劇場版「けいおん!」~卒業までの幕間、埋められる隙間~

 先頃発売された劇場版「けいおん!」のDVDを購入し、やっと見ることができた。ネットではお一人で19枚も購入し、そのあふれんばかりの「愛」を見せつける猛者がいたそうだ。だが本作公開当時の映画評は決して芳しいものではなかった気がする。その評に恐れをなして・・・というよりなんとなくタイミングを逃して結局見に行かなかったのだが、公開当時の多くの映画評では「別に劇場で見る必要はない」という意見が多勢を占めていた。その一方でDVD発売後のツイッターを眺めていると、劇場の大画面で見た方がよいと思われる仕掛けがある作品だという話も伝え聞く。そもそも劇場用として作られた作品なんだから、劇場で見た方がいいに決まっているのだが、個々人が見た劇場の施設にも依存してしまう可能性は否定できない。全国どこの劇場も同じ条件で見られる訳ではないのだから。とはいえ、物語自体はそうした視聴環境の影響を受けずに心をふるわせてくれるだろうから、遠慮なく自宅で一人で見た劇場版「けいおん!」を楽しんでみればいいのだろう。でもまあ、環境がよければさらに感動も加速されるわけで、いやもうそれはさあ、無い物ねだりってなもんで。困ったもんだw
映画 けいおん!  (DVD 初回限定版)映画 けいおん! (DVD 初回限定版)
(2012/07/18)
豊崎愛生、日笠陽子 他

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<作品概要>
 映画「けいおん!」は2011年12月3日に公開。興行収入は2012年5月の段階で19億円を突破しているとのこと。ただしこの背景には、絵柄を変えた多種多様なチケットや、週替わりで配布された特典などをねらったリピーターによってもたらされたものとして批判もあるようだが、それもファンの愛だということで・・・。

 さて物語はTV版「けいおん!!」の完全な後日談である。TV版DVDに収録されている番外編「計画!」でパスポートを取得した軽音部の面々。大学入試も終わり、のんびり過ごしていた唯たちが卒業旅行に出かけるという。すったもんだとモメた挙げ句、梓に旅程を任せてイギリスはロンドンに旅に出ることを決める。メンバーのほとんどが初めての海外旅行。テンションあげあげで旅する5人。そんな彼女たちに舞い降りる様々なエピソード。空腹で入った回転寿司屋では間違えられて演奏するハメに。そしてかつて演奏したライブハウスの紹介で、ロンドンの野外ステージでも演奏することに。けれどそんな唯たちには一つだけ懸念していたことがあった。それは梓へのプレゼントとして新曲を1曲書き下ろすこと。その曲のコンセプトを日頃から練っていた唯は、いぶかしむ梓の目からそらすためにおかしな行動をとってしまう。そしてバタバタのロンドン旅行を楽しんだ後、日々刻々と唯たちの卒業式の日は近づいていく。胸が締め付けられるような切ない思いを抱えたまま、残りの日々は過ぎていく・・・。

<幕間を埋める、気持ちを埋める>
 これまでのシリーズでも行われていたことではあるが、本作はTVシリーズやそのパッケージで描かれているメンバーの出来事を余すところなく伝えようとしている。たった1枚の絵として描かれているその背景に、いったい何があったのか? TVで紡がれているエピソードの裏で、どんなことがあったのか? そして同じエピソードを別の側面で見たらどんなことがおこっていたのか? 本編ではしれっと見せていたそれぞれのエピソードではあるが、TV版を繰り返し見たファンにとっては、「ああ、あの絵はこういうエピソードのワンショットだったんだ!」とか、「あのシーンの別アングルは、こうだったんだ」や「あのエピソードの裏ではこんなことがあったんだ」と、腑に落ちるエピソードが満載の映画であり、まさしく「けいおん!」という作品を愛してきたファンに対して過剰なまでのサービスを盛り込んだ作品となっている。しかもその腑に落ち方がひたすら気持ちがいい。公開直前のCMでは暗めの表情の澪が「音楽性の違い」云々の台詞があって、おろ?どうしたどうした?と思いこそすれ、フタを開けてみればなんてことはない、唯たちの悪ふざけだし。空港でインタビューを迫られる紬のエピソードにしても、初めての海外旅行でテンションがあがった唯と律の悪のりなわけで。

 そしてはっきりといえば、実にな~んにも起こらない話であり、ドキドキもなければワクワクもない。それは本当の意味で彼女たちの平凡な日常を、映画という体裁で切り取っている感触がある。そしてそれはTVから続けられている「けいおん!」のテイストであり、そこからまったく逸脱していない。TVシリーズを見ていない人にとっては、5人の関係性や初登場となる唯のご両親の登場に、どうして劇場のお客さんがざわめいているのか、まったく理解できないだろうから、どうしても一見さんお断りの映画となっていることは確かだ。京アニ作品の先行作品である「涼宮ハルヒの消失」もそうだったように、TV版や原作を読んでいないと、この作品を心から楽しむことはできないだろう。そしてまた、そういったTV版との地続き感こそが、これまで作品を支えてきたファンを満足させるために作り込まれていることは、映画としての弱点であるものの、ファンの視線を重視して作られている事実こそがこの作品の最大限の価値である。そして「けいおん!」シリーズの終焉作として、その位置づけを最大限に満足させる作品であることは間違いない。間違ってもTV版を見ずに本作だけを見るなんて無茶なことはなさらないほうがいいだろう。それはこの作品の楽しみ方ではない。

<映画「けいおん!」を味わう視点>
 冒頭に唯がのたまっていわく「梓のために先輩らしいことを残したい」という一言がきっかけになって、この話題が作品を貫く縦軸となる。唯たち4人が後輩である梓のために何ができるのか? その結末を知っている人にとっては、本作の物語が梓へのプレゼントである「歌」の制作秘話がわかるというネタばらしになっている。しかもこのアイデアの元になっている4人の感情というのがかわいらしい。「いつも世話になっている」から「先輩の見栄」まで、この1曲に込められている想いはとてつもなく幅広い。それを集約した「先輩が後輩に送る曲」ということになるのだが、紬の作った曲に対して作られる詩の、その紆余曲折がすべてエピソードになっているというのが、この物語の枝葉末節になっている。実はこうした「ミニマムさ」は本作を貫くテーマである。とにかく画面の端々を見てほしい。物や人がごちゃっとしている場面の書き込みがものすごい。そしてそれらすべてに必然がある。そのこだわりの「ミニマムさ」がやはりとても面白い。特に唯の私服やアクセサリーの残念さ加減の徹底さはあきれるほどだ。こうした遊び心があふれるのが空港から旅立った後からになるが、どうしてこうした些細なシーンに心動かされるかといえば、描くシーンとそのネタのミニマムさのささやかなギャップなのだと思う。自分たちの生活感と地続きで、だけれどもちょっとだけアニメの世界のフィクション感。そうしたちょっとしたズレこそが「日常系アニメ」の理論武装だと思うのだ。その意味で本作は最高レベルの描写力で日常系アニメの極北ともいえる作品といっていいだろう。2度にわたるロケハンによって描かれたロンドンの町並み、遠景における描写の緻密さ、ネイティブを起用した外国人キャストなどが充実している一方、例えばタクシーに乗ったときに唯が見せるシートベルトを探す仕草や梓の靴ズレなどのささやかさは、その存在が両極端でいて面白い組み合わせとなっている。そしてそこがどこであろうと唯たち放課後ティータイムは彼女たちであると主張する。

 それをすぐにわからせてくれるのが回転寿司屋でのエピソードだろう。さてこの寿司屋がロケハンの賜物なのか架空の店なのかはわからないのだが、唯たちの身長では現地の人の目線はあまりにも高いので、表情が見えないのもよくわかるではないか。なお彼女たちの着ているハッピであるが、これはかつてビートルズが来日した映像にある彼らが着たハッピの意趣返しであることは、ちょっとだけ記憶にとどめておきたい。またロンドンでは最終的に2度のステージを踏む放課後ティータイムであるが、パンフレットによれば実際のステージでの音響を再現するために、マイクやスピーカーの位置取りなどにを気を配り、まさにそこで音が発生しているように再現する試みで音が作られているという。特別にしつらえた音響のない普通のモニターでも、音の奥行きと左右バランスの出力はわかるわけで、これを5.1chのちゃんとしたシステムで視聴するなら、それはもう澪のベースに体を震わせ、律のビートに乗って体が動き、紬のキーボードで心浮き立ち、梓と唯のギターでしびれること間違いなしだ。幕間のお寿司の書き込みにも注目だ! そうそう、ビートルズのアルバムジャケットで有名な「アビィロード」は、ジャケット撮影当時に比べて場所が少しだけ移動しているそうです。そういえばロンドンはオリンピックイヤーで、スタジアムの建設などで賑々しかったはずだが、本作ではそうした部分をうまく避けている。つまり本作は年度背景をはぐらかすことによって、時代を固定しない作りになっている。それはまた作品をいつ見てもいいようにという配慮だろう。ホテルでは梓をおいて4人が梓のために曲のアイデアを絞ったり、憂が入れてきた食事をしたり。突然電話がかかってきたり、序盤の唯がアメを落としていたりするネタや「スカイハイ!」など、細かい伏線の回収にもことかかない。そして唯たちは梓への曲のコンセプトが「いつものあたしたち」であることに気づくことになる。

 さてここで思い出してほしいのだが、本作の主題はあくまで「先輩として梓に送る」なのだ。TV版でもよくあったのだが、時折挿入される梓主観のシーンが入る。これを繰り返すことによって、梓側の事情を垣間見ることになるのだが、今回だけは少しだけ趣が異なるのだ。それは見ている誰もが結末を知ってみているからだ。梓の主観シーンには2パターンあり、まさに梓の目線でシーンが推移する場合と、梓の夢という場合がある。梓の夢は主観とは違うと指摘されそうだが、この梓の夢は梓にとってのお笑い未来予想図なわけで、こうなったらアカンよな、という場合のみをエッセンスでつなげている特徴を持つ。これの意味するところはギャグパートなわけで、つまり梓というキャラが、放課後ティータイムにおいても、制作者側にとっても扱いやすいギャグ担当であることをほのめかしてもいる。その意味ではキャストやスタッフ総出で、梓におんぶにだっこという状況がうかがい知れる。梓が入部する前は澪がその役目だったのだが、梓の入部によってその役目から解放された澪は、ひたすらかわいいで押していく。澪の変遷はそのまま梓の立ち位置の固定となり、梓はかわいがられ続け、まわりの耳目を一身に集めていくことになる。その反面、梓は努力の娘であるから本作での裏方部分の梓の力量(旅の日程を組んだり、本を集めたりなど)は十分すぎるほど果たしている。その努力こそが梓のかわいらしさの基本であることが、本作でもよくわかる。実に頼りになるできた娘なのである。

 さて後半のトピックとしては、卒業式前の登校日における教室ライブのシーンだろう。これが第2期シリーズの2つめのOPのバックボーンであることは、賢明な「けいおん!」ファンの方ならすぐに気がついただろう。このエピソードは放課後ティータイムとしての最後のライブであるのだが、彼女たちの担任であるさわ子先生が、かつての自分たちの思い出とダブらせるという重要なシークエンスを含んでいる。さわ子先生の存在というのは、奇抜な衣装によってトリップ感を演出したりする一方で、「学校」という繰り返しを司る空間に閉じ込められている人物でありながら、その繰り返しの中で出会いと別れを象徴するキーであり、同時に本作を見ている観客のそれぞれが思い出に浸るためのキーでもある。実は唯たちの視線で作品を楽しんでいたはずが、実はさわ子先生の視線で、高校時代を懐かしむというルーティンの装置なのが彼女だ。DVDの特別編でもそうした部分が少なからずあったのだが、本作が「けいおん!」シリーズの締めくくりであることにおいて、さわ子のそうした部分もきちっと埋め込んでくる手腕は、高く評価したい点だ。

 そしてラストシークエンスの卒業式までの日々。そして卒業式後へとなだれこむ。告白するが、筆者はこのシークエンスで屋上に出た4人が、大声を出して走り出すシーンで、なんだかとても泣けた。必死に大声を張り上げながら屋上を走る姿が、とても切なく思えたのだ。やってきてしまった卒業の日。そのもどかしくも割り切れない切なさやうれしさが、このシーンにあふれていると思うのだ。紬の手の体温も、ここで回収される。別の場所で同じ鳥を見ている4人と梓。別々の時を過ごしていながら、一番長い時間を一緒にいた5人は、やはり同じものを見て、同じところを目指している。ロンドンに梓が一緒に行った理由は、ここにあったのだ。そうしたテーマ的な回収もすんで、最後のティータイム。そこでのやりとりもまた、冒頭の芝居との対比になっている。こうして構造的にも物語的にも対比や参照、伏線と回収によってたたまれて、TV版の最終回へと橋渡しをして、このお話は締めくくられることになる。あのシーンやこのシーンの別アングルを見せたり、梓と唯が二人で練習した河原で4人が練習したりとシーンを重ねていく。きっと誰もが、最後の梓の台詞を口の中で言ったに違いない。

 最後の腰から下だけの4人のシーンでは、本作の監督と作画監督の二人がモデルを務めていたのだそうだ。その演技指導のおかげか、生々しい足の演技が楽しげだ。紬と澪の足がややふっくらしているのはご愛敬(それにしても唯ってほっそいなあ)。
 さて筆者はDVD(それも初回版の絵コンテ付き)を買って視聴した。本当は絵コンテにおける演出なんかも面白いことがいっぱいあるのだが、それはこれを買って視聴した人のお楽しみにしておきたい。もしかしたらムックが出る可能性もあるので、それを待ってもいいだろう。どのシーンの、どこを切っても、どんな視点で眺めても、いろいろと発見がある作品だ。いわゆる日常系の作品としては、なかなかこれを超えるのは難しいだろう。それほど愛されたし、愛されて生まれた作品なのだということが、作品の作りで証明できる希有な作品だともいえる。原作のほうも終了し「けいおん!」のムーブメントも静かに過ぎ去るときがくるだろう。長い時間の果てに埋没しても、この作品はきっとなお輝きを放つだろう。なぜならそれが誰にとっても日常だから。日常のほんの少しだけ隣にある世界だから。

映画「けいおん!」劇中歌アルバム放課後ティータイム in MOVIE映画「けいおん!」劇中歌アルバム放課後ティータイム in MOVIE
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僕も一昨年見に行きました。スーパーヒーロー大戦Z楽しみです。

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アミーゴ今野さま
 ごらんになられましたか。
 私も大戦Z,楽しみにしておりますよ!
プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
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