映画「テルマエ・ロマエ」~人は役者、舞台はお風呂?~

 GWに必ず1本映画を見続けている。なんてことはない理由だが、それでもGWに必ず見たくなる映画があるので、映画の選択には困ったことがない。もっとも今回は去年「タイタンの戦い」を見ていた故に、「タイタンの逆襲」とどっちにするか迷いに迷ったのだが、かねてより読み続けているマンガ「テルマエ・ロマエ」を夫婦ともに愛読しているため、今年のGWの1本は「テルマエ・ロマエ」となった。
 公開前より漏れ伝え聞く映画の方は、あの顔の濃い目の俳優・阿部寛氏を主役である浴場技師・ルシウス役に迎え、ローマ人の役にこれでもかとクドい役者の面々を配している。その一方で現代の日本側の配役は、ルシウスと絡む女性役として上戸彩嬢を配し、その他にもローマ人配役と露骨に対比させるかの如くである。さて、現在では大人気となっているマンガの実写劇場版、どうなっていることやら・・・・

テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)テルマエ・ロマエ I (BEAM COMIX)
(2009/11/26)
ヤマザキマリ

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<作品と概要>
 まずは原作となるマンガ「テルマエ・ロマエ」について説明しておこう。
 マンガ「テルマエ・ロマエ」は2008年から「月刊コミックビーム」誌において連載されている作品。「マンガ大賞2010」や「第14回手塚治虫文化賞(短編賞)」を受賞し、シリーズ累計500万部を突破した大人気コミックスである。かねがねコミックビームを発刊しているエンターブレインという会社には、興味を持っていた。コアなマンガファンにはおなじみの上野顕太郎(「さよならもいわずに」「帽子男」シリーズ)や森薫(「エマ」「乙嫁語り」)、須藤真澄(「ゆず」シリーズ「長い長いさんぽ」「振袖いちま」)など、キラ星のごとく異彩を放つ作家陣を世に送り出している。上記のラインナップがチラとでもよぎるあなたは、そうとうなマンガ好きとお見受けする。そんな作家陣に混ざって「テルマエ」を送り出した漫画家ヤマザキマリは、17歳で単身イタリアに渡り絵画の勉強を始めた後、1996年にエッセイ漫画でデビュー。世界各地を転々としながらマンガ執筆を続け、本作をヒットさせる。現在はシカゴで旦那さんとお子さんと暮らしているとのこと。

 映画では前述の通り、ローマ人配役も日本人側の配役もすべて日本人の役者陣で固め、日本各地の温泉地をロケ地に選ぶばかりでなく、イタリア最大の映画撮影所チネチッタにある古代ローマのオープンセットを惜しみなく使い、現地エキストラ1000人以上を集めて撮影された作品だ。監督は「のだめカンタービレ」シリーズやTVドラマ「電車男」の武藤将吾氏。つまりコメディ作品には定評のある監督といえる。その力は本作を得て十全に発揮されたのではないだろうか。

 舞台は古代ローマ。新しい大衆浴場がオープンし大人気を博したことで、浴場技師ルシウス(演 阿部寛)は逆に職を失ってしまう。失意の浴場の中で、ルシウスはなんと突如としてタイムスリップしてしまう。そしてルシウスがたどり着いたのはなんと現代の日本の銭湯だった。言葉も理解できないルシウスは、日本人を「平たい顔族」と称して彼らを奴隷だと勘違いする。ところが日本人が愛してやまない銭湯をはじめとする風呂文化に、驚きを隠せないルシウスは涙を禁じえない。再び気を失ったルシウスはローマに逆戻り。そこで経験したことを具体化し、新しい大衆浴場を建設し、瞬く間にローマで知らぬものとていない有名な浴場技師となっていく。

 時は第14代ローマ皇帝・ハドリアヌス帝(演 市村正親)の治世の時代。ルシウスはハドリアヌス帝の要請に従って帝のための浴場を建設する。これにより覚えめでたくなったルシウスであったが、私生活をかえりみずに仕事に没頭した結果、妻が浮気をして家を出てしまい、生活は荒れる一方であった。一方数回に渡り銭湯やふろ場に現れるルシウスを発見した山越真実(演 上戸彩)は、漫画家を目指していたものの、夢破れて故郷の温泉旅館の後を継ごうと帰郷する。ところがそこにルシウスが現れることで、なんらかの運命を感じ始める真実であった。そんなとき、真実はついにルシウスとともに時代を越えてローマにタイムスリップしてしまった。だが真実のタイムスリップによって時間の改変が起こってしまう。ルシウスに不信の目を向ける次期皇帝候補・ケイオニウスがローマに残り、ハドリアヌス帝の腹心であるアントニヌスがケイオニウスの策略で遠方へと赴任させられてしまうというのである。現実にはケイオニウスが遠隔地へ行き、アントニヌスがローマに残留し次期皇帝になるはずの歴史が、たび重なるタイムスリップの影響を受けて変化してしまったのである。真実がルシウスに説明してもなかなか理解してもらえない。だがルシウスは遠征に出ているハドリアヌス帝と配下の兵士のために、遠征地付近で浴場を設置し、兵士たちの体力回復を促して戦況の逆転させることを思いつく。はたしてルシウスの策略は功を奏するか? 歴史は正しく導かれるのか?

<まずは役者陣!>
 「平たい顔族」こと日本人キャストに関しては、そもそも日本人って顔が平たいんだなあということがよくわかるキャストだ。平たい顔ってどういうこと?とおっしゃる向きには、本作に登場する竹内力以外の日本側キャストを見ればわかりやすい。特に目とまゆのあたりの凹凸のなさ、鼻が前方よりも左右に展開しているポリネシア系、どちらかといえば目鼻立ちのはっきりしない顔といっていいだろう。マンガを読んで「平たい顔」というフレーズにピンとこない人にとっては、むしろ侮蔑に聞こえるかもしれない「平たい顔族」という言葉は、はたしてこの映画の中では最大の爆笑をもって観客に迎えられて、初めてこの作品が成立する。今でもCMでは人気の上戸彩って平たい顔なんだなあとか考え始めると、それだけでなんだか楽しい。よくもまあキャスティングしたもんだ。

 そしてなんといってもローマ人役の役者陣が実に粒ぞろいであるのは言うまでもない。阿部寛、市村正親はじめ北村一輝や宍戸開にいたるまで、よくもまあこれだけクドイ顔の役者を集めたものである。しかもこれら役者の方々の芸達者な事がまたスゴい。あたりまえといえば当たり前だが、市村正親氏のこれまでの仕事を見れば、舞台を中心に活動してきた氏の実力がはっきり見えてくる。特に序盤ルシウスを呼んでハドリアヌス帝が自分のための浴場を作るよう依頼するシーンでの市村正親を見るにつけ、まさに「浴場」という舞台を得て水を得た魚のように演技するハドリアヌス帝の市村氏の演技は、本当に威風堂々と演じている。そりゃ紀元前のローマ皇帝をどう演じるかなんて誰も解りはしないだろう。市村氏は撮影前にハドリアヌス帝の別荘に見学に行ったとのこと。それをみてどうかなっちゃうのが、役者のすごいところだろう。結果としてまさしくその人間的な偉大さを演技で表現しきった市村氏の演技を、素直にほめたたえたい。

 何より阿部寛氏の役作りもまた素晴らしい。タイムスリップして直後に銭湯の湯船に立つ彼の体を見てほしい。こちらにしても古代ローマ人の体や骨格などは知るすべもないことだろうに、数か月のトレーニングであの体を作り上げてきたのである。むしろそれまで線の細いイメージが付きまとうモデルあがりの俳優のイメージから脱却したのが、TV「TRICK」シリーズだったかもしれない。そのクドい顔をこれほどまでに必要とされて出演した作品もなかなかないだろう。本作は氏の役者としての今後の足跡の中で、重要な位置を占めるに違いない。特にラスト付近のシーンにおける多くのローマ人から褒め讃えられるルシウスのシーンの、照れくさそうでいて毅然とした表情は、忘れ得ぬ名シーンといってもいいだろう。

<タイムパラドックスが起こるのか?>
 劇中では真実がルシウスと一緒にタイムスリップして古代ローマに行き、真実がケイオニウスと出会ってしまい、真実がケイオニウスに囲われることになりそうになるタイミングで、対立するアントニヌスによって取りなされるエピソードによって、ハドリアヌス帝の次期皇帝に実際の歴史との狂いが生じてタイムパラドックスが起こる。これが物語の小仕掛けになるのであるが、原作にはないSF的なガジェットとして「タイムパラドックス」を持ち出して、原作の持ち味を損なうことなく映画としての体裁を整えることに成功している・・・・といいたいのであるが、はたしてこのタイムパラドックスは起こりえたのだろうか? あくまで真実のタイムスリップが引き起こした結果としてのパラドックスと説明されているのだが、筆者にはどうサバ読んでも、真実が騒ぎ過ぎに見えてしまう。最終的に歴史を元に戻すために、ルシウスの浴場技師としての力が物を言うのであるが、タイムパラドックスの件と真実の事件が素直につながりにくいのは、本作の些細な問題点な気もする。

 パンフレットには舞台となった時代のローマ史について3ページにもわたって書かれている。このページの記事を参考に、タイムパラドックスが発生する可能性を探ってみたい。
 問題の中心はハドリアヌス帝が晩年、権力を誰に受け渡すかということについてである。劇中でパラドックスのネタにされたのは、「ケイオニウスがローマに在住し、ケイオニウスの策略により本来の歴史の次期皇帝であるアントニヌスがパンノニアに派遣されてしまう」という件である。パンフレットの記事によれば、ケイオニウスはこの時すでに結核を患っていたそうであり、加えてパンノニアでの重い仕事がたたって病没したと言われている。劇中ではこのパンノニアにケイオニウスはアントニヌスに行かせることで、自分の死から逃れ、アントニヌスが即位せずにケイオニウスが即位する可能性に思い当った真実によって、パラドックスが指摘されて、事が公になる。ところが前述のようにケイオニウスはローマからパンノニアに移住する前からすでに結核である。今では感知する病気であると喧伝されてはいるが、当時のローマでは間違いなく死の病気である。ケイオニウスが自らの職責を全うするつもりなら、間違いなく彼はローマで病死するだろう。そう考えると、どの道ケイオニウスは早かれ遅かれ死ぬわけだ。

 さて一方のアントニヌスについて言えば体は頑健である。パンフレットの記事によれば、そもそもハドリアヌス帝が帝位を譲りたかった相手は、「マルクス・アンニウス・ウェルス」という人物であり、ハドリアヌス60歳の時、まだ16歳でしかなかったという。ハドリアヌスがアントニヌスを次期皇帝に指名した最大の理由は、マルクス・アンニウス少年が大きくなって皇帝に即位するまでの猶予期間をアントニヌスに預けたということらしい。事実、アントニヌスの治世はその後安定しており、それまでのハドリアヌスの路線を継承していく。これはアントニヌス自身が、ハドリアヌスの想いを知っていて継承した政治路線だったと考えていいだろう。しかもアントニヌスは75歳まで生きており、その23年間の治世は、ハドリアヌス帝を上回る期間だという。

 この二人の比較からすると、ローマの歴史はいずれアントニヌスの治世を迎えることになることは自明の理だろう。たとえばアントニヌスの治世の前に、ケイオニウスの治世の時期がある可能性だってあるのだが、彼の寿命を考慮してもさして長い期間ではない。しかもアントニヌスの治世が、敬愛するハドリアヌスの治世を継承するものであったとしたら、アントニヌスがケイオニウスの治世と真っ向対立した可能性もある。するとローマは皇帝権をあらそってケイオニウスとアントニヌスによる2大派閥の抗争があったかもしれない。だがその寿命から、ケイオニウスはやはり負けるしかない。とすればその順序に多少の誤差はあったとしても、歴史の流れはさほどかわらないのではないだろうか?

 以上の論点より、この映画のタイムパラドックス、どうやら真実の一人相撲だった可能性がある。とはいえ、コメディ映画に事件はつきものである。物語のアクセントとして、とても面白いものには違いない。

 コメディ映画は笑われてナンボだと思っている。笑いのないコメディ映画なんぞ、誰のために作っているのかと監督を問いただしたくなる。その意味では、劇場に笑い声のこだましたこの映画は、確かに正真正銘のコメディ映画であった。しかもその笑いは、漫画原作にあった部分を理解されて初めて笑える部分であったし、見る人が見ればココは笑えるという細かいネタまで含めて笑いどころの多い作品だった。劇中に使われているクラッシック音楽やオペラ歌曲に乗せられて、気持ちよく映画に酔える映画でもある。絶賛公開中である。ぜひ劇場に足を運んでご覧いただければ、幸いです。

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