悪役冥利1~鳥人戦隊ジェットマン~

 「鳥人戦隊ジェットマン」が放送されたのは1991年。時代が「昭和」から「平成」に変わって3年目である。時おりしもバブルの好景気まっただ中で、徐々に忍び寄る不況の影におびえながら、どちらかというと「楽」な方向に人々が向かおうとする時代だった。
 テレビではタレントさんが出演するバラエティが幅をきかせ、流行りの衣装を身にまとい、話題のスポットを舞台に、スタイリッシュな恋愛物語を見せる「トレンディドラマ」が流行した頃だ。そのおかげで貧乏くさい視聴者参加番組や、所詮絵空事であるアニメーションは、ちゃらちゃらした付加価値をぶら下げた現実の物品にあえなく敗退し、影を潜めることになる。それは時代が要求した変化なのかも知れない。

 そんな状況下において、「鳥人戦隊ジェットマン」は製作された。現在でもなお異端な光を放つ作品であり、「トレンディ戦隊」などという枕詞と共に、特撮ファンの間で愛憎半ばながらも愛された作品である(”あの”中川翔子さんが、一番好きな戦隊として名をあげているのもジェットマンである)。だがその本質は、何度も「戦隊シリーズ」存続の危機に立たされた東映のスタッフが、時代に要求された変化に対応することで、作り上げた作品なのかも知れない。初めての女性長官、主人公チームのツートップ(レッド&ブラック)の対立から和解、敵味方入り乱れての愛憎劇、武器化する3号ロボなど、細かい点を上げればきりがないほど、できるだけ新しい内容を盛り込んで、シリーズの「中興の祖」となった作品だ。だがここで取り上げたいのは、ジェットマンに関する作品論ではない。物語中盤にきら星のごとく現れて去っていった、一人の悪役に注目したい。その男の名は「トランザ」。

 ジェットマンの敵である次元戦団バイラムは、様々な次元を征服し、ついにこの3次元世界を征服するために登場する。当初はラディゲ、グレイ、トランの3人で3次元に到来し、そののちの3次元侵攻の際に、捕獲した3次元人を、記憶を消すことで仲間にし、マリアと名付けて仲間に加える。このあたり、実はマリアへのラディゲの執着が見え隠れするのであるが、それが判明するのは最終回付近でのことである。また「バイラム」という組織の成り立ちが、侵攻する次元の人間を仲間に加えながら侵攻するという、組織の形態はあってないようなものなのかもしれない。また幹部4人も、それぞれの生物的な特質については、よく知り得ていないまま、仲間として記憶を操作しながら戦い続けるイメージもあり、バイラムという組織の、底知れぬ恐ろしさも感じられてしまうのだ。

 バイラムの4人はだれが命令を下すわけでもなく、パラレルな関係であるが、その欲望のためか、ラディゲが4人のリーダーとなろうとしている様子が見て取れる。途中17,18話で「女帝ジューザ」がリーダーになりかけるのだが、いまさら他人の風下にたてないラディゲの謀反により、幹部のパラレルは存続する。

 その中で「トラン」は黒いマントをはおった少年の姿の幹部として登場する。バイザーのようなサングラスをかけ、腕に装着されている「メタルトランサー」により、様々な超能力を駆使して戦う。だがそのメンタリティはあくまで少年のものであり、「面白い」とか「楽しい」などの感情のままに行動する。その無邪気な邪気が、トランという幹部の真の恐ろしさでもあるのだ。事実、人間を待てない体質にしたり(10話)、着用した衣装にあわせて人間を操ったり(9話)、トンネルをくぐるたびに乗客が一人づつ減っていくバス(12話)を使ったりと、愉快犯的な作戦が目立つ。

 そのトランに劇的な変化が生ずるのは、36,37話においてである。トランは笛の音で操るバイオ次元獣・アリバズーカにより、アリ人間を操る作戦を立てる。しかし休暇中のジェットマンに撃退されてしまう。作戦の失敗を「所詮はこどもの遊び」と、トランをバカにする他の幹部達。怒ったトランは、すべての超能力をかけて、洞窟において急激に成長し、トランザとして幹部達やジェットマンの前に姿を現すのだ。初登場の37話で、人間の格好をしながら、ジェットマンの一人一人に戦いを挑み、すべてに勝利してほくそ笑む姿は、まさに子供じみており、もとのトランと変わらないメンタリティを見せる。そもそも少年だったトランは、もっとも高いポテンシャルを持っていたかのように、ラディゲたちやレッドホークを圧倒する。そしてジェットマンを倒さないまま玉座に収まり、ラディゲ達を力でねじ伏せて、バイラムのトップに立つことを宣言するのだ。

 そしてここからラディゲとトランザの確執がスタートすることになる。ラディゲの作戦を邪魔したり、トランザの作戦にラディゲがちょっかいを出したりと、お前ら小学校からやり直せと言いたくなるような足の引っ張り合いが続く。一度は「ラディゲ様」とさけび、トランザの能力に膝を屈するラディゲであるが、トランザの失敗を虎視眈々とねらっているラディゲ。こういった状況により、辛くもジェットマンは勝利を収めてきたわけだが、トランザが開発した「魔神ロボ ベロニカ」の登場により、事態は急転する。

 人間の生体エネルギーで動くベロニカで進撃する4幹部。トランザは自身満々である。事実ジェットマンは2大ロボットを繰り出してもまったく歯が立たず、頼みのグレートイカロスでも一敗地にまみれる。一度はロボから逃げ出して、体制を立て直そうとするジェットマンだが、逃走中にトランザにイエロー、ホワイト、ブルーの3人が囚われてしまう。そんな中でも、ジェットマンの生殺与奪を自分のモノにしようとあがくラディゲは、トランザとの確執のさなか、ベロニカのエネルギー源とされてしまう。一度はベロニカに取り込まれるラディゲであるが、逆にベロニカのエネルギーを吸い取りはじめる。これをきっかけにして、エネルギーも底をついたベロニカに、ジェットマンが逆襲することで、事件は一件落着する。これが44,45話のおおまかなストーリーである。
 それにしてもラディゲはしつこい。またそれでもベロニカの操縦席に、ラディゲを据えてしまうトランザは、なにかバイラムの人材不足を感じさせはするものの、ラディゲを屈服させたい一心の行動なのだろう。

 そして47話「帝王トランザの栄光」を迎える。
 「バイオガン」を開発し、意気揚々とジェットマンと対峙するトランザ。バイオガンはジェットマンを石膏像に変えてしまう威力を秘めた兵器であった。白いスーツ姿で天堂竜(レッドホーク)の前に立つトランザ。彼は1対1でレッドホークを圧倒し、十字架に掛ける。すると仲間を待つといって、ブランコに乗ってほほえむトランザ。このシーンはソフトフォーカスやスローなどを用いて、やわらかな画像となっているのであるが、ブランコに乗るのがあのトランザである。どうかしてるとしか思えない、異常な光景だ。これこそまさに、トランザの余裕であり、こどものようなメンタリティの成せる技である。

 残り4人がそろっても、やがてジェットマンを圧倒し始めるトランザ。そしておもむろに取り出したバイオガンで、イエローは石膏像となってしまい、異次元のトランザの玉座の後ろに掛けられる。逃げる4人をおいかけるトランザ。そして一人一人石膏像とし、最後の一人をレッドホークに定めた時、レッドこと竜は見知らぬ一人の男と一緒に現れた。その男共々石膏にしてやるとうそぶくトランザであるが、二人の強力なエネルギーにより、バイオガンのエネルギー弾をはじき返されてしまう。トランザにとってあり得ない状況。レッドホークを羽交い締めにし、人質に取るトランザは、そこで初めて謎の男の正体が、ベロニカでの状況を生き延びたラディゲであったことを知る。ジェットマン達の怒りの反撃により、倒れるトランザは、さらに右手の甲を刀で刺し貫かれながら、ラディゲにいたぶられる。そしてラディゲは、トランザを殺さず、永遠にラディゲの名をおそれて、人間のまま生きることを命じるのだった。
 転じるシーンでは、脳神経をズタズタにされたトランザが、車いすに乗せられて、運ばれるシーンでこの47話は幕を閉じるのである。

 この病院でのシーンが、まことに素晴らしい。車いすに乗せられ、名実共にズタボロになっているトランザは、包帯だらけで登場する。頭に巻かれた包帯は、前髪がはみ出しており、トランザを象徴する前髪を彷彿とさせる髪型を見せる。そして開かれたままどこにも焦点が定まらない目は、すでに廃人と化していることを証明する。極めつけは口からのよだれだ。ラディゲの怨念のすさまじさを感じると同時に、やり過ぎた己の所業を振り返り、病院の奥で「助けてくれ~、許してくれ~」と叫び出すラストシーンに、その出来事のすさまじさが感じられる。かくも役者とはここまでするし、ここまでやれるものなのである。

 トランザを演じた広瀬匠氏も、のりのりでやっていたと聞いているし、「東映ヒーローMAX」でも、インタビューにこの話が印象深いものであることを語ってくれていた。彼自身は、「超新星フラッシュマン」でもレー・ワンダという悪役を演じているし、「超獣戦隊ライブマン」でもドクター・ケンプを演じている。2の線でいながら邪悪な演技、それもダンディズムすら感じさせる彼の悪役へのこだわりは、中途で参加したこの「ジェットマン」で、完全に花開いたと言えるだろう。そしてその最期までを完遂できた「トランザ」という役は、永遠にわれわれ特撮ファンの記憶に残る悪役となったのだ。

 実際、初めてこれを見たとき、私はしばらくは声も出せなかった。そしてこの物語を永遠に自分の記憶に刻むことを誓ったのだ。だが金曜の夕方にこれを見た当時のこども達は、きっとトラウマになったに違いない。だって、この復讐劇の全貌がわかってなお、やり過ぎを感じる内容と演出だと思うからだ。だが脚本家である井上俊樹氏に、これを書かせた広瀬匠という役者、そして復讐劇を完遂させたラディゲ役の舘大介氏は、1話でわずか十数分しかない特撮ドラマにおいて、トラウマになるほどの物語を見せてくれたのである。まさに悪役冥利である。
 戦隊シリーズには他にも魅力的な悪役がたくさん出てくる。これはまだほんの序の口に過ぎない。今後もことあるごとに、悪役の視線で物語を見つめ直してみたいと考えている。
スポンサーサイト

テーマ : 特撮
ジャンル : サブカル

コメント

非公開コメント

プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
01 | 2017/03 | 06
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺@53.8

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->