劇場版「マクロスF 恋離飛翼 サヨナラノツバサ」~つながること~

 2009年11月に公開された前作「虚空歌姫 イツワリノウタヒメ」の後を受けて、2011年2月末に公開された後編「恋離飛翼 サヨナラノツバサ」は、前作がTV版からの流用と新規作画による構成で、ほぼTV版を踏襲したものであったのに対し、完全新作としてTV版とは異なるストーリーでラストまで見せ切る作品となった。筆者はDVDで本作を始めてみたが、劇場でこれを見られなかった事を本当に後悔している。この興奮、爽快感、疾走感は、自宅のモニターで見ることが本当に残念になるほどであり、劇場用として作られた本作は見どころも迫力も、作り手の気合いまでもが画面からほとばしっているように感じられる力作であったと心から思う。
 さてTV版でのラストは、アルト、ランカ、シェリルの三角関係にはなんら結論が出ていないのだが、フロンティア船団のラストバトルとバジュラの母星に到達して移民し始めるわかりのいいハッピーエンドは、深夜の生放送を見ていて心から安堵したものだ。本作ではそのラストはおろか様々な点で異なる物語が紡がれることにより、びっくりする仕掛けの数々に一喜一憂させられることになる。こうして観客の気持ちがまるでスクリーンにコントロールさせられている感覚すら味わえるのが、本作の最大の特長と言える。まあラストに関しては好き嫌いが分かれるところだろうけど。

劇場版マクロスF~サヨナラノツバサ~ 初回限定封入特典「劇場上映生フィルムコマ」付き [DVD]劇場版マクロスF~サヨナラノツバサ~ 初回限定封入特典「劇場上映生フィルムコマ」付き [DVD]
(2011/10/20)
中村悠一、遠藤綾 他

商品詳細を見る

マクロスF 超時空スーパーライブ cosmic nyaan(コズミック娘) [DVD]マクロスF 超時空スーパーライブ cosmic nyaan(コズミック娘) [DVD]
(2011/11/23)
ランカ・リー=中島愛

商品詳細を見る

<物語概要>
 物語は前作のラストバトルから3ヶ月後からスタートする。前作のラストバトルで発覚したシェリルとランカの歌声に、バジュラに干渉するフォールド波が含まれていることが発覚する。ランカはシェリルの後を追うように徐々にスターダムにのし上がっていき、初のコンサートも開催される運びとなる。だがそんなにぎやかさの裏では、一つの計画が進行していた。それは壊滅したギャラクシー船団の生き残りによる、フロンティア船団の乗っ取り計画であった。フロンティアの為政者たちは、ギャラクシーからの使者であったシェリルたちツアーの一行がギャラクシーからのスパイであったことを掴み、ギャラクシー一党による一斉蜂起を抑止することに成功する。だがこのフロンティア為政者たちの行動は、ギャラクシー側によるバジュラの生態と歌姫のフォールド波を利用したバジュラネットワークによって銀河を支配する計画そのものを乗っ取る計画でもあったのだ。刑務所に収監され死刑を宣告されるシェリル、そして惨殺されるグレイス。シェリルはその歌声に秘められたフォールド細菌の感染によって、余命いくばくもない。フロンティア船団はバジュラの母星を目指し、バジュラクイーンを掌握してバジュラネットワークを完成させるために船団を母星に進める。だがフロンティア為政者たちの計画を察知したSMSのメンバーは、すでに大人気となっているランカの提案により、刑務所慰問コンサートに乗じてシェリル奪回計画を実行する。
 そして母星へと進行したフロンティア船団は、その土壇場でギャラクシー残党の襲撃によって船団を乗っ取られてしまう。SMSは人類の暴挙をいさめるため、船団を離れ単独行動を開始、フロンティア船団に立ち向かうことになる。少ない戦力で無謀とも思える戦闘に挑むアルトとSMSのメンバーたち。だがシェリルとランカの歌声によって、フロンティアにコントロールされたバジュラを解放する作戦に打って出る。戦闘直前、歌姫たちに自分の想いを伝えるアルト。そしてアルトは与えられた新型機を駆って戦場に勇躍する。その姿は、銀河歌舞伎の役者としてのアルトの神髄を見せる舞にも似た飛行であった。そしてフロンティアのネットワークによって操られていたバジュラとマクロスフロンティアと合体したクイーンを解放したアルトは、虚空へと消えていく。そして熾烈な戦闘は終局した。アルトの行方はわからない。そして命を賭けて歌い続けたシェリルは、静かにカプセルで眠り続ける。愛すべき二人の復帰を待ちわびながら、ランカは宇宙で歌い続ける・・・。

<三角関係の結末やいかに?>
 前作「イツワリノウタヒメ」に関して記事を書いた際、「シェリルのターン!」と書いているが、本作は若干バランスを欠いた印象があり、一概に「ランカのターン!」とは言い難い。確かにランカのコンサートや慰問シーンなどを見れば、それはかつて「銀河の歌姫」と呼ばれたシェリルの存在感がやや後退し、新たな歌姫の登場に表向きはにぎわっているように見える。実のところ「イツワリノウタヒメ」というタイトルの意味が明確にわかるのは、「シェリル逮捕」というショッキングなシーンに遭遇する瞬間なのだ。しかもグレイスの惨殺シーンのおまけつき。監督インタビューやDVDの特典映像にもある監督&キャストインタビューでも河森監督が語っているように、戦時中に前線へ慰問に訪れた芸能人が、華やかなその裏でスパイ活動を行っていたというのが、このエピソードの下敷きにあるという。「歌で銀河が救えるわけないでしょ」という前作のショッキングなコピーは、自分の意に反してスパイに仕立て上げられたシェリルの裏腹な想いを代弁しているようで、収監されてなお歌詞をしたため続けるシェリルを見れば、そのコピーに込められたシェリルの想いに目頭が熱くなるのを感じる。こうして見ていると、本作の物語はシェリル寄りに作られているようにも見え、ランカにとってはやや分が悪い。

 本作ではアルト、シェリル、ランカの三角関係に一応の決着がつく。が、果たしてこれはファンが望んだ結末なのだろうか? 実は事前に自分が出した予測では、アルトの死亡によってうやむやとなる結末を想像していたのである。理由は簡単。「愛おぼえていますか」ではTV版に即した結末であり、今回の劇場版でファンの期待を裏切る方向性の改変なら、そうなるんじゃないかと勝手に思っていたのだ。だが現実の作品では、意外なほどしっとりと、幼き日のシェリルとアルトの出会いに端を発していたピュアな恋愛であったことが明かされ、いささか拍子抜けした。
 しかもシェリルを刑務所から脱走させるために、自らの慰問コンサートを提案し、健気にアルトたちSMSに協力したランカを見るにつけ、アルトのいっそ気持ちがいい程のシェリルへの想いが溢れるシーンは、ちょっとだけランカがかわいそうで、なんだかやっぱりランカには分が悪いのである。そう考えを巡らせると、果たしてランカはこの先幸せなのだろうか? 目指すべき先人はカプセルで治療の時をまっているし、愛した人は虚空の彼方へと飛び去った。そして歌姫としてのランカは、やはりかつてのミンメイのように疲れ果ててしまうのではないか? TV版が如何にも含めた形で終わりをつげ、俺たちはまだこれからだ!的なうやむやの終わらせ方のほうが、まだしも未来があるのではないか。この映画すら「マクロスF」の登場人物による「映画」という立ち位置であるのなら、それはやはりTVとは異なる結末ゆえに劇場版の価値があると思える。

<人のつながりとネットワーク>
 さて本作ではグレイスとマクロスギャラクシーの残党によるバジュラネットワークによる銀河の支配という計画を、マクロスフロンティアおよびマクロスクォーターが阻止するという物語になっている。さてこの「バジュラネットワーク」というのは、バジュラが持つ特性である、個体が全体としての群れを統括する唯一の存在により意思統一された群体として機能することを利用するシステムである。「スタートレック・ネクストジェネレーション」において中盤から人類の脅威として登場する「ボーグ」という種族の指揮系統がこれに近しい。「ボーグ」による侵略行為は惑星単位や艦隊単位で、ボーグの進行先にある科学技術や人類を取り込んでしまう。それは自分たちを反映させるための行為であり、明確には侵略ですらない。あくまでも目的は自己の反映だけだ。一方のバジュラにとっては、人類や宇宙に版図を広げるマクロスを攻撃することは、あくまでも自己防衛にすぎない。バジュラ自身に攻撃の意志はないのだが、「マクロスF」という物語においては、その特殊な命令系統が人間に利用されてしまった物語だといえる。

 さてここでバジュラネットワーク自体にどれだけの価値があったのだろうか? あらためて検証してみたい。バジュラを手中に収めたマクロスギャラクシーの残党たちが、全銀河に存在するバジュラに一気に攻撃命令を下したとする。それにより銀河に広がった人類がバジュラの総攻撃にあうことになり、一見するとたしかにバジュラの力を使って銀河を支配できたとしよう。さてバジュラの頂点たる人類は、同類である人類のいなくなった銀河で、何がしたいのだろうか? まあ攻撃命令を下さないで、可能性を示唆することで恫喝することもできるだろう。その恫喝によってどんなことも、どんなものでも手に入れることができるだろう。んで、バジュラをコントロールする彼らはバジュラに囲まれて何がしたいのだろうか? なんとなく映像からわかるのは、銀河に点在するバジュラの巣を掌握することで、銀河全体を手中に収めている“気がする”ということである。情報伝達や命令系統の正確さと速さは、何ものにも代えがたいということはわかるのだが、そこからどうしたいのかがわからない。実際バジュラで攻めてきたらヤバいのはどうしようもなくわかるんだけど、攻めてきて銀河の人類が滅んじゃったら、なんの意味もないという、立派な堂々巡りとなってしまう。

 その一方で人類の抵抗手段は、人間としての「情」という名のネットワークなのだ。人間が銀河にはびこることによるネットワーク。この結果として惑星エデンにいたはずのイサム・ダイソンが声で登場している。そうした人間どうしが「生きている」という現実をもとに、コミュニティというネットワークでつながっている。SMSの活躍も、シェリル救出劇も、シェリルとアルトの過去も、アルトの美しすぎる飛行の軌跡も、すべては人と人のつながりを基礎にして成立している。つまり最後のバトルとは、バジュラネットワークと人間のつながりによるネットワークとの戦いであったということにならないだろうか?

 折よく最初のTV版「超時空要塞マクロス」の最終回付近のエピソードをCS放送にて見ることができた。ここで語られるマクロス2番艦の建設と美沙の艦長就任というエピソードは、グローバル総司令によって語られる「宇宙での戦闘種族同士の戦い」や「それを阻止するために文化を広げる必要性」、また「残すべき文化をはぐくむ人類」という課題ゆえに、移民政策がとられていたことがわかる。これだから原典を忘れてはいけないなあと思うのだが、最近のマクロスシリーズを見るにつけ、どうして人類が宇宙に向けて旅立ったのか、忘れてしまいそうになっていた。網の目のように巡らされた人間の移住先のネットワーク。これこそが、バジュラネットワークを撃退する鍵であり、それこそがバジュラを操る悪意の源でもあったのだ。

 よくよく考えてみると、「マクロス」というシリーズは、どこか進化したデジタルと人間臭いアナログの狭間にある物語だという気がする。メカメカしいマクロスやバルキリーシリーズの一方で、当たり前のように展開される人間関係との対比。進化しすぎた人類が生み出した戦闘種族の巨人と地球人類の対比、デジタルの極致ともいえるシャロンに秘められた人間の嫉妬。そしてシステムを乗っ取ったシャロンと対峙するイサム。技術の粋を凝らしたYF同士の技術開発競争など、対比されるものがすべてアナログとデジタルや最先端とその一歩手前など、人間が繰り広げてきた技術開発とそれに追いつかないジレンマという側面が強調されて対比・対立させて物語化させているのがマクロスシリーズといえるのかもしれない。

 さてロボットアニメの傑作、SFアニメの傑作である「マクロスF」という作品は、これをもって長らくの展開を収束させる。2009年に会社を辞めた年に集中して見ていた作品だっただけに思い入れもある作品だから、なんだかさびしくもある。TV版をちゃんと取り上げていないので、これに関してはできれば「全話解説」的にやってみたいとは思っているのだが、情報量が多すぎるので無理(笑)。
この春からは「アクエリオン」の新シリーズも始まるとのこと。実はアクエリオンの新シリーズが始まる前に、ちゃんと見ておこうと思っている。見終わったらあらためてブログでも取り上げようと考えているので、これまで敬遠されていた方に見ていただけるよう、記事にしてみたいと思っています(あ、前フリで終わっちゃった)。

OFFICIAL COMPLETE BOOK 劇場版マクロスF ~サヨナラノツバサ~OFFICIAL COMPLETE BOOK 劇場版マクロスF ~サヨナラノツバサ~
(2011/04/16)
不明

商品詳細を見る

スポンサーサイト

テーマ : アニメ
ジャンル : アニメ・コミック

コメント

非公開コメント

『マクロスF』では全体を通して、「誰のために戦うか(或いは、唄うか、生きるか)」というテーマで貫き通した作品(勿論、「歌・メカ・三角関係」を軸に、最新・最高のアニメ映像で魅せるという『マクロスシリーズ』のお約束も守りながらですが。) だと思います。
その帰結としての、「お前達が俺の翼だ!」だと思うのですが、なかなかどうしてこのオチはあまり受け入れられなかったようで……。個人的にはかなりしっくりきたんですけどねぇ。

劇場版シリーズでは三角関係にキッチリ決着がついて、それはそれで良いのですが、私はランカちゃん派であるので(以下略)。
しかしながら、映像に関してはホントに文句のつけようがありませんでした!

No title

飛翔掘削様
 コメントありがとうございます。
 「お前たちが俺の翼だ!」は、私にとってかなりすがすがしい帰結だと思うんですよ。逆に劇場版のオチのほうが納得いかなかったぐらいで。

 この「だれのために戦うか」は「誰のために歌うか」であり、それが三角関係含めた「人のつながり」というあたりまえのネットワークやコミュニティを示すことは、自分たちの日常を守りたいという意思の表れであり、それは「セーラームーン」や「プリキュア」となんら変わらない。しかもマクロスの物語が「閉鎖された町」という特殊空間であるゆえに、守る範囲がそもそも狭いのが特徴なんですが、そこを突破するための「バジュラネットワーク」という気がしています。

 そうですか、ランカ派でしたか。私は今でも美沙派です・・・www
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
04 | 2017/05 | 06
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺☆アルゲリッチ

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->