「大逆転」の構図~その2・映画「聖闘士聖矢・神々の熱き戦い」

 「大逆転」と聞いて私がもう1本思い出すのが、劇場用映画「聖闘士聖矢・神々の熱き戦い」である。いや正直に言えば「聖闘士聖矢」という作品そのものが、これに当てはまるのかもしれない。本編中のテレビオリジナルエピソードである「アスガルド編」については、以前まとめたことがある。今回はその劇場版を紹介したい。前回紹介した「マジンガーZ対暗黒代将軍」が大きな上げ下げが1回ずつという大きな起伏で構成されるドラマであるのに対し、本作は聖闘士たちのバトルが小さな上下動を繰り返し、最後に大きな逆転劇につながるという構成のドラマを見せる。それはアテナを含めた主人公5人による小さなソロ演奏が、最後にダイナミックな交響曲となって大逆転し、見るものを感動の渦に巻き込むのだ。「聖闘士聖矢」という物語はある意味でこうした構成の繰り返しで出来ているが、わずか50分程度の上映時間の中で、そうしたドラマのダイナミズムを見せるところに、本作の特徴の一つが見出せる。
 なお私がよく覗くHP「WEB アニメスタイル」の中で、編集長・小黒祐一郎氏が担当しているコラム「アニメ様365日」では、この9月の初旬に9回にわたり本作を取り上げている(http://www.style.fm/as/05_column/365/365_443.shtml)。可能であればこちらもご覧になることをお勧めする。

<概要と物語>
 テレビアニメ「聖闘士聖矢」は1986年10月~1989年4月まで放送された、東映動画制作のアニメ作品である。その放送期間中には「東映まんがまつり」の1プログラムとして、3作品、週刊少年ジャンプの創刊20周年記念として、「魁!男塾」と一緒に公開された作品が1本の計4本が制作されている。

・1987年7月「邪神エリス」
(このタイトルはパッケージ化の際に付与され、劇場公開時は「聖闘士聖矢」のみ)
・1988年3月「神々の熱き戦い」
・1988年7月「真紅の少年伝説」(ジャンプ創刊20周年記念で公開された作品)
・1989年3月「最終聖戦の戦士たち」

また漫画原作の終了後、「ハーデス編」の後日談となる物語となる「天界編」が、2004年2月に劇場公開されている。つまり「聖闘士聖矢」の劇場用作品は、全部で5作品ということになる。
 「アスガルド編」を扱った時にも書いたが、今回扱う「神々の熱き戦い」は北欧アスガルドを舞台に、神闘士(ゴッドウォーリアー)対聖闘士の戦いを描いた物語であり、TVの「アスガルド編」はこの作品から発想されたテレビオリジナル作品という位置づけである。

 極寒の東シベリアの氷の大地に、助けを求めるものが一人。彼を助けたのはキグナス氷河である。見慣れぬ甲冑を身にまとった男たちを叩きのめした氷河は、助けた男が北欧アスガルドからの来訪者であり、彼は「神々の戦いが始まる」と言い残し事切れる。アテナ沙織と星矢、瞬、紫龍は、その情報を寄せた氷河を斥候としてアスガルドの送り出し、自らもアスガルドに乗り込むことになる。
 アスガルドのワルハラ宮にて沙織たちを迎えるのは、かの地を治めるドルバル教主。沙織は斥候に出したはずの氷河が行方不明になったことについて、ドルバルに問いただす。だがドルバルは氷河の来訪を知らぬと言い放ち、後日の探索を約束する老獪ぶりを見せる。ワルハラ宮で教主に使えるフレイとフレアの兄妹と出会いながら、星矢たちは同時に恐るべき小宇宙(コスモ)をあらわにする4人の神闘士と出会う。その中に紫龍がよく知る小宇宙を放つミッドガルドと呼ばれる神闘士がいた。
 後刻、沙織たちのもとにキグナスのマスクが届けられる。それを見た星矢たちは氷河を探しに、雪の降りしきるアスガルドの地へと進み入る。一方フレイはドルバルに詰め寄り、神闘士の一人・ロキが画策するアテナとの闘争を押しとどめようと説得を始める。だが戦いはドルバルが企図したものであり、真実を知ったフレイは幽閉されてしまう。さらに氷河の情報を餌にワルハラ宮におびき出された沙織は、ドルバルのオーディン・シールドに閉じ込められてしまう。沙織の体はアスガルドのオーディン像の舳先にありながら、魂を幽閉されてしまったのである。ここに極寒の地を戦場とした戦いの火ぶたが切って落とされた。
 ミッドガルドと戦うドラゴン紫龍。だがマスクを脱いだミッドガルドの正体は、行方不明のはずのキグナス氷河であった。紫龍の右手を凍りつかせ、一方的に痛めつける。氷河はドルバルに洗脳されていたのだ。意を決した紫龍の放つ必殺の拳は、氷河を打ちのめす。だが渾身の一撃で紫龍は力尽きてしまう。一方、剣技を使うウルと戦うアンドロメダ瞬は、兄であるフェニックス一輝の加勢により、ウルだけでなく巨漢の神闘士・ルングまでも打ち倒すものの、兄弟ともども崖下へと落下してしまう。
そして星矢は残った神闘士・ロキと戦い、流星拳とローリング・クラッシュのコンボでロキを下す。そしてそこにドルバルが現れる。神闘士の力を発揮して星矢を痛めつけるドルバル。アテナを救いだすために一人、また一人と戦いの場に集うアテナの聖闘士たち。すでに聖衣はないに等しく、ドルバルの圧倒的な力にかなわない。そこに氷河が現れた。彼は紫龍の一撃でドルバルの洗脳を解かれていたのである。氷河はドルバルに立ち向かうものの、善戦空しく倒れ伏し、星矢を助けようとした一輝までも一撃で弾き飛ばされてしまう。星矢たちはなすすべもなく、沙織も助けられないのか。その瞬間に天から黄金色に輝く一条の光が到来する。またしても死んだアイオロスの意思が、射手座の黄金聖衣を星矢にもたらされた。黄金聖衣をまとった星矢は流星拳でドルバルを押し出し、必殺の黄金の矢をつがえる。しかしドルバルは沙織の命を盾に負けを認めようとしない。そんな折、幽閉されていたフレイが現れ、沙織を解放するためにオーディン像を登っていた。そんなフレイに容赦なく攻撃を仕掛けるドルバルは、星矢の黄金の矢を受けて絶命、フレイは命を賭して沙織を解放することに成功する。ドルバルの企みとともにオーディン像は崩壊し、熱き神々の戦いは収束する。そしてアスガルドの地を世界樹(イグドラシル)の緑が覆い、平穏が訪れた。

<襲い来る試練のコンボ技>
 そもそも「聖闘士星矢」という作品は多くの美少年が登場し、一人の少女を守り、地上の平和を守るために、その肉体を使って極限まで戦うというコンセプトの作品である。星座やギリシャ神話という特徴も、主人公たる美少年の戦いを引き立てるための重要な設定だ。本作の作画は、美しいキャラクターを書きあげることでつとに有名な荒木伸吾・姫野美智が務めている。特に原画に関しては約50分の作品ながら、そのすべてを荒木氏が手掛けており、荒木氏のセンスが隅々まで行き届いている作品となっている。
 例えば序盤の東シベリアでの氷河の戦いでは、キャラクターの位置だけを見れば、異常なほど接近して見えるようなキャラクター配置の中で、背景に流れる吹雪の軌道が、画面に奥行きを与えている。また「ハーモニクス」と呼ばれるくり返し同じ動画を動かす手法で、沙織や少年たちの髪の毛の揺れやなびきを表現する。その表現は実に繊細で美しい。戦闘シーンにも美少年に対する配慮が行き届いている。殴られても蹴られても、少年たちはダメージを受けても、醜く顔をゆがませることはない。その一方でダメージを受ける少年たちの背後にある岩壁や氷壁、大木などが盛大に破壊されることで、敵のダメージの強大さが表現されている。また沙織の魂を幽閉するドルバルのオーディーン・シールドという技の美麗さも、特筆すべきシーンだろう。力をためたドルバルの手のひらが沙織の腹部へ。ダメージを受けた沙織であるが、その周囲は怪しげな光の反射で覆われる。壁に床に柱に反射する光は、それぞれが全く異なる方向を向いており、光源の位置すらはっきりしない。だが一度見たら忘れられない、印象深い美しいシーンである。小黒祐一郎氏もコラムで指摘するように、本作は作画的には非常に充実した劇場用作品である。

 主人公である星矢、紫龍、氷河、瞬、一輝に襲いかかる試練はハンパなものではない。登場する3人の神闘士の強さは黄金聖闘士なみであるし、教主ドルバルの力はさらに強大である。中盤からスタートする聖闘士と神闘士による戦闘では、まず瞬がウルの剣技によって、窮地に立たされるところから始まる。一転すると紫龍がミッドガルドとの戦闘である。ここではミッドガルドの正体が行方不明の氷河であったことが判明し、敵にまわった氷河が紫龍を圧倒することになる。その戦い方は氷河にしては凄惨であった。氷河は握手を持ちかけながら紫龍の右手を凍らせて封じるのである。そして紫龍が親友である氷河にに手出しできないことをいいことに、聖衣ごと紫龍を叩きのめすのだ。母を慕う優しい氷河に似合わない戦法であるが、ある意味で「正々堂々」という聖闘士の「正」の部分を失った戦い方とは、こういうものかもしれない。紫龍の敵となって立ちはだかる氷河の悪辣な戦い方は、聖闘士の「負」の側面を引き出したともいえる。だが正義の戦いをする聖闘士の別の面は、紫龍にとって不利にしかならない。瞬のピンチと同様、観客にとっては不安の材料でしかないのである。だがそんな紫龍も渾身の一撃でピンチを切り抜けるが、自分自身も力尽きて倒れてしまう。「お約束」ではあるのだが、紫龍の一撃で上がったテンションも、紫龍が倒れてしまえばかえって観客にとっては不安材料だ。こうして聖闘士たちの戦いは多少のテンションの上がりはあっても、戦いが終わればだいたい不安にさいなまれる。聖闘士たちの戦いが好調のまま終了することはほとんどない。つまり聖闘士たちの勝ちによる多少のテンションの上りがあっても、全体的には下がるテンションが続かざるをえない。

<絶望の淵から・・・>
 さらに戦いが進むと一輝がウルとルングを一掃するが、ルングの放ったブーメラン攻撃により瞬とともに崖下に落下する。そして真打・星矢が畳みかけるようにロキを粉砕するのだが、直後に現れたドルバルに拳は、めずらしく絶好調(笑)の星矢ですら圧倒する。ささやかに高まった観客のテンションを、ドルバルはあっという間に打ち砕く。そしてあとから到着する聖闘士たちは、みな戦いつかれた体を押しつつも、体を張って星矢を守ろうとする。そう、星矢は劇中の聖闘士にとっても観客にとっても最後の希望なのだ。ここに、大逆転への布石はすべて打たれたと言っていい。
 そんなとき、作品世界の最終兵器がまばゆい光とともに、到来を告げる。そう、5人の若き聖闘士たちにアテナを託したアイオロスの黄金聖衣が飛来したのだ! ここに物語は完全に最高潮のテンションを迎えることになる。そして黄金聖衣が星矢に装着され、ドルバルを圧倒し始める。まさに起死回生の大逆転!
 だがアテナ沙織の命を人質に取られた星矢たちは、最後のひと押しができずにいる。ドルバルを倒せば、沙織は現世に戻れなくなるのだ。物語はわずかにテンションを下げてくる。だがそこに、思いもかけない救世主が到来する。それがドルバルに幽閉されていたフレイの登場だ。初めて本作を見る人にとっては、まったく予想外の助け舟といえよう。その驚きこそが、本作の最後のテンションをMAXまで引き上げる。そしてフレイの命をかけた行為がドルバルに隙を与え、星矢が放った黄金の矢がドルバルを貫く。そして沙織は解放され、オーディン像は崩壊する。ここにアスガルドも平穏を取り戻して、物語はテンションをMAXにしたまま完結を迎えることになる。

 本作は聖闘士の戦いぶりが観客のテンションを細かく上げ下げさせながら、最後の盛り上がりに向かって、少しずつテンションを上げていく。最後のオーディン像崩壊というスペクタクルシーンに直結する形で盛り上がりを見せる。この盛り上がりに貢献しているのは、美麗でいながら迫力ある少年たちの戦いと崩壊のスペクタクル。演じる役者の演技もさることながら、横山菁児氏による荘厳で華麗な楽曲の数々がシーンを盛り上げる。横山氏はテレビ版でも曲を提供している。テレビ版で特徴的だったスキャットの曲も素晴らしいが、本作での特徴は男性コーラスを用いた楽曲が特に素晴らしい。男性コーラスが入ることにより、威風堂々としたオーディンの像に見合う荘厳さ、それでいて崩壊が示すアスガルドの悲しい命運をも感じさせる曲に仕上がっている。同じ旋律の曲がアレンジされて、星矢たちの戦闘シーンにもくり返しかかる。こうしたメロディのくり返しが、ラストのオーディン像崩壊を盛り上げ、物語と観客のテンションを否応なしに上げていくのである。それは音の種類も音の圧力も厚みも増していき、像の崩壊と星矢たちの勝利を高らかに歌い上げる。

 このように本作は作画も声優の演技も、そして音楽さえも、最後のクライマックスに集約して観客の感情を盛り上げるためにすべてが連動しているのである。それまでに連続するバトルシーンの細かな振幅も、きちんとラストシーンでのテンションをMAXに上げるために存在している。先述の「マジンガーZ対暗黒代将軍」が落ちるところまで落ちたテンションが、グレートマジンガーによる大逆転で一気に上昇するのに対して、本作では聖闘士対神闘士のバトルシーンごとにテンションの上げ下げがあり、その波は振幅を大きくしながら、ラストシーンへとなだれ込んでいくという方法を採択している。

 この2作品の違いを、公開された時代の差だということは容易に想像がつく。一気に落として一気に上げるマジンガーのやり方は、高倉健が演じたような、我慢を重ねながら最後に反撃する「やくざ映画」にタイプが似ている気がする。一方の星矢は、最後の盛り上がりまでに、さまざまな仕掛けを用意し、そのテンションに引っ張られるようにして感動させられるような仕掛けである。マジンガーのほうはやや古臭く、星矢はエンターテイメントとして優秀ではあるが、感動しにくい現代の人々に向けて、無理やり感動をあおるために作られているような感じがする。つまりこれは観客である私たちの変遷にあわせて採択された、物語構造の変遷を見ているとはいえないだろうか? どちらの手法が優れているかはわからない。けれどいずれにしても大逆転の物語が、私たちに感動を与えてくれるのは間違いない。私は今後もこのような熱い大逆転劇を見せるアニメを心待ちにしたいと思う。私は気持ちよく泣きたいのだ!

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劇場版のBOXです。レンタルではあまり見られないようですが、ぜひ見ていただきたいデスね。
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