西炯子著「男の一生」「姉の結婚」~愛されたい女、愛したい男~

 少女マンガ(あるいは女性マンガ)を読んでいて、最近自分の中でやっとカテゴリーができてきたなあと思う。

1)小中学生の少女が主人公のマンガ
2)高校生~大学生の女性が主人公のマンガ
3)社会人の女性が主人公のマンガ

 え? あたりまえじゃないのって? いや、これって筆者の中ではかなり重要で、この主人公がどの年齢範囲かで、雑誌そのものが分けられていることにやっと気づくことができた。1と2、2と3が雑誌の中で混在することがある一方で1と3が混在することはない。これは雑誌のターゲットがはっきりしている一方で、雑誌を読む側の年齢も年相応になればその年齢に応じて雑誌のターゲットを変えていくことになる。

 さてこうなるとどういうことがおこるのか?
 端的に言えば、1に属するマンガはめったなことで「このマンガがすごい!」で取り上げられることはない。だって選者はおおよそ高めの年齢層に限られるからだ。こうしたランキングはあくまで選者の年齢で偏ってしまうから、本来なら選者の年齢にも気を使ってサンプリングを慎重に行う必要性が生じるし、マンガを読む小学生を相当数入れるとなれば、マンガの裾野は広がるだろうが、ある年齢から「週刊ジャンプ」が優勢になったりする可能性もある。こうしたランキングには「どうして私の好きなあの作品がはいっていないのか?」と憤る方もいらっしゃるだろうが、「マンガ」というもの自体がそもそも偏っているものなので、いたしかたないといったところか。

 今回取り上げるのは3に分類されるマンガで、西炯子著「男の一生」と「姉の結婚」の2作品(なお“おとこ”はおんなへんに男とかいて“おとこ”と読むが、変換してくれないので“男”で表記します)。このうち「姉の結婚」は「このマンガがすごい!2012」のオンナマンガで4位、「男の一生」は同2010にて6位と近年ではとても評価が高い。さて漫画家・西炯子が読者に愛される理由はなんなのだろうか?

<作品概要と対外評価>
 「男の一生」は小学館から発行されている月刊flowers誌上で、2008年9月から2010年2月まで連載された作品。単行本は全3巻。「姉の結婚」は同じ月刊flowers誌上で2010年11月より連載開始で現在も連載中の作品。既刊2巻

 「男の一生」は大手電機メーカーで原子力発電所の開発に関わっていた才女・堂薗つぐみが祖母の住む田舎で長期休暇をとっていたところ、祖母の死に立ちあってしまう。祖母はつぐみに家の鍵を渡しており、残された家や土地を好きにしろといい残していた。その葬儀にまぎれて、一人の初老の男が家の離れに住み着いた。男の名は海江田醇。大学で哲学の教鞭をとっていた男である。つぐみの祖母は生前、海江田にも家の鍵を送っていたという。祖母の既知だという海江田は家に住み着き、つぐみは在宅で仕事をする手続きをとり、田舎での二人暮らしが始まる。海江田は染色家であったつぐみの祖母と出会い、その染め物にひかれて一目ぼれしたという。そして祖母の葬式で出会ったつぐみに、かつて愛した女性の孫だとは知らずに海江田はひとめぼれしたのである。だが過去のつらい恋に疲れていたつぐみは、海江田の想いに応えようとしない。だがさまざまな出来事を経て、つぐみはついに海江田の温かな想いに心を開き始める・・・という物語。

 「姉の結婚」は県立図書館に勤務する岩谷ヨリは、実家を飛び出たはずの妹と二人暮らし。地元でひっそりと暮らそうと決めたヨリに、ある日一人の男が言いよってくる。その男・真木誠はイケメンの精神科医であり、妻帯者である。だが場所を問わず言いよる真木を、拒みきれないヨリ。真木はヨリの中学時代の同級生だったという。あるパーティに出席したヨリは真木の妻である理絵に出会う。その顔は自分そっくりであることにヨリは驚く・・・というところで1巻は終わっている。その後、まるで契約でもしたかのようにヨリは真木にのめりこんでいくが、そこか冷めた目線で、それをこわがっているヨリ。いつしか不倫関係を清算しようとするのだが・・・

 西炯子の著作全般を取り扱うとややこしくなるので、とりあえずは「男の一生」と「姉の結婚」だけに話を絞ろう。まずは「このマンガがすごい!」誌上での評価である。

2012年:「姉の結婚」4位
2011年:「男の一生」36位
2010年:「男の一生」6位

 これ以前には彼女の作品は一切ランクインしていない。つまりここ3年で急激に浮上し始めた人なのである。なお2008年には「君に届け」が1位になっており、それから毎年ランクインしているし、「ちはやふる」も2009年にランクインしてから毎年常連となっている。その一方で2012年版同誌に掲載されている「書店員が選ぶランキング」によれば、この年の1位にかがやいた「花のズボラ飯」を押さえて「姉の結婚」が1位となっており、書店員さんから絶大な支持を得ている様子が浮かんでくる。

<あきらめた大人たち>
 「男の一生」と「姉の結婚」には共通する事項がいくつかある。それは

1)主人公の女性が30~40歳の妙齢
2)過去の恋に疲れて、田舎暮らし
3)仕事を持って自立している
4)不思議な魅力をたたえた男性に言い寄られている

掲載誌が同じであり、「男の一生」がヒットした後だけに、「姉の結婚」が同じ題材がとられている可能性もあるだろう。これだけ共通事項があるというのもどうしたもんだろうか。女性マンガは一般に月刊誌が中心であり、週刊マンガや隔週刊がある男性マンガあるいは青年マンガにくらべると、栄枯盛衰に乏しい。そういう意味では常に新しい刺激と題材を求めて疲弊する男性マンガに比べれば、ヒトネタあてて二匹目のドジョウを狙いやすいのは女性マンガかもしれない。とはいえそれでも人気の作品であるのだから、これには何かしら理由があるのだろう。

 2本のマンガの骨格をなすもの、それは

「恋に疲れた妙齢の女性が、再び恋に目覚める時」

ということになるだろうか。10代の女性が主役のマンガであれば、自分やそのまわりの友人の数だけ恋があり、落ち込む暇もない程に恋に夢見ていられるのだろうが、女性も社会に出始めたあたりから、恋愛よりも現実が先に立ってくるだろうことは、40歳を過ぎたおじさんでもわかる話だ。だが西炯子の描くこの2作品の主役である女性は、過去に経験した恋愛のつらい結果から、恋愛を否定してしまう。まるで自分にはまったく縁のないものとして恋愛から距離を取って、恋をあきらめてしまっているのである。

 ここでヴィジュアルとしての西炯子作について語っておきたい。
 頬よりも頬骨を感じる顔のライン。顔の輪郭はやや丸みを帯びているが顎はとがっている。丸いのだけれどやせ気味の顔。その顔の真ん中に小さなかわいらしい鼻、そして目を引くまん丸の目。アップの時には必要以上に目の形にこだわっているようで、ころころ変わる表情は目が中心だ。まつ毛もはっきりと多めに盛っている。口の下には陰影を持たせたラインがあり、イメージとしてははっきりと唇を意識させる。つまり顔だけ見ればかわいらしさの中にHっぽさもある。打算を含んだ大人の表情だ。
 全体像としてはほっそりとしたボディラインが魅力的だ。特に頭を支える細長い首のライン、そして胸で大きすぎずにふくらむやわらかそうでいて控えめなバストは、仕事と日常に疲れた女性の襟足から首元から胸元にかけてのラインを想像させる。ウェストラインだってはっきりと細いのだが、服のせいか全体に細身のせいかあまり気にならない。むしろ控えめでもはっきりと主張する乳房の大きさが絶妙だと思う。そう、つまりどこかちょいエロなのだ。トータルでみた場合、ヨリにしてもつぐみにしても、劇中で言われるように美人であるが、それ以上に年齢相応の魅力をたたえ、なおかつ“隙”とでも呼べるかのような「エロさ」もある。ニパっとした大きな口で笑うシーンがあっても、小さなコマで手書きの文字でしゃべっているようなシーンでも、彼女たちは必要以上に魅力的に映るのだ。

<不器用な大人たち>
 その上、ヨリもつぐみも人当たりも良く、決して内面を表に出すことで人間関係を悪い方向へ導くことはない。また劇中でも彼女たちはそれなりに美人扱いされているから、彼女たちは読者目線でも劇中目線でも必要十分に魅力的な女性であるといえる。そんな彼女たちが、なぜ恋に臆病になっているのか? この疑問符こそが、これらの作品の鍵である。エピソードの積み重ねはあらたに登場した男たちが引き受けるが、彼女たちのバックボーンについては、過去の男とそれにまつわる過去の出来事が引き受けている。しかも新しいエピソードの積み重ねの中で少しずつ過去のエピソードは小出しにしてくる。噂好きでゴシップ好きな女性読者のハートをグッと掴んでいるのは、こうしたマンガとして極めて王道な構成だろう。

 そしてまたもう1点の魅力を上げれば、登場するキャラクターの誰もが、けっして小器用な人たちではないことだ。特に本当に愛した一人の人に好きだと告げるまでのエピソードやその言動など、どれをとっても朴訥で不器用だ。はっきりといってたどたどしく、まどろっこしいこと極まりない。特に海江田にしても真木にしても押しは強いくせに、その本心をなかなか明かそうとしない。真木にいたっては現在の自分のルックスに自身があるのか、SEXに持ち込むことができるくせにその本心は秘匿したままである。例えば真木がヨリに向かって過去の出来事と自分の愛情をさらけ出し、いかにかっこ悪くても言葉を尽くしてヨリを口説いたっていいではないか。だがこの男の側の不器用さにも理由があって、真木の本妻の存在とその結婚の経緯、現在の冷めた夫婦関係こそが、作品の引きになっている。そしてまた真木自身が本心を明かさない事で真木の実直さも現れているし、なにより不器用さがあふれているともいえる。このなんともいえない、行くに行けないというか、引くに引けないという「どうにもならない感」こそが、大人っぽさを演出しているのではないだろうか。そう大人って、どうにもならないことが多いのだという、あたりまえのメッセージ、そして不器用な人間たちのもどかしいほどの恋愛模様。言葉にしてみると当たり前とも思えるこうしたシンプルなタームこそが、多くの女性読者の支持を得ているということがよくわかる作品だなあと思わせてくれる。

<愛したい男、愛されたい女>
 そしてまた多くの女性読者の支持を受けているこの恋愛の形態は、多くの女性の憧憬をもって迎えられているとすると、筆者が長年考えていたことと合致する気がするのである。それは現在の男女の組み合わせのほとんど多くの場合が、「欲しがる男と与える女」という組み合わせなのではないか。もっとぶっちゃけて言えば「やりたい男とやらせてくれる女」なんじゃないか。完結している「男の一生」を例にとれば、つぐみは過去に付き合っていた妻帯者である男との不倫に疲れ果てていたが、つぐみにとっては過去の男のことが吹っ切れないでいる。つぐみはその男との結婚を夢見て、彼を欲してはいたが、どうにもならずに疲れ果てってしまったのである。一方祖母の家で出会った海江田は、そんなつぐみに一目ぼれする。海江田の過去も複雑であり、それゆえの孤独感を抱えて初老となる現在まで結婚もせずにいたが、その背景にはつぐみの祖母への想いが控えめにつつんでいた。そしてきっかけはどうあれ、そんな祖母の影響下のつぐみを愛し始める海江田は、ただひたすらつぐみの心がいやされることを待つだけなのだ。たとえつぐみと海江田の間にSEXが介在したとしても、つぐみの心も海江田の想いも癒されることはない。けれど物語はひたすらつぐみの心が癒されることを待ち続ける海江田の思いこそが、つぐみの心をすこしだけ癒していく。海江田はつぐみを欲するためにただ待つことを選ぶのである。そして最後の最後でつぐみは海江田に愛されることでつぐみは海江田を愛せるようになる。

 「愛したい男と愛されたい女」。これを現在の事象と照らし合わせてみると、けっこう合点が行くことが多い気がする。たとえば「草食系男子」と「肉食系女子」という言いかた。この言葉から想像されるに、愛したいのにその相手を捜しあてられず臆病になっている男性と、愛されたいと願いながらもその相手を積極的に探し求める女性の姿が想像できる。そしてそれはおしなべて「ないものねだり」なのだ。こうした男女が打算で相手を探し当て、カップルとなるための形状が、「やりたい男とやらせてくれる女」なのだとしたら、この話も決して冗談ではないと思えるのだが。

 この物語でいけば、一見与えているのは海江田側という見方もあるだろうが、方法論はどうあれ、「つぐみ」を欲する海江田に「つぐみ」自身を与えることで、物語が帰結するとすれば、与えるのはあくまでつぐみであり、欲しているのは海江田ということになる。こうして「欲する男と与える女」という形式が成立している。もしかしたらこれが当たり前のように落ち着く配置なんじゃないかと思うほど腑に落ちる。互いに欲するがあまり与えることをしない芸能人同士の結婚が多くの場合離婚で終わることを思うと、ご理解いただけると思うのだが。また「ヒモ」という関係もそう。働かないろくでなしの男に貢ぐしっかりものの女という構図がわかりやすいだろうが、その逆はめったに存在しない。だって男は家族を養うのが当たり前だからという答えもあるだろう。また結婚詐欺師のニュースを見れば、男に貢がせる女詐欺師が喧伝されるということは、逆のパターンが多くある一方で、女詐欺師という事件がレアケースであるからという見方もあるのではないか。そしてまた男性優位の社会の中で、女性が優位に立つことができるという立場を手にする瞬間、それこそが恋愛や結婚の場合だとも言える。つまり女性の側にとっては優越感を得られる場合だと思えるのだ。女性は愛するよりも愛されたい。そう考えると、西炯子の描く2作品が多くの女性読者に支持される本当の理由は、女性が望む優越感を与えているからだといえないだろうか?

 マンガの類型として、「願望充足」というのは古今変わらず存在し続けている。問題は充足の種類が多様化する一方で願望自体はそれほど多様化していなんじゃないだろうか。少女マンガあるいは女性マンガが描きだす願望は別に恋愛だけではないのだが、そのテーマ自体は永遠のテーゼとして愛され続けるのかもしれない。そしてその恋愛がささやかであればある程、万人の心を打つのだろうか。かつて「恋愛の教祖」とまで言われた柴門ふみが描くマンガは、日常のささいなシーンを切り取って劇的に見せる手法がおおいに受け入れられた。「同級生」も「東京ラブストーリー」も「あすなろ白書」もエピソード自体はじつにささやかだ。現在の女性マンガで展開されている恋愛は、柴門ふみの直系ともいえる。

娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)娚の一生 1 (フラワーコミックスアルファ)
(2009/03/10)
西 炯子

商品詳細を見る

全3巻の表紙をならべると、あらステキ!
姉の結婚 1 (フラワーコミックス)姉の結婚 1 (フラワーコミックス)
(2011/05/10)
西 炯子

商品詳細を見る
スポンサーサイト

テーマ : 少女マンガ全般
ジャンル : アニメ・コミック

trackback


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

まとめteみた【西炯子著「男の一生」「姉の結婚」~愛されたい女、愛したい男~】

 少女マンガ(あるいは女性マンガ)を読んでいて、最近自分の中でやっとカテゴリーができてきたなあと思う。1)小中学生の少女が主人公のマンガ2)高校生~大学生の女性

コメント

非公開コメント

プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺☆大分のお土産といえば『ざびえる』

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->