「宇宙をかける少女」考察

 「宇宙をかける少女」は、サンライズの8スタが製作した作品である。8スタといえば「舞-Hime」や「舞乙-Hime」を制作したスタジオであり、最近では数少ないスタジオオリジナルの作品であった。それゆえだれもが期待しただろうし、いつかきっと面白くなるに違いないと思っていたのだが、結果はそうして信じてきた者を裏切るような作品であった。未回収のまま放置された伏線、な~んにも考えてないキャラクターたち、あってないような存在が感じられない構成など。スタッフの交代などの話も漏れ伝え聞くのだが、それとていいわけにしか聞こえないのである。本当に残念な代物であった。ただその途中途中で、見るべき事がいくつか散見される。ここでそれぞれを検証してみたい。

1.ブレインコロニーの存在
 そもそも自立型の意志を持つコンピュータを組み込んだコロニーなんぞを、なぜ人は作ったのか。ブレインコロニーは人間が作り出した機械で、本来は人間に従属するはずのもの。それが意志を持つことは、人間がコロニーの管理を、機械に頼ろうとしたからではないのか? 人間の都合の良い機械への依存心が、結果として人間との対立を生み、戦争となった歴史が本作で知らしめられる。一度は人間側が勝利したのだが、それはレオパルドという裏切りの因子が組み込まれていたためであり、ここに人間の意志が介在するなら、この戦争とて、人間同士の代理戦争に他ならない。ブレインコロニーそのものは、まったくの詭弁であり、語られた戦争も、本作で描かれた戦争も、人間同士の代理戦争である。一方は人間主導で、機械と共存する理念であり、一方は機械に依存し従属する世界だ。

 ブレインコロニーは自己実現を夢見て活動する。それがすべての戦争の根源として利用された。ネルヴァルは自己実現の過程で人間のありようを探ろうとし、自己の進化をもくろもうとした。ところがそのために支配欲にかられた人間によって利用された結果に過ぎない。ここのあたりのネルヴァルの心変わりが、どこにあったのかは、劇中全く描かれていないが、ナミの扱いに躊躇した時点で、その兆候がかいま見られる(その本心を明かしているのは、喫茶えにぐまの中のみだ)。
 他のコロニーも似たり寄ったりで、「自分を取り戻す」というレオパルド、歌を手に入れようとしたクサンチッペ、レオパルドを超えたかったベンケイなど、いずれも自己実現という名のもとに、人間的な何かを得ようとしていた。最終的にブレインコロニーがめざすものとは、人間が暮らすコロニーという自分を獲得することだったと思われる。現にネルヴァルは自分の従属する人間を箱の中に閉じこめることを画策しており、その手段を人間に利用されたに過ぎない。

 いずれにしても、以上のブレインコロニーの存在そのものは、「フランケンシュタイン・コンプレックス」について、なんらかの答えを導こうとしていたのでは無かろうか? 科学への飽くなき欲求がフランケンシュタインを作ったが、それに造反される危険性。そこには造物主の意図しない感情や自己実現の意志が、造物主を憎むから。ではどうやって自分に欠けているものを知り得るのか、それは他人との対比でしかない。ネルヴァルが得ようと試みた人との対話、それはまさにオタクと非オタクとの対話の希薄さだし、大きな事を言えば、人間同士の対話のなさ、相互理解の無さなのではないだろうか。

2.獅子堂家の女たち
 風音は自分たちの血筋を、「有事に必要とされる能力をもっている血筋」であるといっていた。それにしては説明が足りなさすぎる。ましてやああも簡単にネルヴァルにとらえられていたナミや高嶺の存在意義がわからない。しかも風音は敵に回っている二人を、放っておいている。全体的に風音はクールだ。
 獅子堂家は両親が不在であり、風音は母親的な存在として獅子堂家に君臨していたと言える。それも長女特権で、あらゆることを知り得ていたにもかかわらず、それを放置していた。仕事として獅子堂家を統括していたことについては、設定年齢22歳の若さで瞠目に値するが、彼女には母親的立場でありながら、母親という存在を全く理解していない。高嶺の処遇を別にすれば、ナミへの接し方にも、秋葉への対応も、「親」の対応とはほど遠い。それは獅子堂家が欠落した家族であることを、明確に物語っている。それゆえ自己解決の道が閉ざされたナミは、好き放題に遊ばせておくし、ついには敵に寝返っても、それを取り戻そうともしない。一方の秋葉についてもほったらかしたまま、結局秋葉は自分の思考も主義主張も持たず、場当たり的な対応でその場その場を、せき髄反射的な対応で切り抜けるだけだ。一見しっかり者の姉・風音の正体は、家族作りを放棄した、ダメな大人の典型となる。まさに現代の家族のありよう、そのままである。

3.「QT」
 「QT」って、「キューティー」と読む。これは英語で言う「Cutie」だろう。言い換えれば「QT」の力は「少女達の魅力」に他ならない。だから現場に出る警察官や軍人は皆女性であり、「QT」により操縦できる「QTアームズ」は、女性が操縦することになる。そして「QT」がもっとも高いのは、秋葉ということになる。女性キャラを増やしたい事情みたいなもんか。ってことはあの話の中では、すべての女性キャラが「宇宙をかける少女」になり得たといっても言い。その魅力は多岐にわたり、一元的に表現できるものではない。まあ主人公が誰かを考えれば明らかなのだが、宇宙をかける少女は、本来的な意味では、だれでも良かったとすら思えるのだ。ましてやその「QT」を無効化するアイテムが、小気味悪い花であるのが、また趣味が悪い。

4.箱の中の住人たち
 中盤から登場する縦にした棺桶状の物体。これに取り込まれると無意識にネルヴァルに従属する事になる装置であり、これによりネルヴァルは、人類の支配を試みようとした。
 箱の中にいれば、安全であり、すべてが供給される空間を提供。外界との対話は、プロンプトでの日本語打ち込みによる形式で、箱表面に表示。内側からは外が見え、なおかつ自立移動も可能である。
 打ち込み形式による会話の形態は、まるでパソコンを前にしている人間が、パソコンに閉じこめられている感じ。ネットの中にいるような状態か。自立移動がネットサーフィンの様でもある。本人達は移動しない。その場ですべてを管理されている、まさに管理社会の具現化にも見える。
 これはわかりやすい比喩だ。これはパソコンを前にして、すべての生活を手に入れているようなふりをしている人々のことだ。明らかに非難している様にも見えるのだが、秋葉がこれに閉じこめられている時に、もう一つ感じなかったか? そこにいて何が悪いのかって。 映画「マトリックス」の時にも話題になった話だが、現実ではないマトリックスの世界が良いと思える人に、現実がどれだけ意味を持ているのか、という命題だ。結局は「現実」に戻る選択をした秋葉である。それは妹子の存在故だ。自身の思考ではない。

5.「秋葉」という少女
 前述のとおり、この少女には何もない。意志も、思考も、趣味も何も持たない。彼女にあるのは他人への依存だけだ。常に考えなしに行動して周りを巻き込み、最後は友達といっているいつきとほのかを頼り、妹子に頼る。この話が彼女の成長譚ではない証拠が、妹子の帰還である。彼女の周辺は何も変わらず、そして彼女自身の成長もない。しかも本人はからっぽだ。何度も例に出して申し訳ないが、これは「戦闘美少女」の文法だろう。本作をSFメカアクションだとするなら、その主人公が戦うのは必然であるが、その敵は日常の破壊者であるネルヴァルだった、という話は確かに一見すると、本作を筋の通った話であると勘違い出来なくもない。しかしこの物語の結末は、ブレインコロニーの存在が周知のものとなり、あらためて人類がコロニーとの戦争(ガンダムの比喩)を終えて、新しいステージに乗り出した時代に、秋葉はなにも自己に獲得しないまま、ぽつねんと置き去りにされている。なにもかも変わってしまった世界で、本人だけが取り残されているのだ。意図した演出ならまだしも、意図せずこうなったのなら、これはひどい話だろう。

6.まとめ
 どうも本作のスタッフは、SF的ガジェットを使って、なにかしたかったらしいことはよくわかった。だがしかしその結末として、多くの伏線が未回収で、キャラクターも満足に生かせない展開では、まことにもっていただけない。フォンが開発した花が、「人よ自然へ帰れ」という話でもないないし、ましてや「人間は機械を支配してこそ・・・」とかいう話でもない。ただ、そこから見える話が現代の我々の状況が透けて見えるだけに、得られる爽快感のベクトルは、すべて逆方向に働いているような、そんな不満だけが残る物語であった。
 現在DVDのリリースが続けられている本作だが、今後オリジナルビデオアニメとなる可能性があるんだろうか? これらの答えがそこに求められたとしても、すでに時は遅い。本作を見れば今後が期待できない可能性を、誰もが見て取るだろうから。
 だれがいけない、なにがいけないという話は、もういいだろう。どうもスタッフの変更などが大きく後を引いているような気がしないでもないのだが、それ以上にビジネスとしての、後進に対する申し送り事項が徹底されていなかったのかとすら思える。真に対話が必要なのは、製作スタジオのスタッフ自身だったのかも知れない。人間同士が共同で作業を行い、積み重ねるアニメーションの現場で、ディスコミュニケーションもないだろう。サンライズ8スタのみなさんの、今後の健闘を期待するや切である。
スポンサーサイト

テーマ : アニメーションの評論・感想
ジャンル : アニメ・コミック

コメント

非公開コメント

プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->