映画「がんばれ!!タブチくん!!」~コエノチカラ、サクガノチカラ~

 前回「ムーの白鯨」で東京ムービー作品を取り上げた。さて、あなたは「東京ムービー」あるいは「東京ムービー新社」あるいは現在の「トムズエンターテイメント」と聞いて、どんな作品を思い出すであろうか?
 東京ムービー(あるいは新社)作品として挙げられるのは、「巨人の星」や「侍ジャイアンツ」、「アタックNo.1」、「エースをねらえ!」などのスポ根アニメ、そして「天才バカボン」や「ど根性ガエル」、などのギャグアニメ、さらに「家なき子」や「宝島」などの名作アニメなど、はては藤子不二雄原作作品や「ルパン三世」シリーズ、「名探偵コナン」なども含めれば、手掛けた作品のジャンルは実に多岐に渡る。プロダクションが細分化した現在の目で見ても、これほど複数のジャンルを一手に扱うプロダクションはそれほど多くないのではないか。それを支えていたのが「Aプロダクション」(後のシンエイ動画)あるいは「亜細亜堂」であったとしても。
 劇場用のアニメ映画という枠で見ても、連綿と東映動画がアニメ映画を送り出しているその傍らでテレビアニメの映画化を続けており、「名探偵コナン」シリーズはすでにドル箱化している。そんな東京ムービー制作のアニメ映画の中で、ひときわ異彩を放っている作品が「がんばれ!!タブチくん!!」や「マンザイ太閤記」をはじめとする実在の人物をデフォルメしたコメディ映画ではないだろうか。今回は「がんばれ!!タブチくん!!」シリーズを取り上げてみたい。

がんばれ!!タブチくん!! トリプルヘッダーBOX(3枚組) [DVD]がんばれ!!タブチくん!! トリプルヘッダーBOX(3枚組) [DVD]
(2008/02/22)
二木てるみ、西田敏行 他

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<作品概要>
 そも「かんばれ!!タブチくん!!」は「漫画アクション」に連載されていた漫画家いしいひさいち氏によるギャグ漫画。実在の人物を極端にデフォルメし、実際に球界で起こった出来事をベースに、いしいひさいち氏の抜群のギャグセンスと想像力により、ネタにされた本人が激怒するほどおもしろおかしい作品となっている。「タブチくん!!」は連作短編マンガであるため、「かんばれ!!~」名義以外の「タブチくん」漫画も多数存在する。現在では双葉社より発行されている文庫マンガ(全5巻)でそのほとんどを読むことができる。
 今回のお題であるアニメの方は1979年~80年にかけて集中的に3本の映画が制作・上映されている。詳しくは後述するが、主人公・タブチくん役に西田敏行氏を起用しているが、それ以外のキャストには声優界の大ベテランを配している。監督は3本とも芝山努。東京ムービー傘下であったAプロ(後のシンエイ動画)で多くの作品を手掛け、後に「ちびまる子ちゃん」や「忍たま乱太郎」などの監督を務めている方である。配役もスタッフも実に手堅い、改めて本作を見ていると、そう感じられるのである。

 本作は虚実織り交ぜてのギャグアニメであるが、後に江本孟紀氏が著した「プロ野球を10倍楽しく見る方法」シリーズを原作として、同タイトルの映画が1983~84年にかけて2本制作されている。こちらは実際のプロ野球の珍プレー好プレーとアニメを交互に配された映画であり、実写部分はプレーしている選手にマイクを仕込んでみたり、最近ではなかなか聞けないみのもんた氏の名調子で珍プレー好プレーが見られる。一方のアニメパートではいしいひさいち氏原案のキャラクターが動き回るため、制作スタジオや制作母体は異なるものの、事実上の「タブチくん」の続編とみなしてよい内容の作品であった。
肖像権の問題などで「タブチくん!!」シリーズのソフト化は長らく叶わなかったが、2008年に3作品がDVD-BOXとして発売された。ただ、「プロ野球を10倍~」のほうはいまだにソフト化されていない。貴重なプロ野球界の映像が見られる「プロ野球を10倍~」の方も、どうにかソフト化してほしいものだ。

<現実の70~80年代のプロ野球界>
 筆者は本作を2007年にCSで放送された作品を見ているのだが、ここまで腹を抱えて笑えるとは思わなかった。とはいえ基本的に30年以上前の作品なのである。完全に現実の世界とはかけ離れているし、見ているこちらのモラルも変わっている。しかも登場するキャラクターの現実を考えてみれば、田淵さんは現時点で楽天イーグルスのヘッド兼打撃コーチであるし、西武ライオンズは誕生したばかりの80年代とは打って変わって、リーグ優勝の常連チームとなっている。映画で描かれている愉快で勝てない西武ライオンズ像とは、なにもかもが変化しているのである。だが往年のコント55号がやっていた、バッターボックス周辺のサイレントコメディを彷彿させるギャグなどもちりばめられ、30年の時代を経た今でも、上質のギャグアニメとして新鮮に見ることができる。

 今ではサッカーにお株を奪われているが、今から30年前といえば、日本のどんな男の子でも野球は相撲と変わらない人気のある、国民的なスポーツであった。筆者が子供だったころのプロ野球のトピックといえば、読売ジャイアンツがV9を果たし、川上監督が退いたあとを長嶋監督が務め、巨人軍は日本シリーズの常連であった。1979年には江川トレード事件があったり、ジャイアンツの成績不振があって長嶋が勇退したりしたが、1977年の王貞治氏の756号ホームランによる世界記録樹立、そして氏が引退までに打った868本のホームランは現在でも抜かれることのない大記録となっている。筆者が高校生になるころには1985年には萬年最下位の阪神タイガースがまさかの日本一に輝くなど、現在の視聴率低迷が嘘のようにお茶の間を賑わす話題を常に提供し続けたのである。

 と、ここまで書いておいて話がセ・リーグばかりなのに気がついた。そう、パ・リーグって当時からいまいちパッとしなかったのである。「人気のセ、実力のパ」などと言われたりしていたが、V9時代の日本シリーズの常連チームはだいたい阪急(現オリックス)だったりした。「タブチくん」にも登場する投手・山田や福本の盗塁など話題となる選手は知っているのだが、パ・リーグ自体の野球中継が関東地区で少なかったせいもあり、パ・リーグにあまりなじみがなかったのである。
そんな中、白いユニフォームのクラウンライター・ライオンズが国土計画に買い取られ、1978年のシーズンオフに「西武ライオンズ」となる。この西武ライオンズは西武鉄道がスポンサーになっており、しかも球団は筆者の住む東京都東村山市に隣接する埼玉県所沢市にあるもんだから、東村山市の小学生男子は、こぞって「ライオンズ友の会」に入会し、ライオンズ帽子をかぶり、ライオンズバッグを持って、球場に足を運ぶことがステータスになっていたのである。地元に近くに球団が誘致され、こともあろうに経済波及効果が実感できるなぞ、そうそう体験できるものではない。野球にそれほど興味のなかった筆者でも3年連続で友の会に入会し、父や母に伴われて何度か球場の外野席に足を運んだものである。とはいえ誕生したての球団、それも買いたたかれるような球団がそう簡単に勝てるわけもなく、何度見に行ってもライオンズの勝ち試合を拝めることができなかったため、だんだんと興味が失せていった。この「がんばれ!!タブチくん!!」という漫画は、そんな状況下の根本監督時代のエピソードを下敷きに作られている。

<ギャグアニメの作画>
 話がだいぶ現実に逸れたので、アニメに話を戻そう。先述の通り本作の制作会社である東京ムービー(あるいはAプロ)は数多くのギャグアニメ作品を支えてきた実績がある会社だ。「天才バカボン」や「ど根性ガエル」など、物語以上に動きの面白さでギャグを見せ切ってしまうその手腕は他の追随を許さない。
 作画の話をするならば、細かい話は以前放送されていたアニメ夜話の「ど根性ガエル」の回のアニメ・マエストロを参照していただきたい。テレビアニメでは毎週の放送に合わせるために、いかに省略して映像を見せ切るかが重要な点だ。その際、表情の動きを表情1枚ずつすべて作画するのでは、手間がかかり過ぎて間に合わない。それを輪郭をベースにして口だけや目などのパーツごとの作画でアクションを見せ切ってしまう手法などが用いられる。リミテッドアニメとしてはごくごく基本的な手法なのであるが、これをまた緩急を交えた作画を徹底することで、愉快で面白い動きを演出することができる。ただこれは基本的にテレビアニメの話。通常これが劇場用アニメともなればさらに作画枚数をかけることで、テレビアニメでは表現できない作画の粋をこらした映像を作り上げるところである。ところが「タブチくん」はギャグアニメである。いい感じに力の抜けまくったその作画スタイルは、基本的にテレビアニメの動きとそう変わらない。しかしその緩急の付け方は実にもう堂にいっており、腕の動きだけで表現されるやる気のないタブチくんのおかしげなフルスイングや、マツヌマやヤマダの不可思議な動きの投球フォーム、まったくデザインする気のないモブの選手の無表情さなどなど、見る人が見れば爆笑必至の作画が随所で拝めるのである。また主要キャストは統一デザインであるが、それ以外の有名選手に関しては、毎回デザインが変わっており、毎度デザインが書き換えられている。このあたりの丁寧さも、本作の面白さの秘密ではないだろうか。

 またもともとがいしいひさいち氏の漫画であることも一因であるが、基本的に一幕劇を連ねて作られるスタイルである。一幕で終わるからこれも背景作成の手間が若干は少なくなる。そしてその人幕を一ネタを見せ切ってしまう。さらに1ネタ1ネタを巧みな構成がさらに笑いを加速する。「王に756号を打たれた鈴木」などのネタは、今でも腹を抱えて笑わせられる。キャラクターの魅力もさることながら、お約束のギャグや重ねられるギャグを交え、どんどんとエスカレートしていくタブチくんの笑いや怒りが波のように押し寄せて我々観客を襲うのである。この例としてタブチくんがミヨ子夫人とともに登場する自宅の居間のシーン(「ミヨ子、ちょっとそこへ座りなさい!」「・・・座ってるじゃない」っていう、アレ)である。こうした笑いは決して色あせない。スタイルとして確立しているからではなく、これを見ている人たちの中に、刷り込みのようにして笑いのタイミングや面白さがしみ込んでいる。それをスクリーンの前で座っている観客の誰もが共有している笑い、それこそがこうした日本のギャグアニメの笑いなのではないか。それを確立した東京ムービーやさらに先達のアニメの偉大な功績とも言える。現在「あずまんが大王」や「らき☆すた」、今期スタートした「Aちゃんねる」や「日常」などの4コマ漫画のアニメ化が数多く制作されているが、その基本となる面白さは、こうしたベースがあってこそである。現在のお若い人々が過去作品を見てデジャブを感じても、それは連綿と受け継がれてきたリミテッドアニメの伝統が息づいている真実だと思える。

<豪華!超絶技巧!芸達者!>
 そうしたアニメーションとしての面白さを支えているのが、豪華で芸達者な声優陣の声である。
 まず主役・タブチくんを演じた西田敏行氏の演技には、喝采の拍手を送らざるを得ない。1977年に「特捜最前線」の刑事役で人気を博した氏ではあったが、氏が一般に認知されたのはなんといっても1978年に日本テレビ系列で放映された「西遊記」の猪八戒役と80年の「池中玄田80キロ」だろう。孫悟空役の堺正章氏と繰り広げる台本ともアドリブともつかないしゃべくりは、実に楽しげであり、しかも最終回などで見せた泣きの演技にも定評がある。本作では本人である田淵氏には似ても似つかない風貌とデザインでありながら、アニメの「タブチくん」という役柄を完全に掌握しきっており、その抑揚も声の荒れ具合も、「タブチくん」というキャラクターの範囲内にきっちり収めるという離れ業をやってのけてくれる。その演技は「西遊記」で見せてくれた不思議な抑揚であり、エスカレートする怒りの演技であり、その振幅から生まれた笑いなのである。絵が加速すれば演技が加速するという、積み重ねられていく笑いの面白さがここにある。
 西田氏の起用はたしかに本作のウリではあるが、それ以外の声優配置は実にベテランで固められている。ネモト監督役の内海賢二氏やツツミオーナー役の肝付兼太氏の演技は、ギャグアニメの範疇を越えるものではないかしれないが、実在の人物がいるにも関わらず、その人物像を全く無視してのキャラクター作りは、タブチくん役の西田氏の演技をエンジンに加速していったとしか思えない。声の面でも暴走しがちなメインキャラクターを、抑えに回るはずのベテラン声優陣が、悪乗りも悪乗りで楽しげに演技している様子が見て取れることは、観客にとっても得難い経験である。
 本人を完全に逸脱しているといえば、ヤスダ投手役の青野武氏とヒロオカ役の羽佐間道夫氏の二人だろう。特に羽佐間氏のヒロオカは、本人を通り越して完全にアッチ方向にすっ飛び過ぎている。あまりに斜め方向のホームラン級の演技は、現実の広岡さんが後に西武ライオンズを常勝のチームに導く方であることをしているだけに、ギリギリ笑いを生んでいるといえる。作品当時はヤクルト監督を退いて在野にいらした広岡さんであったが、実に皮肉な現実とはあるものだ。
 また第2作のネタにタブチと審判のネタがあるが、口やかましい主審役をたてかべ和也氏が演じており、これがまたたまらなく面白いシチュエーションである。主審の口やかましさにカチンときたタブチくんは、ピッチャーの玉をはずして主審にぶつけたりする。その後、タブチくんのあまりに大きいお腹ゆえに「タブライク」(タブチストライクの略語)なる珍妙なルールが登場し、ヤケになったタブチくんがあらゆる玉をファウルする攻撃に出る。ついに力尽きようとしたピッチャーの玉をホームランにするタブチくん。よろこび勇んでホームを廻ろうとするが、これを審判団が集合して「物言い」が付く。まるで相撲のような主審発表の結果、このホームランは幻となってしまうという一幕。その後「タブライク」の意味を本人に問いかけるミヨ子夫人というネタも、実にイカしている。最後の相撲のような「物言い」のシーンは、タブチくんが力士のように太っているからというくすぐりなのだが、この主審発表のときのたてかべ氏の演技がものの見事に憎々しげである。「ドラえもん」のジャイアンや「ヤッターマン」のトンズラーの声しか知らない方は、ぜひとも本作でそのおかしな演技に注目してほしい。ほんと笑っちゃうんだから。
 さらに小ネタではあるが、伊武雅刀氏が演じるナガシマがばっかばかしいほど笑える。こういうのは似てる似てないではなく、笑えるか笑えないかであることを思い知らされる。1作目に登場する西武選手のファンの女子高生役を松金よね子さんが演じているのだが、その無理くりさ加減が実におかしい。また絶好調男の異名をとる巨人のナカハタを演じる玄田哲章氏のハッスルぶりなど、声優さんに関して言えば、拾うネタに枚挙にいとまがない。

 それにしても繰り返すが、30年ぶりの視聴のわりに、実に腹を抱えて笑わせてもらった。確かに今のお若い方々にこれを見て笑えと言ったところで、無理なのはわかる。だがそれ以上に野球が日本人の生活の中にしっかり根付いており、日常的に人々の共通の話題であった時代性こそが、本作が劇場公開された最大の理由だったのではないか。つまり集客力とは観客大多数の共通の話題をネタにすることが必要であり、野球とは30年前の妥当な共通の話題だったことが重要なのだろう。現実としては今日本人が共通の話題で同じ方向を向いている時代ではない。それが政治でもスポーツでもテレビでもなくなっている時代に、求心力を何に求めればいいのだろうか。今ものづくりの立場にいる人にとっては、より高い視聴率や多くの観客動員数などを目指しているかと思うが、これだけみなが違う方向を向いている日本人を相手に商売をするのは難しいのだろうなあと、素朴に思う。そしてまた求心力が失せてしまったプロ野球や大相撲の凋落を思うと、少しばかり気持ちが暗くなる思いだ。ならばせめて本作を見て輝かしい時代のプロ野球を思い出してみるというのはどうだろうか。

がんばれ!!タブチくん!! [DVD]がんばれ!!タブチくん!! [DVD]
(2008/02/22)
肝付兼太、西田敏行 他

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バラ売りもあります。全3作。
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波のまにまに☆

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