「ブレンパワード」~その1・富野監督の本気~

 年末恒例となっているかのようにひどく風邪を引き、数日間寝込んでしまった。その間まったく映像も漫画も本すら読まずにいた。こういう日が何日も続くとさすがに体がうずいてくるようで、今回はいささか手強い作品を相手にしてみたい。
 富野由悠季監督作品はいずれも難敵であり、作品数の多さ、視聴時間の長さ、設定や物語の奥深さ、監督自身など、病み上がりの身にはとても扱い入れそうにない感じだ。だがこれもリハビリと思って、今回は「ブレンパワード」を選んでみた。くしくもうつ病を患った富野監督のリハビリ作品ともなっている本作で、わが身もリフレッシュしようと思ったわけである。
 本作放送当時は天井であったので、初視聴はLDであった。だから今でもLDで全部持っている。だがLDで発売順に物語を追いながら見ていると、全体的に起伏が少なく感じ、例によって解りづらい専門用語の土石流に飲み込まれたと感じてとても疲れた記憶がある。だから初見時における私の本作に関する評価は必ずしも高いとはいえなかった。だが当時本作を見て、あのころしばらくなりを潜めていた富野監督の身に何か重大な変化が起こったことは察知できたし、その後の「ターンA」および「キングゲイナー」へと続く布石としての「ブレンパワード」という作品の重要性(あくまで富野作品史上での)は認識していた。そして今回あらためて本作を見返す中で、この作品時点で監督が何を見ていたのかに着目することで、富野監督に訪れたドラスティックな変化を知ることができたように思う。

<作品概要と物語>
 「ブレンパワード」は1998年4月から全26話で放送された作品。WOWWOWでのスクランブル放送で、WOWWOW初のオリジナルアニメ作品でもある。ご承知の通り「機動戦士Vガンダム」(1994)以降一線を引いていた富野監督の、4年ぶりのアニメ監督作品となっている。
 舞台は自然災害が頻発し、すでに滅びに瀕している近未来の地球。その自然災害の原因と目されているのは、被災地に現れる「プレート」と呼ばれる巨大な円盤と、太平洋の深海深くに眠る遺跡「オルファン」である。いつしかこのオルファンが浮上するとき地上のすべては滅び、オルファンに従う「リクレイマー」たちは生き残り、オルファンとともに宇宙旅行をするとも言われている。
 だがその一方でオルファンの浮上を阻止して地球壊滅を防ごうと、国連軍が組織された。国連軍は永久機関とも噂されるオーガニックエンジンを搭載した巨大戦艦ノヴィス・ノアを建造し、行動を開始する。そんな世界の対立構造の中で、プレートの回収に現れたリクレイマーである主人公ユウは、プレートからリバイバルしたブレンパワードに乗るヒメという少女と出会う。この出会いがユウにとっては人生を変える運命の出会いとなる。その後、ユウはオルファンの中で廃棄されていたブレンパワードと一緒にオルファンを逃亡し、オルファンを統括していた父母や姉と敵対する道を選ぶ。それはヒメが生きる地上を救いたいと願うユウのやさしさだったから、ノヴィス・ノアでブレンパワード乗りとして働いているヒメに導かれるように、ユウはノヴィス・ノアのクルーとなり、オルファンやリクレイマーであるジョナサン・グレーンや姉であるクインシィ・イッサーとの対立を深めていく。
 リクレイマーだったカナン・ギモスがユウに続いて寝返ったり、新たなブレンパワードとの出会いや人との出会いの中、リクレイマーの執拗な攻撃をかわしつつ、新しい人間関係を構築していくノヴィス・ノアのクルーたち。さらに加熱するリクレイマーとノヴィス・ノアの戦いの日々の中で、戦線離脱を余儀なくされるユウではあったが、再びリバイバルした新しいブレンパワードを手に入れて、ヒメの元へと舞い戻る。そしてついに浮上を始めたオルファンは、本当に地上を崩壊させてしまうのか、それともブレンパワードの力で人類を守れるのか? 戦いの趨勢はユウが築いてきた新しい人間関係が握っている。

<オーガニック的なもの>
 本作の特徴を上げるとすれば、まず誰しも思いつくのが「オーガニック的」という言葉だろうか。まず顕著な例としては主役機であるブレンパワードやグランチャーというロボットが、かつての富野監督のヒット作である「機動戦士ガンダム」におけるモビルスーツや「戦闘メカザブングル」のウォーカーマシンのような工業製品的な機械ではない。劇中でそのコックピットでブレンの内側に触れたユウやカナンがやわらかいと評しているように、そのウエハース構造は、まさにやわらかな素材として表現されている。事実劇中に登場するブレンは生き物のように怖がり、笑い、嬉しがる。人とのコミュニケーションを楽しんでいるような雰囲気すらたたえている。またノヴィス・ノアに搭載されているエンジンも、オーガニック・エンジンと言われており、通常の燃料エンジンとは異なるものであるようだ。さらにノヴィス・ノアに勤務している艦内医アイリーン・キャリアーが操るのは西洋医学ではなく「鍼」を中心とした整体師であったという。だが富野監督が制作した「聖戦士ダンバイン」という物語を含むバイストン・ウェルサーガを見れば、これらが単なる機械文明批判をしたいのではないことはすぐにわかる。

 一方で富野監督が人間を中心としたドラマに重点を置いていたり、「ニュータイプ」という未来の人類の新しいコミュニケーションを見せてみたりするあたり、人間のつながりに重点を置いていることがわかる。この人間のつながりの延長線上に、本作の「オーガニック的」なものがあるとはいえないだろうか。
富野監督のこれまでの作品と同様、主人公を含め多くの登場キャラクターは肉親との縁が薄い。それ自体は富野監督自身が、肉親の縁をあまり強く感じていないことを口にしているが、本作でも肉親の縁や血のつながり、古い体質の人間のつながりを否定的にとらえ、より新しい人のつながりを奨励しているように見える。特にユウをとりまく人間関係を見れば、肉親や姉、祖母とゲイブリッジの関係を否定的に表現し、ノヴィス・ノアにおける国連群の多国籍的でパラレルな人間配置や、ユウとヒメの関係に重きをおき、カナンですらユウよりもラッセとの関係のほうをよりよいものとして表現している。

<父性ではなく母性?>
 「機動戦士ガンダム」でも「伝説巨人イデオン」でも、富野作品の多くは「父性」の理論で描かれている。男性理論と言い換えてもいい。連邦の軍事態勢やジオン軍のトップのありよう、アジバ家やズオウの王国制など、わかりやすい男性論理で貫かれて作品が作られている。それは旧態然としたロボットアニメの論理となんら変わらない。本作ではそれが明らかに「母性」へと変化していることに気づくのは決して難しいことではないはずだ。端的にそれが現れているのはOPの映像だろう。美しい全裸の女性が、さも気持ちよさそうに地球上にあふれ、時に海に、時に空に、またある時は噴火する火山に重ねて表現される。海を母と表現したり、台風に女性の名前をつけるアメリカや、火山の噴火を見て女神としたハワイ諸島の人々の気持ちにも通じる。

 本作の「母性」に関して印象深いエピソードを選べば、ノヴィス・ノアの艦長であったアノーア・マコーミックと、リクレイマーのジョナサン・グレーンの二人の関係性だろうか。この二人に関係とドラマには、特に父性から母性へとシフトした監督の気持ちを、如実に代弁しているのではないだろうか。
ジョナサンの出生は、精子バンクから提供を受けた優秀な人間の精子を使って受胎した事実が隠されており、アノーアはシングルマザーであった。これは母としてのアノーアが、父親や男性性を不要だとしたものか、アノーアの男性への感情の問題なのかはわからない。だがジョナサンの生い立ちには完全に父性が欠けている。その上でアノーアは彼女らしい愛情を持ってジョナサンに接したつもりであるらしかったのだが、ジョナサンにとってはそれすら否定的である。しかもジョナサンが母親アノーアに抱いている複雑な感情は、両親不在で育った不健全性ゆえに、安定しないキレやすい若者の姿が投影されているような気がする。つまり当世の若者の背景には、両親から愛情を受けて育ったというイメージが全く欠如しているとでも言いたげであるし、だからこそ肉親の縁の呪縛から逃れて、新しい人間関係の中で自己研鑽をしろという主張のようにも感じる。

 さらに自分が育てたジョナサンのありように絶望したアノーアは、ノヴィス・ノアの艦長から退くことになるが、その後は母と名乗らないまま正体を隠し、17話で初登場するジョナサンの後見人、バロン・マクシミリアンを名乗ってジョナサンを導こうとした。だが彼女がやっていることはかつてノヴィス・ノアでなすべきであったことの真逆であり、行き過ぎた彼女の母性の発露からは彼女の豹変ぶりが伺える。バロンから与えられたグランチャーの上位機種バロン・ズウを駆り、ジョナサンはユウを圧倒し始める。だが激戦のさなかに発覚したバロンの正体は、自分の母親であったのだ。彼女の豹変の理由が息子への愛情であるとその時に初めてわかるのは、ジョナサンだけなのである。自分のポリシーや考え方まで変えて息子を支持したにも関わらず、その愛情は息子であるジョナサンには通じていない。しかも大勢を無視し、世界を敵に回してでもジョナサンを支持した彼女のやり方は、必死で子どもを守る母親の姿ではあるが、どこか動物的なのであり、ジョナサンの頑なな心を癒すことができるほどには人間的ではない。

 主人公であるユウにしたって、本当の母親は息子であるユウは研究対象であり、同じ研究者であるユウの父親さえも見限り、ジョナサンと男女の関係になってしまう。このジョナサンにしてもひどいのは、女性との関係性をまったく信じておらず、SEXで女性を縛る方法論でしか女性キャラクターと絡めない人物なのである。それに対してユウはそんな母親にしても姉にしても距離感を測りかねているから、ユウに対して母親のように近寄ってきたカナンとも、初めて気になった異性であるヒメとも、ちゃんとした人間関係が築けないでいる。だがジョナサンがユウの母や姉と関係を持つのに比べると、カナンから乳離れしたユウがヒメと親しくなる人間関係を好ましいものとして作品で表現されている。それは富野監督が血のつながりや肉親関係、母性や父性といった旧態の人間関係ではなく、より新しい人間関係を重要視していることを表していることに他ならない。それは、かつての古巣であるサンライズで、またもロボットアニメを作らされているにも関わらず、新しい着想と新しい人間関係を持って、さらなる変革を模索して奮闘した富野監督の姿そのものなのではないだろうか? 自身で本作を第2のデビュー作と評した富野監督の本気が垣間見えるようではないか。

 さらにもう1点付け加えるなら、富野監督は本作で激しく母親の責任放棄を激しく非難している。父性を背景にした男性の論理で展開する世界や物語はわかった。彼らが想像しようとする世界にはすでに行き場がない。だから女性の論理で物語を回してみた。ところが女性性の基本となる母性は極論すれば子どもを甘やかすか、拒否するかの2択であり、どちらの方法で育てられた子供も、健全に世界を回すことはかなわない。すでに男性の論理をあきらめてしまった富野監督が、次に持ち出した女性の論理は、健やかに育っていいはずの子どもたちを捻じ曲げて世界に生みだしたものとして、激しく非難しているように見えるのだ。だからこそ新しい人の関係性にすがったのが「ブレンパワード」という物語だったのではないだろうか。

 さて次回はさらに物語の展開に触れ、「ブレンパワード」という噛みごたえのある作品を考えてみたいと思う。

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コメント

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自分ブレンパワードは小説から入ったのですがアニメ版は違和感がありました。
そうであるように見せようとしているだけでそうでないという作品的にいえば真にオーガニック的ではないという違和感。

波のまにまにさんのブログを読んで謎が解けました。
母性というものを男性が表現しようとしていたゆえに起きる違和感だったのですね。

少し調べてみましたが、小説を執筆しているのは女性みたいです。

小説版の感想になってしまいますが、ブレンパワードは硬くて柔らかい、そして世界に包まれるのは息が詰まるけれどもそれが心地よいと感じる世界観をもった作品だと思っています。
やはりオーガニック的なものをアニメだけで表現することの難しさを感じた作品でもありました。

あっ、最初に書こうとしてたの忘れてました。

風邪、お大事に。

No title

とぴろさま

 コメントありがとうございます。

 小説版は私も読みました。全3巻でハルキ文庫から出ていた物ですが、2巻までは脚本家の面出明美、3巻のみ富野さんが書いているようです。

 ご指摘の通り、本作中「オーガニック的な」という単語は頻繁に登場しますが、登場キャラクターの中で拡大解釈されているようで、かなり都合よく使われている印象があります。たぶん機械的でないやわらかな印象の物をひっくるめているために、富野さんが思っているほどスタッフ・キャストには伝わっていなかったのではないかと推察しています。それゆえに固定したイメージが希薄な分、あいまいな印象となってしまった感じは否めません。その伝わらなさ加減が富野作品でもあり、ブレンパワードは富野作品初級編にはなりにくい感じですね。

 あ、おかげさまで今は回復しました。ご心配おかけしました。

波のまにまに☆さんへ

ブレンパワードに関して、昔スタッフの話を文字起ししたんですが、よかった読んでください。

http://kaito2198.blog43.fc2.com/blog-entry-539.html
http://kaito2198.blog43.fc2.com/blog-entry-580.html

ブレンとそれ以前の富野作品に比べて、まず違ったのは脚本側のスタッフの浮上(しかも女性陣)だと思われます。
それから、わざと「オーガニック」を曖昧に伝える一方、おっしゃるとおりで母と子の関係をこれ以上ないほどはっきり伝えたからこそ、ブレンは伝えにくい物語になりながら、当時のジブリスタッフさんたちがいうように「よくわからないけど、なんだかいい」作品だったんでしょうね。

去年1年ありがとうございます。今年もよろしくお願いいたします。どうか体を気をつけてください。

No title

kaito2198さま

 コメントありがとうございます。教えていただいた記事も拝見しました。

 私が参考にしている本とは異なるインタビュー記事は参考になります。今後とも参考にさせていただきます。

 記事内容を拝見すれば、なるほどそういう事情だったのかと、腑に落ちる内容でした。私の言葉で伝えきれるかどうかとびくびくしながら書いておりましたが、この記事を拝見して、あと2回ほどの記事を勇気をもって書きすすめられそうです。ありがとうございました。
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
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