「アニマトリックス」&「バットマン ゴッサムナイト」~スピンオフアニメを見る~

 いつぞや「エロアニメ」の評価の難しさについて記事を書いたのだが、「エロアニメ」同様に普段見ているアニメでも、どう評価したらいいのかよくよく困ってしまうタイプの作品が存在する。それが「海外で制作されたアニメ」ではないだろうか。ディズニーやピクサー制作の劇場用のCGアニメだと劇場用映画としての評価手法が似つかわしい。でも作家・山本弘氏がお気に入りの「パワーパフガールズ」や「デクスターズ・ラボ」「ベン10」「サムライ・ジャック」などの、いわゆるアメリカで制作されたカートゥーンと呼ばれる作品などは、日本で制作・放送されているアニメと同じ土俵で語るにはなかなかに難しいように思うのだ。難しさの理由は、物語や楽しさは理解できるのだが、あまりにも単純化されたデザインで描かれたキャラクターや背景は、日本のアニメの評価軸では評価しきれないこと、なによりその演出としての機微が読み取りにくいデザインであるからだ。
 さてその一方で、日本で作られながらも、その出自がちょっとだけややこしい作品もある。それが今回扱う「海外と共同制作されたアニメ」ではないか。今回は「アニマトリックス」と「バットマン ゴッサムナイト」という作品を取り上げて、その面白さのありかを探ってみたい。

アニマトリックス [DVD]アニマトリックス [DVD]
(2003/06/03)
渡辺信一郎、 他

商品詳細を見る

バットマン ゴッサムナイト スペシャル・エディション (2枚組) [DVD]バットマン ゴッサムナイト スペシャル・エディション (2枚組) [DVD]
(2008/07/23)
アナ・オーティス、ケビン・コンロイ 他

商品詳細を見る

<マトリックスの世界の広がり>
 まずは「アニマトリックス」からおさらいしておこう。この作品はSFアクション映画の金字塔とも呼べる「マトリックス」(1999)をモチーフにして2003年に制作された、9つの短編アニメーションからなる作品だ。「マトリックス」シリーズは第1作目が公開された1999年の後、2003年5月の「~リローデッド」、同年11月の「~レボリューションズ」で完結する3部作だ。「アニマトリックス」は「~リローデッド」に先駆けて映像ソフトとして発売された。その中身を見てみると実にバラエティに富んでいる。
 次作「~リローデッド」の冒頭部分に直接つながるエピソードとなる「ファイナル・フライト・オブ・オシリス」、「マトリックス」世界の成り立ちを作品化した「セカンド・ルネッサンス」2作品、「マトリックス」に登場する「キッド」が現実世界にやってくるまでの前日譚である「キッズ・ストーリー」、ザイオンの戦士が仮想世界と現実世界の狭間で揺れ動く「プログラム」、トリニティと出会うことで世界の秘密を知ろうとする探偵が登場する「ディテクティブ・ストーリー」など、実に多彩で広がりがありその表現も実に豊かなのである。

 「マトリックス」という作品世界というのは、こう・・・なんというか、どこか中二病的なところがある。自分の住む世界は実は虚構であり、本当の世界では自分は救世主として敵と戦う戦士である、という話だ。本筋としては映画「マトリックス」シリーズにて、人間がロボットたちの電源として仮想世界に捕らわれているという世界観と、世界を支配する機械と戦う真実を知る限られた人々の対立が描かれている。だがこの基本設定の中で、仮想世界と現実世界の境界線の不可思議さ、仮想世界での超人的な能力、機械たちとの戦いといったエッセンスを取り出して、その一つ一つを突き詰めている作品群が、この「アニマトリックス」という作品だと言える。しかもそのアプローチが実に面白い。

 「ワールド・レコード」という作品は、世界記録保持者である陸上短距離選手が、競技中にマトリックスの限界を超えて現実世界との境界を越えようとする話だ。映画「マトリックス」でも描かれているように、マトリックスの世界を垣間見られる者は限られており、誰でもがマトリックス世界を認識できるわけではない。しかもネオのようにマトリックスの世界に気づき、しかも現実世界に戻るためにはそれ相応の能力が必要だし、トリニティのような導く者の存在も必要なのだ。ところが「ワールド・レコード」に登場するダンという男は、かつてドーピングという導入があったにしても、独自の力でその境界線を越えようとしていたのである。しかもダン本人はそれと知らず、単なる快感の一つとして境界を越えようとしていただけで、そこにある世界の真実は知るよしもない。「マトリックス」の世界観ではこういうこともあり得るんだよ、という可能性の物語なわけだ。
 同様に「ビヨンド」と「ディテクティブ・ストーリー」もまた、マトリックスと現実の境界線を、その真実を知らない人間にどう見せていくかというアプローチで作られた話であるが、かたや日本のどこか日常に転がっていそうなお化け屋敷のような廃屋、もう一方が探偵の依頼としてトリニティと出会うという異なるシチュエーションが面白い。それも物語の冒頭ではまったくマトリックス世界を予想させない始まりでありながら、物語の核心はきちんと「マトリックス」に落とし込まれるという回帰の物語は、やはり見応えがあると思える。
 「プログラム」という作品では、「マトリックス」におけるモーフィアスとネオの戦闘訓練を日本の戦国時代の剣劇に置き換えることで、新しいイマジネーションを開いてみせる。しかもマトリックス世界への回帰を問いかける、人間の欲望に根付いた物語展開は、「マトリックス」本編にも登場したモチーフであるから理解しやすい。それだけに表面的なイメージの面白さを堪能できる構造だ。

<バットマン自身へのアプローチ>
 一方「バットマン ゴッサムナイト」は2005年に公開した「バットマンビギンズ」を受けてOVAとして制作された6本の短編からなるオムニバス作品。脚本こそアメリカの脚本家の手によるものだが、アニメーターや監督などのスタッフは多くの日本人メンバーが担当している。Wikiを見ると一応「~ビギンズ」と「ダークナイト」(2008)の間をつなぐストーリーということになってはいるが、見ている限りそれほど関連性は感じられない。
 「バットマン」に関しては過去作品化されている例が多く、アメリカでアニメ化された作品も多い。筆者はコミックスでの展開も含めて、すべてを熟知している訳ではないので断言しかねるが、少なくてもこの「ゴッサムナイト」に関していえば、「バットマンビギンズ」をベースに作られているのだが、ビジュアルとしてアメリカのアニメ版も下敷きにしていたり、1989年の「バットマン」の影響も見え隠れする印象がある。つまり多くの作品が存在するだけに、脚本家も含めた作り手が「~ビギンズ」だけではない複数のイメージが去来する作りになっている。それはおそらく「ルパン三世」のTV-SPにおいて、多作品である故にルパンの人物像が結びにくくなっている現象に近いのではないだろうか。

 物語はブルース=バットマンが直面した事件をオムニバスで見せている作品が多い印象だが、1話目の「俺たちのスゴい話」のように、子供たちが間近で見たバットマンを客観的に描いた作品や、バットマン誕生前夜とも言える「克服できない痛み」のような作品もある。また「~ビギンズ」にも登場したスケアクロウや不気味なキラー・クロック、暗殺者デッドショットといったヴィランも登場し、エンターテインメント寄りに作られている一方で、どこかブルース・ウェインという人物と彼の過去を掘り下げる作りも、本作の特徴だ。それはまるでかつてのアニメシリーズや89年からスタートした「バットマン」シリーズにも見られる部分からインスパイアされたかに見える。

 まずオススメしたいのが1話目の「俺たちのスゴい話」だ。スタジオ4℃の手による作品で、「鉄コン筋クリート」でも見られたようなかわいげのかけらもない(笑)子供たちが闊達に動き回り、彼らだけの秘密の場所で話をしている中で、バットマンの活躍が彼らの口から語られるのであるが、彼らがそれぞれ結んでいるバットマンの像が少しずつ異なるのだ。まるでバケモノのよう姿形のものから、無数のコウモリに分裂したり、果てはロボットのようなバットマンまで、そのバットマン像は実に多彩だ。エピソードの最後で一人の少年が見た本物のバットマンが登場してオチとなるのだが、このような多岐にわたるバットマン像は、先にも述べたとおり作り手の統一感がないバットマン像に近似している。しかもこのエピソードが1話目に来ていること自体、本作で見せる様々なバットマンが登場することを高らかに宣言しているようにも見える。
 「闇の中で」と「デッドショット」はかなり正当派な作品で、事件の真相を解明し、ヴィランと対決するバットマンというストレートな物語を堪能できる作品だ。「デッドショット」は「~ビギンズ」でも最後の対決の舞台となったゴッサム・シティのモノレールが登場し、ヴィジュアル的にも「~ビギンズ」との連携が見られる。マントを広げて滑空するバットマンの姿や小道具を使ってのトリッキーなアクションもまた、映画同様に堪能できる。バットマンは飛ぶことができない代わりに様々なアイテムが彼を助けて活躍する。映画でもちらっとしか写らない小道具の数々こそ、実はバットマンをバットマンたらしてめている重要な役者でもあるのだ。ところがバットマン自身が黒やグレーを主とした配色によって構成される衣装ゆえに、滑空よりも落ちてくるという印象が強い。特に地下を題材にした「闇の中で」は、翼を持つヒーローにして地下の王者とでもいうかのような地下世界での活躍を見せる。そんな彼はやはり「スーパーマン」のような表の世界のヒーローではなく、「ダークナイト」と呼ぶにふさわしい「闇夜の騎士」なのだということを否が応でも感じることになる。
 また「克服できない痛み」は、ブルースがバットマンとして活躍する以前の物語であり、インドの賢者から敵の攻撃から受ける痛みを克服する方法を知ろうと修行する話であるのだが、物語の中心にあるのはブルースの中の正義が試されるというシークエンスそのものだ。それはバットマンとして活躍する映画の中でも何度となく繰り返される命題ではあるが、それはまたバットマンを作る監督や脚本家の数だけ答えがある。本作もその一つでしかないのだが、「~ビギンズ」以降の作品を考察するための重要な示唆が含まれている。

<アメリカ発、日本産の意味>
 両作品とも日本のアニメ制作スタジオであるスタジオ4℃、マッドハウス、プロダクションI.G.が参加している。また渡辺信一郎、前田真宏、川尻善昭、箕輪豊、森本晃司、恩田尚之、窪岡俊之など、著名な人材が名を連ねている。「アニマトリックス」は「マトリックス」の監督であるウォシャウスキー兄弟監督が、日本のアニメに多大な影響を受けて「マトリックス」を作ったというエピソードが知られており、それゆえにアメリカ側で脚本を作り、監督や作画を日本が担当する手法がとられたわけだ。いわば日米の共同作業とも言えるのだが、「~ゴッサムナイト」がどういう経緯で作られたのかははっきりしない。とはいえ「アニマトリックス」という作品の成功が影響しているのだろうとは想像に難くない。

 日本政府が「クールジャパン戦略」などと言い出して、日本発の産業として育成していこうという状況にまで、日本のアニメーション産業は成長した。1963年の「鉄腕アトム」の放送開始から50年の時を経て成長した産業でもあり、それは日本という島国で発達した特異なアートでもある。その一方で日本映画は現在斜陽であると言われているが、エンターテインメントとしての映画は、むしろアメリカのハリウッド映画にはとうてい追いつかないほどに水をあけられてしまっている。そのエンターテインメント性は、岡田斗司夫氏に言わせれば徹底したタイミングの管理によって調整された物語の起伏によって成立しているという。つまり基本的な脚本の上手さと、時間調整力によって映画が作られているわけだ。映画の制作秘話などで脚本が二転三転する話など、ハリウッドの大作には枚挙に暇が無い。つまりハリウッド映画というのは脚本の善し悪しが作品を大きく左右する。
 そうやって考えていくと、この「アメリカ発、日本産」のアニメというのは、アメリカのハリウッド映画を参考にした脚本と、日本が世界に誇るアニメーションの技術が一つになった作品だといえはしまいか。いいとこ取りと言ってしまえば言葉は悪いが、個々の作品を見れば、そのクオリティの高さも物語の面白さも水準以上の出来であることは間違いない。以前当ブログで取り上げた「バットマン マスク・オブ・ファンタズム」のような長編の作品ではないにしろ、取り上げた2作品に含まれる個々の作品たちが、ディズニーやらピクサーで作られたCGアニメに劣るとはどうしても思えない。それは作品とキャラクターを生み出したアメリカの脚本が、優秀なアニメーションを生み出した日本人スタッフのイマジネーションで互いを補完し合い作品ができているからだ。日本人には作れないキャラクターと脚本、そしてアメリカ人には作ることができないリミテッドアニメと、些細な演出の妙。双方の国がのどから手が出るほど欲したものを互いに補完し合って作り上げた作品なのである。

 その後、2作品に参加したマッドハウスは、2010~2011年にかけてCSアニマックスで放送された「マーベルアニメプロジェクト」にて、「アイアンマン」「ウルヴァリン」「X-MEN」「ブレイド」と4作品続けてアメコミヒーローのアニメ化作品を手がけている。なお2008年には同局にて「ウルトラヴァイオレット:コード044」という作品もマッドハウスが手がけており、あの出崎統監督の遺作となっている。こうした作品は、いうなれば「アニマトリックス」と「バットマン ゴッサムナイト」という前例があってこそ成立した作品群だといえる。
 こうした民間レベルでの国際協力は、土木の分野なら当たり前のようにある。それこそ日本政府がいまさらのように声高に「クールジャパン戦略」などとうわごとのように言っている以前から、こうした日本と諸外国の双方が互いを補完する事業は、このような作品として結実していたのだ。ついでにいうと、「~ゴッサムナイト」のDISC2に収録されている90年代の制作されたバットマンのアニメーションシリーズのスタッフロールを見れば、日本人が多く参加していることがわかる。それこそ日米の間には「トランスフォーマー」という偉大な先達だってある。日本政府がいかに遅きに失しているかがよくわかる話ではないか。そしてまた日本政府が言う「クールジャパン」というシロモノと、日本の文化を眺めて「クールジャパン」と呼称する海外の人々との間にある大きな溝の存在が浮き彫りになってくる。少なくても今日本政府が海外への販路を求めている「クールジャパン」は、海外の人々が求めている「クールジャパン」とは異なるのではないか。実体に目を向けず、表面的な評判だけで浮かれている政府のやりようは、あまりにも短絡的にすぎやしないだろうか。いや、今後の動向を見てから判断すべきだろうか。

マトリックスマトリックス
(1999/10)
ラリー ウォシャウスキー、アンディー ウォシャウスキー 他

商品詳細を見る

バットマン ビギンズ [DVD]バットマン ビギンズ [DVD]
(2010/04/21)
クリスチャン・ベール、マイケル・ケイン 他

商品詳細を見る
スポンサーサイト

テーマ : アニメ
ジャンル : 映画

コメント

非公開コメント

プロフィール

波のまにまに☆

Author:波のまにまに☆
東京都出身
43歳になりました 
妻一人

戦隊シリーズをこよなく
愛する、男オタ。
特撮は主食、
アニメは副菜。
後期必殺を好み、
スタートレックは
ピカード艦長が大好物。
Twitter再開しました!

カレンダー
03 | 2017/04 | 05
- - - - - - 1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 - - - - - -
namima2のつぶやき
全記事表示リンク

全ての記事を表示する

FC2カウンター
最新記事
最新コメント
最新トラックバック
リンク(リンクフリーです)
月別アーカイブ
カテゴリ
フリーエリア
FC2 Blog Ranking
フリーエリア
blogram投票ボタン
ブロとも一覧

あにめにゅ~す の あににゅ

分水嶺

素足のアイドル達

有名人の珍言・名言集

宮廷アリス

TOY BOX
メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

検索フォーム
RSSリンクの表示
QRコード
QRコード
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

[FC2 Analyzer] http://analyzer.fc2.com/ -->