「空の境界」第六章「忘却録音」・第七章「殺人考察(後)」~直死の魔眼って何さ?~

 前作「空の境界 第5章 矛盾螺旋」を取り上げたのが2009年12月。それからすでに2年足らずの時間が立っているのにはわけがある。一つは筆者のレンタルが当時の「新作」に追いついてしまったために、容易にレンタルできなくなっていたこと。そのためレンタルのタイミングを逃し続けているうちに、うっかり作品への興味が失せてしまったことである。もっとも最大の原因は作品自体にあり、本作における「人間の死」の取り扱いについては、本ブログにおいてもずっと疑問を投げかけてきた。これまではできるだけ遠まわしに本作での「死」の扱いについて控えめに非難してきたつもりであるが、このたび最後まで見ることができたのを機に、そろそろはっきりと見解を述べてもいいだろう。
 第7章を見終わった段階で、本作に関する「死」の扱いのひどさに関しては、まったく感じ方が変わらない上、作品の気持ち悪さや陰鬱さを醸し出すアクセントにしかなっていない。この点に関してはずっと腹立たしく感じていた。一方で、「殺人と殺戮」の違いの説明により、うっかりなるほどと納得しそうになったものだが、それとて単なる言い訳にしか聞こえないのだ。この気持ち悪さはなんだろうか? 今回は「空の境界」シリーズを総括して、筆者が感じた気持ちの悪さについて考えてみようと思う

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<概要と物語>
 とはいえ、6,7章に触れないまま話を進めるには忍びない。
 「第6章 忘却録音」は2008年12月に公開、「第7章 殺人考察(後)」は2009年8月に公開されている。これまでの作品は時系列が入れ替わっている作りであったが、この2本はシリーズの最後のほうの作品となっているから、時系列はあまり気にしないでいい。この時系列に関していえば、実はそれぞれの物語の事件の時系列は、見る側にとってはあまり関係なかったといっていい。少なくても時系列に合わせて作品を見ることに、あまり意義を感じられない作りなのではないかという感触があり、章立て通りに見ることが一番いいような気がする。
 作品の公開形態としては、おおむね1時間程度の上映時間の短い作品を、あまり間をおかずに公開し、作品のファンを喜ばせた。だが問題は上映劇場数の少なさであるが、その一方で作品を見られない飢餓感が、公開後のDVDや講談社から発売されている絵コンテなどの購買につながっていると考えると、なかなかに心憎い。

 さて、物語であるが、「第6章 忘却録音」はどちらかといえば番外編に相当し、主人公は式ではなく、黒桐の妹・鮮花(あざか)である。鮮花の通う学園で発生した事件の真相を暴く鮮花と式の物語である。鮮花は橙子の弟子であり、魔法使いである。それゆえに母校で起きた事件の解明を命じられて、式と一緒に活動を開始する。その事件とは、妖精によって学生の記憶が奪われているというものであった。だがその記憶とは、学生寮火災で焼死した一人の女生徒に関する記憶だけだったのである。そしてこの事件の背後で暗躍する生徒会長・黄路美沙夜と教師・玄霧の影がちらつき始める。やがて焼死した女生徒の悲しい真実、原因となった教師・葉山の非道を暴いた鮮花は、美沙夜の操る妖精と、魔法の力を使って対決するというもの。実は美沙夜も焼死した少女も葉山の被害者であり、その事実を隠ぺいするために、葉山の死体から生み出された妖精によって、葉山や焼死した少女の記憶を奪っていたというオチである。だが問題は本作に登場した玄霧というさらなる魔術師の登場により、本作の世界には様々に魔術師がおり、彼らは何らかの形で世界に関わろうとしていることである。橙子のようにそういった世界への働きかけに興味を示さない魔術師がいる一方で、荒耶宗蓮や玄霧のような人物もおり、それらがそもそも関係者だってことが、この際は物語的には面白さなのかもしれない。後述するがそれはまったくの感違いである。

 続く「第7章 殺人考察(後)」は、再び式を主人公とし、黒桐の先輩にあたる生徒会の白純里緒による猟奇犯罪を止めようとする黒桐と、里緒と対立する式の対決が軸となる。里緒はある目的のためにドラッグを売りさばき、その一方で人を殺してはその死体を食うことで殺人の隠ぺいをしようとしていたのである。しかもその姿は、着物を着た女性のようであるという。黒桐はかつて殺人衝動を抑えきれなかった式による殺人を想像し、この事件に介入する。だが同時にこの事件には式も捜査を進めていたのであった。そそて追い詰めていった式は里緒のもつ殺人衝動によって、自らの殺人衝動を突き動かされることになる。だが式は黒桐の存在ゆえに殺人衝動を必死に抑えつける。だが黒桐を殺されたと思った式は、とうとう里緒をその手にかける。ここで式は里緒を殺すことで、初めて人を殺すことに手を染めた。それは黒桐の願いである里緒を止めてほしいという願いをかなえ、かつて自分に想いを寄せていながら猟奇犯罪の奈落に落ちて行った里緒の命を背負うというラストで締めくくられる。

<物語上の弱点>
 筆者が本作をアニメ作品として鑑賞する場合、アニメとしての面白さはそれほど感じない。「アニメージュオリジナル」などでは、「美少女アニメの最前線」というくくりで、原画を取り上げており、その書き込みなどには確かに感心させられる点がなくはない。とはいえアニメ的な表現の面白さを狙っている作品ではなく、むしろ式の持つ能力としての「直死の魔眼」を視覚的に見せる手法には、原作の人間でも舌を巻くほどの驚きがあったのかもしれない。なにより式や作品ごとに登場するキャラクターとのバトルアクションに関しては、実に力の乗っている表現がある上、アクションの展開がよくわかる作りになっていることについては、十分に面白いと感じられる作りになっている。6章での鮮花のアクションと魔法の組み合わせによるバトルシーン、そして幻惑的なまでの妖精の姿とまがまがしく巨大化した妖精の気持ちの悪くなるような動き、そして第7章での式と里緒のバトルシーンでのナイフをモチーフにしたバトルシーンには、切りつけたり刺したりというナイフアクションのハラハラさを堪能させてくれる。切っ先が喉笛を狙い、それを刃が受け止める。たった2本のナイフのしのぎあいが、場面を急激に緊迫させる。そのシーンの緊迫度合いもまた、必見に値する出来上がりである。

 そうしたシーンごとの良さが際立つ一方で、物語に関しては、ずいぶんと処理のお粗末さが目立つ。この伝奇小説を説明もなしに迫力ある映像だけで説明しきろうという下世話な魂胆が、はっきりと見て取れる作りであると断定していい。その理由は、ひとえに背景にある膨大な設定を、物語の中で処理しきれていないことに起因する。例えば荒耶宗蓮一人の設定を持ってしても、膨大な背景の情報に関してはほとんど触れられていない。その実、彼が式に固執する理由もきちんと描かれていない上、荒耶とそれぞれの物語のキャラクターとの関連性についても、あっさりと処理しすぎており、説明する気はまったく感じられない。なおかつ荒耶はそれぞれのキャラの個性を引き出しただけだと言われるかもしれないし、7章にいたっては里緒が荒耶に見出されたシーンはあっても、見捨てられている描写すらない。里緒の単独犯のようでいて、そのきっかけが荒耶にあるという説明がまったくなされていないあたり、本作の真の主役である荒耶宗蓮という存在が、最後の最後に来てスポイルされている。
これを、むしろ式と黒桐との関係性に注目したいという演出プランだとしたら、式と黒桐との関係性を、前半の章でもっと濃密に描くべきだったのではないだろうか。「第2章 殺人考察(前)」で十分描かれているというのであれば、黒桐がなぜ式を愛したのかの理由を考えてみてほしい。その理由や関係性はまったく示されないまま、視聴者に預けられている。だがそれをもって式と黒桐の関係性を「殺人」という一軸だけで語るには、黒桐の行動や愛が深すぎる。全体にエピソードを追うことに必死で、そういった荒耶の真意や世界を遠巻きに見ている橙子の想い、黒桐の深い愛の事情などについては、まったく想像できる余地のない作品となっており、こちらが考えるだけののりしろはおろか基本情報すら開示されていない状態なのである。こういった作品を見て、何を考えればよかったのか? これまで第5章まででそれぞれ想像できることを申し述べてきた自分が恥ずかしいと思えるほど、本作は表層的な楽しみ方をするために最低限必要な情報しか含まれていない。それぞれのキャラクターの事情に、原作からの改変がくわえられている事情は、一見して読みにくい原作のガイドとしての役割は十二分に果たしていると言えるが、そこからキャラクターの深い心情を組みとれるだけの情報までは込められていない。その理由の大半は個々の詳細設定が、「TYPE MOON」作品である他の作品との関連として語られるところにある。この本質を知りたかったら、他の作品もよろしくね!的な措置により、必要十分な説明が他作品に依存しているという甘えの状態が生み出しているのである。すると、本作は単独では自立しえない、片手落ちな作品であると言える。

<「直死の魔眼」の意味>
 さて、本作のもっとも話題とすべき点は、本作での「死」の取り扱いについてである。筆者は本作で描かれる「死」は情報が少なく、その意味を問うものではないため、取り扱いが非常に簡易で、作品の陰鬱で凄惨な雰囲気を醸し出す、いわばアクセサリーでしかないと考えている。人の死をこうして簡便に取り扱うことに、筆者は非常に憤慨しているわけだ。ただそれは、およそ世の中に存在する2時間ドラマの事件の発端になったりする人の死や他の被害者の死、あるいは凡百の刑事ドラマにおいて刑事たちに発砲されて倒れるヤクザなどとなんら変わらないという話は、しごく真っ当だと思える。だがこれらと決定的に違う点を上げるとすれば、本作での「人の死」には、主人公・両儀式という女性にとって非常に重要なファクターを占めていることがはっきりと示されていることだ。ましてや式の目に宿っている超常の力「直死の魔眼」こそは、式がなぜ人の死に興味を持つのか、式がその力を発動する時の意味など、「式と死」という本作の大命題に直結しているテーマであるはずなのだ。にもかかわらず、本作での人の死は扱いが軽すぎるのである。

 その理由ははっきりしている。本作で描かれている人の死は、多くの場合、各物語のメインキャラクターが悲惨な目にあっており、その後の凄惨な事件の契機となる殺人が多い。そして彼らの死は、各々のキャラをひどい目に合わせたゆえの当然の報いとして表現されている。そして彼らの死は次の殺人への布石でしかない。その死は主人公の式にとってはまるで意味がないのである。
そしてまた式は敵となった事件の首謀者に対しては、「直死の魔眼」で相手の「死」を見ることができる。ところが式にとっては魔眼の力を使って敵を仕留めているわけでもなく、戦闘の結果としての相手の敗北は、イコール彼らの「死」でもない。唯一の例外が第7章の里緒の殺害だけなのである。「死」を扱いながら、その他大勢の死に式は無関心で、なおかつ敵対する人物の「死」は描かれず、直死の魔眼は事件解決にほとんど役に立たない。これほどまでに一つ一つがチグハグな印象な作品も珍しい。つまり「死」をテーマとして扱いながら、この作品では「死」に意味などどこにもない。内容とテーマが完全に相反するのである。第7章では「殺人と殺戮」の違いなど、はっきりと「人の死」を扱っていることは明白であり、その台詞内容自体は感心しないでもない。だがその内容に直結しているはずの「死」というテーマの扱いが、あくまで式という人物の「殺人衝動」とそれを止める黒桐の対立軸でしかない。それこそ「殺戮」であるなら、人の死を個人が背負うことなどできようはずもない。だが「殺戮」を行った責任を自己に課すことで人の死の重さを感じることはできるではないか。つまり「殺人と殺戮」の論理にしたって、実際のところ人を殺す側の論理でしかない上、事実上は変わらない。でなければ、ベトナム戦争に参加したアメリカ兵がひどく疲弊しているわけがない。

結局「空の境界」という作品群は、筆者にとってはいびつな形で人の「死」を取り扱った、実に気持ちの悪い作品であるという認識から脱却することができなかった。そして最後まで見たにも関わらず、自分の中の「式」という女性を好きになることも、「黒桐」という男性を好きになることもできなかった。むしろ背景でうごめいている荒耶宗蓮や橙子などの魔術師の系譜に連なる人々が気になって仕方がないにも関わらず、その詳細を本作では知ることができないという、不満だらけの作品となってしまった。前半を見ている限り、「式」は「死」の中に「生」を見出し、「血」に反応する殺人衝動を持つキャラクターであり、殺人衝動と「直死の魔眼」という能力のはざまで、「式」は他人の死をどうのように見つめるかという命題を設定しながら後半を見ていったつもりだ。「血」は「両儀式」という女性にとっては、断ち切りたくとも断ち切りがたい「両儀」という家の血統を現し、それゆえに「血」にリアルに反応する「式」の想いが透けて見えるものだと思っていた。だがその部分に関しては、まったく答えを与えるような内容でなく、まるで「死」をもてあそんで喜んでいる下劣な作品に思えてしまったことを告白しておく。したがって本作に関して筆者が抱いた感情は決していいものではない。

 今後筆者が本作を見直す機会はたぶんないと思う。そしてまた原作本にしても読むことはないだろう。だいたいにして「TYPE MOON」作品で関連作品を見ないと、「空の境界」という作品の本質には迫れないのかもしれない。だがこうした関連作品を見てみようという気にもなれないでいる。原作つきのアニメの場合、気に入れば原作にまで手に出してしまいがちな筆者であるが、ことほどさように本作は私には不向きであるように思われる。というわけで、今後ブログで「空の境界」を扱うことはありません。ええと、本作を上手に紹介できなくて、本当にすいません。

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