)
木を植えた男(1987)
10位 アイアン・ジャイアント(2000)
ウォレスとグルミット ペンギンに気をつけろ!(1994)

ついでなので、日本映画には作品タイトルの後に、監督の名前と公開年、外国映画の場合には公開年を示した。

 記事を読む限り、67名の映画評論家や文化人による投票による結果とのこと。この結果を見て思うのは、実に様々な時代の作品が並んでおり、まさに「オールタイムベスト」らしいラインナップとなっていることだ。さすがは老舗の「キネマ旬報」らしいラインナップといえよう。はっきり申し上げて1969年生まれの筆者にとって、「白蛇伝」や「ホルス」などは、子供のころに年末年始のテレビで見た記憶があるかないかの作品である。外国作品にしても1950年代から2000年代の作品まで幅広く網羅しているのは間違いない。「ファンタジア」や「白雪姫」などのディズニー作品ならともかく、「バッタ君」やら「やぶにらみ」などは、話には聞いたことがあるが正直言って見たことがない。実はこの「話には聞いたことがある」というのが厄介なのだが、これについては後ほど解説しようと思う。とはいえ、確かに一見すると実に立派なラインナップといえるし、選ばれている作品は確かに良い作品なのだろう。

<監督で見極めろ!>
 しかし日本のアニメーション映画におけるオールタイムにしちゃ、ずいぶん偏りがないだろうか? わざわざラインナップの後ろに監督名を乗せた意味がここにある。圧倒的に「宮崎駿」監督作品が多いのである。その数、実に13作品中4作品も選ばれた上、1位から3位までを独占しているのはいかがなものか。面白いのはいかな宮崎駿監督作品といえど、1990年代以降の作品からは選ばれていない。国内アニメーション映画の観客動員数をたびたび塗り替えた記録があるにも関わらず、「もののけ姫」はおろか、海外で評価が高い「千と千尋の神隠し」などは選ばれていない。ましてや近作「崖の上のポニョ」もまるで無視である。
 また高畑勲監督作品も2作品選ばれているが、片や「ホルス」は東映時代の作品、片や「火垂るの墓」はジブリ時代の作品である。一見するとジブリブランドに重きを置いていないように見える。だが「火垂るの墓」は3位の「となりのトトロ」の併映であり、ジブリでの高畑作品である「おもひでぽろぽろ」や「ホーホケキョとなりの山田君」などが選から漏れていることを考えれば、「トトロ」による認知度の高さが伺える。とはいえやはりジブリ作品は強い。今後10年後におけるオールタイムベストには、この夏の「アリエッティ」が入ったっておかしくないほどだ。

 柴門ふみのエッセイの中で、彼女の夫である弘兼憲史氏の弁によれば、「映画は監督で見ろ、テレビドラマは脚本で見ろ」との格言があるのだそうな。弘兼氏独自の言葉かどうかは怪しいが、これは実に一般的なセオリーとして知られている。その意味において日本のアニメーションシーンにおいて、「宮崎駿」という監督のブランドは確かに強いことは認めざるを得ない。だがここで翻って外国映画のランキングに登場した映画を見てみよう。「やぶにらみの暴君」や「霧の中のハリネズミ」の2作品については、一般的な認知度がそれほど高いとは思えない。実は宮崎駿や高畑勲が、さまざまなインタビューに答え、自らがリスペクトしていることを告白したり、再評価を積極的に行った作品なのである。つまり2つのランキングを比較すれば、作品の本質以上に、権威主義に陥ったランキングの様子が見て取れる。これをしてうがちすぎだという指摘も甘んじて受けるが、この関連性はあまりにも露骨である気がしてならない。

 「押井守」「大友克洋」についてはアメリカや欧州などで「ジャパニメーション」とか言われて紹介され、日本のアニメーションを世界に知らしめた監督だ。「AKIRA」はいいとして、押井監督の作品として「攻殻機動隊」や「イノセンス」ではなく「ビューティフル・ドリーマー」というのが実に興味深い。また「細田守」「原恵一」に関しては2000年以降に頭角を現した監督である。「原恵一」については「クレヨンしんちゃん」が選ばれているが、「オトナ帝国」なら「あっぱれ!戦国大合戦」でもいいような気がする。これはまあ個人的な意見。

<スピンオフ映画には用はない!>
 40代ぐらいのアニメファンがこれを見た場合、ちょっと納得がいかない人が多いのではないか。例えばジブリアニメが全盛を極める以前に、興業収入や観客動員数で他を寄せ付けなかった作品である「銀河鉄道999」はランクインしていない。ましてや空前のアニメブームをけん引した「宇宙戦艦ヤマト」シリーズはおろか、「機動戦士ガンダム」シリーズにしても、ランキング圏外である。ちょっと待て。同じシンエイ動画で制作されたにもかかわらず「クレヨンしんちゃん」はランクインしているのに、「ドラえもん」シリーズは1作もランクインしていないではないか。どうもおかしい。
 目を皿のようにしてランキングを眺めていると、あることに気がついた。テレビアニメが先行しているスピンオフ作品は、ランキングからほとんどはずされている。日本映画の評価としてはままあることだが、これは作品評価が映画単体では難しいこと、観客動員があくまでも元のテレビシリーズを知っている人に偏ってしまうこと、劇中のドラマもテレビに引っ張られてしまいがちであることなど、要因はいくらでも考えられる。ランキングにも日本映画の経験則が適応されているらしい。とはいえ「うる星やつら」や「ルパン三世」「クレヨンしんちゃん」と、ランキングに入っているものでも、スピンオフ物が入っているではないかと思うかもしれない。ところがこれらの作品は、認知度も高く、テレビオリジナルのキャラクターを使って、劇場オリジナル作品を作っているのだ。見る人間にとっては「ご存知物」といってもいい。まあスピンオフされるほど人気がある作品なら、いずれ「ご存知物」といえるかもだが、昨今のテレビドラマのスピンオフ作品はそれほどでもないのではないか。邦画でもスピンオフ物は興業収入や観客動員は評価できても、作品としての評価には程遠い感じもする。洋画でも「SEX AND THE CITY」のようなテレビドラマのスピンオフ作品もあるが、アカデミー賞などではそれほど評価されない。今回の評価も同様の傾向が適応されているように見える。

<SF映画に評価外?>
 さらにもう少し突っ込んで考えてみると、これらラインナップに上がっている作品には、「SF」っぽい作品が敬遠されている傾向がある。はっきりと「SF作品」だと言えそうなものは「ナウシカ」や「AKIRA」程度であり、洋画でも「アイアン・ジャイアント」ぐらいか。こうなると「宇宙戦艦ヤマト」やら「銀河鉄道999」、 「幻魔大戦」などはランクインするはずもない。しかも物語の中心にSFがあるわけでなく、むしろSFは味付け程度の場合が多い。そう考えるとがっちりとしたSFものは、映画の世界では敬遠されがちであり、しかも映画批評の対象からは外されがちであるといえるかもしれない。昨今の深夜アニメでもSFっぽい作品はほとんどない現状を考えれば、世の中の傾向がSFから離れつつある可能性はある。だがそれ以上に批評する対象としてSF作品が扱われないのであれば、かつてのようなSF作品が隆盛を見せることもなく、ただひたすら衰えていくしかないSF作品である。

 以上をまとめると、本ランキングから次のような映画界の状況が見えてくる。アニメーション映画を含めた映画批評の世界では、あまりにも権威主義的批評がまかり通っており、あくまでも監督評価が主体である。しかもその監督の代表作が選ばれるわけでもない、ややニッチな批評に偏っていると思わざるを得ない。しかもスピンオフものやSF作品にいては、それを1個の映画として評価されるわけでもなく、批評の対象から外される傾向にあるようだ。まあキネマ旬報という権威ある雑誌の編集であるから、これはこれで一つの評価基準ではある。だがこれだけを鵜呑みにして、日本のアニメーションの世界に評価すべき作品がこれだけしかないと思うのは、あまりにも軽率だろう。なによりも怖いのは、このランキングの評価だけで、作品を見た気になってしまうことである。すべてを見るべきだとは思わないが、見ずにしのごの言うよりははるかに見たほうがいいだろう。しかも他にもさまざまな作品があるのだがから、やはり見たほうが楽しいと思うのだ。

 今回は権威ある雑誌の権威ある67人の撰者によるランキングであったのだが、さらに10年後には別の作品が選ばれるに違いない。新しいランキングは新しい感性で選ばれるべきだろう。新しいものがなんでも良いとは限らないが、新陳代謝はどんな世界に必要だろう。次世代の撰者による新しい評価基準がわかるランキングが登場するのも、遠い未来の話ではない。ウォッチャーの筆者としては、過去の作品にも思いをはせつつ、新たな作品の登場にも期待したいところだ。


キネマ旬報 2010年 11/1号 [雑誌]キネマ旬報 2010年 11/1号 [雑誌]
(2010/10/20)
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コメント

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No title

変なランキングだなと感じました。
まともな選定が出来てるとは思えません。
1950-2009(60年間)の作品が選ばれていますが
若い頃に見た作品と映画を見る目がすっかり
出来上がってから見る作品が同じ土俵に争うのは
どこか違和感があります。
また映画をみた回数も作品によって
全然違います。
多分普通の方ならTV放送の関係で風の谷のナウシカが
タントツなのではないでしょうか?
そしてカリオストロの城がトップに来てるのは
この前TVで放映した為なのでは?と
勘ぐってしまいますw

No title

たかのゆきさま
 コメントありがとうございます。
 実際変なランキングですよね。そう思ってこの記事を書きました。
 ご指摘の通り、鑑賞回数って視点、あるかもです。
 特に日テレによるジブリ作品の放映回数の多さは、他の作品の比ではありません。
 
 だれに媚びたランキングなのか?
 しかも映画好きが見ても、オタク層が見ても納得いかないランキングって、
 なんだかなあ~と思う次第です。

私はヴィジュアル派ですが

こんばんは!!
コメントはお久しぶり・・・なローガンでございます。

お小遣いで買った初めての雑誌は『キネ旬』ではなく『スクリーン』でしたが(笑)このランキングは、納得いくのといかないのとがミックスされていて面白いと思いました。

宮崎監督がキライな訳ではありませんが、ルパン好きな者には評価が今一つな作品が1位だというのは・・・
ルパンでは「ルパンvsクローン人間」の方が面白いんですが私は。
それから宮崎作品、というかジブリで1番だと思うのはナウシカなのですけど、あくまで個人の嗜好ですしね。

長靴をはいた猫は小学校の映画上映会で観て、当時とても好きでした。
色のトーンが落ち着いていて心地よかった記憶があるのですが、間違っているかも。

ラムちゃんは、コレが評価されているのかぁ・・・な感じです。

AKIRAの低さと攻殻機動隊のランク外、無視されたポケモンに憤慨(嘘です♪)しています!!
それより手塚作品は?

海外アニメは意見言えるほど観ていませんが、中国の毛筆アニメとか面白かったし見ごたえありましたね。

とりあえず【ランキング】と聞くとふだん読まない人も飛びつくし、こうやって話題になるわけですから、商業的な手段として正解ではないのでしょうか。

それにこういう機会に、波のまにまにさんの考えなり志向を垣間見ることができて、このブログのファンとしてはおいしい企画だなって思いますよ。

相変わらず的外れなコメントで失礼しました!!


 

No title

ローガンさま

 ご無沙汰しております。毎度足をお運びいただきまして、ありがとうございます。

 私も最初に小学生高学年で手を出したのは「スクリーン」でした。「ロードショー」はちとエロかった記憶がw

 そういやあ、「ルパン」に関する記事を書いた時、映画シリーズに関する記事を忘れてました。いずれ書きます。個人的には「マモー」が大好きすぎて、「カリオストロ」がかすみます。またルパンらしいという意味では「DEAD or ALIVE」というのも割と好きで、つい最近まで「バビロンの黄金伝説」が苦手でした。

 す、すみません。「ポケモン」忘れてました。首藤さんがお亡くなりになった時に思いだしたんですけど、間に合わなかったです。とはいえこれも「スピンオフ」ものですから、「ドラえもん」と同じ列ですかね。

 「ランキング」そのものに関しては、商売の一環として理解できます。作品そのものに文句があるというよりも、選ばれた作品群にどうみても偏向があることには問題があるように感じるんですよね。なにせ突っ込みどころありまくりだしw

こういうネタを拾うのはけっこう楽しいです。まあ作品を取り上げるときと少し違うので、喜んでいただけるようであれば、またやってみたいです。コメント、ありがとうございました!
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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