「BLOOD-C The Last Dark」~足し算としての「BLOOD」シリーズ~

 あの衝撃的な結末で終幕したTV版「BLOOD-C」。その6ヶ月後の東京に小夜は帰ってきた。TV版で見せたやわらかでにこやかで朗らかな小夜の姿はなく、自分を追い込んだ男への怒りと復讐の心だけを持って東京に現れたのである。
 TVの最終回を受けて公開された本作を、「ヤマト第二章」と同じ日に見てきました。当初あまり期待はしていなかったのですが、何よりも「BLOOD」シリーズを愛好してきたものにとって、いろいろ考えさせられる内容だったことが、ちょっとだけうれしかったりもした作品だった。

<作品概要>
 物語は浮島地区での惨劇から約半年たった東京。小夜は自分の記憶を操作し、浮島での出来事の全てを仕組んだ相手・七原文人の行方を追って、冬の東京にやってきた。東京は文人が牛耳っている世界企業・セブンスヘブンの支配下になっており、施行された青少年保護条例によって若者たちにとっては窮屈な世界となっていた。そんな中、セブンスヘブンの実態を暴き、青少年の自由を求めるためにネットの世界で胎動し始めていた。その活動は「サーラット」という団体に結実していた。そしてサーラットのメンバーは、文人の操る世界の背後に「塔」と呼ばれる秘密組織の暗躍が見え隠れしていた。

 ある日サーラットのメンバーの一人である柊真奈が「古きもの」に襲われ拉致されてしまう。それを見た小夜は「古きもの」を撃退し、それをきっかけに真奈以外のサーラットのメンバーと知り合うことになる。逃げ延びた小夜らが逃げ込んだ場所は、ITベンチャー企業の代表である殯蔵人(もがりくらと)の邸宅であった。蔵人はかつて文人によって家族と体の自由を奪われた。利害に一致を見た蔵人と小夜は、サーラットの活動を支援しながら文人に復讐することを誓い合う。
 文人が真奈の母校に講演に現れることを知ったサーラットのメンバーは、学校への侵入を試みるものの、それは小夜を待ち受ける文人の罠であった。巨大な「古きもの」との激しい戦いをどうにか制する小夜。だが戦いのさなか、真奈を助けるために小夜は負傷してしまう。それを見ていた真奈は、かつて自分の父親を追い詰めてしまったために封印した、自分のハッカーとしての能力を再び使うことを誓う。昼夜問わず探し続けた真奈が出した答え、それは東京湾上の埋め立て地の一角に確認された異常。それを文人の「塔」の拠点だと断定した小夜たちは、再び文人を強襲するために行動を起こす。そして埋め立て地に隠されていた施設では、文人の側近や武装集団との激しい戦闘となる。そしてまたそこでも「古きもの」との戦いを制してたどり着いた先に、文人がいた。半年の時間を経て再開する二人。だがそこで急激に小夜は倒れ伏してしまう。そこに現れた蔵人。彼こそ文人が用意した最大の罠だったのだ。だが蔵人自身が抱えていた文人への複雑な心情は、文人を殺めようとする。蔵人の刃を受ける文人。だが文人は小夜への想いを口にしながらも、自らを巨大な古きものへと変貌させ、小夜へ最後の戦いを挑む形となる。苛烈ともいえる変貌を遂げた文人の攻撃をかわし、小夜はトドメを刺す。その後、小夜は闇夜に消えていく。だが東京はかつての自由を取り戻し、サーラットのメンバーは新しい生活を手に入れる。だが小夜は、今も古きものと戦っているのだろうか・・・。

<シンプルな足し算>
 かつて「BLOOD The Last Vampire」という作品は、日本刀を持った女子高生「小夜」という少女、不気味な姿をした吸血鬼「翼手」、戦後すぐの米軍駐屯地という舞台などが、当時としては最先端であったCGによる作画技術を使って作られた作品だった。フィルムの時間にしてわずか45分程度の短い作品でありながら、アクションもその前後の物語も充実した作品であり、現在の目で見ても色あせることなく楽しめる作品となっている。その後、「BLOOD」は様々な派生作品を生み出していくことになる。TV作品としては「BLOOD+」、実写映画として「The Last BLOOD」、そして本作の前日端となった「BLOOD-C」と展開し、本作の登場となる。それぞれの作品は「小夜」という日本刀を持った女子高生という設定と「吸血怪物」という共通項があるのみで、それ以外には関連性すらない。そう、「BLOOD」シリーズという作品群は、実は「日本刀を持った女子高生・小夜」と「吸血怪物」、そして「小夜自身の謎」といったシンプルなワードを軸にして、それ以外の部分を付け足していくことで構成された作品なのだ。つまり最初の「BLOOD The Last Vampire」をベースに、様々な要素を付け加えたことによってできた「足し算」の作品だということだ。

 例えば「BLOOD+」の場合であれば、小夜に付き従うもの「ハジ」や「シュヴァリエ」翼手殲滅を目的とした組織「赤い盾」、翼手への対抗手段となる「小夜の血」、そして小夜の妹でありながら翼手の女王である「ディーヴァ」、そして失われた「小夜の記憶」というタームを付け加えて全50話の物語を彩った。
 「The Last BLOOD」という作品でいくと、「小夜の出生の秘密」と「アニメの実写化」という部分が加わった結果、吸血鬼の王である「オニゲン」を倒すことを至上の命題とした小夜が戦う話である。基本プロットは元となる「BLOOD The Last Vampire」でありながら、この作品で謎となった部分を肉付けする形で作られた結果、明らかに蛇足であるというヘンテコな作品となってしまった(以前ブログで取り上げているので、そちらもどうぞ)。だがいずれにしても原点となる作品の核となる基本ワードに、新たな設定を加えて物語が作られていることは明かだ。
「BLOOD-C」にしたところで「小夜」の基本は変わらない。ただし、これまで暗い影のつきまとう小夜の背景を考えれば、「~-C」での小夜は朗らかで明るく、高校生として日常を暮らしているという設定が付け加わっている。これまでの「小夜」の設定ではあり得なかった部分を、不自然なまでにくっつけて物語が展開していた。シリーズを見てきたものなら誰もが不自然な小夜の表の性格は、やがて仕組まれたものだということが明らかになり、小夜の目の前で自分を愛してくれた人たちが無残に死に、父親だと思っていたものさえ「古きもの」として始末せねばならなかった。そして自分の記憶を奪ってこの不自然な異空間に放り込んだ張本人である「文人」の打倒を誓って本作へとつながるラストで締められたのである。

 さてここで本作を見てみよう。本作での「小夜」はすでに記憶を取り戻し、「BLOOD The Last Vampire」の彼女が戻っている。その証拠に物語序盤の地下鉄内での描写は、かつての地下鉄での翼手惨殺シーンを彷彿とさせるシーンが出てくる。つまりあの映像によって、見慣れた「小夜」が帰ってきていますよ、といっているのだろう。本作の焦点は「文人と小夜の決着」なのだが、そのために文人および彼の組織と敵対する「サーラッド」という民間組織が存在する。そして小夜の復讐のお膳立てをすることになる。これは小夜自身の手に余るほどの組織を相手にしているという事実を側面から説明する事情だ。これまで小夜はかならず組織のバックアップによって翼手あるいは吸血怪物を狩ってきたが、それは目的を同一にする一方で小夜の力の秘密に注目し、その力の秘密を利用しようとしていた。小夜はなんらかの組織に必要とされるが、小夜にとっても組織は欠かせない存在でもある。そのテーゼが本作でも踏襲されているのだ。これまで小夜が戦ってきた怪物たちは、小夜を苦しめるものの、必ず倒されてきた。それは相手が吸血怪物であるからだが、本作では小夜の敵である文人は「人間」なのである。つまり本作での足し算は「組織対組織」、「小夜の敵は人間」、そして「復讐」という3点となる。

 小夜と古きものとのバトルシーンと小夜の復讐劇を本作の本筋とすれば、それ以外に物語を形成する要素として「真奈」という少女が父親を失った苦難から立ち上がるという件がある。これ、実写映画「The Last BLOOD」にも似たような話がある。真奈は小夜が自分のために傷ついたことを契機にして、かつて自分で封印していたハッカーの力を復活させることになるのだが、これは小夜の側にとって決して必要な話ではない。むしろ真奈が小夜によって奮起する物語であるから、本作を「小夜の復讐劇」として見た場合には、真奈の物語はそれほど重要ではない。また蔵人の抱えている文人への嫉妬ともいえる複雑な感情にしても、完全に小夜をだますために仕組まれた部分ではあるものの、蔵人自身がわりとどうでもいいキャラであるためか、本作にとってはかなりどうでもいいエピソードとなっている。

 こうして考えてみるに、本作は核となるキーワードがはっきりとしている作品であるから、それ以外の部分がどうしても蛇足に感じてしまう構造を持っている。だからこそ真奈のエピソードにしても蔵人の裏切りの背景にしても、割とどうでもよい。そうなると本作を構成した物語部分の半分以上はどうでもいいことになってしまい、見ている側にとってはどうしても見ていて集中力が切れるのを感じてしまうのだ。本作に構造的な欠陥があるならば、おそらくこうしたシリーズ特有の魅力的である「格」の部分があるゆえに、足し算されたエピソードやキャラクターに心動かされないからではないだろうか?

<愛されるがゆえに>
 さてそもそもこの物語の発端は小夜と文人の関係性にあると言っていい。浮島事件では小夜の記憶を消し、小夜の環境を改めて設定することによって、小夜の攻撃性が血による先天性のものか、「古きもの」との戦いの中で培われた後天的なものかを見極めるために行われた実験だった。文人はその実験の中で傍観者として小夜の周辺をコントロールしてそれを見極めようとした。そしてそれが彼女の「血」による先天性のものだと理解した文人は、浮島地区の実験の全てをなかったことにするため、一部の人間を残してほとんどを「古きもの」をけしかけることで証拠隠滅させたのである。
 文人がこんなシチめんどくさいことをしたのはなぜか? その答えはTV版にも埋め込まれていたが、よりわかりやすくこの作品にある。それは終盤に蔵人に刺されながらの文人の独白にある。簡単に言えば、文人は小夜を愛してしまったというのだ。彼がこれまで行ってきた実験は、小夜を人間である自分に近づけるための実験だったが、小夜が小夜であるアイデンティティは、小夜を生んだ「血」そのものにあるという。そこで最終的に文人が選んだ方法は、文人が小夜に歩み寄る方法。それがこの映画のラストで文人が選択した「古きもの」になるという行為である。だがその行為は小夜によって完全に拒否される。小夜は巨大化して「古きもの」となった文人を切る。そして小夜は日常の中に再び紛れるようにして終劇を迎える。これをどう考えたらいいだろうか?

 かつての「BLOOD」シリーズは小夜が敵対するものを切ることで、大局的な物語は終幕する。「BLOOD+」の場合には、同じ血を分けた妹とその娘たちを手にかける。また「The Last BLOOD」では自分の生みの母親である「オニゲン」を倒すことで復讐を果たす一方で、自分の出自を呪う結果となる。このように「BLOOD」シリーズは小夜を愛するものを、小夜自身の手で殺してしまうというのが定番となっているのだ。
例に漏れず「BLOOD-C」もまた、親愛なる父親と思っていた「古きもの」を殺すことで、ラストシークエンスが発動している。だが小夜はこうまで愛される存在でありながら、小夜自身を愛してくれる人を切り続けるのだ。それが小夜を小夜たらしめている部分だとしたら、小夜は自分自身を呪い続けるしかない。そしてまた人間を守りながら、人間に利用され、人間とともにあらねば生きていくことすらままならない不自由な存在である小夜は、本当の意味での「自由」を探し求めているのかもしれない。実は小夜という存在は、同族を殺して生きながらえながらも、同時に同族の血を絶やさないために生き続けている存在でもある。ものすごい自己矛盾の存在なのだ。だとすれば、小夜は自分自身の自己矛盾の鎖から解き放たれたいと願っているのかもしれない。だから小夜は人間の思惑に利用される。利用されて人間の無慈悲で残酷な現実を突きつけられ、そのたびに人間に失望しながらも人間を守って吸血怪物たちと戦わなければいけない。小夜は自分が唯一生きていることを証明する存在意義すら捨ててでも、そうしたあまりにも重く課せられた束縛から逃れたいと願っていながら、どうすることもできないジレンマの中にいるのかもしれないのだ。だから切る。すべての鎖を断ち切ることをたった一つの宿命として生きる小夜の存在理由は、自分を縛ろうとする何者かを切ることにあるではないだろうか。

 水樹奈々の低めの声音は劇場全編に響き渡り、ファルセットがなじんだ歌うときの声とは異なる演技が楽しめる。水樹奈々のファンは心して聞いてみるといい。また蔵人役の神谷浩史氏の悪役演技も、最近は珍しいだろう。前半の厳しい感じの演技や柔和な素顔を見せる演技から、終盤で一転する悪役の演技の微妙なさじ加減は、氏の技量を知らしめる演技だと思う。

 映画としてはなんだか物足りない映画だという気がした。だが上記のように「BLOOD」という重ねられたシリーズを思い返してみると、これまでのシリーズにおけるテーゼがちゃんと反映されている上、TV版「BLOOD-C」のエンドの不自然さをきちんと回収する物語ではある。そしてまた小夜は小夜でしかなく、小夜の選択は常に自分を孤独におとしめる結果となることを示して終わることは、シリーズ全てに共通している事項となっている。シリーズを見続けたものにとって十分納得を得られる内容となっていることは、一応の理解を示しておきたい。

BLOOD‐CThe Last Dark (角川ホラー文庫)BLOOD‐CThe Last Dark (角川ホラー文庫)
(2012/05/31)
藤咲 淳一

商品詳細を見る

本作のノベライズです。
劇場版 BLOOD-C The Last Dark オリジナルサウンドトラック劇場版 BLOOD-C The Last Dark オリジナルサウンドトラック
(2012/05/30)
サントラ

商品詳細を見る

サントラはかなりの力作。派手さもあるし聞き応えも十分
スポンサーサイト

テーマ : アニメ
ジャンル : アニメ・コミック

コメント

非公開コメント

プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
01 | 2017/02 | 03
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 - - - -
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->