「装甲騎兵ボトムズ」~その2・物語を俯瞰する視線~

承前
 まずは引き続き、第3,4クールの見どころの解説からはじめてみたい。

○サンサ編
 クメンの内乱はギルガメス軍の介入によってうやむやとなる中で、キリコとフィアナはクメンを脱出する。その直後に不思議な光に包まれたあと、キリコとフィアナは宇宙に浮遊する謎の巨大戦艦の中にいた。前半は謎の戦艦内のキリコたちが、ギルガメス軍とバララント軍、そしてイプシロン率いる謎の組織に追い立てられる。しかし謎の戦艦は何者かによってキリコのレッドショルダーとしての過去をえぐりだし、キリコを衰弱させるという物語。

 その戦艦はやがて不可侵宙域の惑星サンサにたどりつく。そこでキリコは逆に衰弱しはじめるフィアナに困惑する。それはチヂリウムシャワーを長時間浴びなかったために、体が硬化する現象であり、プロトタイプのPSであるフィアナの最大の弱点が露見する。そしてチヂリウムのある場所にたどり着くため、キリコはフィアナを連れて惑星サンサをさまようことになる。だがレッドショルダーとしてのキリコの過去が、キリコを再び追い詰める。女武器密売人であるゾフィが、レッドショルダーへの恨みでキリコの命を狙うのである。同時にイプシロンの追及の手も迫る。キリコはゾフィやイプシロンとの対決を余儀なくされるというのが後半の物語である。

 前半は宇宙空間と戦艦の内部が舞台であり、後半は惑星サンサが舞台となる。前半のATによる宇宙戦は、1話以来の見どころである。本質的に質よりも量で圧倒する戦法を主体とするAT戦であるから、キリコの一撃一撃が敵を葬り去る。しかも人命尊重とはほど遠いATという機体の構造上、宇宙での負けはすなわち「死」であることが、あらためて誇張されている。後半に登場する惑星サンサはかつての地上戦によって大気まで汚染されたため、酸素ボンベなしでは外に出られない世界となっている。惑星表面は砂漠化が進み、常に夕焼けのような赤い大地がひたすら続く惑星となっている。前クールのクメンが緑の大地であったことに対するわかりやすいコントラストをなしているビジュアルといえる。

 さてサンサ編の前半の魅力といえば、キリコのレッドショルダーとしての過去、そしてキリコとフィアナの静かで優しい時間ではないだろうか。酒の飲めないキリコに酒を進めるフィアナや、互いに互いを必要とするキリコとフィアナの存在そのもの。それを覆ってしまうほどのキリコの激しい過去が、物語に陰影を与えている。また後半にはイプシロンとの最終対決により、キリコの特異性が明らかになる。その一方でフィアナの命を助けるために命がけの旅に出るキリコの男気、そしてキリコを肉親の仇とつけ狙うゾフィとのやり取りに見られるキリコの苦痛など、これまたキリコという謎めいた主人公を理解するために必要となるエピソードとなっている。フィアナとの逃避行で見られるキリコによるAT戦やキリコ対イプシロンの対決は確かに見どころである。しかし「ゾフィ」というキャラクターはキリコをレッドショルダーというだけで全否定する。これまでキリコは物語の必然から肯定されるべきキャラであったから、ゾフィに言い訳をしないキリコや、レッドショルダーの非道を言い立てるゾフィの言葉は、フィアナやゴウトたちのようにやさしく響かない。キリコの深く刻まれた陰影の正体の一端をこの物語で垣間見ることで、キリコのキャラクターはまた進化したのである。そのためか、ここではゴウトやバニラには見せどころが少ないのがやや残念だ。

○クエント編
 さてイプシロンとの対決で、自分が異能者であることを知ったキリコは、ロッチナの言葉にさそわれるままにクエントに向かう。そこでかつてクメンで知り合った仲間・シャッコの導きで、クエントの原住民たちに出会うキリコは、自分の進む道の先にある、自分の出自の秘密と、アストラギウス銀河を覆う何者かの正体にたどり着こうとする。その過程でキリコを邪魔する様々な勢力との戦いを展開しながら、やがてキリコはこの世界の神と名乗る「ワイズマン」のもとにたどりつく。そこでキリコは・・・・という物語。この物語でキリコの長い旅路は一応の決着を見る。だが彼の旅はまだ終わらない、というのは後のOVAシリーズの通りである。

 「クエント」という惑星のビジュアルは決してインパクトのあるものではない。だがシャッコのふるさとである「クエント」はアストラギウス銀河の中央に位置し、かつては超古代文明の栄えた惑星であったが、すべての文明が崩壊してしまった惑星となっており、未開の惑星に逆戻りした設定になっている。しかも惑星の産業は電子部品に使用されるクエント素子の発掘と輸出、そして成人男性の傭兵であるという。シャッコの駆るAT「ベルゼルガ」はクエント製のクエント傭兵専用機であった事実、そしてシャッコ自身の傭兵としての出自、さらにクエント人の生活習慣などは、クエントの表と裏を語る上で重要な情報となっている。戦争を忌避するために文明を捨てたという設定ならば、「宇宙戦艦ヤマトIII」の終盤に登場したシャルバート星を思い出すが、クエントの人々は超文明ゆえに自己崩壊したイメージがあり、やや現代文明批判の側面も感じられる。

 最終編となるクエント編では、キリコは豹変する。かねてよりキリコは他人に対して無口なキャラ(とはいえ、内面では実によくしゃべる男なだけに、劇中は所々しゃべりっぱなしだったりするけど)であったが、彼の無口も極北に達する。しかもしゃべらないし、誰も聞かないもんだから、キリコの最終的な目的も見えないまま、視聴者すらおいてけぼりにしてキリコはワイズマンを目指すのである。その豹変ぶりはゴウトたちにも急なことであり、愛するフィアナですらついていけなくなるほどだ。しかし反面、キリコの孤高の側面が強調され、キリコはひたすらダーティヒーローと化していく。それでもはっきりしているのは、AT戦ではキリコは無敵であることだ。特に謎の組織が準備したPS用専用AT「ラビドリー・ドッグ」を駆って、キリコはクエントの深部へとたどり着き、ワイズマンの意志に近づこうとするのである。しかも追撃の末に彼の専用ATすら破壊された極限状態の中で、彼はそれでも単身でワイズマンを目指す。一言もしゃべらずにひたすらに進むキリコのストイックさは見ものである。

 なによりクエント編の見どころは、キリコ自身の出自の謎の一端が明かされることであり、なぜキリコが戦闘に特化したPSにも匹敵するほどの戦闘力を持っているかの解答の一部を示したことにある。さらなる解答はその後のOVAを待つしかないし、そのOVAにしても、キリコの秘密の一部分を示すのみである。そうキリコの出生の秘密については、まだ完全に明らかになってはいない。総監督である高橋良輔氏が墓場まで持っていくなどと言わない限り、これから増えるであろうボトムズファンにとっても、キリコはまだまだ魅力あるキャラクターでい続けるだろう。

<キャラクターの視点で見る>
 さてここまではドラマや見どころ主導で「ボトムズ」という物語を俯瞰してみた。一見無関係のようでいて断続的に紡がれている「ボトムズ」の物語は、主人公であるキリコの視点で物語が進行するのであるが、ここで見方を変えて、別のキャラクター視線で本作を見てみることを提案してみたい。

 わかりやすく物語を横断しているキャラクターといえば、ロッチナであろうか。最初はギルガメス軍の情報将校としてキリコを追い詰め、逃げるキリコをどこまでも追い続ける。そしてキリコの状況がギルガメスの手に余れば、悠々とバララント軍に鞍替えし、平然としている彼は、キリコの逃避行のすべてを熟知している存在といっていい。キリコにとっては敵でもなく味方でもなく、何者かの意志に従って動いているというオチがつく。しかしその行動原理の奥底にある、実に人間らしい欲望が表面化した時、彼はキリコの観察者の立場にとどまれなくなってしまう。その悲しさを含めて、ボトムズという物語の語り部として、最高のキャラクターであるといえる。

 一方、打算と金もうけを基本としてウドの街でキリコと出会ったゴウト、バニラ、ココナの3人の視点で見るという方法もある。とはいえこの3人はあきらかにキリコの協力者としてあまりにもキリコにベタボレなのである。キリコにとってはフィアナとはまた違った意味で気の置けない3人であるのだが、フィアナを道連れにしたとしても、キリコはこの3人を道連れにしようとは思わないだろう。フィアナとは別の意味でキリコの人間性を象徴する3人である。だからこそ、彼らの視線でキリコを眺めてみれば、キリコが戦場以外で本当に欲した何か、ワイズマンの意志や戦闘力などでは測れないキリコの魅力を、存分に引き出し、理解させてもくれるキャラクターだろう。
 
 これがOVAシリーズになると、「ヨラン・ペールゼン」という実に面白いキャラクターが登場し、物語を楽しむ上で興味深い視線になるのだろう。彼はキリコという人物が、いかに生存確率の低い作戦に参加しても、かならず生き残って生還することに興味を持ち、自らの「死なない軍隊」の研究のために、キリコをレッドショルダーに迎えた男なのである。TV版のキリコの前日談に相当するエピソードに欠かせない人物なのだが、今回はテレビ版にこだわってみたいので、あえて外しておこう。もしもあなたが本作に興味をもったのなら、ぜひともチャレンジしてほしい視線だ。

 そしてこれはなかなか興味深い視線ではないかと思うのだが、「ワイズマン」あるいは「高橋良輔」として物語を俯瞰する方法論である。ようは本作を創作物でありながらこの世界があるものとして、このアストラギウス銀河を創出した神の目線で見るということだ。そうした立場で本作を見た場合、物語の背景となる街や惑星、政治的な問題点、銀河をまたにかける戦争状況を、自分自身が作りだしたものとして熟知し、キリコという自らが生み出したキャラクターが、自分の手のひらで踊っている様を想像してみる。だがやがてキリコは創造主であるあなたの手から離れようとするに違いない。その瞬間こそあなたが本作のドラマに衝撃や感動を覚える瞬間となるはずだ。自分の意図で生みだした何者かが、自分の意図を外れていく。その突出した状況が次の状況を生み出し、キリコの出生の謎を解き明かす、別視線が生まれてくるかもしれない。

本作の魅力を作品全体で表現すると、どうしてもATによるギミック満載のロボット戦やキリコ自身の魅力に集約されやすいのであるが、本記事は、あえて見どころを各クールに絞って、個々の魅力について書いてみた。それはまた「装甲騎兵ボトムズ」という作品の各論になってしまったきらいがあるものの、大枠でキリコがどうの、フィアナがどうの言い立てても、作品ガイドとしてはなかなか見たいと思ってもらえないのではないかという危惧があったからだ。それはどうしても大枠の魅力に消えてしまう細かい部分にも注視してほしいと考えたからだ。4つの異なる舞台、4つのビジュアル、4つの物語。それはキリコを中心とした物語としては、キャラクターの人数も調整されており、よくよく本作を眺めてみれば、実は比較的シンプルに出来ていることがわかってもらえるだろう。

 実は「ボトムズ」という作品に関しては、ATのみに絞って解説した本を含めて、種々の本が発売されている。アストラギウス銀河史やAT開発史にこだわって書かれた書籍もあれば、スタッフインタビューなどにページを割いた本もある。それはどういう視点で切り取っても、「装甲騎兵ボトムズ」という作品の魅力は語りつくせない上、見ている人にとってそれぞれの魅力がある証拠ではないか。それだけ魅力ある作品ならば、食わず嫌いでほったらかすなんて、もったいないではないか。もちろんアニメとしての評価は別にある。本作を評価しない人がいても一向に構わない。それでも長きに渡りきちんと商売が成立し、あまつさえ作品が誕生して20年以上を経て、いまだに新作が作られる作品なのだ。現在「幻影編」のリリースが継続中である。これまで本作に触れたことがない人は、ぜひともこれを機会にTV版から触れてみてほしい。そのために本記事がささやかな一助となれば、幸いである。
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