映画「帝都物語」~復興への希望、そして人間賛歌~

 このたびの東北地方太平洋大地震に関しては、現地で被災された皆様にお悔やみならびにお見舞い申し上げます。また震災の影響で福島の原発事故の影響で非難された皆様に、お見舞い申し上げます。私たち関東および東京近辺に住む人間も、計画停電やガソリンおよび食べ物の少ない状況で暮らしており、受け身ながら被災した皆様の復興を心より願っております。私たちができることなど、実に些細なことであります。けれどしないよりはいい。節電や日常の節約を心がけて、少しでも被災地の復興を心待ちにしたいと思います。

 以前、「東京マグニチュード8.0」を取り上げた時、作中で起こった地震による被害状況が現実に起こりうるとしたうえで、アニメの想像力が現実を越えたと表現した。だが関東大震災や阪神淡路大震災、そして2度にわたる中越地方の大地震を経て、それらを越えるマグニチュード9.0を記録した今回の大地震は、「東京マグニチュード8.0」というアニメの想像力すら軽々と越えて見せたのである。

 特撮の世界では、こうした地震や津波などを表現する作品もある。「帰ってきたウルトラマン」では津波を起こす怪獣シーゴラスとシーモンスが現れ、東京が津波に襲われるというスペクタクルを表現してみせる。津波の被害はウルトラマンの超能力を持ってからくも逃れた。またアメリカでは竜巻を取り上げた映画もある。日本では竜巻に御目にかかることはめったにないので、どうしても地震国である日本では地震を取り上げる映画となる。代表的な作品はやはり小松左京の「日本沈没」だろうか。過去2度に渡り映画化された作品の見どころは、やはり地震が頻発して日本の国土が徐々にむしばまれるように無くなっていくシーンであろう。火山爆発や地震の影響でズタズタにされた日本の姿は、どんな日本人でも痛ましく思うシーンに違いない。さて今回取り上げる「帝都物語」も、そうした震災をとりあげた作品の一つと言っていい。しかも関東大震災はたった一人の人間の破滅の願いが起こした地震だという。誰かのせいで起こった地震だなんて、どこかの知事やら元関取の言いようみたいであるが、この物語ではそれが真実なのである。

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<物語と概要>
 「帝都物語」は1985年に発表された荒俣宏氏原作の伝奇小説である。氏のデビュー作である本作は1988年1月末に劇場用映画として公開される。角川映画バックアップのもと、実相寺昭雄監督により映画化された本作は、目を見張る特撮シーンや壮大な新橋や銀座のオープンセット、エイリアンをデザインしたH.R.ギーガーの手による護法童子のデザイン、そして平幹二郎や勝新太郎など大物俳優を起用し、なにより稀代の呪術者・加藤保憲役の嶋田久作氏の怪演などのビジュアルにより、大ヒットした映画となった。

 時は明治45年。土御門家の陰陽師・平井保昌は東京を一望できる丘の上で祈祷を行っていた。時おりしも、日本の実業界の重鎮であった渋沢栄一は帝都改造計画をひそかに進行させていた。平井は渋沢に願い出て、土御門家を帝都改造計画の一員に加えるよう進言する。それは江戸の昔より呪われつづけてきた帝都東京を、何者かから救うためであった。
 神田明神の将門祭りにて辰宮由佳理は式神を打たれた。式を打ったのは軍服に身を包む長身の男・加藤保憲。彼は由佳理を依代として、平将門の霊を悪霊と化し、帝都を滅ぼそうと企んでいた。土御門家は総力を持って由佳理を護ろうとするが、加藤の放った強力な式神に翻弄され、まんまと由佳理が奪われてしまう。だが平井が打ち返した式により儀式を邪魔された加藤は、アジに由佳理を残していずこかへと消えてしまう。その頃、俤神社の宮司の娘・目方恵子は、いずれくる加藤との対決を心に決めていた。そしてまた渋沢は、様々な分野の専門家を集めて、来るべき帝都改造計画について話し合っていた。その中で地下の開発を勧める男が一人。男の名は寺田寅彦。東京帝大の物理学研究室に席を置く天才であった。

 時は進んで元号が大正に変わった年。平井は一命を賭して加藤が行う帝都破壊の日時を占おうとしていた。だがその場に居合わせた加藤は、平井を足蹴にしてその日時を自ら予言する。その日時は「大正12年9月1日」。それからこの奇怪な事件に関わる者たちが、その日のために準備をし始める。あるものは加藤が再び将門の霊を呼び出すことを予見し、またあるものは加藤との対決を準備し、またあるものは加藤の帝都侵入を阻もうとしていた。その頃加藤は大連に渡り、帝都破壊の準備を着々と進めていたのである。それは大連が日本と同じ地層を有しているためで、大連から地脈を揺さぶり、共鳴作用で大地震を起こそうとしていたのである。そして周期的に発生する地震に気がついていたのは、寺田寅彦ただ一人だけである。東京に舞い戻る加藤。人々の奮闘努力はむなしく加藤の力の前に打ち砕かれる。そして幸田露伴が仕掛けた奇門遁甲の陣すらはねのけて、加藤は将門の首塚にたどり着く。加藤は再度将門の霊を目覚めさせようとするが、「ワレヲオコスナ」と叫ぶ将門の霊は加藤の呪術を拒み、加藤に落雷をあてて気絶させる。迎えた大正12年9月1日の昼に発生した関東大震災は、甚大な被害を東京にもたらしたが、将門の霊が目覚めなかったために、加藤の思う破壊には至らなかった。人々は帝都復興に全力を傾け始める。

 さらに元号が昭和に変わる頃、震災から復興する街の中で、寺田寅彦は地下鉄道計画に賛同し、渋沢栄一の助力も得て計画に尽力することになる。だがその計画は実行に移された段階で、意外な事情で工事がとん挫する。それは加藤が地脈を護るために放った式神による妨害だったのである。一方、由佳理の兄・洋一郎は、縁あって目方恵子と結婚する。だがそれは由佳理や由佳理が生んだ娘・雪子を加藤から護るための偽りの婚儀であった。だが恵子は献身的に洋一郎兄妹につくしていた。恵子は黒田という男と出会う。黒田は帝都の地脈が何者かによって異常をきたしていることに気付いていた。彼はその何者かとの対決を前に、一人準備をしていた。そして時は風雲急を告げる。辰宮一家が銀座に出た際に、雪子が加藤にさらわれてしまうのである。加藤は三度、辰宮家に流れる血を持って、将門の霊をよみがえらそうと行動を開始したのである。意を決して加藤との対決に向かう恵子。そして将門の霊を鎮め、雪子を助けるために、自らの血であがなおうとする洋一郎。地下鉄道の工事現場においては、日本初の人造人間・学天則によって、地脈を護る式神を排除して、トンネル掘削を進める作戦が決行される。すべての人々が、加藤の企む帝都破壊のための企みと対決する。人々は加藤の計画を退けられるのか、それとも加藤の帝都破壊は成功するのか。昭和初期の時代を背景に、サイキック・バトルは過熱する!

<現実寄りの虚構、虚構の中の虚構>
 本作は博物学者で作家の荒俣宏氏による小説が原作となっているが、本作には渋沢栄一や寺田寅彦、幸田露伴、泉鏡花など、現実に存在した人物が登場するし、史実である関東大震災とその前後の東京の風景を軸にした物語となっている。現実に即したエピソードを扱いながら、それらを背景にして描きだされたドラマは、あくまで虚構なのである。前述の通り、関東大震災が何者かによる呪術の結果だなどという事実などあろうはずもない。それは「地震」があくまでも自然現象であり、自然現象が引き起こす災害が、人間がコントロールしてどうにかできるような存在ではないことがそもそも念頭にあるから、本作の伝奇的な印象が際立つのだろう。

 特撮部分で言えば、数々のクリーチャーや感情や老いを表現する特殊メイクなどが目を引く。特に加藤が操る数々の式神である小鬼やヤタガラス(足が3本になっている芸の細かさ)などが登場する。基本的にコマ撮りで撮影されるパペットアニメが主であり、その気持ちの悪い動きが特徴的だ。また終盤の加藤と恵子の対決に挿入される阿修羅像と黒田の戦いのシーンなどで見られるコマ撮りと着ぐるみ特撮の組み合わせは、まるでレイ・ハリーハウゼンの「シンドバッド七回目の航海」や「タイタンの戦い」を思い出させる。また前述のH.R.ギーガーのデザインによる護法童子の見せ方も、特撮的には大きな見どころだ。

 しかも本作の監督である実相寺氏の撮影する独特の映像美は、見る者を魅了しないではいられない。特に「将門の首塚」における2度の戦いや、幻惑的なイメージを映像化してみせた「奇門遁甲の陣」、そして加藤と恵子のラストバトルの舞台となる荒れ寺などの作り込まれた舞台は、そこにある現実の中に「異空間」を現出してみせている。本編中でも特異に別空間にすら見える上記3つのシーンは、映画という虚構の中にさらに虚構の異空間を作り出しているようだ。また作りだされた銀座や新橋の風景は、やはり作りものである感覚は否めないが、こちらも現実の地平に異空間を登場させたようにも見える印象がある。
 実相寺監督がその後演出した作品、特に「ウルトラマンティガ」37話「花」において、舞台で演じられるティガと宇宙人の戦いという奇妙さを見せる演出を見ていると、虚構の中に虚構を作りだそうとしていたように見える。虚構を作り込む方向性で作られた「帝都物語」は、やがて虚構の中にまた別の虚構を入れ込むという二重の虚構を見せる「ティガ」を生み出した。この間に監督に何があったのかは知る由もないが、オープンセットで作られた町やそこに登場する現実の人物を演じる役者に、現実の出来事を受けて展開する虚構のドラマといういくつもの多重性を見せる本作は、何かしら実相寺監督にとって変化点になっている可能性があるのかもしれない。すでに物故された実相寺監督であるが、そんなお話を聞くともできなくなって久しい。

<震災と東京と人間賛歌>
 ただしこの作品、ほめることばかりではない。なんといっても本作で一番問題なのは、主役が不在であることだ。一見すると加藤保憲と答えてしまいたいところであるが、彼が主役であるとするならば、彼が帝都をこれほどまでに憎む事情が説明されていない。しかも彼の出自や呪術の類に関する情報もままならない。これほどの存在感を放ちながらこれほど情報量の少ない彼が、どう考えても主人公だとは思えないのである。同様の理由でそれ以外の登場人物に関しても、本編中に登場するすべてのエピソードに関連している人物はいない。寺田寅彦にしても幸田露伴にしても、黒田にしても恵子にしたところで、主人公とはいえない。むしろ自らに流れる血のために数奇な運命をたどった辰宮の兄妹と娘・雪子が主人公といえば言えなくもない。事実、雪子の成長後は、次回作「帝都大戦」の主人公として登場しているからだ。その雪子の出自に関しては、はたして由佳理の体から生まれながら、加藤の血を引くものかどうかをはっきり提示していない。劇中の表現をかえりみれば、加藤による施術以前から解任していた説明がなされており、どうやら兄・洋一郎との子供であることがほのめかされていることを考えると、彼らを主人公と呼ぶにはふさわしくないような気がするのである。もっとも本作が群像劇である体裁をとっていることを考慮すれば、本作はだれもが主人公であるという考え方も成立するだろう。だが、だからこそ本作の物語が注目すべき視点が分散しすぎていたため、全体にわかりづらい構成の物語になっている。

 ここで本作のタイトルが「帝都物語」であること思い出してほしい。タイトルが示している「帝都」こそが、本作の確固たる主人公なのではないか? そう考えてみると、本作は渋沢栄一翁による「帝都改造計画」に始まり、霊的に祝福された帝都を目指した土御門家がこれに参画する。そして来るべき帝都のあるべき姿として地下都市を夢想した寺田寅彦が東奔西走し、そんな帝都を壊滅せんとつけ狙う加藤保憲が暗躍し、それを食い止めるために様々な人物が加藤と対立する物語なのである。すべては「帝都」東京を中心に物語が進むのである。そしてそれらを支えている帝都・東京は、劇中で加藤の企みにより「関東大震災」を引き起こされて一時的に壊滅するのである。だがそこから復興して次のステップに進む帝都の姿こそが、本作の真のテーマなのではないか。そうして考えを進めると、本作の本当の主役は、関東大震災という悲劇から復興を成し遂げた帝都・東京であり、その復興のために尽力した人々の、堂々たる人間賛歌の物語なのではないか。

 強く私がそう思う理由がある。東京の出身である筆者は、小学生のころ東京大空襲やら関東大震災については、毎年のように担任教師より話を聞いていた。特に実際に大空襲を経験した小学6年生の時の担任の話は悲惨を極めており、その衝撃や涙ながらに語る担任の様子を、今でも記憶にとどめている。そのせいだろうか。地震や震災に興味があったし、被災した現場をぜひ見たいと思っていた。20数年後に、その願いは建設の仕事に就いたことで叶えられた。寸断された道路、湧き出す水、倒壊する家屋など、震災の爪痕は確実に私の心をえぐった。そして被災して非難し、苦しい避難生活を強いられる人々を眺めていると、だんだんとこうした被災の現場に足を踏み入れている自分が、火事場泥棒のような気がしてきた。何もできない上に騒々しく写真を撮ったりデータを取ったりしている自分が、情けなく思えたのである。仕事でやっていることとはいえ、中越地震や能登の地震など、大きな震災のあった時にはいつも同じことを感じていたのである。そんな情けなさとは裏腹に徐々に復興していく被災地の姿こそ、物語なのではないか。私が「帝都物語」という作品について深く理解できるようになったのも、この経験のたまものだったのではないかと思っている。

 さあ、だからこそ次は今回の被災地の番なのではないか。そしてそのために私たちができることをする番なのではないか。節電や物資供給の不具合に耐えつつも、いつかは元の街以上の街に生まれ変わる被災地を夢見ながら、今は自分にできるささやかな努力をしていこうと思う。


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アニメ版も素晴らしい作品です。こちらもいつか記事にします。

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原作小説版ですが、幾人かの漫画家によるマンガも存在します。
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波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
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戦隊シリーズをこよなく
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